俺のこころ
「スギサキくん!!」
誰かの声。誰かに体を揺すられている。
いったい何が起こった……?由季は……?由季はどうなった……?
「うぅ……」
「スギサキくん!大丈夫か!?」
俺に声をかけ、体を揺すっていたのはリディナ先生だった。俺が目を開けるとホッとしたような表情をした。
体を起こすととてもだるい。由季はいったい何を俺に飲ませたんだろう。そして、視界に入った血痕。俺は無傷だ。となると……!?
「……!先生!由季は!?」
まさか……!由季は自分で……!?
どうしよう、俺の……俺のせいで由季が……。
震えが止まらない。こわい……俺が、俺がなにもできなかったから由季は……!!
「どうしよう……やだ、俺が……俺がなにもしなかったから由季が……!」
どうしよう、どうすれば良かった?俺に何ができた??俺はなにもできない。俺は……俺は……!!
「スギサキくん!!!落ち着いて!落ち着くんだ!」
「……!!」
そうだ、リディナ先生がいたんだ。気づけば、俺はちゃんと息してなかったみたいだった。とても苦しい。涙もボロボロこぼれて止まらない。
「大丈夫、大丈夫だから。落ち着いて。落ち着いたら、少し状況を整理しようか」
リディナ先生は優しく頭を撫でてくれる。ふと、幼い頃の父親の記憶を思い出した。
「由季が……俺のせいで……」
涙は相変わらず止まらない。俺は泣きたい訳じゃない。でも、勝手にボロボロこぼれてくるんだ。
「俺は、どうしたら良かったんだ……!!こんなの……あんまりだよ……!俺……、耐えられないよ……!!」
「大丈夫だよ、今はウィンストンが診てくれてるから。それに、君が責任を感じることなんてないんだよ。気に病むことはない」
「でも俺……!由季のお願い聞いてあげられなかった……!」
「彼女だって、君のできること、できないことを何となくわかってたはずだ」
苦しい。リディナ先生の言うことはわかる。でも、そういわれても……俺は自分自身の行動を後悔し始めてる。
「……とりあえず、場所を移そうか。立てるかい?」
リディナ先生は俺に手を貸してくれた。医局に俺を連れていくらしい。
医局にはマリアとカイと俊貴がいた。
「マサヤくん!お姉さんは!?」
部屋に入って早々、マリアに質問されたけど……俺はなにも答えられない。
「……わからない、俺が気がついたときには由季はもういなかった……」
「リディナ先生はなにか知ってるんじゃないんすか!?」
「私は最低限のことしか聞いていないんだ。ユキちゃんはウィンストンが怪我の治療をしてる」
「まさか……お姉さん自分で……!!」
マリアがここにいると言うことは、俺が眠らされたあと、自分でここに来たってことだ。その間のことをなにか知ってるのかもしれない。
「……お前、ここに来る前に由季となにか話したのか」
俊貴の低い声。マリアは少し怯えた様子で話し始めた。
「お姉さん……私のことを捕まえる気はなかったみたい。そのあと、私のことを殺せるかって……聞かれたの」
「……由季が……そんなことをマリアに聞いたの?」
「うん、でも本気で聞いてたわけじゃなかったみたい。そのあとみんなのところに行けって言われたから、マサヤくんのことは置いてきぼりにしてここに来たんだ」
「……じゃあ由季は、お前がいなくなって、雅也が気を失ってる間に怪我をした。自分で自分を傷つけたってことだな」
「……」
「スギサキくん、君がさっきまで気を失っていたのはどうしてだい?」
「え?……いえ、俺は……由季になにか飲まされて寝てただけで、気を失ってたわけではないんです」
「寝てた?ということはユキちゃんに即効性の睡眠薬かなにかを飲まされたと?」
「……はい」
「……スギサキくん、君は……ユキちゃんが何をしたのか、察したんだね?だから、取り乱した。ユキちゃんは何をしようとしたんだい?」
「……お、俺に……首を……!でも、俺はできなかった……!俺にはできない……!!」
できるわけがない。失敗すれば由季は死ぬんだ。そんな一か八かの賭け、何故できる。
「……嫌だ……!こんなの、もうたくさんだよ……!!」
なんで俺たちなんだ。どうして俺たちが狙われなきゃならない。
……そんなの、ずっと前からわかってる。俺たちがナハネ族だから。ナハネ族は身体能力が高い。若いうちに捕らえておけば、従順な駒として使えるから。
「……お前、他の方法を考えなかったのか?」
俊貴は俺の目をじっと見つめる。
「考えた!考えたけど……!!」
俺が知っていることは生命維持が難しくなると救済措置をして一旦機能が止まることだけ。それだけは絶対にできない。
「俺には無理だよ……、逃げかもしれない……!でも、俺にできるはずないんだよ……!!」
「はじめから諦めるな」
「お前が教えてくれたことだろっ!?俺たちは監視されてる……!あのICチップで!由季のは首にあるんだよっ!?それを……俺に……!!」
……嫌なんだ。俺の手で人の命を奪ってしまうことが。俺のせいで人が傷つくことが。
「お前に……!俺の気持ちがわかるのかよっ!?」
気づくと俺は部屋を飛び出していた。
「雅也ッ!!!」
俊貴の声が遠ざかる。そのまま、病院からも出ていく。
行く場所なんてない。でも、こんな気持ちのままあそこにはいられなかった。




