第十九話 タンケッティ
読んでくれる人がいるって本当にいいですね。
おいら米 三昧。
今後ともよろしく。
ムールド氏と我門さんが今度取ってきた仕事は、
護衛任務だった。
貿易商人による依頼。
ハイドラ市から1200キロ離れたマガンタ市まで
片道6日程の任務。
なんでそんなに時間かかるのか?と思われるかもしれないが、
何せ今は舗装道路がほとんどと言っていいほど無い。
しかもスモッグで2Km前が見えない。
とてもスピード出すわけにはいかない。
万が一変な所に穴でも開いていたら落ちてお仕舞である。
この世界には便利な魔道があるとはいえ、前回の世界大戦の影響で
効きが悪くなっている。効果はともかく距離がでない。
警戒魔道も8Km程度。無線魔道もそのくらいだと言う。
恐らく自動で掛かっている翻訳魔道もそのくらいの距離で効かなくなる
のではないだろうか?
魔道は便利だが、万能ではないというのが現状だ。
道中宿場町へ寄りながらの任務になる。
「長旅か・・・ひさしぶりだな。」
「マガンタ市は一度立ち寄っただけだったね。」
コンドルとファイスはそんな事を言っている。
この二人は元々自分の故郷を飛び出して旅に出た。
長距離運転もなんのそのなんだろう。
でも、実は剛志はかなりどきどきしている。
元浪人(2浪)としては久しぶりの長距離旅行。
高校の修学旅行以来だから実に2年以上たっている。
そうだ、薬買っとかなきゃ。
意味もなく大量に薬を買っている。
胃腸薬。下剤。風邪薬。湿布に絆創膏。包帯まで買っている。
当然乗り物酔いの薬も大人買い。
他の人は剛志程動揺してるわけではないが、このチーム初の
遠征なので、それなりに緊張したり、わくわくしたり、
人それぞれに反応していた。
そして、準備が終わり。仕事の時間になる。
「全隊集合。これから依頼主の所へ行きます。」
ムールド氏の号令の元、全員が集まる。
宿の前の巨大駐車場。この世界はハンターが多いし、まだ移動手段
が車ぐらいしかない。一部列車が走っている所もあるらしいが。
なにせ世界が深いスモッグに覆い尽くされている以上。
飛行機も船も列車も危ない。車だって危ないが。車は曲がれる
止まれる。一番安全な乗り物となっている。
よってお客様が皆して車を使うから、駐車場も広くなる。
現代日本と違って、土地もあまりまくっているし。
恐らく、人口もかなり少ないんだろう。
依頼主はデカいコンボイ軍団の中にいた。
長距離走るとなると居住性が重視されるし。
タイヤデカいと悪路走破性もよくなる。
この世界には適しているんだろう。
デカいコンボイはトレーラ抜かしたトラクタ部分だけで
10M以上あるのもある。
ひょっとしてトイレとか調理場まであったり?まさか・・・風呂は
ないよな?
「おう、よく来たな。」
そういったのはひょろんとしたしわくちゃな禿の爺さんだった。
髭も生えてない。
「ご依頼主の高野さんですね?我々はギルドより依頼を受注
しました。ムールドチームの面々です。」
ふーん。ムールドチームって名前で登録してるんだ。
まあ、隊長の名前をつけるのが普通か。
「よろしく頼むぜえ、はっはっは。」
見た目と違って豪快な爺さんだな。
配下の人はトラック野郎のイメージのまんま。ごつい。
さて、護衛任務なんだが・・・我々のチーム以外にも2チームいた。
コンボイ軍団は全部で32両も存在する。少ない人数で護衛するのは
リスクが高いと言う事で、双頭の鷹、神竜という厨二臭の漂う
2チームと合同で防衛する。
双頭の鷹はその名の通り、双子のリーダーがいて、数は12両。
軽戦車と装甲車がほとんどで、リーダーの二人は
B1チェンタウロ戦闘偵察車に乗っている。
他にもⅡ号戦車L型ルクス、M2歩兵戦闘車ブラッドレー等。
時代も国もさまざまだ。
リーダーの名はバイスとリガス。茶髪、灰色の目。中肉中背の男。
結構神経質で、話しかけても挨拶ぐらいしかしなかった。
神竜は6両のチーム。
リーダーはスキンヘッドに竜の入れ墨をしている。
長身の強面だが、演出っぽい。
ハンターチームのリーダーとして強そうに見せているんだろう。
戦車はセンチネル巡航戦車をACⅠ、Ⅱ、Ⅲまで持っている。
もちろんリーダーが一両のⅢを使用し、Ⅱも一両。残り4両はⅠ。
話しかけてみると結構気さくな人だった。
センチネルにした理由は、チームで戦車をそろえたかったのだが、
マチルダかセンチネルしかそろえられなかったとかで、
センチネルにしたそうだ。
マチルダは良い戦車だが、遅すぎて護衛に使えない。
ハンターとしての仕事の幅が狭まるのでセンチネルに決定した。
との事。
肝心の配置なんだが。
戦闘を双頭の鷹、後方を神竜、両脇をうちらが受け持つ。
第一打撃小隊が進行方向左、第二打撃小隊が右。
第一偵察小隊は二つに分け、ユーティリシアとアムリシアが
左、クリス君が右。
剛志達第二打撃小隊はクリス君と組む事になった。
これは左右の人数を合わせるためだ。
でもぶっちゃけチート戦士クリスがこっち側でいいのか?
