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決してボクは主人公ではありません  作者: 御劔凜
第一章~ボクの日常~
8/11

ボクの日常が崩壊していきます~下~

大変お待たせしてしまい申し訳御座いませんの一言です…。

次回は遅くとも一月以内で仕上げて投稿したいと思います。

遅くともなので、早く仕上がればすぐに投稿いたします。





「しかし、いったいさっきの意味深なやり取りは何だったんだ?『では連太郎さん…また』ってなんだ!」

「そ~ですよレン先輩!なんか怪しかったです!茉莉花というものがありながら浮気は許しませんよ!」

「浮気って…茉莉花、あなた連先輩と付き合っている訳でもないでしょう」

「いいのいいの!こういう事は気持ちの問題なの!」

「部長じゃないけど、確かに気になるわね連太郎くん」

「仲良きことは美しきかな…」


っぐ、失態だ。この人たちの前で熱くなったのが唯一の失態だ!

標的にされるなんて明らかだったのに!少し前のボクを殴って…いや、諭してあげたい。

殴ったら痛いしね。


それにしても過去最長記録だな…麟堂さんとこんなにも話せたのは。

内容はどうであれ、幸せです…。

っと、呆けてばかりいたらまたからかわれてしまうな。


「まぁ………追い追い…な」

「追い追いって何ですかレン先輩!でもそう言いながら苦笑してる横顔がかっこいいので茉莉花は追求しないであげます!」


茉莉花がなにやらはしゃいでいるが、とりあえず放置しておこう。


結局あの後、派遣部は商店街を任されたのでボク達はそれぞれ班に分かれて作業することになりました。

とりあえず学年別で班を組むことになったので、ボクの班はボクと菫の二人。

本当はここに蕾が加わるんだけど、今回は不参加なので仕方が無いですね。

茉莉花と部長が班分けに関して蓮華先輩に意義を申し立てているみたいだけど爽やかな笑顔で却下されてる。

何が気に食わなかったのかいまいち分からないけど、この班分けに何の問題が有ったのだろうか?

まったく、茉莉花も部長も子供じゃないんだから決まったことには従いましょうよ…。


あ、部長は子供だったか。


「おい連太郎」

「?」

「ソフトクリームお前の奢りだからな!」


なんでだ!?


「何となくだけど馬鹿にされた気がした!」


ここの部員はなんで心が読めるんだよ!

心の黙秘権を行使したいです!


「連太郎………大丈夫」


お、基本的に無口な菫がなにやら言いたげなようです。


「?」

「わざわざ心の黙秘権を行使しなくても………私は心なんて読めないから」


ですよね!普通に考えて人の心なんて読めるわけないんだから菫の言ってることが正しいんですよ!

こんな簡単に心が読まれてたらプライベートなんて有って無いような物になってしまうんだから。

ボクも人の心が読めれば多少は人間関係も上手くいくと思うんですよ。


いや、よく考えてみろ?


ボクもここの部員であるわけで、人の心が読める部員ばかりの派遣部ならばもしかして知らぬ間に人の心を読むスキルが身に付いているかも知れない!


そうであるなら即実行だ!


よし、なにやら大人しくなっている茉莉花の心を読むんだ!


「……………………」


うん、まったく分からないね。分かるわけがないね。


ちくしょーーー!なんでボクにはスキルが身に付いていないんだ!

二年も派遣部に所属しているのにこの体たらく!


何が足りないんだ?

情熱か?思想か?理念か?頭脳か?気品か?優雅さか?勤勉さか?

速さか?


いやまぁ………全部備わってないんですけどね。


「れ、レン先輩…そ、そんなに見られると…流石に茉莉花も恥ずかしかったり…するわけなんですよ」


おっといかん、黙って見つめ続けるなんて失礼すぎた…。


「連太郎………大丈夫」


お、またまた菫が何か用みたいです。


「?」

「連太郎は………全部備わってるから」


なにがだ?何が全部備わってるんだ?

さっき考えてた情熱うんぬんのことか?

まさか…ボクに備わっているわけ


………はっ!?なしてそのことを知ってるんだ!?

って言うか菫も心が読めるんじゃないか!!!

やめて!黙秘権だ!黙秘権を行使いたします!


