後悔しても仕方がない
「…どうだ。斉藤の反応はあるか?」
「いえ、爆発直後から反応は途絶えています」
男は、ヘリの中でモニターを操作する部下に聞いた。
「斉藤の処分はできたと見なしていいな……」
男はニヤリと笑う。
ヘリは男の指示を受け、さらに遠くに進路を変えた。
やがて、ヘリは空に消えていった……。
俺たちが瓦礫の中で発見した腕は、マサヤとあまり変わらない年頃の男の腕だった。
瓦礫の中から引っ張りだしたときは多少息があったみたいだ。
俺は別のことで頭がいっぱいでそれどころじゃなかったのだが、ソレルさんの言葉に俺は耳を疑った。
こいつはナハネ族の生き残りの一人だという。
俺たちはこの男にやれるだけの処置を施して病院に運んだ。後は部長任せだ。
「……ぃん……、ウィン!」
「……あ?」
我ながら間の抜けた返事をしたと思う。
「おまえが考え込んじまうのもわかるけどさ、今はどうしようもないだろ?あの建物には他には誰もいなかったんだし。きっとマサヤは生きてるよ」
俺だって、そうあってほしいと思ってるんだ。……でも、何の手がかりもない。
「……くそっ!俺は何も出来なかったのか!?」
「どうしようもなかったんだ。そんなこと言ったら……俺だって……」
そうだ。ニコルは最後までマサヤと一緒にいたんだ。引き留めなかったことを悔やんでないわけないのに……。
「……悪かった。今はあの患者のこと考えるか」
あの患者というのは俺たちが発見したナハネ族の男の事だ。
発見時、瓦礫に埋もれていた彼は頭だけでも何とか守ろうとしたらしい。おかげで頭に外傷はなく、脳に影響はなかった。でも…。
「ああぁ……なんか、やばそう……」
「……確かに、そうだよな……」
二人でカルテを見ながらため息をついた。
頭以外はかなり危険だ。
確実に骨折は免れないだろう。そこから内臓とか神経とか傷つけたり……瓦礫に圧迫されて内臓破裂とか……。
「あぁ……もう、希望が見つからない……」
「発見したときは生きてるだけでも儲けもんかと思ったけど、それって……ただの気休めにしかならない時だってあるんだよな……」
「ああ……」
俺たちが夜勤の交代もせずに医局で待っていると、手術を終えた部長が戻ってきた。
その顔はとても晴れやかで、俺的には嬉しかったが、なぜかそれが逆に怪しくも見えた。
「ぶ、部長……?」
「ふっ、ふふふ……ふふふふふふふふ……」
どうしようこの人かなりキモイ。けど、詳しい話聞かないことには……。
「部長?例の彼は……?」
「もう大丈夫だ!しばらくは絶対安静っていうより動けないんだけれど、すぐに意識も戻ると思うよ!」
『えっ!?』
「見てみればわかるって。ほらほら!」
部長に促されて、俺たちは例の彼の病室に向かう。
体中を包帯でぐるぐる巻きにされてまあ、当たり前と言えばそうなのだが、でも顔色は悪くない。
「部長、詳しいこと教えてもらっていいですか?」
「ああ。まずは内臓からかな」
なぜそこから行くんだ。
ちょっと部長につっこみたくなったが、そこは我慢だ。
「内臓の損傷は結構ひどかったかな。何せ肋骨がね。ちょっと肺はひどくやられちゃったね」
部長…さらりとグロいこと言わないで下さい…。
「でも、内臓でひどかったのはそのくらいかな。他はちょっと圧迫されて、傷ついたり、ひっかけたりした感じだから」
「じゃあ、それ以外は?」
「後は骨かな。骨はさっきも言ったけど、肋骨が半分ポキッとね。後は左腕かな。それは頭をかばったときに折れたんだと思うんだけど、なかなかのクラッシュ加減だね。あ!あともう一つ、目の神経がどうしたわけか一カ所だけ異常反応がでるんだ」
「目……ですか。どんな異常なんですか?」
「それは彼が目覚めてからじゃないと何とも言えないな。でも、失明してるわけではないみたいだ」
失明しているわけじゃないっていうと……どんな異常だ?
「さてと、私は一休みしてこようかな」
あ。そうだよな。疲れてるはずだし。
「後は君たち二人に任せたよ」
『……え』
「ウィン!俺もなのか?」
「そうみたいだな」
「嫌かい?ただ、君たちは彼に聞きたいことが山ほどあるんだろう?」
ニコルはちょっと嫌な顔をしていたが、部長の言葉を聞いてすぐに決意を固めた顔になった。
「俺、がんばるよ。任せとけ」
ニコルはきっと後悔から立ち直るために彼の担当を選んだ。
……俺も、いつまでも引きずっているわけには行かない。