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生命の行方・第二部  作者: 杉谷ゆぬの(果樹)
第6章・繋がっていく運命の連鎖
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気になること、聞きたかったこと

部屋に戻ると、オギノさんは体を起こしてぼんやり窓の外を眺めていた。日が暮れ始めて、空が茜色に染まっていく。

「……こんなに……ゆっくり夕日を見たのは……久しぶりです……」

「オギノさん、起きて大丈夫ですか?」

「はい、今のところお腹も痛くないですし……平気だと思います……」

「俺、オギノさんにナハネ族の話を聞きたいんだ。オギノさん、本書いてるだろ?」

「ニコル先生……ご覧になったんですか?」

「うん、患者が借りてきてて」

「さっき話したナハネ族の患者です」

「……その患者さん……まだ若いんじゃないですか……?」

「えっ?」

オギノさんは唐突にそう言った。なぜか悲しげに目を伏せて。でもなんでだ?俺、マサヤの年齢の話はしてないぞ?

「……彼は、自分の事を知りたくて……私の本を手に取ったんじゃないですか……?」

「なんで……そんなに悲しい顔してるんですか」

「私は……彼を助けられなかった……。彼は……兵器にされてしまった……子供の一人じゃないでしょうか……」

「!!???」

え、あの俺……そんなところまで話してないぞ……!?

「オギノさん、助けられなかった訳じゃないよ。アイツは確かに兵器だった。死にかけてもいた。でも、生きてる」

「……私は、あの事件の真実が忘れ去られるのが怖かった……だからあの本を書いたんです……それを目に留めてくれたのがナハネ族の男の子だったなんて……運命とすら思える……」

ニコルの言葉を聞いたあとのオギノさんの表情は憑き物が落ちたように穏やかだった。

「……ああ、そうだ。ナハネ族の話をしないとでしたね。お二人は……、私の本をお読みになりましたか?」

「俺は読んだぞ!」

「すみません……俺は読んでないです」

「……大丈夫です、ウィン先生には、先ほど少しお話ししたことも含まれてますので……」

「申し訳ないです……」

「ニコル先生はご存じの通り……、私は本を出しました。……十年前の少数民族大量虐殺事件についてです」

「本を出したのは今から三年前のことだけど、事件からだいぶ経ってるよな?どうしてだ?」

「……敵から致命傷に近い傷を受けてしまって……しばらく動けなかったんです……」

「それ、本に書いてあったな」

「イツキ先輩から預かったカルテにも2年くらい入院してたことが書かれてましたね」

「イツキ先輩来てたのかよー!教えろよー!」

「お前俺のおつかいしてただろ?」

「あ、うん、まあユキちゃんの方が大事だな……」

「あのときは……無理しすぎたんです……。妻を亡くして……自暴自棄になっていた部分もあるかもしれません……」

「でも娘さんがいるじゃないですか。そうだ、オギノさん、さっき追われてたって言ってませんでした?」

「正確に言えば……相手の狙いは私の娘です……。あの子に危険が及ばないように、しばらく立ち回っていたって言うのはあります……」

「なんでオギノさんの娘さんが狙われるんだ?」

ニコルは本を読んでたんじゃないのか?それに、今までマサヤたちナハネ族に接してきて少しはわかるだろ?

「オギノさんの娘さんがナハネ族だからだろ。能力が高いってマサヤが言ってたじゃん?だから今でも狙ってるんだよ」

「ああ~なるほどな」

「そういうことです……。でも、今は私が倒れてしまったので……あの子を守ることができない……だから……心配で仕方ないです……」

オギノさんはぎゅっと拳を握る。

「……あの、ここにいたナハネ族の患者さんは兵器に改造されていたと……言ってましたよね……?」

「あ、はい。言いました」

「……彼は、元気ですか?」

熱出してたとは言ってたけど、昨日の電話の声を聞いている限り元気なんだろう。

「はい、元気だと言っていました」

「今ここにはいないんですね……」

「ええ、ちょっと事情があって……」

「彼は何故ここに……?」

「うぅん……」

これは話すべきなのか?兵器に改造されていたことは知っていても、そのあとについては……ちょっと衝撃がでかいんじゃないか?

「……そう簡単に言えることではないですよね……?プライバシーにも関わりますし……」

「オギノさん、違うんだ。別に言っちゃっても全然問題ないんだけど……」

「あいつは瀕死の重体で運び込まれてきたんです」

「先ほど……死にかけてたと、おっしゃってましたね。死にかけていた理由が……言いにくいことなんですね……?」

そこまでは察してくれたか……。あー!どうしよ!言うのか!?俺!!