いや、ここはあえて攻めるんだ!


こうなったら心の声で会話すればいいんだ。

そうすればボクは饒舌だからな。

うん、これは我ながらいい考えだ!

こうすればいちいち口頭で伝えなくても済むし、潤滑にコミュニケーションを育めるはずだ!


そうでしょ菫!?


「?」


こいつめ~可愛い小動物みたいに首を傾げやがって、そうは問屋が卸さないみたいですね!!



駄目じゃん!!!



さて、それぞれの班に分かれて掃除をスタートしたわけですが、あまり目立ったゴミが無いと言うね。

一応商店街の人たちが自主的に掃除とかしているみたいだから当然といったら当然なんですが、少しばかりやる気を出していたこちらからすると出鼻を挫かれた感じがするんですよね。


「おや?連ちゃんじゃないか!コロッケ買って行くかい?」

「おっ!連坊ぅじゃねぇか!どうだい、今日も新鮮な魚入ってるぜ!」

「おやおや連君、今日はジャガイモがお買い得だよ?そういえば糸元(しげん)さんは元気かい?琴乃(ことの)さんにもよろしく伝えておいておくれ」


商店街を歩けば声をかけられちゃうし、なんだか部活中ってことを忘れてこのまま買い物でも…って気になってしまうんですよ。

ちなみにこの商店街の人たちとは昔ながらの顔見知りです。

ボクの家から一番近くで買い物できる場所がここだから自然と顔を覚えられたって感じですね。

近いと言っても家からここは反対側なんですけどね…。

それよりも爺ちゃんや婆ちゃんが結構この町のために貢献しているみたいで、そのお孫さんって立ち位置で有名になってるっぽいです。

糸元って言うのが爺ちゃんの名前で、琴乃ってのが婆ちゃんの名前ですね。

爺ちゃんは昔から道場の師範代を勤めていて、武道全般を教えています。この町に住んでるおじさんと言う年代に当たる人たちはみんな爺ちゃんに(しご)かれたことがあるみたいで頭が上がらないらしいです。

数年前までは宿木高校の特別講師として体育会系の主に武道に関する部活の人たちを指導していたみたいです。

第一期目の卒業生でもあり、卒業しても学校や町に貢献している爺ちゃんに頭が上がる人がいないという。

今思うと、とんでもない爺ちゃんだよな…。


でもそんな爺ちゃんが唯一頭が上がらない存在が琴乃こと婆ちゃんです。

ボコボコにされた生徒や門下生の人たちの傷を手当したり、朝食から夕食まで準備してみんなに振舞ってくれることから菩薩のように崇められ、常に笑みを絶やさないその姿で何人もの人たちの(すさ)み掛けた心を支えてくれたと言う。

そして、滅多なことでは怒らない婆ちゃんが稀に見せる凄まじい怒気は背後に炎が見えると言う逸話から、『笑怒(えど)の大火』と呼ばれているとかいないとか…。

そんな笑怒の大火にさらされた後の爺ちゃんの姿が焼け野原に朽ちる(むくろ)のようになってることがより一層その逸話に拍車をかけていると言うね。

なのでこの町でのヒエラルキーは頂に婆ちゃん、下に爺ちゃん、その下に町人って感じです。

そんな感じなので、頂点に君臨する二人の孫と言うことでボクは町内の人たちに一目置かれてます。

ボクとしてはボク自身何かをしたわけでも無いので普通に接してほしいんですが、それは叶わぬ願いなんですよね…。


だってほら、見てくださいよ!

商店街の人たちのあの輝いた眼差し!

期待の眼差しとでも言うんですかね?

あの二人の孫だからってすごく期待されてるんですよ!

そんなに期待されても並以下のスペックしかないボクには応えられないんですよ…。

なのでいつも商店街に買い物に来る際は即行で買い物を済ましてそそくさと帰宅するんです。


みんなの目線が重いから…。


そんなこんなで逃げるように商店街から撤退して簡素な住宅街に出たボクなんだけど、ここで重大な問題が一つ。


「菫はどこだ………」


はい。完全にはぐれました。

迷子です。

まったく。菫は目を離したらすぐに何処かへ行ってしまうからな。

困った奴だ。


ええ、はい。ボクが迷子です。

考え無しに逃げてきたからこんな事になってしまいました…。

いやーこれはいかんね。

自業自得とは言え、これでは本来の目的である掃除が行えない。

即ち部活動をサボってしまうことになる。

延いては商店街の掃除を任せてくれた時雨さんを裏切ることになってしまうではないか!

