マリアの不安
「え、もうオギノさんの意識戻ったのかい?」
「はい」
部長に伝えると、驚いていた。
「あれじゃないですか?ナハネ族だから、体力の回復も早いとか?」
「ああ、それもあるか……そうなるとウィンストンも入院してる必要ないな……検査になに一つ異常なかったし……」
「……どさくさ紛れに手伝わせといて何言ってるんですか……」
「まあ、スギサキくんも帰ってきたし、彼は君のうちで預かるんだろう?」
「まあ、そうなると思います」
「そうなったら余計に君は入院してる場合じゃないだろう?スギサキくんは君の家わからないんだし」
「まあ……そうですね」
「ああ、あと。あの子はどうするんだい?スギサキくんと一緒に来た子は」
「ロナさんに聞いてみようと思います」
「そうだな、女の子だもんな。じゃあ、私はもう少ししたらオギノさんの様子見てくるよ」
「お願いします」
俺は医局を出て、待合室で待っていたマリアちゃんに声を掛けた。彼女は、俺の姿を認めるとすぐに立ち上がる。
「マリアちゃん、お待たせ」
「ウィン先生、私、あのお兄さんのこと知ってる気がするの」
マリアちゃんは気を引き締めた顔をして俺にそう言った。
「ん?どういうこと?」
マリアちゃんは背が高い。俺はイグレントさんから聞いているので彼女の年齢を知ってるが、知らなければ年相応には見えないだろう。
ただ、しゃべり方は年相応だ。困ったような顔をして、言葉を探しているのか、唸っている。
「だって、昔にあったことあるって……それなら知ってるのは当然だと思うけど」
「ちがくて、えっと、えーっと……そう!もっと身近な感じ!お母さんみたいな」
「オギノさん男の人だから、例えるならお父さんじゃ……?」
「あっ、うん。お父さんみたい」
「でもマリアちゃんにはお父さんいるんだろ?」
……俺は知っている。彼女が父親だと思っている人は本当は父親ではない。いや……父親だけじゃない。母親だって、兄弟だってそうだ。でも……たまたま知ってしまった俺の口からとやかく言えることなんて、何もない。
「うん……いるけど……。でも……全然似てないんだよ?私だけ、違うの」
「どういう風に違うの?」
「お母さんとお姉ちゃんは金髪。お父さんは私と同じ黒髪。でも、お父さんは目が悪いから眼鏡かけてるけど、私は視力検査でいつもA。あと、血液型が違うの。お母さんとお姉ちゃんはA型、お父さんはB型。でも私はO型なの」
「なるほどね、誰とも血液型が違うから、マリアちゃんは不安なのか。でもね、血液型が違うのはあり得ることなんだ」
「どうして?」
「マリアちゃんのお父さんとお母さんはA型とB型って言ってたね?この組み合わせに限っては、どの血液型の子供が生まれてもおかしくないんだ。説明ははしょるけど……」
「そうなの?嘘つかない?」
「うん、嘘じゃないよ」
マリアちゃんは俺の顔をじっと見る。見定めるような、そんな目で。
「……なーんだ。そう不安になることもなかったのかー」
マリアちゃんはにこりと笑った。
でも、マリアちゃんはそう遠くない未来に本当のことを知ってしまうはずだ。
そのとき、彼女は今のように笑えるんだろうか……。