だが索敵範囲を考えるとこうなるか?
クリス君は流石チート戦士。索敵範囲が一番広い。
魔道プラス持前の能力で、ユーティリシアより若干広いらしい。
盗賊+戦士+魔法使い+・・・チート戦士め。
「よし、出発するぞ!」
高野さんが大声を出す。
うおおおおおーっという男たちの声が返ってくる(女性もいます)
「こちらも発進します。左右に分かれているので連絡を密に。」
ムールド氏からの無線が届く。例によってチーム全員に無線魔道
を掛けている。便利便利。
コンボイはトレーラ含めると長いもので30メートルぐらいになる。
間隔があいているとはいえ、左右に分かれているとお互いの姿が
見えなくなる。
コンボイは2列縦隊で出発。その前に素早く双頭の鷹が出ていく。
軽戦車と装輪装甲車だけのチームは流石に速度が速い。
因みに・・・剛志はドラゴンワゴンに乗っている。
剛丸は後ろからついてきている。
自動操縦のスキルレベルが1なのでついてくるだけだから、
戦闘になったら素早く乗り移る必要があるが。
長旅の最中にやられた仲間を回収するにはやはり戦車トランスポータ
は必須だろう。という剛志の考えによるもの。
薬の件といい、かなり慎重な行動だ。
初日は順調に進んだ。ハイドラ市近辺は道も悪くないし、敵も
少ない。街道沿いはハイドラ市とその近辺の町の警備隊により
整備されているので、魔物も盗賊もでない。
さくさく進んで200キロ移動。
次の宿場町、ハイネス町。
ここはハイドラ市から他の貿易都市へ向かうメインルートの
中央にあるため、右も左もトレーラ、トラック、コンボイだらけ。
さらに護衛のハンターもいるから魔道戦車がいっぱいだ。
「うひょひょーいい!」
奇声を上げる剛志。戦車オタクの血が騒ぐ。
「病気?」
クラさん酷い。
「病気。」「そだよ。」
コンドル・・・ファイス・・・
「あうあうあう。」
ほら見ろ、クリス君が困ってるだろう?
しかし、クリス君は凄い能力持っているのに引っ込み思案で
人見知りも激しい。自分を前に押し出す主張もしない。
今時珍しいタイプか?
「宿の手配をすませてきます。そのまま待機。」
ムールド氏から無線が来る。
ムールド氏は我門さんを引き連れて、高野さんや他チームの
リーダー達と共に宿を取りに行った。
宿場町なので、予約なしでも宿が簡単に取れるようだ。
リーダー達がいない間に、剛志は他のチームに挨拶に行った。
もちろん戦車目当て。
実物を見た事がない戦車がいっぱいでホクホク顔。
他チームの人達も変なやっちゃなあ。と笑っている。
なんだかんだいって戦車嫌いなハンターなどいない。
まして自分の戦車をほえーとかはえーとか言いながらにこにこ
している奴は嫌いにはならない。
「剛志ってさあ。実はかなり天然さんよね?」
「本人に自覚がまったくないしね。間違いないでしょ。」
「奴の変人ぶりは見習いたくないが。ああずけずけと入り込んで
仲良くなっちゃうのは凄いと思う。」
「・・・凄い。」
残ったメンバーが陰口叩いているが、剛志の耳には当然入らない。
これがルクスかーとか言ってるだけ。集中すると他の事が目に入らない
のが剛志という人。
しばらくして、リーダー達が帰ってきた。
吾味亭という宿をとったそうだ。
皆でそっちへ移動・・・はしなかった。
コンボイ軍団は町の外に待機している。
もちろん中の人は宿に泊まるが。
剛志達は護衛できているわけだから。交代で見張り番をする必要
がある。
当番をくじ引きで決める。
見事ヒットしたのは剛志。第一当番。
それとクリス君が当たってしまった。
夜中の2時まで当番する。
さてこの機会に・・・
「クリス君ちょっといいかな?」
「???はい。」
「実はさ・・・魔道を教えて欲しいんだけど。」
「え?」
まあ別にクリス君じゃなくても・・・いやコンドルでも良かった。
ユーティリシアでもアムリシアでも良かった。
でもなんか女の子に頼むのは恥ずかしいし、コンドルはちゃんと
教えてくれると思うけど・・・少し悔しい。
その点クリス君はこのチート野郎・・・じゃなかった。自分とは
違うし、頼みやすいんだよね。
--- 魔道練習中 ---
「それでクリス師匠。次は何をやったら?」
「し、師匠はやめてください。」
いやあ、チート舐めてた。
ほら、よく異世界物の物語とかであるじゃん?戦うのは得意だけど
教えるの下手とかさ、こうチートっつっても何か弱点があったり?