せっかく時雨さんと呼んで良いと許可を貰ったのに!

その信頼を裏切るような真似は断じて許されない!


大丈夫だ、落ち着け。

今から商店街に戻って菫を見つければ良いだけの話じゃないか。

そうだ、たったそれだけの話じゃないか。

そう思ったら少し気が楽になってきた。


トンッーーー


ん?なにやらボクの腹部に軽い衝撃がって………


「くなぁ!」


え………くな?って小学生か?てかどう見ても日本人じゃないなこの子。

褐色肌で赤い髪だし目の色も違うし。

なんにしても迷子か?

あ、迷子はボクか。ってそんなこと言ってる場合じゃなくて、どうしたんだろう。

なにやら顔が真っ赤になってるし目も回ってるようだ…。

と言うか見てると楽しいなこの子。

今度は両腕を左右に開いて上下し始めたし、なんかワタワタしてる。


うむ。


完全に動揺してるな。

まぁこんな女の子が外国で知らない人にぶつかったらこうなるよね…。

ここらで優しく声をかけてあげたいところだけど、残念ながらこの子が日本語を理解してるかどうか分からないし、なにより自分より大きな人に知らない言葉で話しかけられたら更に混乱するだろうし。

しかも相手は口下手なボクだ。

下手に声をかけて変に勘違いされてお巡りさんのお世話になんてなりたくない。

ならばこの状況をどうするか。


そう、応えは一つ。


ボディーランゲージだ!


それしか手が残されてないからね!

よし、最近インターネットで得た『声を出さずともこんな行動を取っていれば分かる』シリーズの知識を活かす!


まず始めは………確か相手を落ち着かせるために頭を撫でてるイラストだったよな。


ナデナデーーー


よし、次は優しく微笑みかけていたイラストだった気がする。

あのイラストだと年配男性のイラストだったと思うけど、この際それは考えないようにしよう…。



「……………」


ちゃんと微笑めたかどうか分からん…。

意識して微笑むだなんてしたことないし。


そして最後は台詞があったな………確か


『お嬢ちゃん、おじさんと一緒に遊びに行こうか』


「……………………」


ってこれは『こんな行動を取っている人を見かけたら110番』って記事の知識だったーーー!!

完全にしでかした!

自分がさっき思ったお巡りさんってワードで勝手に脳内に浮かび上がってきていた!


落ち着け、落ち着くんだボク。まだ大丈夫だ、まだ誰にも見られていない!

唯一の救いはまだ台詞を発していないと言うことだ!

今ならまだ女の子の頭を撫で続けている青年と言う構図だけで済む!


………駄目だ。十分通報されるレベルだ。


もしかして人生最大の危機か?


「あぁぁぁ、あ、あの………」


いや、慌てるな。慌てたらそこで人生終了だよ?

大丈夫だ、心配するな。目を瞑って自分に言い聞かせるんだ。


「大丈夫………大丈夫だ。慌てるな…心配するな」


「あ……………」


よし、幾分落ち着いた。


って目を開いたら女の子の瞳から夥しい量の涙が溢れているーーー!!!


あぁ…終わった。


何かが盛大な音を立てて崩壊していくようだ…。


完全に終了だ…。


人生の幕が下りた。

異国の少女相手にしでかしたボク…畜生!何が駄目だったんだ!

頭を撫でたことか!

それだ…。

畜生………明日からボクは冷めた飯を檻の中で食べる生活が始まるのか…。

おのれ異国の女の子!Shit…Holy shit!!


「Holy shit…」

「っ!?ほ………ホリシッ!ホリシッ!」


な、なんだなんだ?今度はいきなり女の子が喜び始めたぞ?

何か喜ばれる要素があったか?いや無いはずだ。

分からん!もう何も分からん!

ただでさえさっき人の心が読めないと言う現実に打ちのめされたばかりだと言うのに、女の子の心なんて、しかも異国の人の心なんて微塵も分かるわけ無いじゃないかっ!


