先輩との再会
「リディナ先生!お久しぶりです!」
電話をくれたイツキが患者を連れてやってきた。
「イツキ君、元気そうで何よりだ」
「ええ、おかげさまで向こうでもなんとかやれています。それで……」
「患者さんの話だね?」
「はい、彼……オギノさんなんですが、ストレス性の胃潰瘍で貧血も見られるので、恐らく出血もあると思います。今は落ち着いています」
「なるほど。……ストレスが増えないといいんだが……」
「リディナ先生?」
「ああ、すまん。部屋に移そうか」
「はい」
体は痛い。でも、とても暇だ。頭も打ってるが頭に痛みはもうそれほどない。俺的には頭じゃなくて背中が痛いのをどうにかしてほしい。
痛みを承知で起き上がると、部屋のドアが開いた。
「ウィンストン……!お前どうしたんだ!?」
イツキ先輩だ。もう患者さん来たのか。
「イツキ先輩、お久しぶりです」
「ああ、久しぶり。……じゃなくて、どうして入院してるんだ?」
「階段から落ちたんです。で、頭と背中打ったんで念のために」
「そうだったのか……頭を打ったのなら安静が必要だね」
イツキ先輩は以前ここの病院で働いていた、俺とニコルの先輩だ。
確か4年先輩なはず。
「ウィンストン、さっき言ったこと、頼んだよ」
部長もいた。
「はい」
部長と先輩が患者さんをベッドに運ぶ。
眠っているようだ。若干長めの黒髪に白髪が混じっている。
顔色はあまり良くない。白髪混じりだけどまだ若そうだ。俺と同じくらいか少し上か……。
「……オギノ……ダイスケ……」
やっぱりどこかで聞いたことある。どこだ??なんかつい最近だったような気がするんだけど……?
「……この方はおいくつですか?」
思い出せないので他の話題に移ろう。若く見えるけどいくつくらいだろう?
「えーと、30歳だね。僕と同じ歳だ」
「ずいぶん白髪多いですね。体質でしょうか?」
「まあ、それもあるだろうけど……ストレス性の胃潰瘍で入院してるからね。いろんなところにストレスが出てる可能性はあるね」
オギノさんが眠っている間にカルテを見せてもらう。
「南マルアの病院にずいぶん長いこと入院してますね?」
「ああ、彼、胸に古傷があるんだ。それのせいじゃないかな?」
「8年前……カルテ見る感じ殺されそうになってるみたいですね。この傷の治療で入院してたってことですね」
「うん、そうだね。……ごめんね?なんだか訳ありの患者さん押し付けるみたいになっちゃって……」
「いえいえ、ベッドに空きがなかったんだし仕方ないです」
イツキ先輩に謝られてしまったが先輩が謝ることなんてない。と、そのとき小さく呻き声が聞こえてきた。
「……う……。あ、あれ……?」
オギノさんが目を覚ましたようだ。俺は痛い体をごまかしながら、部長と先輩と一緒にオギノさんのベッドに向かった。
「オギノさん、お加減はどうですか?」
イツキ先輩がオギノさんに訊ねる。
「……あ、そうか……私は……転院してきたのですよね……ベッドに空きがなくて……」
「病院の都合で申し訳ないんですが、こちらの病院にも優秀な医者がいますからね、安心してください」
「はい……」
「……オギノさん?辛いですか?」
オギノさんの顔色は相変わらず悪いし、どうも辛いのを我慢しているように見える。イツキ先輩もそれに気づいたみたいだ。
「う……い、いえ……」
脂汗をだらだらかいて、尋常ではない様子だ。……なんで病院なのに我慢する?
「環境が変わって悪化したのかもしれないな……オギノさん、吐き気はないですか?」
「へ、へいき……です……ただ……お腹が……痛い……だけで……」
「鎮痛剤が切れたのか……リディナ先生、お手伝いしていただいていいですか?」
「もちろんだよ」
部長はナースステーションに連絡を入れる。
俺は……今はなにもできない。うずくまるオギノさんの背中をさすることくらいしか……
「ウィンストン、そのまま続けてくれるか?」
「え?あ、はい」
オギノさんの背中はほとんど肉がついていない。きっと、胃が何も受け付けなくて痩せてしまったんだろう。部長は衰弱しているとも言っていた。入院するの遅くないか?なんでこんなになるまで放っておいたんだろう。
点滴で鎮痛剤を入れているらしい。だいぶ落ち着いてきている。
オギノさんが落ち着いて眠ったところでイツキ先輩と改めて話してみることにした。
「先輩、オギノさん……なんでこんなに痩せ細ってしまうまでほっといたんでしょうね?」
「そればかりはなんともなぁ……でも、見て想像はつくだろうけど……何日も前から何も食べられていないとは思う。体が何も受け付けないんだ。このままじゃ体力も落ちる一方だ……。心のケアも重要になって来るかもね」
イツキ先輩も仕事があるのでそろそろ帰るらしい。
「それじゃあ僕はこれで。オギノさんのこと……頼んだよ」
「はい、復帰次第」
オギノさんはまだ眠っている。せっかく落ち着いているし、起こすのも悪い。
イツキ先輩はオギノさんの手を一度力強く握って帰っていった。




