第五十六話 シャーマンⅡA
毎度、拙作をお読みいただき感謝感激雨霰。
いや本当に遅れてすみません。
とりあえず一旦ハイドラ市に帰る事にした。
ボス戦の連続で精神的にも肉体的にも消耗しているし、
時間的にも結構な時間がたってしまっている。
その帰り道・・・
「で、シナモン。そのダンジョンというのは何処にあってどんな
由来のあるものなんだ?」
いまさらながら剛志はシナモンに尋ねてみた。
「そ、それは・・・」
非常に言いにくそうだ。
剛志としては、正直言って無理に聞き出すのは個人的には嫌いだが。
ここは部隊の命にもかかわる事でもあるし、何とか聞き出したいもの
だ。・・・よしここは。
「ユーティリシア、アムリシア。」
「うーん、剛志の気持ちは分かるんだけど・・・」
ユーティリシアからは歯切れの悪い返事が返ってきた。
「実はシナモンは部隊内の他の女性ともあまり親しくして
おりません。女性だけでなく男性も親しい人はいないと思い
ますが。」
こっちはアムリシアの弁。うーむ。どうしたもんだろうか。
そうだ・・・
「なあテニトン。お前シナモンと親しいか?」
「やです。」
はっきり言いおったな。
仕方ない。やっぱり直接聞くしか。
シナモン個人との秘匿回線を無線魔道でつなげて聞く。
「あー、シナモン。ダンジョン情報について知っている事を全て
話してくれないか。俺は部隊長としてそれを聞く義務があると思うん だ。」
「う、それは・・・」
何か段々イライラしてきたぞ。もう・・・
「いーから言えや、命令だ。」
さくっとぶち切れする剛志。
さっきまでの態度は何だったのであろうか。
「そ、そうかや?・・・笑わないで聞いてほしいのだが。」
「うん、笑わない。さあ話せ。」
開き直って偉そうな剛志だが。
シナモンも実の所、ちゃんと言わないとなあとは思っていたので、
渡りに船だったりする。
「うむ、実は我のご先祖まで話はさかのぼるのだが。」
「ふむふむ。」
相槌を打つ剛志。
「曽祖父がとある国の国王をやっておってな。」
「ふむふむ。」
「・・・って驚かんのじゃな。」
「ふむふむ。」
「剛志隊長。ちゃんと聞いておるのかや?」
常にふむふむしか言わないのではそれはシナモンが怒るのも無理は
ない。
「聞いてるよ。ご先祖様が王様だったんだろ?」
「それでふむふむかや?」
「シナモンさんや、お忘れですかな?俺は漂流民ですよ。
私は国王ですとか言われても、嘘か真かわかりません。
ふむふむ・・・としか言いようがない。」
「おおう、言われてみれば。」
シナモンびっくり。でもその通り。
漂流民がこの世界の事、特に歴史や地理に詳しいのはおかしい。
「ああ、でも国王ではない。元国王じゃ。WWⅢにて数多くの国家が
滅びた。WWⅡの時点でこりるほど人類は賢くなかったのじゃな。」
でしょうねえ。冷戦時代には何時WWⅢが起きるかと常に緊張感が
あったのだが。
冷戦後の今の方がWWⅢ起きそうな気がする。
何故ならその緊張感がなくなったから。
宇治拾遺集だったかな。木登りの達人とその弟子の話は。
弟子が木を登るとき、達人は何も言わなかった。
しかし、弟子が木を降りるとき、達人は落ちない用に注意しろと
弟子に声を掛けたという。
そこで何故登るときは言わないのに、降りるときに注意したのか
達人に聞くと、
「登る時は誰でも注意を払って登る。だから注意する必要は無い。
降りる時、多くの人間は注意力が落ちてしまう。そういう時の方が
危ない。」
と答えたという話。