ゴソゴソーーー


次は何だ?

何やらショルダーバッグを漁り始めたぞ?

それは紙か?地図みたいだな…。

これをボクに見ろってこと?

どれどれ?

ん~、このバツ印のところに行きたいのか?

これは………ここからだと正反対の場所だな。

てかボクの家の近くか?ちょっと汚れてて見難いな。

これは文字か?

ん~と、ミ…タサ……セっと読めんな。


とにかくこの子にこのことを伝えないといけない訳なんですが、英語で話せばいいのか?

ボクのつたない英語なんかで伝わるとは思えない。

と言うよりも本場の外人相手に英語で会話なんてしたことないし、日本人相手ですらまともに話せないのに会話が成り立つとは全く持って思えません。

そうなると消去法で残るのはボディーランゲージなんですよね…。


うん、無難に伝えよう。


とりあえずバツ印に指をさしてからボクの家の方角に指を向ける。

始めこそ首を傾げていたけど、何度か同じ事を繰り返していたら何か考えるような仕草をした後、何かを理解して花が咲いたかのように笑顔になるとボクにお辞儀をして走って行った。


2、3回こちらに振り返り頭をペコペコさせている姿は少しばかり可愛いと思った。


何はともあれ。


「助かった」


この一言に尽きる。

誰かに見られていたかもしれないと考えるとそれだけで血の気が引くよ。


女の子を撫で続けた挙句に泣かれて、その後走り去る女の子。

改めてまとめてみるとやばすぎるな。

犯罪者予備軍どころの騒ぎじゃないなこれ。

犯罪者正規軍特攻部隊レベルだ…。


はぁ…今回のことは完全に心臓に悪いよ。


早いところ商店街に戻って菫を見つてけ部活動に励もう…。




戻ってきました商店街。

さて、菫は一体どこに居るんでしょうかね。

まったく想像できません。

予想では、菫曰く『光がいっぱい』な所に居るんでしょうね。

ボクにはその光がどこにあるのかが分からないから、とりあえず………はぐれた場所に向かいます。


そう言えば、菫は他の生徒から浮いてると聞きます。

何を考えているか分からないとか、会話が成り立たないとか、感情が読み取りにくいとか。


でもボクは思うんですよ。

何を考えているか分からないのは誰だって同じだし、口下手なボクなんかも中々会話が成立しないし、感情が表に出ない人なんかたくさん居るわけだし。

そう考えたら別段菫は浮いているようには思えないんですよね。

ここで菫が浮いているとボクが肯定してしまうと、それらに見事当てはまるボクも皆から浮いているっていうことを自ら肯定してしまう事が容認できないと言う気持ちも少なからずありますが…。

それでもそれとは関係なく、ボク個人から見た菫は普通の女の子だと思います。


集団意識って言うか、誰かが菫に対して浮いていると言うイメージを付けてしまったせいで皆がそれを誤認識してしまっているって感じがします。

菫がよく口にする『光がたくさん』とか言う台詞も、意味が分からないと切り捨てられてしまってますが、深く考える必要なんて無いと思うんですよね。

だってそれって『暖かい所が好き』だとか『涼しい所が好き』と言った感じの意味なんじゃないのかな?

ボクはそう考えているけども。

それと同じで菫からすれば『光がたくさんある所が好き』ってくらいの簡単な話なんだと思います。


その『光』が何を指す意味の言葉なのかはボクと菫では認識の違いがあるかも知れないけど。

ただ菫は皆と物の見方や捉え方が多少違うだけであって、それが浮いていると言うことに繋がるとは思えないんだよね。


「連太郎………見つけた」


あ、探していた相手に見つけられてしまいました。

放課後と言うこともあって商店街には結構な人たちで溢れているのによく見つけられたな…。

菫に声をかけられる直前まで全く気が付かなかったよ…。

これでも爺ちゃんに稽古付けられてから人の気配にを少しは感じられるようになったと思ったのに…。

まぁ真剣に気配を探らないとって言葉が前に付きますがね…。


「光が………導いてくれた」


おぉ!何て便利な!

ボクにもその光を見れる力があれば迷子になんてならないのに。

それより何でか分からないけど少しはにかんでいるように見えた菫が可愛いです…。


「連太郎が………私を見つけてくれた」


うん?

