第十六話 ルノーNC
毎度、拙作をごらんいただきありがとうございます。
とても元気づけられます。
--- 翌朝 ---
「源さん、今までありがとう。」
「おう、お前ら出てくんだってな。」
「うん、それでさ、代車なんだけど。」
「そっか・・・ハイドラ市には行かないのか?」
「いや、真っ先に行く。」
「じゃあ、返しとけ。ついでに修理終わったM25を受け取れ。」
「直ったの?」
「2週間で直るって言ってたからもう直ってるはずだぞ?」
「じゃあ受け取りに行くわ。」
「成程。剛志が言ってた用事とは戦車トランスポータの事ですか?」
そういうことです。壊れたM25の修理がそろそろ終わるので、
代車を返すついでに受け取りに行きたかった。
さらに言えば、借りた本を図書館に返して、また本借りたい。
「源さん、残りの借金は年内に返しに行くよ。」
「律儀だな坊主。そのままとんずらするハンターもいるんだぞ?」
「ふふん。源さんにはまだまだお世話になるつもり。」
「・・・現金だな坊主。」
まだまだ、源さんには教わる事がいっぱいあると思うんだよね。
だから源さんにはさよならは言わなかった。
またね、といって別れた。
源さんはじゃあなと言っていた。
さて、町を出る準備をして、いざゆかん未知の荒野へ・・・
といこうとしたのだが。
「ちょっと薄情なんじゃない?」
「いやいや本当にね。」
コンドルとファイス・・・クラさんも。
「三人共・・・出迎えご苦労。」
「出迎えじゃねえよ。」
あり、その言葉は予想してなかったが。
「私達も一緒にいくわ。」
「いや、一緒にいくわって。」
「別にチームを組んでくれなくてもいいのよ。とにかく
奴らの勧誘がしつこくて。」
「あいつらに未来があるとは思えないしねえ。」
クラさん、ファイスの話によると。
町に戻ってから原住民派の勧誘が酷いとの事。
あいつらの顔を見たくないから町を出ると。
「いいんですか?クラさん?」
コンドルとファイスは元々世界中を旅していると言っていたから、
こういった事で町を出てもおかしくは無い。
でも、クラさんは元々この町でずっとやってきたハンター。
いろいろなしがらみがあって然るべき。
そんな簡単に町を出てもいいのか?
「いいのよ・・・元々この町を出ていくつもりだったの。
でも、中々踏ん切りがつかなくてねえ。」
それはそうだ、生まれ育った町だ。出ていくには何か・・・背中を
押してくれるものが必要だ。今回の件がそのきっかけになったと
いうことだろう。
「ムールドさん・・・よろしいですか?」
剛志がそう尋ねると。
「剛志君は人付き合いが美味いのかな?
僕らは仲のいい原住民さんと言えば源さんぐらいだよ。
後、きゃんちの店員さんかな。」
そんな事はないですよ。ただの浪人です。
三人共準備万端だったので、それでは行きましょうと町を出た。
源さんまたね。
ナターシャさんお世話になりました。お礼を言えなかった。
でもあの人つかまんない。忙しいんだろうなあ。
きゃんち・・・鳥天をもう一度必ず食いにいく。
忠美屋の定食。山東亭の朝食も美味かった。
何か飯の事ばっかだな。
さて、合いたくない奴らに見つかってしまうんじゃ?