でもそれも今の剛志には関係ない話か。・・・元の世界には戻れる
可能性は限りなくゼロに近い。
「それで、ダンジョンの話は何処から始まるんだ?」
ちょっと不機嫌な感じになってしまった。もう帰れない地球の事を
思い出してしまったからだろう。
「うむ。ここからじゃ。王家にはそれなりの秘密と言うものが
存在する。その中の1つに隠された秘宝という話があり、それは
隠されたダンジョンの中にあるというものじゃ。」
ほうほう・・・うん。しかしそうすると。
「戦車で入れない場所とか無いかそれは。」
「そうなのじゃ、何せ古いダンジョンじゃから。」
「・・・?ひょっとしてそれで言い淀んでいたのか?」
「・・・それだけでは無いのじゃが。まあいいか・・・そうじゃ。」
「成程なあ。」
確かにそれでは魔道戦車のレベル上げにならないからな。
「で?場所は何処でどんなダンジョンなんだ?」
勢い込んで聞く剛志。
ダンジョン大好きですか?そうですか。
「・・・剛志隊長が隊長で良かったのじゃ。」
「それは良いから早よ言え、早よ。」
「うむ、それはな・・・」
シナモンの話を要約すると、試練のダンジョンと言うもので、
数代前の国王がノリノリで作成したものだと言う。
その頃は結構国力があり、そんなもの作る余裕もあり、
そして公共事業の側面もあり、十数年かけて作り上げたそうだ。
十数年?科学だけでなく魔道もあるこの世界でそんなにかかるか?
そう思ったらなんと1つだけじゃないという。
全ての試練を乗り越えたものが王家の秘宝を勝ち取るという仕組み
だと。
もの凄く趣味全開ですね。と聞くと。そりゃ趣味で造ったしと
言われました。
良いなあ、俺もやってみたいというと流石に白い目で見られました。
シナモンからすると、剛志の姿勢はとても好ましいものだった。
父親や祖父からは王家の誇りを教えられてきたが、一方でそれを
隠すように言われてきた。
それはシナモンにとってとても矛盾した事のように思われた。
誇りを持つ物を隠すのか?それはおかしくないか?
アップルトン家は滅びし国家の王家であり、それは恥であり、
隠せと言うのだが、一方でそれを誇れと言う、訳が分からない。
剛志はあるがままを受け入れる人。実に面白いとシナモンは思った。
この日は皆ハイドラ市の何時もの定宿で泊まった。
そして次の日。
「またきたんすか。」
そう、昨日でさようならと思ったあのお二人、マーシャと源さんが
またもややってきた。
「おいおい、仲間外れはないだろ?」
「ですわですわ。」
いや、あのねえ・・・
「源さんはご家族は放置なんですか?」
「実はな・・・ほら店をメッチャクチャにされちゃってさ。」
ああ、ミゲーロに敵対していたからね。マテロ町は一時ミゲーロの
勢力範囲内だったからねえ。
「まあ坊主のお蔭で儲けさせてもらったし、トーマスから弁償を
もらったので儲けは出てる。・・・でも滅茶苦茶にされた店を元に
戻すには時間が掛かる。女房が頑張って掃除しているがまだ汚いし、
第一商品が全然なくてなあ。伝手を当たって集めちゃいるんだが。
まだまだ全然足りないのよ。・・・つまりやる事がない。」
ああ、暇なのね・・・でもマーシャは?
「ミゲーロ兄様があんな事になってしまって・・・編成が忙しい
のですの。」
・・・編成ってマーシャにも仕事があるんじゃあ・・・逃げたな。
「正直デスクワークより実地の方があってますの。」
美味い逃げ文句だな。
・・・まあいい。付いてきたければ来れば?
