第十一話 ルノーFT
毎度ごひいきに、拙作をお読みいただきありがとうございます。
--- 夜、7時頃の源さんの店 ---
「ういーっす。」
「おお、無事だったか坊主。」
無事?源さんがそんな事言うとは。
何かあったのか?
良く見てみると、コンドルとファイスが店にいる。
あれ?なんか怪我してるっぽいが・・・
「どうしたの二人ともその怪我は。」
「うん、実はさ・・・」
ファイスが語るには、なんとこの怪我は魔獣相手にできたものではなくて、
例の漂流民派と原住民派?の闘争が街中で起きたものに巻き込まれたらしい。
え?街中で戦車砲ぶっぱなしたアホがいたって?
酷い目にあったな・・・てか生きてて良かったな。
何でも剛志が町へ戻ってくる少し前に起きたらしい。
原因なんて大したことない。単に戦車同士がぶつかったのぶつかってないの。
の言い争いから発展し、人が集まり戦車が集まり。さらにヒートアップ。
しまいには謝らないと撃つぞとか言い始め、誰が謝るかっつーのと言ったらもう
お仕舞。発砲したらしい。
しかも撃ち返したアホがまた出てきて。
危うく収集つかなくなる所にこの町の警備隊がすっとんできて全員タイーホ。
コンドルとファイスは獲物を換金しに行く所にばったり出くわしちゃって、
もらい事故。
ついてないなあと言っていたので、いや、ついてるよ。と剛志は答えた。
なんで?と聞かれたので。
真顔で、だって死んでないじゃん。と剛志は言った。
戦車砲の撃ちあいに巻き込まれて、怪我ですんだら幸運だろ?
と答えた。
それを聞いて、むっつりしていたコンドルが急に笑い出した。
そうだそりゃそうだとか言って。笑っていた。
それを見たファイスが嬉しそうに微笑んだ。
・・・やっぱりお前ら出来・・・
『出来てない。』
元気になったのは良い事だ。
「でも・・・これからお前らどうする?
正直今の町は危険だろ?旅の途中っていってたじゃないか。
出て行った方がいいんじゃ・・・」
「いや、出て行かない!」
「僕達がなんで旅してまわっていると思うの?
面白い物を見たいからさ。せっかく魔道戦車を手に入れたんだ。
こいつで世界中の面白い物を見に行こうって決めたんだ。」
結構胆の据わった連中だ。
「漂流民と原住民の対立なんてそうそう見れない。
そりゃ漂流民は多いよ?でも、多いって言っても数十年に一回ぐらいだし」
いや、学者が裸足で逃げ出す高確率だぞそれ。この世界は一体どうなっているんだ。
次元の穴に落ちる確率は・・・確率があるよ?・・・って程度で、それに期待する
奴はアホバカ間抜け以外の何物でも無いはずなんだが。
この世界ではしょっちゅう落っこちてくる。バケツの底の穴の下。ナターシャさん
の言ってた通りって訳だ。
でも、この世界からいなくなった奴の話は聞かない。
一方通行だ。
「この町がどうなっていくのか?・・・興味深いじゃないか。」
あれ、でも源さんは?
「俺の事を心配するとは随分腕を上げたんだな?」
おおっと心配するだけ無駄ってことですか?
「腕のいいハンターは常にあらゆる事態を想定する。
ま、実際には人間の想像力なんて高が知れてるから全部ってわけにはいかねえが。
例えばこの町が魔物の大群に襲われて陥落したらどうするか?
備えはあるんだ、俺の事は気にしないで坊主の好きにやりな。
自分の魂の赴くままに生きる。それがハンターだ。ただし代償は自分の命だが。」
ハイリスクハイリターンだよね。ハンターって。実際の話。剛志がこれまで稼いだ
額はこれまでの自分の人生では見たこと無い額です。
日本円に換算なんて実際にはできないんだが、生活費から無理に逆算すると・・・
数百万円?まだ一月もたってないんですが。
これで一流ハンターになったらどうなるか・・・年間数十億円は逝くのか?
いや、もっとかもしれない。
そりゃハンター目指す人増えますわ。
大体戦争の影響でまともな工場は稼働してない。
この町だって修理工場なくて、ハイドラ市までM25持っていくことになったし。
ましてやメーカーなんて全然ないんだから、家電はハンター頼み。
ひょっとしたら部品なんかもハンターがかっぱいでくるの頼み。
食料だってハンター頼み。
ハンターが第一次第二次第三次産業全て賄ってしまっている。
この町が景気良い理由がわかる。
数十人の漂流民のほとんどがハンターになったんだ。
現代の地球に換算すると、トヨタが町にやってきた状態か?違うか?