とドキドキしたが、漂流民派にも原住民派にも合わずに町を出ること
ができた。
スモッグで見通しが悪いのもこういう時には幸いする。
さて、ハイドラ市に向かう。道中は魔物の出現ポイントを避けて
行くことができるので、(以前剛志はそうやってハインド市を往復
した。)魔物を避けながら優雅な移動。
因みにスーパーグレートは直接工場へ返すので、まだ荷台に剛丸
を乗せた状態で、剛志はスーパーグレートの運転席にいる。
コンドルと、アムリシアの無線魔道により、道中会話しながら
移動する。
クリス君は戦士としても優秀だが。魔道も使える魔道戦士だとか。
我門さんは鴻鳳派とかいう流派に属しているとか。ジャンはこう見えて
真面目にサラリーマンしてたとか。
ユーティリシアはなんと剛志と同い年つまり二十歳。
大学二年生で、キャンパスライフを謳歌していたそうだ。
えー見えないというとめっちゃ怒られた。
だって可愛いじゃん?女子高生みたいといったら。
ふぎゃーと言って黙ってしまった。
嫌われたな。しもうた。
さて、ハイドラ市までは3時間はかかるので。
その間には、真面目な話もした。
狩りの話だ。
ハンターは狩りをしてなんぼ。
人数がムールド氏グループは6人から10人になったので、
やり方を考えなければならない。なんせ二倍近く跳ね上がったのだ。
同じやり方では効率が悪いというムールド氏の指摘。
ごもっとも。
そこで、まずは今までのムールドグループのやり方を聞いた。
偵察役として、ユーティリシアが付く。
ユーティリシアはその猫耳に違わず、耳がいい。目も良く、鼻も利く
ので偵察能力が
チームで一番高いそうだ。
初めは女の子にそんな事を・・・とか言っていたが。
能力高いので今は全面的に信頼を置いているらしい。
そうだ、ユーティリシアの魔道戦車なのだが。
今はBT-7(無線なし)にまで進化している。
BT-7は全面電気溶接方式で、リベット止めが無い。
敵弾を受けた際、衝撃でリベットが外れ。車内を飛び回り乗務員を
殺傷する事がない。ソビエト工業力の上昇が伺える。
装甲厚も増えた車体前面上部の装甲厚が15mm・・・お気づきか?
チハより薄い。まあBT戦車は快速戦車の略でBTとついてるだけあって
速い。でも紙装甲。
何せクリスティー懸架方式のこの戦車。履帯なしで時速72Km
履帯ありで時速52Kmでる。
同時期の他国戦車と比べると圧倒的に速い。
ただし、流石は大砲国家ソビエト。46口径45mm戦車砲20Kを主砲
として搭載。日本の砲は89式で37mm。つか基本的にこの頃の大砲は
対戦車砲が37mmで、そろそろ限界なので口径でかくするか?
というあたり。高速、紙装甲プラス大口径砲。
当たらなければどうと言う事はない。敵に先に当てたら勝ち。
先に当てられたら負け。
ただし代償は命。
この戦車はノモンハン事件でもソビエトが対日本戦に使用した。
その戦果は・・・酷いもんだったようだ。
グラスノスチ(情報公開)とよばれるソビエトのペレストロイカ計画
の一部によって当時のソ連の状態は日本にも知られるようになったのだ
が、なんせ8割近くの戦車が日本にやられている。
対戦車砲の餌食になり、日本のお家芸、肉弾攻撃で片っ端から
燃えて燃えまくった。
ジューコフ将軍というソ連英雄(後に対ドイツ戦でも活躍)
曰く、一番厳しい戦いはハルピン・コール(ノモンハンの事)
と言っているぐらい。
BT-7は、戦車対戦車という先進的発想で作られた名車だが。
肉弾攻撃対策が不十分で、ガソリンエンジンなので火炎瓶攻撃に
とても弱く。日本得意の匍匐前進からゼロ距離攻撃をくらって
燃えた。
また、戦車兵の錬度も低かった。それも当たりまえ。
何せノモンハン事件の生き残りの日本兵曰く。敵戦車を擱座させて、
戦車を降りろと命令したが。降りてこない。
戦車の中に入ってみると。鎖でつながれていたそうだ。
敵前逃亡できないようにしてあったようだ。
実に非人道的な話だが、この時代では珍しくない話だったりする。
時が変われば価値観が変わる。この当時は人の命より国家の趨勢が
大事だったのだ。現代人が文句言う筋合いはない。我々現代人は
現代の価値観で物事を語る。当時の人は当時の価値観で動いている。
後だしじゃんけんは卑怯だ。
話がそれたので戻す。
ムールド氏の戦車はM4シャーマンだが。
増加装甲が張られて、M4A3E2・・・通称ジャンボと化している。
このジャンボは、ドイツのタイガー戦車にM4ががんがんやられた。
その結果を受けて現場の人間の要求で作られた派生戦車。
上層部はM4の大量生産でしのごうと思ったらしいが。
現場の人間は溜まったものではない。重戦車よこせの大合唱。
そこで重戦車の開発を始めたのだが。一朝一夕では作れない。
間に合わせとしてこのジャンボが作られた訳だ。
現場の将兵の人気は高く。敵のいそうな茂みに突撃させたりして
使い。火炎放射器装備したものもあるらしい。
ジャンは省略。
え、だっていう事無いじゃん?
