ロナの不在とウィンの忠告
歩いていくうちにナースステーションが見えてきた。
「ロナさんはだいたいここにいるはずっす」
覗いて見てみるが、俺にはどの人かわからない。だが……。
「あっ!君!」
恐怖の注射女と目があってしまった。
「げっ!」
「あれ?トシさん、ミルさんと知り合いですか?」
「チ、チガウ……。オレ、シラナイ……」
俺は一心不乱に首を横に振る。
「トシさん?何で片言?」
「もうっ!酷いじゃない!私だって練習してるのよ。なのに……」
ミルはつかつかと俺たちに接近する。
「あぁ、そう言うことっすね。だって、ミルさん本気で注射ヘタクソっす。俺だって嫌ですもん」
「かっ、カイ君まで……」
「もっと上達しろ。せめてニコルよりうまくなれ」
俺が言うとカイが頷いた。
「あ、ニコル先生も確かそんなに上手じゃなかったっすね」
勝手なイメージで言ったのだが、どうやら本当にニコルは上手くないらしい。
「そうなのか?何となくそう思っただけなんだけど……」
「そうっす。ニコル先生はイメージ通りの人っすから。でも、やっぱダントツでうまいのはリディナ先生っすかね」
「りでぃな?誰だそれ?」
「部長さんっす」
「君は見たことないかもね。だって、私が医局行ったら寝てたもん」
「部長か……。確か、ウィンとニコルの上司って聞いたけど」
「おっ、そうっす!あの人はすごいんすよ。優しいし、言ってること正しいし」
「へぇ、そうなのか」
「あ、じゃあ試しに会ってみます?」
カイは親切心で言ってくれているのだろうが、その前に別の用事があるじゃねえか。
「ちょっと待てよ、ロナさん?探さなくていいのか?」
「あ、忘れてたっす」
「ロナさんなら女の子と一緒にどこかに出かけていったよ。今日はなんだか忙しいみたい」
「そおっすか……。どこにいるかなんてわかんないっすよね?」
「うん」
「じゃあ、やっぱりリディナ先生のとこに行くっきゃないっす!ささっ、トシさん行きましょう」
「行ってらっしゃい」
カイと一緒に医局に向かう。ドアをノックするとウィンの返事が帰ってきた。
「はーい、どうぞー」
「失礼するっす!」
カイがドアを開けるとウィンが机に向かっていた。
「お。カイ、調子戻ったな」
「おかげさまで、ピンピンっす」
「で?二人揃ってどうした?」
「リディナ先生に会いに来たっす」
「あー、今寝てるよ。たぶんしばらく起きないんじゃねえかな?」
「そっすか……」
「急用か?だったら起こすし、そうじゃなきゃ俺が聞いとくけど」
「あ、いいんす。ただトシさんに紹介したかっただけっすから」
「ふーん。なんでだ?」
「ロナさんいなかったんで、あとトシさんと関わりそうな人って言ったらリディナ先生かと思って」
「なるほどな、カイはトシタカに人物紹介してるわけだ」
「そうっす。ホントは違ったんすけど」
「ホントは由季に会うつもりだったんだ。でも、由季と一緒にいるっていうロナさん?がいなくて」
「……」
俺の言葉にウィンは深刻な顔をして黙る。
「ウィン先生?どうかしたっすか?」
「トシタカ、ユキちゃんには会うな」
「へ?」
突然のことで間の抜けた返事しかできなかった。
「お前……」
ウィンはそこまで言って黙り、変な顔をして俺とカイの顔を交互に見る。
「カイ、ちょっとトシタカ貸してくれ!」
「おっ?うわっ!?」
悩んだ末なのか、俺をつかんで、カイの返事を待たずに俺を部屋の中に引っ張り込む。
「えっ待って!内緒話ズルイッス!!」
カイも俺にくっついたまま部屋に入ってしまったので、結局ウィンは変な顔のまま椅子に座り直していた。
「んんん……マジか……内緒話嫌か……」
「イヤッス!」
「そうかー……」
ウィンはかなり悩んでいるようだ。由季に会うなってことは、兵器の能力が残ってるのを警戒しての事だとは思うけど……
「……カイ、お前はマサヤとトシタカの友達だよな?」
「当たり前っす」
「でもな、よく考えてみろよ?二人が置かれてる環境は異常なんだぞ?あんまり深く関われば……戻ってこれなくなるかもしれない。命に危険が及ぶかもしれない」
「でも、俺は……それでもいいっす。なにも知らないで友達なんて言いたくないっす」
「お前だって巻き込まれるかもしれないんだぞ?下手したら死ぬかもしれない」
「平気っす。覚悟は昔っからできてますから」
カイはやはり覚悟していた。自分の体のこと……いつ尽きるか分からない命のこと……。
「……わかった。じゃあ、お前にも教えてやる。そのかわり、ほかのヤツには黙っとけよ。絶対だぞ」
「はいっ!」