「しかし・・・剛志はどっち派?俺達はこの町詳しくないから・・・
来たばかりだし。」
「御免・・・俺もまだ来て10日もたってないし。」
コンドルと二人で顔を見合わて渋い表情をする。
そこで源さんが。
「うん・・・したり顔でおっさんが語るとな?」
実際の所、漂流民派とか原住民派とか二つに町が分かれていると
考えるのは、錯覚以外の何物でもないらしい。
「どういうことです?」
コンドルがそう尋ねると。
「実は奴らは少数派なんだ。まず漂流民派だが・・・この坊主やムールドを
見て気づかないか?派閥作る必要がない。実力があるからな。」
「・・・成程。」
「つまり、漂流民派ってのは主に二種類の人間からなる。1、脱落者。2、
野望の持ち主。」
ちょっと考えてコンドルが言った。。
「・・・実力ないから派閥つくる連中と、異世界でのし上がろうと考える奴で
すか?」
「そういうことだ。大抵の奴は派閥を作る時期じゃないんだな。
だってまず異世界に慣れる事や情報を取得することが先だろ?
いきなり派閥つくってどうこうする事には普通ならない。
ま、何らかの事情でって場合もあるみたいだが、それはどうしようもないな。」
手をぽんっと叩いて剛志が発言した。
「わかった。漂流民派ってのは他の漂流民の力で養ってもらおうと
いう奴と。異世界で成り上がったるとか考えてる奴らの集まり・・・
って痛いな。」
「ああ、かなり」
真顔で頷く源さん。
「続けてください。原住民派はどうなんですか?」
先を促すコンドル。
「お前らも原住民だろ?だから分かるよな?なんで漂流民を追い出す
必要がある?俺は漂流民相手に商売してウハウハだし、お前らだって
剛志の世話になったろ?漂流民は敵じゃない。むしろ味方だ。」
「確かにね。コンドルのⅣ号をレッカーしたら結構な値だよ?
剛志のお蔭で無料だけど。」
「困ったときはお互い様だろ?」
「そういう考えはこの世界には無いかな?」
苦笑するファイス。
「続けるぞ?・・・つまり、原住民派ってのは元々大した事のない
ハンターの集まりなんだ。漂流民達との対立を煽って何とか利益を
得ようと考えただけ、ま、中には本当に狩場を荒らされた奴もいるかも
しれんよ?
でもまあ、大部分はダメハンターだな。」
そんなスッパリと本当の事言わなくても・・・
源さん実は無能に容赦ない人?
やっべ、もっと頑張らな。剛志は心に誓った。
「だが、この対立がひいては町を破壊するような闘争へ繋がる可能性がある。」
「何故です?誰もそんな事は・・・」
コンドルは不思議顔だ。基本的に良い奴なんだよなこいつ。
コンドルは頭は良い気がするが、出し抜ける感じがするんだよな。
なんちゅうか汚いやり口に疎い。
「いるだろうが、漂流民派とか原住民派とか名乗る連中が。」
ですよねー。でも自分の利益の為に他人を利用すると結局しっぺ返しをくらうと思う。
持ちつ持たれつというか今風に言えばWin-Winの関係にならないと。
・・・恨まれるだけだぞ?
「彼らが闘争を望んでいると?」
「闘争は手段だ、目的は自分たちの利権。自分達を強くするのに一番
いい方法はなんだ?・・・相手が強くなることさ、漂流民派がのさばれば
原住民は危機感を得る。そしたら原住民派に入るハンターも増える。
逆もまたしかり、原住民派が増えれば、漂流民だって危機感を覚える。」
やっぱりね。そうなるか。でも。
「危機感を煽って自分の勢力を増やす。ただその後はどうする気なんだろう?」
「大抵の場合は。・・・」
「大抵の場合は?」
「何も考えてない。だが普通は後は敵を倒すだけと考える。」
「決戦?」
「それならまだまし・・だったりするぜ?」
もっと酷い事もありえるのか。まいったなこりゃ。
「それで僕達はどうすればよいのでしょう?」
コンドルは困惑している。でもファイスはそうでもない。
ファイスは結構リアリストだ。気付いているんだろう。
そう、どうしようもない。そんな権力も力もないし、来たばかりだから
コネがあるわけでもない。何かする力がないんだ。
できるのは見守る事ぐらいか?
「慌てるにはまだ早いな。どっちかに組するつもりはないんだろう?