真のチートは教えるのも美味いんです。
まさか魔道を使う日が来るとは、地球時代には考えられん出来事。
懇切丁寧なクリス君、いやクリス師匠の教えにより簡単な魔道を
使えるようになっちゃったもんね。
なんつーか、新しい手品を覚えた感覚。え、これでいいの?
というか、やったっていうか。
思い通りにいって、皆が驚くあの感じ。
クリス君の魔道は、祈願魔道。悪い言い方する人は土下座魔道とも
いうそうな。
どういうことかというと、この世の摂理を司る精霊に対し、
文字通りお願い、懇願、祈願する事で、お願いを聞いてもらうと
言うもの。
精霊使いや、他の種類の魔道士からは嫌われる事もあるとか。
精霊使いにとって精霊は対等の存在。お友達である。
考えてみてくれ。その友達に縋り付いて養ってもらっているヒモ野郎
がいるとする。好きになるかそいつのこと?
祈願魔道士は精霊使いから見るとそのヒモ野郎であるそうな。
普通の魔道士からするとズルいの一言。
何せロールプレイングゲームでありがちなマジックポイントとか
全く使わない。お願いを聞いてくれない可能性があるだけで、
発動に力が関係しない。
優秀な祈願魔道士はお願いの仕方が美味いらしく。
効果が大きくなり、発動率、発動速度が上がる。
チート野郎のクリス師匠はここでもチートを発揮。
精霊の庇護者という称号持ち。
つまり祈願魔道使い放題。し放題。
口さがない連中は精霊に土下座しているといってバカにする。
でも神聖魔道はよくてこれは駄目って意味がわからん。
神様お願いならよくて、摂理の精霊様お願いは駄目?
この魔道は地球(剛志がいた世界)には無かった。と言ったら。
クリス師匠。
「ああ、精霊が堅物なんですね。」
だと。
何でも世界毎、精霊毎に性格は違うので、お願い聞いてくれる奴と
何も聞いてくれない奴がいるとか。
そ、そんな事なの?
さて、この祈願魔道だが、連続で使用すると成功率が下がる。
精霊からすると、お前さっき言う事きいてやったじゃん?チョイまち。
という感じらしい。
頻繁に使うべきではないが、使わないと上手くならないので。
このタイミングが難しいという。
もちろんチート戦士クリス師匠には関係ない話ですがね。
さて興奮のあまりあっというまに時間が過ぎた。
「交代こうたーい。」
と言ってユーティリシアがきた。
横にはアムリシアもいる。
この二人が次の見張り当番か。
「そうだ!・・・二人にもお願いがあるんだけど。」
「二人にも?・・・にも?」
「うん、実はさっきクリス君に魔道を教わってさ。
これがやってみると嵌るんだよね。そこで二人にも時間があったら
魔道を教えて欲しいんだけど。」
クリス師匠は黙ってその話を聞いていた。
よくありがちな話で、流派がどうとか魔道同士の干渉がとか。
チート戦士の魔道には関係ないのですね。
多分そうなんじゃないかなあ?と思ってました。
「よし、ユーティリシア先生と呼びなさい。」
「ははっ、よろしくお願いします。ユーティリシア先生。」
お猫様が喜んでおられる。
「こら、ユーティリシア。そんな言い方しちゃ駄目じゃない。
ああ、剛志君私もいいですよ。今度教えます。」
おおっやったね。こりゃこの旅が俄然楽しくなってまいりました。
いや、この護衛に嫌な点はありませんよ?今の所。
でも余計楽しみになったって事。
この旅を通じて剛丸だけじゃなく剛志もレベルアップだ。
その夜は中々寝付けない剛志だった。
--- 翌日 ---
「皆さんおはようございます。本日ですが。
恐らく戦闘があります。準備しておいてください。」
朝のミーティング、ムールドチームのメンバー10人のみの会議で
開口一番ムールド氏はそう言った。
我門さんは驚いていない。多分前もって言われていたんだろう。
我門さんはすっかりムールド氏の副官状態だな。
「どういう事でしょうか?」
ユーティリシアがそう尋ねた。
何か余所行きの感じ。そりゃそうか。全体会議中ににゃーにゃー
言うわけないな。いや別に普段からにゅーにゅー言ってるわけじゃ
ないんだけど。
「今回の護衛・・・車両数が多いでしょう?