「ま、よろしく頼むわ!」
「ですわですわ。」
「さいですか。」
もうあきらめたわ。
「・・・テニトンはどうするんだ?お前の戦車は進化型じゃないし
関係ないが・・・本隊に復帰するか?」
「それは無いですよ隊長・・・置いてかないでください。」
困った顔で睨まれた。
まあ。そうだよな普通。
さて、シナモンに聞いた所、シナモンの元国家というのは、現在の
剛志達がいるこの国の一部になっているとの事。
それはまず想像通り、シナモンがムールドチームに来た理由の1つは
家がは近いからだろうから。
となると試練のダンジョンは何処かなのだが。
攻略順と言う者があり、最初の1つ目のダンジョンは、
それなりに時間が掛かる場所であった。
まあ24時間すっとばせば1日で付かない事も無いが。
そこまでする事無いだろう。
片道3日はかかるわけだ。
源さんとマーシャにはその旨伝えて残念ながら今回は・・・
と言おうとしたら。
「兄さんに確認を取ります。前田!」
「ちょい待ち、女房に許可取って来るわ。」
と言うて直ぐに許可を取ってきおった。
因みに前田というのはマーシャに付いてきた執事さん。
大変ねえ。執事さんも。
そんな事で、人数は前回より減る事も無く、午前中にハイドラ市
より出発となった。
辿り着くまで3日、はやる気持ちを抑えつつ、宿場町で休憩しながら
先へと進む。
え?狩り?してません。
ダンジョンで腐るほどできるよ。と皆には行っていますが。
こんこんっ。
剛志の部屋のドアがノックされた。
「どうぞー。」
ものっそい棒読みで剛志が答えると。
「入るよー。」
と言ってユーティリシアが入ってきた。
「おう、ユーティリシア何用よ。」
と心無い口調でぼうっと答える剛志。
「用が無いと来ちゃ駄目なのかな?」
ちょっとすねた感じのユーティリシア。
「いや・・・そんな事は無いが・・・」
剛志はそう答えながら何かを手の中でいじくっている。
「何?それ?」
ユーティリシアも気になってそう聞いたが。
「ああ、アストラル・ギア。」
「ふーん、何だ、アストラル・ギアかあ・・・ってなんですって?」
ビビってるビビってるへーいピッチャービビってる。
「ギャグは良いんだよ。」
痛い痛い。アイアンクローは辞めて。
ユーティリシアは猫人なだけあって握力強いのよ。
凹む、頭凹んじゃう。
「まあ、アストラル・ギアもどきだね。ほらトーマスからいろいろ
資料貰ったでしょ?」
「それで・・・作れちゃうの?」
「ミイカ市跡から取得した暗号文も参考にしたよ?他にも図書館
で調べた資料もある。」
「それでアストラル・ギアができちゃうの?」
「・・・残念だけどできない。これも試作にしてはまあまあという
所かな。完成には程遠い。」
そう言って剛志は手に持っているギア・・・歯車をくるくると
回した。
「ふーん・・・それで狩りにいかないのか。」
「おう、ひょっとして心配した?御免ね。」
剛志がそう言ってほほ笑むと、
「な、何言ってるの・・・ふん。」
と言ってユーティリシアはそっぽを向いた。
剛志は声を上げて笑った。
ユーティリシアはさらにむくれた。
「完成したらユーティリシアにも上げるよ。今はまだ実験段階
だけどね。」
「・・・ひょっとして剛丸にも入れてるの?可愛そうじゃない
剛丸。」
「ふふふ、今の所酷い事にはなっていない・・・それに剛丸と俺は
一蓮托生。剛丸だけではない。」
「もう、やめなよ!・・・って言っても無駄でしょうね。」
ユーティリシアさんよくお分かりで、
「もうちょっと信頼してよ。必ず成功させる。」
「信頼はしてるよ。・・・でも心配なんだよ。」
猫耳がぺたんと垂れ下がっている。
「ふふ、ありがとう。でも大丈夫。」
ぐしぐしっと彼女の頭を撫でる。
「もーう。」
彼女はなおぷんぷんと怒り、
剛志は彼女の頭を撫でていた。
翌日、ついに試練のダンジョンに到着。
「さて、鬼がでるか蛇がでるか。」
白いダンジョン、広さは・・・戦車3両が横並びになると一杯だな。
「うーんこれは。」
「後進の事も考えて2両で6列ですね。」
