第五十一話 巡航戦車コメット
毎度、拙作をお読みいただきありがとうございます。
げふうっ朝じゃねえか。
遅くなりました。
トーマス・タージマの指揮の元。
ムールドチームは近衛部隊に配属された。
アレクサンドルとマーシャと共に・・・源さんも一緒に。
トーマスの本陣に配置。
これでは出番が無いだろうと剛志は考えた。
論功人事か?
「皆さんは見ていてください。至らぬ点などございましたら
ご指摘願います。」
皆はいろんな反応をしている。ほっとする者。
前線に出たかったと言う者。
お手並み拝見と言う者。
剛志はトーマスを見た。内情をうかがい知れない深い目をしている。
初めてあった時からこいつはひょっとして出来るやつではないか?
と剛志は思っていた。何故なら凡庸という評価だったから。
凡庸に見える見た目である事もあるが。
本当に凡庸な人物がタージマの師団長として宴に現れたりしない。
タージマ家は2万両を超えるハンターの戦車部隊。
ハンターは個人プレーが大好き。もっともタージマに今いるハンター
の中には先祖代々タージマ家に使えている人もいるだろうが。
元々集団戦が得意ではない。そいつらを統率し、集団戦の理を教え
込むのは簡単では無いはずなのだ。
実力はあるのに隠している。という印象を持っていた。
何故隠すのか?思うにミゲーロは昔からトーマスと仲が良くなかった
のではないか?兄弟と言う奴は無条件で仲がいいとは限らないのだ。
愛情ゆえに憎しみ合う事だってある。歴史がそれを証明している。
ようは兄弟での跡目争いが起こる事を予期していたのでは?
そう思う。
能ある鷹は爪を隠すと言うが。ミゲーロ達兄弟の前では凡庸なふり
をしていたのだろう。
国境付近にミゲーロの大部隊が集まってきていると言う情報が
入ってきている。
それに対抗し、正規軍側・・・トーマス側もこのテラワユクラへ
兵力を集中している。
国境沿いにて戦争勃発の可能性が日に日に増しているのだ。
戦力情報は次々に入ってくる。恐らく相手側にも入っているはず。
ミゲーロが傭兵部隊を集めつつあるとも聞いている。
戦力はミゲーロ有利と言われているが、トーマスは全く慌てていない
ので、これは業とそんな情報を流していると思われる。
ここについてからムールド氏と、ユーティリシアと、皆と話をした。
テラワユクラとミゲーロの戦力についても話したし、トーマス、
マーシャ、アレクサンドルが何をやっているかとかも話した。
そこで分かるのは、トーマスは何もしていないと言う事だ。
そう、慌てる様子もないし気負いもない。
全て予定通りといった風体だ。
アレクサンドルとマーシャは焦った様子を皆に見せているのだが。
アレクサンドルはともかくマーシャが業とらしいのだ。
トーマスとこそこそ話しているのを見た。
・・・これはあれだな出番ないな。剛志はそう判断した。
珍しく自分が参加しなくても勝てそうなので、さくっと狩りにでも
と思ったら。
「どこに行くのかな?」
ユーティリシアに見つかった。
「ユーティリシア。私思いますに狩りに行く気かと思います。」
アムリシアにはもろばれした。
「つまらんのう。儂もつれていけ。」
シナモンにねだられた。
そしたらエリオットにユシスにクラさんも付いてきた。
「暇なのよねえ。やる事なくて。」
ですよねー。
皆で楽しく狩りをした。
テラワユクラ近辺の敵は強くない。
LV30ぐらいの中堅戦士が戦うスライムというかゴブリン並み。
相手にならんのだが。まあ、じっとしてるよりまし。
砲撃はずしては爆笑し、敵に後ろ取られても大爆笑。
何せ後ろから撃たれても装甲で弾く。
巡航戦車チャレンジャーはM4並みの性能はあるんですよ。
ま、そういうわけでレベル上げというか進化はぜんぜんでしたが。
楽しく遊びました。
テラワユクラではそうして毎日暮らしす事1週間。
タージマ家からは客人待遇なのでやばい。太る。
運動不足になりそう。
いい加減攻めてきてほしい。
剛丸はやっとこさ1段階進化。
他の皆はまだ進化しない。
まあ敵弱いからね。それに前みたいにごっそり根こそぎ取ってない。
暇つぶしですからね。
まあ、酷い話だが。現実問題そんなもんだ。
ただ毎日暮らすだけならもう命がけじゃあないってレベルに到達
してしまっている。
このままのんべんだらりと暮らすのも悪くないと一寸思ってしまった
ぐらいだ。
剛丸の進化先は最後の巡航戦車コメット。
この後のセンチュリオンは制式には中戦車(Medium tank)
コメット(彗星)はCruiser tankとして最後の戦車になる。
この戦車が開発された経緯は簡単。
チャレンジャーが物にならなそうだから。
チャレンジャーの弱点としては機動性(旋回能力や超壕性等の最高
速度以外にも機動力の要素はあるわけで、それが悪い。)の低さ。
さらに車高が高くて狙われやすい。砲塔が箱型で避弾経始が悪い。