「あいつが瀕死だった理由は、兵器の暴走です」

「暴走……っ!?」

「暴走した兵器を止めるために研究員は発砲しました。生身の人間の……あいつの体に……」

「だから……彼はここにいたのですか……。辛い思いを……させてしまいましたね……」

「あの、さ……オギノさん、俺たちはあいつら、ナハネ族に関わってしまった以上、何とかしてやりたいと思ってるんだ。でも、あいつらはまだ若い。わからないことも多いんだ。だから、オギノさんが知っていることがあれば教えてほしい」

「…………ん?あの、あいつらって……おっしゃいましたか?ナハネ族の子は、複数人いる……!?」

あ、言ってなかった。て、いうか言うタイミングがわからなかったんだけど……

「はい。今いない二人と、今入院している一人の計三人です」

「そんなに……生き残ってる子供たちがいたんですね……!!良かった……」

オギノさんは自分のことのように喜んでくれた。

「もし会いたいなら連れてきますよ。怪我してますけど、暴れなければ大丈夫だと思いますから」

「そんな……、その子に悪いです。私の体調がよくなってきたら……自分から会いに行きますよ」

オギノさんは微笑む。彼にとっては生き残ったナハネ族の子供がいたことだけでも奇跡が起こったような出来事だったのかもしれない。


「あなた方のことですから……、もうすでにご存じなこともあるでしょう……。でも、私の知っている限りの事をお話します」

オギノさんはそう前置きして話し始めた。

狙われた理由、相手の目的、被害者の傾向、そして、兵器にされた子供たちのなれの果て……。

今生きている三人は本当に奇跡だったのかもしれない。

「私は……、子供たちがどのような改造手術を施されているのか……全く知りません。私は成功例を見たことがなかったので当然かもしれませんが……」

オギノさんの兵器の情報はおそらく10年前のことだ。そのあとにあの3人の改造手術が成功していたのだとすれば知らないのも無理はない。

「改造手術でどんなことをされているのかは俺たちも知りませんし、たぶん本人もわからないと思います。ただ、兵器化された子供たちに言えるのは小さなICチップが埋め込まれていると言うことです。まあ、確認できてるのは一人だけですけど」

「三人のうち確実に兵器化されているのは……」

「たぶん3人ともされているとは思うんですが、一人確証がないんです。ICチップは取り外されてしまって、兵器化してた事実は確認できませんでした」

「取り外されてしまった……?それってどういう……」

オギノさんの反応はごもっともだ。

「……ここにいた三人のナハネ族の子供の一人がもう一人を襲撃しました。その時にICチップを取り出して処分したようです」

「今入院しているのはその襲撃された方だ。した方は失踪した。……探したんだけどな」

「もしかして……さっきのおつかい……?」

「そうそう」

「……その子は、何故襲撃したんでしょうか……」

「 守るためだと……彼女は言っていました……」

「女の子……なんですね……。彼女は、自分の行動の矛盾に気づいているんでしょうか……?」

守りたかった。けれどユキちゃんはトシタカを傷つけた。自分の行動の矛盾に気づいていたからこそ、あの子は泣いていたんじゃないかと、俺は思う。


「あの、ここにいたナハネ族の三人について聞きたいんですが、よろしいですか……?」

「はい、何をお話しましょうか?」

「名前と年齢が知りたいんです……。もしかしたら……面識があるかもしれません……」

そうだよ、同郷なんだから会ってる可能性もある。マサヤたちが覚えてないかも知れなくても、オギノさんが覚えてる可能性は否定できないぞ!

「まず始めにここに運び込まれてきたのがスギサキマサヤです。年齢は17。あと双子の妹のユキちゃんと、年齢は確認してないんですけど、二人より多少上の年齢のサイトウトシタカがここには居ました。ただ、マサヤとユキちゃんは今はいません」

「……あっ」

オギノさんの表情が変わった。

「もしかして会ったことあるのかっ!?」

「た、たぶん……」

「……マジか……世界は狭いな……」

「どういう状況でだ!?大量虐殺の前なのかあとなのか!?」

「あとです。本にも書いた救出した二人なんじゃないかと思って……」

「二人ってことはマサヤとユキちゃんのことか!?」

「は、はい……。確かに男女二人でしたし、男の子は女の子をユキと呼んでいたし、女の子は男の子をお兄ちゃんと呼んでいたのでそうじゃないかと……」

「ウィーン!!!!なんでだー!なんでこんなときに二人ともいないんだよーー!!」

何故かニコルに掴み掛かられ、体を揺さぶられる。そんなこと言われたって俺だっておんなじこと思ってるし!

「俺に言うなよ!!あと俺怪我人だから!!いたわれよ!!」

「マサヤとなら連絡つくんだろ!?呼び戻せないのか!」

「やってみる価値はあると思うけど……」

ちらっとオギノさんを見ると、ニコルの行動に若干驚いていたようだが、すぐに頷いてくれた。



俺はすぐに電話を掛けに行った。だが、そこで聞かされたのは、俺たちをさらに巻き込んでいく出来事だった。

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