アクロバティックマリア
彼女は走っていた。空を見上げながら、全速力で。
「マリア!急いで!」
「わかってるよぉ!」
友人に急かされ、彼女……マリアは高く飛んだ。民家の屋根に着地し、さらに走る。
「わぁ~!マリア、さすが!」
「そんなこと言ってる場合じゃないでしょ!マリア!はやくはやく!」
何故、彼女がこんなアクロバティックな事をしているのか。それは、数分前に遡る……。
ドーンという音が近くで響いた。
マリアは下校中だった。友人と一緒に帰っている彼女は、13歳、173センチ。他の友人より頭ひとつ以上背の高い彼女には見えてしまった。
音のした方向から何か飛んできていた。そして、それは人だった。
「人だ!みんな、あの飛んできてるの人だよね!?」
「ホントだ!」
「マリア!あのままじゃあの人地面とぶつかって死ぬかも!」
「あわわわっ!マリア早く!」
「え!あたし!?」
「そうだよ!マリアならできる!」
「わ……わかった!」
彼女は落ち始めてきている人を助けようと、全速力で走り始めた。
マリアは屋根から屋根へ飛び移りながら、だんだんと落ちる人に近づいてきていく。まだ若い男だ。おそらく自分よりもちょっと年上くらいだろうと、勝手に見当をつけラストスパートをかけた。
「もーちょいっ!」
手を伸ばし、落ちてきた男を見事にキャッチした瞬間。
ばき。
「えっ、うそン……」
脆くなっていた倉庫の屋根に穴があいた。
バキバキバキっ、ドシャー!
「マリア!」
「大丈夫?」
「あいたたたたた……」
マリアは人を抱えたまま落ちたため、腰を強打してしまった。
「マリア、その人大丈夫かな?」
友達に言われ、彼女は抱えたままの男を見た。
どうやら完全に気を失っているようだ。額から一筋、血が流れていて、右頬を腫らしている。
「どこかで手当してあげなくちゃ」
「ここからだと、マリアの家が一番近いよ!」
「そうだね、じゃあ、うちに行こう」
「マリア、このまま荷物持ってたげるからね」
「うん。ありがと」
マリアは立ち上がり、気を失っている彼を抱え直した。
倉庫の管理人にきちんと謝り、マリアたちは家に向かった。
「お姉ちゃん、大変なんだよ!人が落ちてきて!」
マリアは手当を友人に頼み、警察関係者である姉に電話をかけた。
『何?人?バカ言ってんじゃないわよ。今忙しいの!さっき爆発事故があって、調査しに行かないとなんだから』
「え?爆発?…あっ!そうそう!その爆発で人が飛んできたんだよ!それで落ちてきたの!」
『……まじ?』
「うん、まじまじ」
『今その人どうしてるの?』
「気絶してる」
『怪我は?』
「どうだろ?ねえ、そのお兄さん怪我してる?」
「えーっと、おでことほっぺかな。あ!包帯巻いてある!いっぱい!」
「え!ホント?お姉ちゃん、いっぱい包帯巻いてあるって!」
『……どうしよう、あたし抜けられないしなあ……。じゃあ一応、フィルに言っとくわ。そのうちくると思うから、待ってなさいね』
「うん、わかった」
マリアが電話を終えて、友人の所に戻ると、手当はもう済んでいた。彼の額にはでかい絆創膏が貼られ、頬には冷却シートが貼られていた。
「ねえ、マリア、どうしよう?包帯ね、ホントにたくさん巻いてあるの。胸とおなかとあと腕にも巻いてあったよ」
「怪我してるかもしれないんだけど……あたしたちが取っちゃうわけには行かないし……」
「お姉ちゃんが、フィルちゃん呼んどいてくれたから、来たら伝えようよ」
「……そうだね」
心配な気持ちもあるが、どうすることもできない。
彼女たちは宿題をしながら待機していることにした。