等々いろいろあったので、クロムウェルをベースにして新しい
巡航戦車を作ろうと言う事になった。
主砲:50口径77mm戦車砲マークⅡ
最大装甲厚102mm
最高速度時速46.67Km
巡航戦車の最後にして最高の作品完成。
機械的信頼性が高く。避弾経始も良く。機動性もよく。新型の砲も
射撃精度が高いと来た。
ついに巡航戦車はここに完成した。という感じなのだが。
終戦が来てしまい360両弱の生産で終わった。
そしてすでに開発が始まっていたセンチュリオンに戦後は主力の座
を奪われる。
投入が遅かったためほとんど対戦車戦闘も経験していない。
一寸不遇な戦車である。
取得スキルは久々の新スキル。
戦車Lv1
戦車の操縦、砲撃、装填等が上手くなる。Lv上昇で
能力UP
凄まじく包括的なスキルだが。
ユニークではないようだ。
ようは戦車の熟練度が上がるスキル。
これだけ上げれば後必要なくね?というスキルだが。
まあ1LV程度ではないに等しい。高レベルになると手が付けられなく
なるタイプのスキルだ。大事に上げよう。
魔道戦車のスキルは魔道戦車の魂のスキルだ。
魂がなくなればスキルもなくなる。車両がスキルを持っている
訳ではないのだ。
トーマスがテラワユクラに陣取っている理由は攻めてきたところを
反撃するつもりだからだろう。
ミゲーロもそれは分かっているのだが、かれの軍団は元部下。
元ジャッカル部下、寄せ集めの傭兵。日和見の周辺都市の警備部隊。
といった混合部隊。統率が難しそうだ。
だがミゲーロ側も急ぎ決着をつけたいと思っているのだろう。
とうとうミゲーロの軍隊が遂に国境を越えてきた。
傭兵の募集を締め切ったとの情報が入ってから1日。
これで勝てると思っているんだろうな。
「やっとか・・・相変わらず遅い奴だ。」
ぼそっとトーマスがつぶやいていた。
まあ準備万端なんでしょうな。
ぶっちゃけ戦力的にミゲーロが上だと言う話もトーマスが
密偵に流させているようだし。
まあ。戦力も上なんでしょうな結局。
タージマ家の部隊の数、傭兵の数、ジャッカルをそそのかしたのは
多分ミゲーロだと思うからアストラル・ギアもひょっとして複製して
持っている可能性がある。
それでもまだトーマス側が有利なんだろう。
彼は非常に落ち着いている。
アレクサンドルやマーシャは兄者はぼおっとしているとか言って
いるが。マーシャのはやらせ臭いし。
戦場に集まる戦車部隊は実に壮観だった。
まあスモッグのせいで先はそんなに見通せないんですが。
端から端までみな戦車。
視界の全てが戦車。
さていよいよ戦争だ。
まずは舌戦からスタート。
「兄者。もうよさないか?俺の勝ちだ。分かっているだろう?」
エラそうにミゲーロがのたまう。
「逆賊風情が偉そうだな。御託は良い。ミゲーロよ。
お前の最後だ。」
トーマスは冷静にそう言った。
因みに2人ともマイクとスピーカー使ってます。
ミゲーロがどこにいるのかは分からない。
トーマスなら剛志の近く、ぶっちゃけ横にいるが。
「剛志さん。ミゲーロは途中から逃げようとするでしょう。
逮捕をお願いします。」
「・・・了解です。」
「剛志さんには期待しています。お礼はいろいろ考えています。
期待してくれていいですよ。きっと剛志さんならその価値が
理解できるでしょう。」
な、何だ。それは・・・くそ。人使いが上手いな。
そんな事言われたらよーしお兄さん頑張っちゃうぞ。
剛志が密かに?やる気を出している間にいよいよ開戦。
普通の戦争なら舌戦なんてなかろうが。
兄弟喧嘩だし、跡取り競争でもあるため、一応義理でやってみた。
そんな感じのトーマス。
戦争は舌戦後直ぐに開始された。
距離があるとは言え、戦車砲とは最新型なら数十キロ飛ぶ。
有効射程距離は数キロだが。流れ弾が飛び交い、中にはそれで撃破
されてしまう運のない奴もいる。
轟音が響き渡り、ヘッドギアしていなければ鼓膜が破れる事必死。
落雷もかくやと言う砲撃の嵐。あっという間に戦車が溶けていく。
2分もしない内にだんだんと静かになってくるが。
それでも死ぬ程五月蠅い。
「・・・そろそろですね。」
トーマスがそう呟いたが。何せ小さな声だったので誰も
気付かなかった。
「はっはっは。兄者。最後の降伏勧告だ。今なら命だけは助けて
やるぞ。」
ミゲーロが大音量でがなり立てる。
ここでは詳しい状況が分からないがミゲーロ側が優勢なのだろう。
しかし、ミゲーロがそんな事言った直後。
大音響の砲音が響き渡った。
「な、何だ何だ。」
ミゲーロの奴焦っているな。
まあ、無理もないがな。
トーマス側に援軍が来たと言う事だろう。
「ディーンかレミアが来ましたかね。」
「他の師団長ですか?」
「ええ、全くミゲーロの無能っぷりにはあきれます。
他の師団長達には欺瞞情報を流すように伝えてあります。
これないと言うのを鵜呑みにしたようです。