大体、慌てたら奴らの思うつぼなんだぞ?奴らは危機感を煽るつもり
なんだから。」
渋い顔するコンドルとこっちはお気楽なファイス。
コンドルは理想家、ファイスは現実家。正反対だが、これで不思議と仲良く
やっていってる。お互いに無い物を相手で補ってるんだろう。
「おっとっと。源さん弾ちょうだい。後ガソリン満タン。」
「あいよ。・・・ハイオクいっとく?」
「やめて、そんなに金使わせたいの?」
「うん。」
「真顔で言わないで・・・でも電池買っとくわ。」
「え・・・夜狩りかい?ほどほどにしとけよ。お前全然休んで無いだろ。」
「結局さ、力が全てじゃないっていったって有るにこしたことないじゃん?もうちょっと剛丸を強くしとかないと。予備をキープしとくわ。」
「よし・・・」
源さんがガソリンタンクに燃料を入れるチューブをつなぐ。
・・・A7V/Uのガソリンタンクってそこなんだ。知らんかった。
源さんの知識マジパねえな。
弾を投げてよこすので『危ねえ!』と怒ると。
わっはっはと笑いやがった。
やめて、本当にやめて。
「俺達は宿へ戻る事にするよ。」
そういってコンドル達は帰ろうとするので、
「明日の17:00頃って暇か?」
と剛志は聞いてみた。
「何かあるのか?」
「面白い戦車が見られるかもしれない。」
「・・・ほう。」
「怪我があるからね。少なくとも明日はお休み。暇だよ?」
「え、明日だけで大丈夫なのか?」
「魔道治療してもらった。金はがっぽりもってかれたけど、ハンターにとって
は金より時間だよ。仕事さえできれば金は手に入る。」
そうだよなあ。この二人のレベルだと頑張れば年一億ギア以上はいけるはず。
もっともそんなに焦ってないみたいだから。もっと収入は少ないかな?
「そんなわけで、暇だからどこにいったらいいの?」
「取り合えずここに集合で良いじゃん?その後で案内するよ。」
そういう訳で二人と約束して別れた。
その間に源さんはスーパーグレートにもガソリン入れて、タイヤのチェックもすませていた。早い、流石です。
「そうだ源さん。一つ聞くの忘れてた。」
「??なんだ坊主。」
「最近魔物が多くない?いや、俺はまだ十日もいないからこんなもんかも
しれないけどさ。次々に魔物がくるよ?」
「ふふん。坊主いい勘してるな。」
なんか源さんは嬉しそうだ。
「その通り、多いよ。普通じゃない。何かあるな。」
「何かって?俺は経験少ないからわからないよ?」
「まてよ、いろいろ原因は考えられるんだ。実は今ギルドと町でその件に関して協議してる。・・・何かわかったら教えるよ。」
「流石源さんたよりになるね。ひゅーひゅー」
「何がひゅーひゅーじゃぼけっ」
カーン。
・・・照れ隠しとはいえ、本当にやめてください。
.50BMG弾(バレットM82の弾)投げないで!
ケプラー製の防弾ヘルメットつけてなかったら首がもげてる。
源さんをからかうのは辞めよう。命が危険。
--- 夜間、狩場 ---
例によってハンターベアを一匹狩ってまた同じポイントへ来た。
スーパーグレートは前回と同じ場所へ隠ぺい。
剛丸に乗って走り回る。
ただ正直、夜ここで狩りをするのはちょっと怖い。
レッドドッグはドッグというだけあって鼻が良い。
夜間の戦闘では奴らに分がある。暗視ゴーグルや赤外線サーチシステムを
買ってあるとはいえ、昼に比べて段違いに視界は狭まる。
しかし、剛丸もパワーアップしているのだ。
剛志だって腕も上がって・・・いる?のだ。
二浪した剛志の勘なんて剛志自身が一番あてにしないが、その勘がささやく
早く強くしないと・・・何かあるぞと。
それは日に日に強くなる。
焦る。だが狩りに焦りは禁物。
焦ったっていい事何もない。
『レッドドッグの群れが近づいています。』
剛丸は頼りになる。戦車の魂に昼も夜もない。警戒Lv2が発動して
赤犬共の場所を教えてくれる。
素早く暗視ゴーグルを巡らし、奴らを発見する。
「まだ遠い。合図で機関銃射撃。」
剛丸に指示をだす。
赤犬共は特殊攻撃が無いのがいい。
強いて特殊攻撃といえば、この群れを使った狩りだろう。
マドハンド?というべきかどんどん増える。
数は力なり、衆寡敵せず。
数に押されて殺られるハンターもいる。
「時はきたれり、撃て、撃ちまくれ。」
アドレナリンがじょばじょば出ているんだろうな。
興奮し、恐怖を忘れる。
赤犬共・・・やったらー。
今は戦闘の時間だ。
--- 4時間後 ---
「どのくらいたった?」
『戦闘時間の事でしょうか?』
「そう、どのくらい戦った?」
