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生命の行方・第二部  作者: 杉谷ゆぬの(果樹)
第9章・由季の行動の本当の意味
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雅也の弱さ

お兄ちゃんは、わたしになにもしなかった。持っていたカッターは床に落ちて、でも、お兄ちゃんは拾うそぶりを見せない。

ただ俯いて、首を横に振る。お兄ちゃんは、やっぱり……優しすぎる。

「マサヤくん……」

マリアちゃんはお兄ちゃんのことを心配そうに見ていた。

わたしのチップは首にある。お兄ちゃんにその事はさっき言った。

「できない……俺には無理だよ……!他に方法は……!?何かあるんじゃないのか……!?」

お兄ちゃんは今にも泣きそうな顔で、わたしの方を向いた。

わたしはお兄ちゃんにわたしに埋め込まれたICチップを取り出して欲しいとお願いした。でも、お兄ちゃんは無理だと言う。

「お兄ちゃん、時間がないんだよ。だからお願い」

「嫌だ……!俺は認めない……っ!そんな方法しかないなんて……!!」

お兄ちゃんは頑なだった。……もう、お兄ちゃんには頼れないか……。

「わかったよ、お兄ちゃん」

わたしはその言葉とほぼ同時に、ガムテープを能力で切った。

マリアちゃんを捕まえるときに眠らせる用に渡された薬がある。それをお兄ちゃんの口のなかに突っ込む。

「んっ!?」

吐き出されちゃうと困るのでお兄ちゃんの口を押さえる。

「飲み込んで!!!」

「~~!!」

無理矢理押さえ込んで、飲み込んでくれるまで離さない。飲み込んだのを確認して、わたしは手を離した。

「……由季、何を……のませ……、あ、あれ……?」

お兄ちゃんはふらふらしてる。

「もう、お兄ちゃんには頼らないことにしたの。だから、寝てて欲しい」

「ね、てて……?」

お兄ちゃんはもう体を起こしていられないみたいで、床に倒れてぼんやりした瞳でわたしを見ている。

「お姉さん!!マサヤくんになにしたの!?マサヤくん!!」

マリアちゃんはお兄ちゃんの肩を揺する。でも、もうお兄ちゃんは寝てしまった。

「どうして!?お姉さんはマサヤくんと双子なんでしょ!?」

「……だから、だよ……。お兄ちゃんは……優しいね……。だから……もう、お兄ちゃんを苦しめられない……」

わたしは、マリアちゃんに尋ねた。

「あなたはわたしのこと、殺せる?」

「そんなの無理だよ」

あまりにも即答だったので、思わずわたしは笑ってしまった。

「どうして笑ってるの?」

「……ううん、なんでもない。わかってたんだ、あなたがそうに答えるの。もちろんそんなことさせるつもりはないよ」

「……お姉さん、どうするの?私を守ってくれるマサヤくんは寝ちゃったから……今なら私のこと連れていけるよ」

「連れていかないよ。あなたはトシ兄やカイくんと一緒に避難して」

「でもマサヤくんが……」

「そのうち誰か来るから大丈夫だよ。だから……」

「……お姉さん、最初の時となんか違う……?」

何が違うんだろう。でも、マリアちゃんはわたしの言うことを聞いてくれた。こっちをチラチラ見ながら少しずつ離れていく。

「……ありがとう、マリアちゃん」


一人になったわたしはナイフを首に当てた。失敗したらきっと死んじゃう。でも、わたしの計画はこれで全部終わり。

何かを得るためには別の何かを犠牲にしなければならない。

わたしは自分自身を取り戻すために大人の私を心の奥に置いてきてしまった。それがわたしが犠牲にしたもの。

……お兄ちゃんは、もっとたくさんのものを犠牲にして来たんだろう。


「……ごめんね……、お兄ちゃん……ありがとう……」


さようなら、わたしの優しいお兄ちゃん。次、会えるなら……きっと今のわたしとは違う私。

辛い思いをさせてしまってごめんなさい……。でも、これで終わりだから……。




俺が現場に向かう途中、マリアちゃんがこっちに走ってきていた。

「マリアちゃん!無事か!?」

「ウィン先生!マサヤくんが寝ててお姉さんの様子がなんか変なの!!」

「マサヤが寝てる?」

「なんか飲まされてすぐ寝ちゃったの!」

「ユキちゃんはなんて?」

「……うーん」

マリアちゃんは困った様子で言葉を探しているらしかった。

「……はじめはマサヤくんになにか頼んでたみたい。でも、マサヤくんはできないって言ってて……それで頼らないことにしたって言ったあとにマサヤくんに薬を飲ませたの。それでマサヤくんは寝てる」

「マサヤは薬で眠らされてるのか……心配なのはユキちゃんだね。ありがとう、マリアちゃん。医局にみんないるから、そこで待ってて」


マリアちゃんを見送って、俺は足早に現場に向かう。そこには倒れているマサヤとユキちゃんの二人の姿があった。

マサヤはマリアちゃんの言った通り眠っているだけだ。でも……

「ユキちゃん!?」

ユキちゃんは首から血を流している。手が自らの血で真っ赤に染まっていた。

「……せんせ……?」

「ユキちゃん……!しゃべるな!」

「これ……」

ユキちゃんは真っ赤に染まった手で俺に小さな何かを手渡した。

そのままユキちゃんは意識を失ってしまう。

「ユキちゃん!!死ぬんじゃないぞ!!」

出血量はそこまで多くない。でも首だ。少し間違えれば命に関わる。

この子が死んでしまったら、アイツが……マサヤが苦しむことになる。今だって、兵器化時の出来事で人知れず苦しんでるのに、これ以上はアイツの心が壊れてしまう。

「少しだけ頑張ってくれよ……、俺が助けてやるから……!!」

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