彼女の真意
「う……」
俺は目を開けた。ニコルが俺の顔を覗き込んでいる。
「トシタカ、大丈夫か?」
どうやら俺はうつ伏せに寝かせられているらしい。刺された背中がズキズキと痛む。
「……大丈夫なわけ……ないだろ……」
「だよな。変なこと聞いたな」
見た感じ、自分の病室ではないみたいだ。
「……なあ、由季は……?」
「……今ウィンと話してる。……ユキちゃん、泣いてたんだ。お前を殺すって言ってた。でも……お前を刺した後に……助けてあげてって、泣いたんだよ……」
ニコルは悲しいのか悔しいのか、そんなような表情で、くしゃくしゃ自分の頭を掻いた。束ねてあった髪がもっさりしている。
「……たぶん、あいつも……由季も被害者なんだ……。なにか理由がなきゃ……突然俺を襲うなんてしないだろ。それに……俺を守るんだって、由季はそう言ってた。元々殺すつもりなんてなかったんだと思う」
ニコルはばつの悪そうな表情でポツリと話し始めた。
「……俺、お前とウィンの話を聞いてただろ?だから……ユキちゃんのこと少し警戒してたんだ。でも、たぶんそれが顔に出ちゃったんだと思う。ユキちゃんは俺が警戒してることに気付いて、俺を脅したんじゃないかって……今更、思ったんだ……」
ニコルの警戒は間違ってないし、俺がここにいることを知ってる時点で、どこからその情報を仕入れたか怪しい部分がある。
「……あとさ、もうチップはないって、お前言っただろ?どういうことだ?」
「由季は俺のチップを奪うために襲ったんだよ。もう処分もしてあると思う」
由季は俺を守るために襲撃し、チップを奪って敵から俺を隠そうとした……。なにか他のことも考えてる可能性があるな……。
「あれか。チップには本体のシステムの他に盗聴器とか発信器のシステムがくみこまれてるんだっけか。処分してあるってことは、お前ももう狙われないと。マサヤと同じ状態ってことだな」
「ああ」
由季の状態も気にかかるけど、如何せんさすがに今のこの状況じゃ動けない。
「……由季は、なに考えてるんだろうな」
「……さあな。でも……迷ってるんじゃないかな」
「迷ってる?」
「言葉と行動が噛み合ってないんだよ。それに……」
ニコルは少し俯く。
「……ユキちゃんのこと、泣かせちゃったなぁ……。俺、はじめっから疑ってかかっちゃったからなぁ……」
ニコルは由季を疑ってしまったこと、そして泣かせてしまったことに罪悪感を持っているみたいだ。
「……状況が状況だ。疑いの目を持っちまうのはしょうがねぇよ。人間として当然だ」
ニコルは本当は由季のことを信じていたかったんだ。その気持ちは今でも変わらない。
……しかし、状況はこの事件を境に一変する。
由季は姿を消してしまった。由季の行動が何を意味しているのか、わからないまま……




