雅也の友達
ニコルはある部屋の前で立ち止まった。
どうやら大部屋のようだ。この部屋には三人入院しているらしい。
「ここだよ。じゃあ、俺の代わりに話を聞いてきてくれ」
「なんて聞けばいいんだ?」
「それとなく話を聞けばいい」
「それとなくって何だよ?」
「そこはおまえ次第だ」
「……」
「さあ、頼んだぞ!」
俺は部屋のドアをノックする。ニコルはそそくさと壁の影に隠れた。
「はい、どうぞ」
覇気のない返事だ。ドアを開けると三人の男がいた。一人は俺と同年代で少し不良っぽい。一人はマサヤと同じぐらいの歳で眼鏡をかけている。そしてもう一人はチビだ。
「君は……誰?」
眼鏡をかけたヤツが俺に声をかけた。
「俺は……ちょっと聞きたいことがあって来ただけなんだ。あんまり気にすんな」
「ききたいこと?」
「ああ。ニコル先生っているだろ?」
「俺らの主治医の先生ですよ。それより兄さん、あんまり見ない顔ッスけど、新入りですか?」
俺の言葉にチビが答えた。そのあと質問を返されたけど。
「ああ。昨日ちょっとな」
俺が言うと眼鏡のヤツが眉間にしわを寄せてなにやら考え込み始めた。
「昨日……?昨日は一人しか新しい患者はいなかったはず……」
「あれだろ?爆発事故に巻き込まれて瓦礫の下敷きになってたってヤツ」
「そういえば俺、リディナ先生に『大変な手術だったよ~』って笑顔で言われたっす」
「……もしかして、君?」
「その話からすると、そうみたいだ」
「……そんなに動いて大丈夫なのかい?まだ、安静にしてた方が……」
「だから、あんまり気にするなっていっただろ?俺は聞きたいことがあって来ただけなんだって」
「……ニコル先生のこと?」
「ああ。あの人はどんな人なんだ?」
「ニコル先生はとってもいい先生だよ。いつだって、僕たちの話を真剣に聞いてくれて、かと言えば、長い間入院してる僕たちを楽しませてくれるイベントを考えて、ナースさんに怒られたり……。少し幼く見えるけど、あの人は立派だと、僕は思う」
「ふぅん……じゃあ最近は?」
その言葉に三人は一斉に俯く。
「わかってるんだ……ニコル先生だったからじゃない……。もし、僕たちが一緒にいたとしても……結果は変わらなかった……。最後まで一緒にいた先生が辛くないわけないんだ……、でも、なんて声を掛けたらいいのか……わからない……」
こいつらも、気にしてたんだ。だから、うまく声を掛けられない。お互いに気にしていたから、距離が開いてたんだ。
「……なんだ、同じじゃないか」
「おなじ?」
「ああ。お前らは気にしすぎてたんだ。だから、お互いになにも言えなくなる」
「僕たちだって、最後までじゃないけど一緒にいたんだ……あのとき、マサヤの部屋まで着いていってたら……そう思うと……」
「それこそ今さらな話だ。でも、お前たちはニコルの辛さをわかってやれてるんだ。下手に気遣う必要なんてないのさ。あいつだってわかってるんだから」
「君は……、何者なの?もしかして、マサヤのこと何か知ってるんじゃ……」
「ホントっすか!」
チビが眼鏡の言葉に食いついた。まあ、さっきまでの会話である程度察しがついたんだろう。
「俺は斉藤俊貴。雅也とは幼馴染みみたいなもんだ。それから……雅也と最後まで一緒にいたのはニコルじゃない。俺だ」
「えっ……?!それって……あの爆発の直前まで、マサヤと一緒にいたって事じゃないか!?」
「まあ、そうなるな」
「トシさん!兄貴は?!生きてるんすか?それとも……」
チビは今にも俺に飛びかからんばかりの勢いで聞いた。
「……はっきり言うとわからない。でも、俺はあいつを逃がした。俺が生きてんだからあいつが死んでる可能性は低いよ」
「でもよ、マサヤは行方不明なんだぞ。普通に考えたらもう……」
不良っぽいヤツはうなだれている。
「お前、な……!」
俺が反論しようとした瞬間……
「セル!今言ったことすぐ取り消せ!」
チビが不良に飛びかかった。
不良はチビに馬乗りにされている。
「……カイ!やめろ!どけ!!」
「何でだよ……!?何でセルはすぐに諦めるんだよ……!俺だって、何度も思ったさ、でも、まだ希望はあるかもしれないんだ……!」
俺はただただ見ていることしかできない。
「カイ、落ち着いてよ!でないと君が……」
「簡単に死ぬとか言うな!俺たちだって……」
カイと呼ばれたチビはそこまで言って固まった。そしてそのまま倒れ込む。
「おい、カイ!しっかりしろ!」
馬乗りにされていた不良はカイの肩を揺さぶる。
「……俺、誰か呼んでくる!」
一瞬見えたカイの顔は青白く、胸を押さえて小さくうずくまっていた。
……いてもたってもいられなくなったんだ。
俺は、苦しんでいる人を放置しておくことなんてできない。
「あ!トシタカ!ニコル先生に言うんだ!なんとかしてくれる!」
「わかった!待ってろよ!」