もちろんばれないようにこっちも工作してはいるんですが。
何も疑いもせずにいたようで、偵察部隊が拍子抜けしたと
言っていましたよ。」
タージマには5軍団15師団長がいる。
ミゲーロ、ジャッカルは師団長。
トーマスはその軍団長。
ミゲーロとジャッカル師団がそのままミゲーロ派に入っていたとして
2個師団。トーマスの元には残り1個師団。
損害があるとはいえ、ミゲーロの方が有利であり、その後周りを
取りこんだ結果絶対的優勢と思える。
しかし、それはその他の師団長、軍団長が帰ってこないという前提
がある。
トーマスは懇意にしていた師団長、軍団長に日和見的態度を見せて
欲しいと根回ししていたと言う事。
そのためミゲーロはトーマスさえ倒せば自分の天下だと思ったの
だろう。じっくり時間を掛けてやってきた。
だがそれでは手遅れなのだ。
他の軍団長、師団長達が1仕事終えて帰ってきてしまう。
トーマスが傭兵を増員しなかった理由がこれ。
つまり支援をすでに取り付けていたので、兵力がすでにミゲーロ
より大分上になっている。
1万両以上の戦車が一気にミゲーロ軍を虐殺し始めた。
「・・・と言う事は来ますね。」
「でしょうねえ。」
「じゃあお任せを。」
「はい、期待しています。」
剛志とトーマスがそんな会話をした後。
「ムールド隊長。敵が来ます。」
「・・・そうですね。この状況を一変したければここに来るしか
ないです。」
敵が最後の悪あがきにでた。
中央めがけて突進してきた。
トーマスを倒して戦況を変えようとしているんだろうが。
さっきからミゲーロの反応が遠くへ行っている。
部下に突撃させて自分は逃げようって訳だ。
まあ無理だがな。
舌戦なんてしなければ良かったのにな。
あの時、音響を利用して逆探しかけてあった。
その辺トーマスは抜かりない人で、舌戦に応じたのはそれが目当て。
もちろんミゲーロもトーマスの場所が分かっているので今まさに
突撃を仕掛けているんだが。自分は逃げると言うのが実に卑怯。
基本的に自分の手を汚すのが嫌なんだろうな。
ジャッカルを使ったのもそこが理由かな。
自分の手でアストラル・ギアを探す事無く、
自分の手でアルフレッドを刺す事も無く。
策士のつもりなんだろうか。
トーマスは重い腰を上げ、自分の戦車に乗り込んだ。
CM11勇虎戦車
アメリカでの開発名称はM48H。
台湾の戦車である。
M48からM60までのパットン戦車の良いとこ取りの様な戦車で、
主砲は105mmライフル砲。
複合装甲は無いと思われる。
一部が爆発反応装甲を側面に張っている。
最高速度は時速48Km強。
現代の最新戦車と比べると見劣りする。
だがトーマスはこの戦車を愛用しているようで、しかもほとんど
無改造だと言う。
スキル満載なんだろうか。
敵がトーマス目掛けて進撃してくるのは明らかなので、逆に罠を
張るようにトーマスが指示している。
ムールドチームもその中に加わる。
のこのこと道を真っ直ぐに進んでくる。
まあ、指揮者であるはずのミゲーロがまずいない時点でお察しでは
あるのだが。
戦術も糞もないな。これは酷い。
皆で美味しくいただきましょうか。
「まあ、一応引き付けてから射撃しますかね。」
ムールド氏も気楽になりつつある。
当初は皆結構緊張していたが。
周りこむ奴もいないしただ真っ直ぐ来るだけではなあ。
十分に引き付けた所で、
「射撃開始。」
合図が出た。皆で一斉射撃。
次々に敵が吹き飛ぶ。
何かミゲーロ達はソ連戦車が多いな。でも傭兵たちはバラバラな国
の戦車に乗っている。・・・正直傭兵たちに関してはご愁傷様としか
言えない。
勝ち馬に乗れなかった傭兵なんて速攻尻まくって逃げるだけだと
思うが。律儀な連中も居たもんだ。
砲撃音で音が聞こえなくなるほど撃ちまくり、敵がいなくなった。
文字通り壊滅。死屍累々である。
「さて、じゃあミゲーロを捕まえるとしましょうか。
ムールドさん達、追撃をお願いします。」
トーマスの声でムールドチームは追撃を開始する。
トーマスの部下は最初の撃ちあいでかなりやられてしまっている。
そこで追撃には後から参加した皆さんが加わる。
幾人かの師団長はトーマスへの挨拶を優先したが。
中にはとても好戦的な方もいて、無線でがなりたてている。
ま、内容は皆同じ。ミゲーロをふん縛って連れてこいと言う事。
剛志は追撃のために、一旦進化保留して追う。
今なら巡航戦車コメットだから速いが、次からはいよいよ日本戦車
ルートに入る気なので速力が落ちてしまう。
数千両の戦車がミゲーロ追撃。
ミゲーロはハイドラ方面へ逃げているようだが。
そっちは崖だ。・・・何かあるな。
一気に皆で囲みさあミゲーロお前の最後だ。と言う所で、
「ふっはははっは。お前ら甘いわ。」
ここまで必死に逃げてきた割には元気なミゲーロの声。
何だ。何だと思ったら。
崖と思われた場所から何かせりあがってくる。
秘密基地ですか?
