表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
生命の行方・第二部  作者: 杉谷ゆぬの(果樹)
第1章・飛ばされてきた場所
5/73

後悔しても仕方がない

「…どうだ。斉藤の反応はあるか?」

「いえ、爆発直後から反応は途絶えています」

男は、ヘリの中でモニターを操作する部下に聞いた。

「斉藤の処分はできたと見なしていいな……」

男はニヤリと笑う。

ヘリは男の指示を受け、さらに遠くに進路を変えた。

やがて、ヘリは空に消えていった……。




俺たちが瓦礫の中で発見した腕は、マサヤとあまり変わらない年頃の男の腕だった。

瓦礫の中から引っ張りだしたときは多少息があったみたいだ。

俺は別のことで頭がいっぱいでそれどころじゃなかったのだが、ソレルさんの言葉に俺は耳を疑った。

こいつはナハネ族の生き残りの一人だという。


俺たちはこの男にやれるだけの処置を施して病院に運んだ。後は部長任せだ。


「……ぃん……、ウィン!」

「……あ?」

我ながら間の抜けた返事をしたと思う。

「おまえが考え込んじまうのもわかるけどさ、今はどうしようもないだろ?あの建物には他には誰もいなかったんだし。きっとマサヤは生きてるよ」

俺だって、そうあってほしいと思ってるんだ。……でも、何の手がかりもない。

「……くそっ!俺は何も出来なかったのか!?」

「どうしようもなかったんだ。そんなこと言ったら……俺だって……」

そうだ。ニコルは最後までマサヤと一緒にいたんだ。引き留めなかったことを悔やんでないわけないのに……。

「……悪かった。今はあの患者のこと考えるか」

あの患者というのは俺たちが発見したナハネ族の男の事だ。

発見時、瓦礫に埋もれていた彼は頭だけでも何とか守ろうとしたらしい。おかげで頭に外傷はなく、脳に影響はなかった。でも…。

「ああぁ……なんか、やばそう……」

「……確かに、そうだよな……」

二人でカルテを見ながらため息をついた。

頭以外はかなり危険だ。

確実に骨折は免れないだろう。そこから内臓とか神経とか傷つけたり……瓦礫に圧迫されて内臓破裂とか……。

「あぁ……もう、希望が見つからない……」

「発見したときは生きてるだけでも儲けもんかと思ったけど、それって……ただの気休めにしかならない時だってあるんだよな……」

「ああ……」


俺たちが夜勤の交代もせずに医局で待っていると、手術を終えた部長が戻ってきた。

その顔はとても晴れやかで、俺的には嬉しかったが、なぜかそれが逆に怪しくも見えた。

「ぶ、部長……?」

「ふっ、ふふふ……ふふふふふふふふ……」

どうしようこの人かなりキモイ。けど、詳しい話聞かないことには……。

「部長?例の彼は……?」

「もう大丈夫だ!しばらくは絶対安静っていうより動けないんだけれど、すぐに意識も戻ると思うよ!」

『えっ!?』

「見てみればわかるって。ほらほら!」

部長に促されて、俺たちは例の彼の病室に向かう。

体中を包帯でぐるぐる巻きにされてまあ、当たり前と言えばそうなのだが、でも顔色は悪くない。

「部長、詳しいこと教えてもらっていいですか?」

「ああ。まずは内臓からかな」

なぜそこから行くんだ。

ちょっと部長につっこみたくなったが、そこは我慢だ。

「内臓の損傷は結構ひどかったかな。何せ肋骨がね。ちょっと肺はひどくやられちゃったね」

部長…さらりとグロいこと言わないで下さい…。

「でも、内臓でひどかったのはそのくらいかな。他はちょっと圧迫されて、傷ついたり、ひっかけたりした感じだから」

「じゃあ、それ以外は?」

「後は骨かな。骨はさっきも言ったけど、肋骨が半分ポキッとね。後は左腕かな。それは頭をかばったときに折れたんだと思うんだけど、なかなかのクラッシュ加減だね。あ!あともう一つ、目の神経がどうしたわけか一カ所だけ異常反応がでるんだ」

「目……ですか。どんな異常なんですか?」

「それは彼が目覚めてからじゃないと何とも言えないな。でも、失明してるわけではないみたいだ」

失明しているわけじゃないっていうと……どんな異常だ?

「さてと、私は一休みしてこようかな」

あ。そうだよな。疲れてるはずだし。

「後は君たち二人に任せたよ」

『……え』

「ウィン!俺もなのか?」

「そうみたいだな」

「嫌かい?ただ、君たちは彼に聞きたいことが山ほどあるんだろう?」

ニコルはちょっと嫌な顔をしていたが、部長の言葉を聞いてすぐに決意を固めた顔になった。

「俺、がんばるよ。任せとけ」

ニコルはきっと後悔から立ち直るために彼の担当を選んだ。

……俺も、いつまでも引きずっているわけには行かない。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