固定型は劇的な改造ができないから、
相変わらずのレオパルト2A7+である。
我門さんのM60は、
魔改造がされてマガフ7A仕様となっている。
ブレイザーERA(爆発反応装甲)を装備。
ナイトFCSの装備。
AVDS-1790-5A V型12気筒空冷ディーゼル・エンジン(出力908hp)
に換装。
モジュール装甲システムを導入した結果。
見た目がM60に見えなくなっている。
マガフとはイスラエル製の魔改造戦車。M48からM60のパットン戦車
をベースに、イスラエルの技術を織り込んだ代物である。
クリス君のショットカルはメルカヴァマークⅠに進化していた。
メルカヴァは魔改造大好きイスラエルの国産戦車第一号。
第四次中東戦争において、兵器を西側諸国が売り渋った結果。
自国開発にいたった。
第三次中東戦争でイスラエルは勝利したが。
結果アラブ諸国の反発を招き、アラブ諸国は英国に圧力をかけた。
英国はその圧力に屈し、同盟国であるアメリカ合衆国に対しても
イスラエルに武器を売らないよう要請した。
売ってくれないなら作ったらあ。
その結果生まれたのがメルカヴァである。
メルカヴァとはチャリオット(馬が引く戦闘用車両)の事。
このメルカヴァには中東戦争における戦訓がいくつも設計段階で
仕込まれていて、少なくとも砂漠にて、ユダヤ対アラブの戦闘におい
てはとても優れた戦車となっている。
例えば、世界のWWⅡ後第二世代戦車は、機動力を上げることで
防御力の代わりとした。当たらなければどうということはないという
発想である。
しかし、イスラエルは中東戦争における戦訓から、機動力は
防御力の代わりにはならないと言う事を知り。
乗員の生存性を最大限工夫した仕様となっている。
また、51口径105mmライフル砲M68にM111APFSDS弾を開発。
攻撃力においてもT-54やT-55といった当時のアラブの戦車を
アウトレンジ(敵の射程外から一方的に攻撃)可能となっている。
こんだけ凄い戦車なのに、対アラブ諸国には優勢とする理由は、
西側諸国の戦車に対しては防御力、攻撃力共に不足だからである。
例えばアメリカ合衆国のM1A2戦車は120mm滑腔砲を装備しているが、
イラク戦争で擱座したM1A2を機密保持のため破壊しようと、
後方から砲撃したが。
まるでびくともしなかった。もちろんイラク戦車(旧ソビエト製)
の攻撃には全くびくともしない。
一両もやられる事なく数百両を撃破。
攻撃力、防御力とも段違い。
冷戦後、こと戦車に関しては西側と東側の技術格差は想像以上に
離れてしまっているのだろう。
東側戦車と戦った戦訓の込められたイスラエルのメルカヴァ。
西側諸国が敵に回った場合。果たしてどれほど通用するのかは不明
である。
最後にアムリシア・・・わからん。
正直わからん。
マガ・モール級2型に進化したとか言われても全く理解不能。
なんか悲しそうだった。だから剛志はダメなのよとか
ユーティリシアに言われた。ふたりして攻撃するのは卑怯だと
思います。
女性に免疫ない剛志は反撃できずに一方的にボコられました。
言葉の暴力って怖い。
コンドル、ファイス、クラさんの魔道戦車は以前別れた時のまま。
剛志は剛丸がヴィッカーズマークⅡA中戦車になったと報告した。
え?お前はどこに行く気?とか、早いよとか皆から総ツッコミ。
ソンナコトナイデショウ?
・・・なんで片言なんだよ?
さて、じゃあ役割分担をどうするか?
「うん、ムールドさんが決めて。俺達はそれに従うよ。」
「そうだね。」
「そうね。」
人それを丸投げと言う。
「ええ?ちょっと皆も考えてよ。」
おお、珍しくムールド氏が慌てている。
少しは助け舟をだすか。
「正直言ってこっちの4人は集団戦のコツとかわからん。
コンドルとファイスは上手くやれるかもしれないが、俺とクラさんは
個人ハンターなんでな。ワンマンプレーにでる可能性は高い。
そうなると偵察役は無理だな。」
「うん。そうなると・・・」
悩んでる悩んでる。でもね、この人の配置ってやつは苦しみでも
あるが、楽しみでもある。
戦略カードゲームとかで上手くデッキがピタッと嵌ったあの瞬間。
たまらないよね?
