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生命の行方・第二部  作者: 杉谷ゆぬの(果樹)
第9章・由季の行動の本当の意味
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由季との密会

彼女は現れた。手には一枚の写真。先日の、十代半ばの少女が写ったものだ。悲しげな色を瞳に宿し、目の前の建物を見つめていた。

辺りはもう薄暗い。街灯がちらほらと、明かりを灯し始めていた。

(……まだ、ばれてない……。でも、いつ気づかれるか……。その前に、わたしは……)

彼女は写真をポケットにしまう。音もなく、闇の中に消えていった。




俺がワーナルに戻ってきてからの数日間、何事も無く、由季の情報も一切入らず、ただ日常が過ぎていった。

今日も日中何事も無く、あとはウィン先生の仕事を終わるのを待つだけだ。

「おー、お待たせ」

「お疲れ様です」

「じゃ、帰ろっか!」

3人で病院を出る。と、見覚えのある後ろ姿が病院から離れていくのが見えた。

「……?」

「ん?マサヤ?どうかしたか?」

「……由季……!!」

あの後ろ姿は由季だ。由季であろう人物は俺の声に反応して逃げるように走り出した。

「先生!マリア!先に帰っててください!!!」

「えっ、おい!マサヤ!ユキちゃんって……!?」

俺はウィン先生の制止を振り切って由季を追いかけた。今見失ったら絶対に後悔する。



「なんで追いかけてくるの!?付いてこないで!!」

「何で……何でだよ!?どうして突然いなくなったんだ!?」

由季は立ち止まる。久しぶりに走ったのでいろんなところが痛い。吐きそう。

「だって……!わたしはトシ兄を刺したの!!これ以上わたしがみんなと一緒にいたら、迷惑がかかる!!」

「……それだけか。由季がやったのは」

「えっ?」

俺は呼吸を整えて、静かに由季に聞いた。

「由季は、俺がどうしてあそこにいるのか、知ってるのか」

「……知らない」

由季は首を左右に振る。……まだ知られてなかったのは、幸か不幸か。

「……俺は、人を殺した」

「!?」

「でも、その事を知っても、あの人たちは俺に生きていていいと言ってくれた。普通に接してくれた」

「……で、でもそれは……!?兵器のせいでお兄ちゃんのせいじゃないじゃない!!」

「そうだ。俺の意志じゃない。でも、兵器に乗っ取られて人を殺したのは、俺の体だ」

「なんなの……お兄ちゃんは、何が言いたいの……!?」

「由季はまだ人を殺してない。俊貴に怪我をさせただけだ。俺に比べたら……全然罪は軽い。だから……戻ってきなよ」

「……どうして……、どうしてお兄ちゃんもウィン先生も!わたしのことを追い詰めるの……!?わたしだって、こんなことしたくないもん……!でも……!!わたししかいないのに……どうしろっていうの……」

由季は今にも泣きそうな声でうつむく。

「由季、今までどこにいたんだ」

「……」

由季はうつむいたまま、答えない。もしかして……由季は本当にあの組織に……?

「由季……まさか……」

由季は顔をあげた。瞳には、何かを決意したような強い光。

次の瞬間、腹部に衝撃を受けた。

「……かっ、はっ」

俺は由季に腹を殴られていた。うずくまる俺を由季は見下ろしている。立ち上がらなきゃ……たぶん由季はこれ以上何も答えてくれない。だけど、聞かなきゃ何も変わらない。

顔をあげた瞬間、目の前に由季のつま先が見えた。衝撃と痛みに襲われたあと、やっと俺は顔面を蹴り飛ばされたことに気づいた。

髪を鷲掴みにされて、顔をあげさせられる。由季は……泣いていた。

「……ゆ、き……?」

「ごめん……ごめんお兄ちゃん……!!」

謝るくらいならやめてくれと、内心思ったけれど、きっとそんなこと思っている場合ではない。

由季は俺から手を離し、立ち上がった。俺は顔の痛みで立ち上がれない。

由季は泣きながら俺を蹴った。何度も、何度も。由季のつま先はこめかみに刺さり、俺の意識を奪っていく。

「お兄ちゃん……?」

「……」

朦朧とした意識の中、由季が俺を呼ぶ。

「ごめん……お兄ちゃん……」

最後はほとんど聞こえなかった。俺の意識は闇に飲まれていってしまったから。




「……戻って……」

「……来ないね?」

マサヤと別れ、一旦自宅に戻ってきてから、一時間経った。マサヤは未だに戻ってこない。

「マリアちゃん、マサヤのこと探しに行こう」

「私も一緒でいいの?」

「うん、一緒に行こう」


マサヤはなぜか道の端っこで倒れていた。

「マサヤ!!」

顔面をボッコボコにされ、鼻血を出して気を失っている。

「マサヤくん!しっかりして!」

マリアちゃんがマサヤの体を揺さぶる。

「う……」

マサヤは小さく呻いて目を開けた。

「あ、マリア……先生……。由季、どこか行っちゃいましたね……」

マサヤは自力で起き上がり、痛むらしい脇腹を押さえる。

「マサヤ、鼻血。拭いとけ」

ティッシュを渡すといそいそと鼻血を拭く。鼻血自体は止まっているようだ。

「何があった?ユキちゃんに会ったのか?」

「はい、由季は……あの組織の下にいるみたいです」

やっぱり……、あの子は考えたくない推測を簡単に現実にしてくれやがる……。

「由季は何しに来たんだろう……」

マサヤは顎に手を当てて考え込んでいる。と、マサヤのズボンのポケットに何やらねじ込んであることに気づいた。

「マサヤ、ポケットになんか入ってるぞ」

「え?あ、本当だ。メモ帳……」

マサヤはメモ帳を開く。

「……首を狙え?どういうことだろう……」

「首?……まあ、詳しいことは家帰ってから聞くよ。立てるか?」

「はい」

立ち上がるときに、押さえていた脇腹から手が離れた。服が血で汚れている。

「マサヤ、もしかして傷開いたか?」

「え?うわっ、ホントだ」

自分でも気づいていなかったみたいだ。

「マサヤくん!あの!包帯の下の傷開いちゃったの!?ユキって誰なの!?その人がマサヤくんをこんな目に!?こらしめてやる!!」

「マリア、興奮しないで、俺は大丈夫だから」

結構な量出血してると見えて、マサヤの顔色があまりよろしくない。まあ顔も打撲でひどい状況になってるのでとりあえず早めに手当てしてやらねば。

「……マサヤ、痛いの我慢できるか?」

「えっ……まさか……」

「うちには麻酔無いからな。多少我慢してくれるなら、帰ってすぐに手当できるけど、どうする?」

「……わかりました。我慢します」

とりあえず家に戻ろう。しかし……首を狙うって……どう言うことだ?

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