普通なら我々だけで十分です。3チームも雇うのは不思議です。
そこでちょっと調べを入れましてね。・・・といってもギルド
職員さんにお願いして聞かせてもらっただけですが。」
お願い?どんなお願いだろ。
「気になる所はそこか。」
おっとコンドル・・・口に出てた?やべ。
「どうも今回の依頼主、どこぞの野蛮な連中に狙われているようで
す。追加調査したところ、赤竜の眼というハンター集団に喧嘩を
売られています。この赤竜の眼、護衛のゴリ押しをする連中の
ようでして、高野さんはあの通りの竹を割ったような性格。
断ったため、付け狙われているようです。」
「赤竜の眼とはどんな連中なの?」
この発言もユーティリシア。
「総勢20名程、戦車も20両程持っていて、仕事の成功率は高いです
。ちょっといい気になるには十分な実績ですね。
20両というのも零細を抜けて小規模チームという所。」
「勝算は?」
これもユーティリシア。
「多分かなりあるって事だよね?ムールドさん。」
剛志の発言。
「ええ、剛志君の言う通り。20両の戦車ですが。
内訳はT-34/75が半数の10両。残りの内、Ⅳ号H型2両
M4無印が5両、KV-2が2両、TOGⅡが1両です。
うちのチームですと、第一偵察小隊のアムリシア、クリス機。
第一打撃小隊の我門、ジャン機。第二打撃小隊のコンドル、
クラ機が敵全車両を正面から撃破可能です。
正直あまり怖い敵ではありません。また、KV-2、TOGⅡという
足の遅い車両が混ざっているため電撃戦をしかけてこられる事も
ありません。必要以上に恐れる必要がないんですよ。
ただし、油断は大敵です。この世界では魔道がありますし、
魔道戦車はスキルを使います。負ける気はしないが油断はできない
相手ですね。」
「また、ムールドさんは絶妙なあたりを探してくるなあ。
うちのチームの敵に丁度いい相手って事でしょう?」
「ええ剛志君。偶然にも。」
しらじらしいな。ムールド氏は独自ルートで情報を集められる
ようだ。流石油断ならない人。
そうこうしている内に、高野さんの配下が呼びに来た。
今行きます。とムールド氏が答え、出発の掛け声で皆自分の
魔道戦車へ飛び乗っていった。さあ、鬼が出るか蛇が出るか。
第一敵は赤竜の眼だけとは限らない。この辺の事はよく
わからない。源さんに貰った地図には載っていない。
もちろん別の普通の地図はもっているが。
こっちに来るとは思わなかったので、源さん情報をもらっていない。
何が起こるだろうか?
--- 出発から2時間 ---
「部隊停止。」
ムールド氏から無線の連絡あり。
どうやら前方を偵察していた双頭の鷹の偵察部隊が何か・・・
まあお察しの通り例の連中。赤竜の眼を発見したらしい。
高野さんの元に各チームリーダーが集まって打ち合わせ。
一部護衛を残して、赤竜の眼に対処する事にした。
双頭の鷹が8両、神竜が5両。うちは第一偵察小隊と第一打撃小隊
が共に出陣。
「なんで何も言わずに残ったのよ?」
例によって殺意高いクラさんはご立腹。
だが・・・
「剛志になにか考えがあるんでしょう?ね?」
ファイスはそう言った。
「うん。ま、外れたらごめんなさい。だがけどね。」
遠くで戦車砲の音がする。戦闘が始まったようだ。
しばらくして・・・
『二時、十時の方向に履帯の音。』
剛丸から報告があった。
1分置きに偵察を掛けていた甲斐があった。
思ったより早かったな。
「どういう事?」
「敵が来たって事。総員戦闘準備。安斎さん、ヨハンさんも
準備して、敵襲。」
安斎さんは神竜の残った一人、ヨハンさんは双頭の鷹の残存部隊
の長。
さて、何故こうなったのかね?
剛志の想像通りなのだろうか?
ええ、なんとなくお分かりいただけたと思います。
進化しません。困ったのでこの題です。




