カーチェイス
俺とマリアの二人はタクシーを捕まえ、ワーナル地方へと向かった。しかし、そこで事件は起こった。
「お客さん、どちらまで?」
「ワーナル総合病院までお願いします」
「ずいぶんと遠くまで行くんだね。お兄さん、なんか病気?」
「え?」
タクシーの運転手さんは気さくに俺に話しかけてきてくれた。
「いえ、病気って訳じゃないんですけど……」
「じゃあ、怪我?」
どうして、俺に対してだけなのかなと思っていると、マリアが荷物を持っていることを思い出した。
「ええ、かかりつけの病院なもので……」
「なるほど!じゃあおじさんがすこし近道してあげちゃう!」
運転手さんは裏道を走る。だけど、走っている途中で不審げに眉間にシワを寄せ始めた。
「……なんか、付けられてるっぽいな」
「えっ!?」
運転手さんはミラー越しに後ろを確認している。
二人でそーっと振り向くとワゴン型の乗用車が付いてきていた。サングラスをかけたスーツの男が運転をしている。助手席にも同じような姿の男が座っている。
明らかに怪しい……と思っていると助手席の窓から男が身を乗り出した。手には拳銃が握られている。
「ぴっ!ピストルっ!!!」
マリアが叫ぶ。
「いいねいいね!わくわくしちゃうねえ!おじさんこう見えてカーチェイスは得意だよぅ!」
運転手さんは一気にアクセルを踏んだ。一般道で明らかにスピード違反だ。だけどそんなこと言ってたら俺たちは死ぬかもしれない。
(……まさかっ!?俺が生きていることがばれたのか?)
でもチップはもう俺の元にはない。だとすれば何なんだろう……?
「そこのタクシー!止まりやがれ!」
銃を構えた男は声を張り上げる。
「その娘をおとなしく渡せ!」
あいつ等の目的はマリアっ!?なんなんだ?
「マリア!何か心当たりはある?」
「ない!……あ、屋根に穴開けたからかな……?いや、違う……それはちゃんと謝ったから……」
マリアには心当たりはないみたいだ。となると、本格的になぜ追われているのかがわからない。
風船が破裂するような音とともにハンドルがぶれ、遠心力で体が車の壁際に追いやられる。
「きゃっ!」
「あ痛っ!」
俺の頭が鈍い音と共に窓ガラスにぶつかる。そしてマリアが遠心力で俺の方に倒れ込んできた。
「ちょっと運転が荒くなるけど、しっかり捕まってるんだよ!」
運転手さんは後ろの車をまくつもりらしい。車の多い市街地を走り、男たちの車との距離をどんどん引き離している。
しばらく町の中を走り、男たちの車をやっとのことでまいたあと、運転手さんは駅前で俺たちを降ろした。
「マサヤ君ごめん……重かったよね……」
しばらくマリアに乗っかられてる状態だった俺はちょっとそれどころじゃない。女の子やっぱり柔らかい……。じゃなくて。
「あ、あの、すみません……。タイヤ、パンクしちゃったみたいで……」
「いやいやいや!いいんだよ。君たちをなんとか無事に人通りの多い駅まで送り届けられたし。おじさんも久しぶりにエキサイトできたからね」
運転手さんはぜんぜん気にしていないようだ。ていうか、このおじさんの経歴がとても気になる。
「……でも、これ以上タクシーで行くのは危ないかもしれないね。なるべく人の多いところを行った方がいい。今のところは何とかまけたけど、早く行かないとまた追いかけてくるかもしれないよ」
「おじさん、ありがとう。ねえマサヤ君、一回お姉ちゃんと病院の先生に連絡してみよう」
「そうだね。あ、運転手さん、お願いがあるんですけど、いいですか?」
「なんだい?」
「ワーナルの警察に電話してもらいたいんです。ソレルさんという方に杉崎が不審者に追われたって旨を伝えてくだされば、向こうの人はわかると思います」
「ああ、わかった」
俺たちは分かれてそれぞれに連絡を取った。
これが何かの役に立てばいいんだけど……




