フィル到着
「こんにちわー」
「あ、フィルちゃんだ!」
彼女たち四人は立ち上がり、玄関に迎えにいく。
「リッツから聞いたけど……なんか、『お兄さん』が飛んできたって?」
「そうなの。フィルちゃん、それでね、包帯が巻いてあるの」
「胸とおなかと腕と……とにかくいっぱい巻いてあるんです」
「怪我してたらどうしようって思って。フィルさん、あのお兄さん、見てあげて」
フィルと呼ばれた彼女は、家の中に入りソファに寝かせてある彼の所にやってきた。
「簡単な手当はしてくれたのね」
「うん」
「どれどれ……」
服の裾をぺらりとめくると、確かに白い包帯が見える。
「あら、ホントね」
フィルはおもむろにその服を脱がせた。
「ん……」
「あ!起きそう!」
「……」
彼は目を開けた。そして何度か瞬きして自分の状況がかなりおかしなことに気がついた。
なぜか、着ていたはずのTシャツが脱がされ、数人の女の人に囲まれている。
「えっ!えぇっ!な、なななな」
勢いよく起きあがり、後ずさる。
「大丈夫?お兄さん?」
心配顔で訪ねてくる女の子に逆に質問してしまった。
「どどど、どういうこと!?」
「お兄さん、爆風で飛んできて、落ちてきたんだよ」
「そう。それで、手当してたら包帯巻いてあったから、心配で、先生呼んで見てもらおうと思ったんだ」
「勝手に脱がせちゃってごめんね。で、今おかしな所とかある?」
彼はしばらくおろおろしていたが、話を聞くうちにだんだん状況の把握ができてきたようだ。
「おかしな……?あ……頭、痛いです。あと、すこしだるいかな……」
「あら、やだ。熱でもあるのかしら」
一番年上と思われる女性に額を触られる。
「……熱、あるわね。包帯巻いてあるって事は怪我してるってことなんだろうけど……包帯はずしてもいい?」
「はい、大丈夫です」
包帯をはずすと、ガーゼが貼ってある。
それもはがすと、しっかり縫合された傷口が出てきた。
「ちゃんと手当されてるわね。あなた、もしかしてどこかで入院してた?」
「はい」
フィルはガーゼと包帯を戻しながら、彼に聞いた。
「……飛んできたって聞いたけど……ホント?」
「はい。さっき言ってた通り、爆風で吹き飛ばされてここまで来たんです」
「てことは……あの、建物にいたって事よね?」
フィルは尋ねた。
「……」
だが、彼は答えない。
「あそこは、危ない研究をしているらしいっていう噂があったのよ。今回の爆発はその研究の証拠を消すために計画したとも噂されてるわ」
「フィルちゃん、それ、お姉ちゃんから聞いたんでしょ」
「もちろん!それ以外に情報源なんてないもの。で、あなた……何であそこにいたの?」
「それは……言えません。言ってしまったらあなたたちを巻き込むことになってしまう……」
「そうは言ってもねぇ……そうしたら、あなたを警察に保護してもらうしかなくなっちゃうわよ?」
「それは……でも、ダメです。言うわけにはいきません」
彼は強情に理由を語ろうとしない。
「……仕方ないわね。今の話は聞かなかったことにしてあげる。マリア、あなたもよ。リッツになんか話したらダメだからね」
「わかった!でも、どこを?あたし、お兄さん拾ったときにそのときの状況はお姉ちゃんに話しちゃったよ」
「そのくらいならいいよ。多分お姉さんは怪しむだろうけど……、君たちが黙っててくれれば自分で何とかするから」
「そっか。お兄さん!お姉ちゃんに負けないで!」
「ん?……うん」
彼は不思議そうな顔をしていた。
マリアの姉は実は警察関係者だったりする。そのことを彼はまだ知らなかった。
まあ、知っていたところで彼が強情なのは変わらないのだが。