敵ながらわくわくする事しやがって。
ってでけえなんじゃこりゃ。
主砲の大きさが半端ないぞ。
いやもちろん車体も馬鹿でかいのだが。
こいつはもしや。
「P-1500モンスターの威力を知るが良いわ。」
P-1500モンスター
重量1500トン、全長42m、全幅18m、高さ7mの化け物。
主砲は80cmドーラ砲。
副武装:MG151を2丁。
M151はメッサーシュミットやフォッケウルフと言った航空機に
積まれた機関砲。
まあ地球では構想だけで終わった幻の兵器ですがね。
何せ重すぎる。
真面に動かんのよね。
だがここは魔道と言う補助装置があるからしてどう動くか
わからんね。
また主砲は接近戦に全く向かないが副武装の機関砲が嫌だな。
戦車というのは前は厚いが上と下と後ろは薄い。
車高が高いP-1500から撃ち下ろされるときつい。
「やっちまえー。」
誰かがそう叫び、戦闘開始。
P-1500の装甲は250mmと糞硬いが、そんなん最新戦車の主砲から
見たら紙と変わらん。
はっきり言うとチハもP-1500もマウスも現代戦車から見たらただの
的である事に変わりがないのだ。
しかし、P-1500は砲弾を次々に食らってもまるで平気な様子。
さらに主砲のドーラ砲をこっちの陣形のど真ん中に。
撃ちこんできた。
これがきつい。威力半端ないので爆風で戦車が転がる。
数両が戦闘不能になった。
「ふはははは皆殺しだ。」
怪気炎を上げるミゲーロ。
そうか、分かったぞ。
P-1500モンスターもまた魔道戦車だ。
人間が動かしている訳じゃない。
あれだけでかいと当たっても重要部分に当たらないし。
貫通しても内部で炸裂してもデカすぎてミゲーロにダメージが
いかない。
弾を食らっても食らってもまるで平気なんだ。
さらに撃ち下ろしの機関砲で数両吹っ飛ぶ。
ムールド達も次々に砲弾を浴びせるが、まるで効果ない。
さらにドーラ砲がまたいい加減な狙いでその辺に撃ち放たれた。
これも榴弾の凄まじい威力。
80cmとか800mmですぜ?
戦艦大和の主砲よりでかい。
ドーラ砲は都市攻撃用の砲で元々は列車砲という。
本来レールの上を移動する列車に積んで使うものだ。
それを戦車に乗せようというんだから滅茶苦茶である。
「あれを使うぞ!」
ここまで付いてきた師団長の1人が何やら部下に指示を飛ばし、
自走砲部隊がやってきた。
「撃ち方始め。」
自走砲の榴弾を使って上部構造物を吹っ飛ばそうという作戦だ。
次々に着弾。何せ図体でかいから良く当たる。機動力も無いしね。
MG151が吹っ飛び、ついに決着かと思われたが。
「ふはははは、その程度か。」
P-1500が蒼く光り始めた。
あ、アストラル・ギアの効果か。
あっという間に装甲が復活。元に戻ってしまった。
やばいこいつはやばい。
あとどれくらい魔力が残っているのか。
アストラル・ギアも1つだけ積んでいるとは限らない。
やってもやっても復活するぞこれは。
「根競べだな。」
「何時までかかるの?」
ユーティリシアと剛志は顔を見合わせた(比喩表現、戦車に
乗っている以上本当に顔を見合わせる事は出来ない。)