アムリシアのその提案に乗り2両6列に隊を組む。
最前列に剛志とユーティリシア。最後尾に源さんとマーシャ。
スキル構成と戦車の強さを考えると攻撃力が高いのが、
剛志とユーティリシア機。
乱戦なら混雑が考えられる以上、最後尾には能動的に動ける経験値の
高いお二人についてもらう。
途中で広い空間がいくつかあり、そのたびに敵の魔物、機械系が
出現。大して強くもなく。さくっと全滅させて進んだ。
すると行き止まりに到着。
「何これ?」
「行き止まりですね。」
皆でワイワイ騒ぐ中。
「うん?何か書いてある。」
行き止まりに文字が書いてあった。
「なになに、全てを集めよ?」
その後に記号の様なものが書かれている。
「どういう事じゃ?」
「むう?」
全てを集めよ。そしてこの記号。・・・まあそんなに難しくもない
かな。
「どういう事?」
ユーティリシアに聞かれたので剛志は答えた。
「この記号どっかで見たことない?というかさっき見たばかりだよ
ね。」
「?何?」
「うん。この記号はさっき戦ったばかりの機械系魔物の脚にみえる
よね。こっちの記号は・・・」
「ああ、そうか。これ全部さっき戦った機械系魔物の1部なんだ。」
正解。ようはここまでに倒した連中の1部を持ってこいと言う事だ。
そこで戻ると。
「しつこいのう。」
シナモンのあきれ声に
「見事に復活していますね。」
テニトンもびっくり。
結局3度同じ敵と戦った。
行って戻ってまた行った時に復活してやがった。復活速度速いなあ。
めんどくさいので先頭を持ち回りにして剛志は後方で付いて行った。
ほら一応経験値の分散という意味もあるしね。
一応そのおかげでユーティリシアとシナモン、コンドルとファイスの
4人以外・・・現代兵器以下の性能組は1段階づつ進化。
まずエリオット機だがセンチュリオンマーク8/2に進化。
マーク8/1の主砲を105mmに換装したもの。
ヤムイのM3A3はM3中戦車に進化。
英国がM3リーと呼んでいた奴。グラントとの違いは砲塔が英国仕様か
アメリカ仕様かの違いなのだが。生産が追い付かなくてアメリカ式
のをそのまま使ったM3リー/グラントとかあるので紛らわしい。
ルシア機も進化して90-Ⅱ式に進化。
アル・ハーリドと呼ばれる。パキスタン用に中国が作った戦車で、
中国本土軍は使っていない。完全輸出仕様。
エンジン英国式、トランスミッションフランス式の混合仕様。
剛志の剛丸も1段階進化した所で先頭を交代した。
シャーマンⅠAからシャーマンⅡA
M4A1に76.2mm砲を乗せたバージョンの英国名称である。
取得スキルは
戦車Lv4がLv5に上昇。
以前も述べたが、レベルが低いスキルは取得されやすく、
伸びやすい。レベルが高くなると伸びにくく、取得されにくくなる。
必要な部品を集めて行き止まりにてそろえてやると、
ごおっと音を立てて壁が開いた。
「なんだ見かけは壁だけど実はシークレットドアか。」
コンドルが肩をすくめて言い。
「え?僕は多分そうだと初めから思ってたよ?」
ファイスが突っ込んだ。
皆でワイワイ言いながら先に進む。
入口からこの地点までは螺旋状に一本道が進んでいたが今度の所
はY字と十字を合わせたような五叉路になっていて、十字路の中央に
はまた文字が書いてある。
4人進んで4つを持ち帰れ。
今来た方向以外の4方向へ1人づつ進めというのか?
大した事が無い豆知識。
アメリカのM3とM4は種類豊富ですが。作っている会社の違い等によるもの
で、実はほとんど同時期作成だったりします。
M4A1やM4A3等のA番がそれです。
ただしM4A3E2やM4A3E8等のE番は仕様が異なり、生産時期が異なります。
それに対してドイツ戦車は完全に生産時期が異なり、ソ連戦車はそもそも
生産年でバージョン分け。
オブイェークトなになにと言うのは開発番号なので制式化されるとT-いくつ
とか付きます。ただWWⅡ後は細かく名称を変えていますね。
英国はマークⅠというようにマークがつきます。
お国柄が出て面白い部分ではあります。