さて、そうこうしている内に、ハイドラ市に到着。
宿は、実はここに来る前に源さんおススメの場所を聞き出している。
あざーっす。
獣王亭。凄い名前。
でも店構えは洋風のホテル。
「獣王亭・・・凄い名前ね。」
「食事が重要。」
「いや、風呂には入れるんだろうな?」
初めがクラさん。ファイス、ジャンの順。
チェックインをすませると、本日は解散。
メンバーの配置を考えるから、夜までまって欲しいとムールド氏。
その間自由時間と言う事で、コンドルとファイス、さらにジャンと
ユーティリシアとアムリシアも観光へゴー。
剛志はこないの?と言われたので。
うん、ちょっと・・・とお茶を濁して別れる。
お猫さまはご立腹でした。えらいすんまそん。
スーパーグレートを返さないと。それにドラゴンワゴンを取って
こないと。
って言い訳して許してもらいました。
さて、代車のスーパーグレートの返却とM25ドラゴンワゴンの
取得はすぐに終わりました。
勝手知ったる工場・・・っていっても一度しか来た事ないけど。
なので、前にあった人もいたし。直ぐに返却も取得も終わりました。
・・・よし、狩りに行こう。
でもね、なんか不安というか。依存症気味なのかもしれないが。
一日中一度も狩りをしないのは不安なんだよね。
ハイドラ市と俺達がいたマテロ町の間は120キロ程の距離。
よってマテロ町の狩りポイントの内、いくつかはここからも行ける。
狩りポイントその21、ここは機械系の敵が出る場所。
バレットM82では流石に威力不足となりつつあるが。
ここの機械系は魔道戦車程は強くないそうなのでギリギリ行ける
だろう。
さあ、狙撃の時間ですよ。
--- 4時間後 ---
ふう、余は満足じゃ。
本日の狩りは大成功。
バレットM82も大活躍。
冷蔵庫を12体もゲット。
電子レンジを8体ゲット。
テレビを4体、レコーダーを2体ゲット。
これも狙撃が上手くいったお蔭である。
正直もっと早く来ればよかった。
魔虫なんぞほっといて・・・うえ、思い出した。
ドラゴンワゴンのトレーラに鈴なりである。
とにかく機械系の奴らは、自分らのセンサー外からの攻撃に対して
全くの無防備なのだ。足を狙ってがんがん狙撃しても気付かない。
片っ端から行動不能にして、ふん縛って、ウィンチで荷台に乗せた。
剛丸も進化した。3段階じゃあ。
やっぱりちょっと進化しにくくなってるね。
WWⅠも抜けたし。
ヴィッカーズマークⅡAから
まずルノーNC27へ進化。
続けてルノーNC28に進化。
さらにNC27の日本版
ルノー乙型へ進化。
またしてもルノーFT進化系。
以前のFTゲぐレス式の発展系が27
それのフランスでの改良型が28
日本での改良型が乙型。
ルノーNC27はそのままだと機械的信頼性が低く、
日本というか中国大陸では使い物にならなかったらしく
日本人お得意の改善による戦車がルノー乙型。
こっちもいっとかないと。剛志の目的である日本戦車ルートに
移動できない。
でもルノーNC系はFT系の発展型で、見た目似ているが。
37mm砲装備だし、装甲厚も最大20mm、機動力も最大時速18.5Km
まで上昇。
だいぶ物が違う。
WWⅠとは違うのだよWWⅠとは。
取得スキルは
自動操縦Lv1
冷却能力Lv1
火炎耐性Lv1
新スキルを3つゲット。
自動操縦のスキルを使って。
スーパーグレートの後ろを剛丸に自走させている。
今はLv1なので、主人の後をつける。戦闘はできない。
という程度。
冷却能力は地味にでかい。
今後戦闘による加熱はどんどん増える。理由としては、
エンジン出力の上昇と砲の巨大化。
両方とも熱は増大する。
火炎耐性も良い能力。
戦車には、火薬と石油が積まれてるんだから。
装甲を抜かれたら一発轟沈の可能性は常にある。
時速10キロ程度で町へ戻る。
夜になってしまったが。ハンターギルドは開いていた。
24時間営業らしい。マテロ町とは違うんだな。
まあハイドラ市はここいらで一番デカい町。
ハンターも多いので、常に開いていた方が儲かるんだろう。
マテロ町でもらったギルドカードを見せると、
ここでも整理券をもらって順番待ち。
換金を済ませて宿へ戻る。
本日の晩飯は食堂で皆で取る。
なんか修学旅行を思い出すな。
食事の後、ムールド氏が全員に声を掛けてそのまま食堂で待機。
「明日の狩りの場所。及びフォーメーションを発表します。」
いよいよ次は集団戦か。




