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それが家門なら  作者: 懐拳
19/23

19 赤いマフラー

(1)


株主工作

上首尾で

買収は

日々着々と

進んでるのに

嬉しくもなく


父子の夢だ

獣の道だと

どうこじつけても

気が晴れず


酩酊しても

消えない面影

消そうとするほど

なお蘇って

またもがく


夜が昼だか

昼が夜だか


最後にいつが

正気だったか

覚えてないほど

酩酊半ばで

奴から聞いた


「命も捨てて

ハンドル切って

逝ってしまった

人の記憶が

霞んでつらい

忘れちゃいけない

人なのに」と


泣きじゃくったと

そう聞いた


「コートを着るのも

嫌だったのに

あのマフラーが

離せない」と

泣きじゃくったと


聞くはしから

眉間が痛くて

視界は歪んで

上でも向かなきゃ

何かこぼれて


酩酊は

きれいさっぱり

覚め果てた


芝居がはねて

もう何度目か


足が自然に

向かった

いつかの湖で


“ビンタ”を

手に入れ


解毒剤の

押し問答をし


眠気覚ましの

缶コーヒーを

無駄に買わせた

あの湖で


いるはずのない

人を見た


ぽつねんと

ベンチにひとり

遠目に赤い

マフラーだった



(2)


生まれて初めて

他人のことを

羨んだ


生まれて初めて

自分ではない

ほかの男に

なりたかった


青鶴洞の川べりで

10歳の君の

目の前に

立った少年が

僕だったらと

泥酔しながら

夢見てた


自分ではない

ほかの男に

なりたくて

なれなくて

泥酔しながら

地団駄踏んだ


獣のくせに

嫉妬かと

夢見るはしから

自分を笑い

あざ笑っては

夢見たそれも

もうやめる


いるはずのない

人をこの目で

見てるから


あのマフラーが

赤いから


君の初恋で

なかったことは

もう怨まない


その代わり

君がこの世で

最期にまぶたに

映していたい

人間になる


獣をやめて

人間になる


そう決めた


牙むいて

虐げて

物と言わず

金と言わず

手にさえ入れば

有頂天に

なってた獣が


むかれた牙にも

甘んじる

君に出逢って

初めて畏れた


残虐非道な

獣と知っても

それでも

行く手を

遮るまいと

1歩身を引く

君に出逢って


その無私無欲を

心底畏れた


牙をむく

気力が萎えた

獣でいるのが

つくづく嫌で

ヘドが出た


-立ち止まり方を

知らないから

ただ前向いて

進むだけ-


そんな不遜な

屁理屈を

(さが)だと甘えて

開き直るのは

もうやめる

それが(さが)なら

変えてやる


君のために

人間になる

生まれ変わりたい

人になりたい

そう思った


僕を心に

入れてほしい


そこにあの人が

いるのは知ってる

当然だ


僕なんかに

義理立てて

死者の記憶を

消さなくていい


霞みそうなら

呼び覚ましてでも

記憶を抱いて

生きていいから


せめて僕も

君の心に

入れてほしい


今すぐここでと

言う気はない

資格もない


でもいつか

赦されるなら


そして

君の心が

この世の中に

あるかぎり


君の心の

中にいたい

君の中で

生きていたい


今日ここで

この湖で


いるはずのない

君を見たから

赤いマフラー

してたから

心の底から

素直に乞える


僕たち

芝居じゃ

なかったろ?


2人とも

ずっと前から





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