あれ?ボクが見つけてもらったのに、どう言う事なんでしょうか?


う~ん、おそらく菫はボクとはぐれた場所でずっと待っていて、戻ってきたボクが自分を見つけてくれたと勘違いをしているのでしょう。

違うんですよ菫さん。ボクは完全にあなたを見失っていましたー。

むしろ異国の女の子と会ってからは自分すらも見失っていましたから…。


「ありがとう………連太郎」


勘違いはとけないみたいですね…。

まぁいいか。

当初の目的は果たせたわけですし、今度は見失わなければ良いんですからね。


「あぁ………気にするな。それに」


「………?」


「もう…見失わない」


「………………………」


コクリーーー


うなずいた菫を視界に収めた後、すぐに振り返ってしまったボクは、この時。


菫の頬に一筋の涙が流れていたことも。


その涙が意味することも。


まだ、分からなかった。




あの後は二人で商店街を見て回りましたが、やっぱり大したゴミは見つけられず、集合場所に戻ってみると茉莉花と部長がまたまた言い合いをしていました。

なんでも部長が汚したゴミ捨て場を掃除する羽目になったのが茉莉花と大小町ペアだったみたいで、そのことが納得いかなかったみたい。

まぁ確かに納得いかないよね…それに関しては。

その場は何とか蓮華先輩が治めてくれたから大丈夫だったんだけど、機嫌を損ねた茉莉花が大小町を連れてそのまま帰宅。

これは皆でソフトクリームを食べる雰囲気でも無くなってしまったので、本日の部活はここで解散と言う形になりました。

ボク的には財布へのダメージが無くなったので少し安心しましたが、それでもやっぱり皆で放課後に何かをするという学生っぽいことを経験したかったですね。


そして帰り道。


ボクは登校も下校も基本的に一人です。

もちろん友達がいないと言う理由だからではありませんよ?

そう!ほとんどの人たちが町外から通っているので、駅とは反対側にあるボクが行けないのが理由なんですよ。

うん。


でもこの下校と言うのはボクにとって結構大切な時間なんですよ。

今日の出来事を思い出しながら帰ったり、もう少し活動的にしておけばよかったかなとか色々反省したりするのに丁度いい時間なんです。

季節によって、春は田圃道(たんぼみち)に等間隔で植えられている桜が綺麗に咲きますし、夏は田舎ならではの雰囲気が味わえますし、秋は黄金色に染まった稲穂の揺らめきを独り占めできますし、冬は雪の積もった山々が光を反射して白銀の世界が見えたりします。

本当に(ひが)みとかではなくて、ボクは一人でいる時間が好きなんです。

もちろん部活や数少ないクラスメイト達と話したりするのも好きです。

でもやっぱり性分なのか、一人の時間を大切にしていることが多いと思います。


毎度毎度同じことばかり考えているような気もしますが、中々に解決するのが難しい問題なので仕方が無いんです…。

そうして考えながら帰るともう自宅ですね。


さてと、本日の夕飯はどうしますかね。

昼に食べた筑前煮はやっぱり白米を侵食していて最高の出来上がりになっていました。

ただあまりの美味しさにニヤケ顔を公衆の面前に晒していなかったかが心配です。


ん…あれ?


鍵が開いてる…爺ちゃんかな?

と言うことはドアを開けたら第一声が「連太郎!稽古じゃ稽古!」だな。

これもいつもと変わらない日常のワンシーンってやつですね。

でも最近はあんまりこう言ったことが無かったよな。

ボクが爺ちゃんに勝てるようになってからは顔を赤くして何度も試合をされたっけ…。

ボクに負けたことが悔しかったみたいだったけど、年を重ねるごとに爺ちゃんはボクに勝てなくなっていって。


でもね爺ちゃん、ボクが強くなったんじゃないよ?

そりゃ少しは強くなっているんだろうけどね。

だけど一番の理由としては、やっぱり。


爺ちゃんが歳取りすぎたからだよ!


年寄りに勝って喜ぶほどボクは鬼畜じゃないよ!

老人を痛めつけて見下しているボク。

最低な構図だよ!

