オギノさんの疑問
俺は今までの状況の整理とまとめをしようと、部長に持ってきてもらったノートをベッドの上に広げた。
あぐらをかいて、考える。
「うーん……」
「あの、ウィン先生……?」
数分もしないうちに、オギノさんに声をかけられた。
「気になっていたことがあるんですが……、聞いてもいいですか?」
「はい、なんでしょうか?」
「ウィン先生はなぜ入院されてるんですか……?」
「ああ、階段から落ちたんですよ。それで頭を打って。しばらく気を失っていたので、大事をとって休んでます」
「でも、元気そうですね」
オギノさんは微笑む。
「元気なのが俺の取り柄ですから。検査でも異常は見つかりませんでしたし、強いて言えば背中も一緒に打ったみたいでそっちの方が痛いんですけどね」
「やっぱり、健康が一番ですね……。このところずっと体調が悪くて……だから今こうして入院しているんですけど……」
「体調が悪かったのはいつぐらいからですか?」
「そうですね……すごく元気っていうのは数年間無いですね……いつもどこか調子は悪かったです……」
数年間。この人はずっと無理をしながら生きてきたのか。
「あのときも……」
「あのとき?」
「はい、三年くらい前にマリアと話したときも、体調が悪くて公園で休んでいたら、あの子の方から声を掛けてくれたんです。大丈夫?って」
「優しい子なんですね」
「はい……、いい子に育ってくれました」
オギノさんはとても優しい表情で、マリアちゃんのことを話してくれる。……やっぱり、父親だと名乗り出たいんじゃないだろうか。
「なんで話し掛けないんですか?話を聞いていると、そう遠くから見守ってるって訳でもなさそうですし」
「知らないおじさんに突然話しかけられても困るだけですからね。本当にただ見ているだけなので、下手したら通報されてるでしょう」
「……」
それでいいのか。
「ああ、そうだ。俺も聞きたいことがあったんです」
「なんですか?」
「アリストにいたのは何故ですか?マリアちゃんが住んでるのは北マルアですけど」
「働いていたんです。定職にもつけないので日雇いで。本当はあまり遠くまで行きたくなかったんですが……」
「なるほど。そこで倒れてしまった訳ですね」
「そういうことです」
「定職に就けないっていうのはやっぱり健康面でですか?」
「ええ、それもあります。あと、たまに組織の様子も見に行っていたので」
……ん?なんかすごく重要なことを言ってないか?
「組織?オギノさんは相手の本拠地の場所知ってるんですか?」
「そういう訳じゃないんです。ですが、各地に研究施設のようなものは持っているみたいで……たまに忍び込んでいたんです」
「へー……」
「最近一ヶ月間で研究施設を数ヶ所放棄しているみたいですが……」
最近一ヶ月間か……ちょうどマサヤが暴走した頃と一致する。あの暴走事故が相手の状況も大きく変えてるってことだな。
「アリストとワーナルの境にあった研究所は事故で閉鎖されていましたし、ワーナルと北マルアの間の施設も爆発事故で今は瓦礫の山だと聞いています。……あ」
「どうしました?」
「閉鎖されてる研究所の事故って……まさか」
オギノさんは気づいたようだ。その事故が意味する現実に。
「ここにいたナハネ族の男の子の暴走事故……」
「……そうです。おそらく、研究者たちが動き出したのもその事故がきっかけだと思います」
「……彼は戻ってくるのですよね」
「はい。おそらく今日中には」
「戻ってきたら、少しお話しさせてください。……彼には、たくさん辛い思いをさせてしまっているから……」
オギノさんは申し訳なさそうにつぶやいた。
俺たちはマサヤがマリアちゃんを連れて無事に戻ってくるのを待つしかない。
マサヤは、この人がここにいるのを知って……どんな反応をするだろう。