『4時間になります。』
そんなもんか。正直無限に戦ってた気分だ。
周りはレッドドッグで死屍累々。さらにこの死体の臭いで
レッドドッグが集まってきて・・・
一旦弾切れ寸前まで行き、慌ててスーパーグレートの所へ戻り、
予備弾丸を積みなおして再度戦闘した。
「なあ、剛丸。この死体の後片付けはすべきかな。」
『YesかつNoです。』
「どういう事?」
剛丸も難しい事言うようになったな。
『この死体にレッドドッグが集まります。危険なので始末すべきです。
よってYes。』
「Noの方は?」
『夜間の野外活動は何が起こるかわかりません。車外活動はおススメできません。』
うん。それはその通り。
よし、オラシラネ。いや狩人としてハンターとして最低かも。
ちょっと自己嫌悪。
やっぱり狩りは生活の為に・・・いやもうお為ごかしはよそう。
剛丸をパワーアップするために来たんだからこれでいいのだ。
剛丸は進化した。
4度も。・・・いやでも大分進化しにくくなってきた。
そろそろ機械系の敵とも戦うべきかもしれない。
辺り一面レッドドッグで死屍累々なのに、4時間も戦って(ぶっ続けではないが)
4度・・・やっぱまだ弱いか。
まず、ついに傑作戦車ルノーFT17へ進化
こいつはWWⅠ時に作成された戦車の中では大ヒット商品。
まずフランス国内・・・そう、こいつはおフランス製。
例のすぐ燃えるシュナイダー、壕に嵌るサン・シャモンのフランス。
でもついにやりました。
戦車のイメージそのまんまの戦車。
全周旋回式砲塔を世界初装備。
機関室を装備。エンジンと操縦席が隔離され
いやな臭いもない。騒音も緩和。エンジンからの熱気もつたわらず快適。
さらに、エンジンは戦闘室の後部配置。後輪駆動。
実に画期的な戦車である。
フランスだけで3000両以上生産され、
各国でライセンス生産された。
初戦のレッツの森での戦いでも大活躍。
ドイツ兵を駆逐しました。
・・・これがどうもその後のフランス戦車のドクトリンを悪くした理由のようで、
WWⅡにてドイツに電撃戦を仕掛けられボロ負けする遠因となったらしい。
ようは戦車は歩兵を助けるもの。火力を生かすために分散配備。
人間の悪癖で、一度勝つとその後全く同じことをする人がいる。
『待ちぼうけ』という歌をご存じだろうか?
成功体験と言うやつは簡単に捨てられない。
でも時代が変わると勝ち方というのは変化するのだ。
フランス軍はその罠に陥った。・・・実に痛い。なにせ日本軍も大なり
小なりその罠に陥った。人の事笑えない。
とにかくこいつは伝説の戦車。
ということは・・・ユニークスキルである。
オンスロートLv1を取得した。
確率であらゆる戦闘行動にブーストがかかる。
やはりレベルで上昇。
またチート臭いスキルをゲットしたぞ。
あらゆる戦闘行動なので、機動力、攻撃力、防御力全て上昇する。
それも剛丸だけでなく搭乗者の剛志にも影響が及ぶ。
発動率は低い。
4時間戦ってて一回しか発動しなかった。
でも発動するとその戦闘中は無敵感が半端ない。
砲の装填速度が上がるからまるで機関砲のごとく撃ちまくれるし。
逃げる敵よりも速く動いて追いつける。
続けて二度目の進化
ルノーFT1737mm砲搭載型
ええ、実はFT17初期型は8mm機銃だったのだが。
砲に代わりました。
威力は・・・21口径37mm砲だよ?
スキルは偵察Lv1
これは警戒が受動的なスキルなのに対して、能動的にこちらから発動するスキル。
周囲の敵を文字通り偵察する。
続けて三度目
ルノーFT18
砲塔がリベット止めから鋳造に変化。
取得スキル
砲塔旋回速度上昇LV1
全周旋回式砲塔の回転速度が上がる。レベルUPで能力上昇。
四度目
ルノーFTケグレス=インスタン M24/25
サスペンションがケグレス方式に変更。鋼芯入りゴム履帯。
仏領モロッコでの反乱鎮圧に活躍。
取得スキル
射撃がLv4に上昇
ルノーFTは続くよどこまでも。
まだまだ派生戦車があるので、剛志の記憶の続くかぎりまだまだルノーFTが続くことになる。
実用速度が時速4Kmなので・・・早く脱出したいが。
スキル沢山欲しい。
もっと頑張らねば。
だが弾がない。
ルノーFTへ進化させることは剛志の計画通りなので、
21口径37mm砲用の砲弾を用意してあったが。ほとんど使い果たした。
流石に源さんも店をあけているとは思えないので、
今日はここまで・・・となった。
うーむ。戦車の説明をもっと短くすべきだろうか?
ものすごい字数を取る。