だから素直に喜べないんだよ。

爺ちゃんはもっと自信を持てって言ってくれるけど、やっぱりボクにはできないです…。

門下生でも未だ爺ちゃんに勝てるどころか攻撃すらまともに当てられていないって婆ちゃんは言ってたけど、それは遠慮してるからでしょう…。

みんな優しい人たちだし。

そう考えると、そんな爺ちゃんに対して遠慮なしに攻撃をして負かしているボクは十分鬼畜だ…。

もしかして、爺ちゃんを負かした後の皆の何とも言えない目線って『うわ、こいつ遠慮無しに老人を痛めつけてるよ』とか『俺たちなんか遠慮してワザと攻撃外しているって言うのに』的な意味を孕んだ目線だったのか!?


もう爺ちゃんと稽古するのは止めよう…。

主にボクの精神的安寧のために。


でもまぁ、今日は門下生の人たちが居る訳でもないから真面目に稽古したいな。


そう、


昔からやっているように。


これからもやっていくように。


変わらない、何も変わらない、いつもの日常を送るように。


帰ろう、いつもの日常に…



ガチャーーーーー


「ただい………」


「お帰りなさいませ!ご主人様!」


そう、褐色肌の健康的な姿でボクを出迎えてくれるメイドさん。

その容姿は幼いながらも整っており、体つき、顔つき、どちらも申し分の無いくらい彼女を引き立てている。

と言うのも、彼女はどう見積もっても小学生にしか見えないのだ。

だが、そんな彼女の発育は、とてもけしからん事に良好だ。

この容姿にしては少し大きいくらいの育ち具合で、決して外見の美しさを阻害することは無い。

何の育ちに関して話しているのかは、分かるでしょ?

その鮮やかなシグナルレッドの髪とは対照的に儚いシュネー色の瞳が彼女の存在と言うものに不協和音を奏でさせ、見る者に彼女と言う存在の実態を掴めさせない違和感を抱かせるのだ。

この子はどこの出身なのか、どんな性格なのか、何がしたいのか、何でここに居るのか。

全ての人たちが疑問の渦に飲み込まれる。

そこに一切の例外は無い。

彼女に取ってご主人様であるボクでさえ。


つまりどういうことかと言いますと。




「……………誰?」


「えと、あのあの、わたち!三ノ瀬・ツルバラです」


「………ワタチ・三ノ瀬・ツルバラ?」


「ホリシッ!違うです!三ノ瀬ツルバラです!」


三ノ瀬ツルバラ?三ノ瀬って事はボクの親戚の子供だったのか?

初めて見たけど。はて、どういうことなんだ?

この子をウチで預かるって事なのかな?

でもボクはそんな話聞いてないし、親戚にこんな子が居るなんて知らなかったわけだし。


「わ、ワタチは!」


「?」


「ワタチは!い、い、妹です!連太郎お兄ちゃん!」


「…………………………………」




この物語は、もはや背景と言っても良いほど存在感の無いボクが、クラスの主人公キャラである伊達雅也君を取り巻く女の子たちの青春ラブコメを綴るだけの虚しいお話です。

ボクには特記するものが無いわけで、可愛い幼馴染の女の子が居たりだとか、妙な悪友が居たりとか、金髪ツインテールのツンデレっ娘やら義理の妹や姉やらが居ないはずだったんです。


だが!


ここに!


初めて会う自称妹が現れました!!



認めたくない。認めたくは有りません。

ですがそうも言っていられない状況になりましたなってしまいました!


本日はいつものように平穏な一日を送れたことと思います。

明日もきっといつもと同じ日々が送れると、玄関を開ける直前まで信じておりました。


ですが、現実は非情なもので、ボクの願いなんて嘲笑うかのように壊していきます。


ならばせめて、ここはこの現実を享受してやるために言わせていただきます。




「ボクの日常が崩壊しました」



さて、ついに連太郎の日常が崩壊してしまいました。

この後さらに崩壊していきます。

タグに異世界と書いてあるのも伏線なので、どうか物語の広がり具合に引かないで、最後まで付いて来て頂けたら幸いです。

もちろん最後まで読者の皆様に楽しく読んでいただけるように、飽きさせないような物語を書いていく気持ちですので、どうかよろしくお願いしまさぁ!

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