傷の手当てと由季のメモ帳
由季は容赦なく俺のことを蹴ってたみたいだ。顔が腫れてるし、身体中打撲してる。脇腹の傷に至っては開いてしまった。
「ここ前にユキちゃんに刺されたところだな。うわー……痛いだろ」
「……はい」
「なにやったらこんなボコボコにされるんだ?」
「さあ……?俺は戻ってきてほしかっただけなんですけど……」
「まあいいや。先にここどうにかしよう。顔は待ってろ」
ウィン先生は脱脂綿を消毒液をたっぷり染み込ませている。しみそう。
「いたたたた!!」
消毒液を吸った脱脂綿を傷口に擦り付けられる。痛い。
「まだ消毒してるだけだぞ?……ああ、でも表面だけだな。筋肉はもうくっついてるみたいだから皮膚だけだ」
「皮膚だけなら絆創膏とかでも……」
「ビビってるな?」
「当たり前じゃないですか、麻酔なしとか経験したこと無いですし経験したくもないです!!」
「小さい傷は意外と麻酔なしでやっちゃうけどな」
「どう見ても小さくない!!」
「でもなー、下手するとバイ菌入るからなー。縫います。諦めろ」
先生はピンセットで小さな針を持っている。あれで縫われるのか……。
「諦めついたな。マリアちゃん、マサヤの目、隠しといてもらえる?」
「ん?何で?」
マリアは何でと言いつつ、タオルを持ってきていた。あれで隠す気か。
「見てたら余計に痛いだろ?だから俺の優しさ」
「なるほど!」
マリアにタオルで目を隠された。なにも見えない。
「行くぞー暴れるなよ?」
「痛い痛い!!痛いです!」
「結び目中に入れちゃうの?」
「ああ。こうしとけば抜糸の必要ないからね。ちょっと手間だけど抜糸しなくていいのって患者の負担も少なくなるから」
「へー、そうなんだ」
マリアは俺の傷口が縫われていく様子を見ているらしい。
「どのくらい縫うの?」
「そうだな、10針ぐらいかな」
「なっ、なるはやでお願いします……」
10針ってことは後9回この痛みに襲われるのか……嫌だ……。
「善処はするよ」
「はい、おしまい」
先生は俺の目隠し用のタオルを外す。痛かった……よく耐えたな俺……。
「保護用になんか貼っとくか。そのまま待ってろ」
先生が保護する用になにか取りに行ってる間に傷口を確認してみる。ちょっといびつな傷口が閉じている。縫ったはずの糸は見えない。本当に中で結んであるのか。
「傷の中に糸が隠れてるってことか……」
「ウィン先生すごいんだよ!きゅっ!って傷が閉じてくの!糸の端っこも隠しちゃってるし」
「抜糸必要無いのはいいな……」
「お待たせー」
ウィン先生は箱を開けながら戻ってきた。箱の中には大きい絆創膏が入っているみたいだ。
「いいもの見つけちゃったよー」
「それは?絆創膏ですか?」
「おう。でもこいつはひと味違うぞ!傷の治りを早くしてくれるからな!というわけで使ってみようか」
先生は絆創膏の裏のフィルムを剥がす。絆創膏にしては真ん中のガーゼ部分がない。全体が粘着部分みたいな感じだ。それを俺の脇腹に貼った。
「これ一週間貼りっぱな。まあ無いとは思うけど、暴れるなよ」
「はい」
「じゃあ、次は顔な」
とはいえ、顔は打撲と擦り傷なので絆創膏を貼られ、保冷剤を渡されただけだった。腫れた顔にひんやり感が気持ちいい。
「じゃあ、夕飯にするか。手伝えよな」
夕食後、マリアはすぐに寝てしまった。俺も眠いけど、話さないといけないことがある。
「マサヤ、ユキちゃんと何を話したんだ?」
「……戻ってきてもらいたかったから、説得しようとしたんですけど」
「ボコボコにされたのか」
「……はい、そうです」
不意を打たれたとはいえ、まさかあんなに蹴られると思わなかった。……ただ、あのとき由季は泣いていた。
「……由季、こんなことしたくないって言ってたんですよね。あと、私しかいないって」
「……ユキちゃんは、内部からどうにかしようと思ってるのかもな。でも、今は注意しておいた方がいい」
「どうに、ですか?」
「ユキちゃんは表面的にはあっちについてる。お前はユキちゃんと多少なりとも会話をしてるから、生きてることは向こうに悟られてると思っといた方がいいな」
「由季は敵側についてるってことは……、マリアを狙いにここまで来たってことですか!?」
「まあ、十中八九そうだろうな。少なくともマリアちゃんの顔は向こうに割れてる。……ユキちゃんを使ってくるってことは、向こうもそんなに戦力残ってないんじゃないかな」
「あ、そうだ。先生、由季からもらったメモの謎も解明しないと」
俺は由季が書いたメモをテーブルの上に広げる。紙にはただ一言、「私の首を狙って」とだけ書かれている。
「首か……。マサヤ、なにか心当たりはあるか?」
「うーん……あ。もしかして」
「お?あるのか?」
「由季のICチップって首にあるんじゃないでしょうか。俺や俊貴はわからないですけど、由季はICチップの位置わかるみたいですし」
「……だとすれば厄介だな……」
首には太い血管や神経がある。由季自身が自分のICチップの位置をわかっていたとしても、取り出すときに神経や血管を傷つけてしまったら元も子もない。
「……無謀だ……、俺に首を狙えって言われたって……無事にチップを取り外せる自信がない……」
「じゃあ……ユキちゃんは何でお前にそのメモを託したんだ?お前に助けて欲しいからじゃないのか?」
「そんな……無理です……」
「……まあ、取り外すことはできないだろうな。ユキちゃん以外にはどこにICチップがあるのかわからないし」
「じゃあ……俺はどうしたらいいんでしょうか……?俺は由季を傷つけるなんてできない……」
「……お前さ、首に傷残ってるだろ?」
「首?」
俺、首に怪我したことあったっけ……?
「意識戻ってすぐに病院から抜け出したことあっただろ」
「あ!ああ!あります!そのときの傷確かに残ってます!」
「あのくらいの傷をユキちゃんに負わすのはダメなのか?」
……そういうことか。由季のメモには首を狙えとしか書いていない。意味を取り違えていると思わせれば、由季はちゃんと説明してくるはずだ。
「……なるべくなら、傷つけたくはないですけど……でも、由季の真意がわかるかもしれないなら……!」
「俺もなるべくサポートはするからな。でも、やらなきゃいけないのはお前だ。自信持てよ。大丈夫」
ウィン先生はポンポン。と俺の頭を叩いた。
今やらなきゃいけないことは、マリアを守って由季を真意を聞き出すこと。でも、俺は……両方やりとげられるだろうか……。




