ボクの日常が崩壊していきます~上~
お待たせ致しました!
これより物語が展開を始めていきます!
~下~の方も鋭意執筆中でございますので、しばしお待ち下さい。
それではどうぞ!
とりあえずあれからアメちゃん騒動?は治まり、本日の活動内容が報告されるところなんだけど、蕾の奴はグラウンドで走っていたのでそのまま放置する方向になった。
毎度って訳ではないけど、間々あることなのでみんなも慣れたもんだ。
「ってことだ!聞いてたか連太郎!」
やば…何にも聞いてなかった。
今日は何をするんだ!いかん、ボーっと考えすぎた!
流石にこのままじゃいけないので聞くしかないか…。
「………すまない、聞いてなかった」
「うむ、何も言ってないからな!」
「え………は?」
「何も言ってないんだから当たり前だな!まったく、何かアドリブでもかましてくれると思ったのにつまらん奴だ!」
え……………ボクでも怒っていいよね?悪くないよね?
「う………、そ、そんなに睨むなよぅ………謝るからさぁ」
グッ、おのれ部長、涙目の上目使いは反則だろう…怒気が沈んでいく!
「別に………気にしていない」
「だよね!こんな事で連太郎は怒らないよね!だったらいちいち睨むな紛らわしい!」
身体の奥底へ沈んだはずの怒気が溢れていくっ!こいつめ…許すまじ!
「ほらほら。部長も連太郎くんで遊ばないで活動内容の発表をしてください」
命拾いしたな部長!蓮華先輩がいなかったらそのツインテールがポニーになるところでしたよ!
まったく…抑え役の蓮華先輩がいないと話すら進まないとは、これ如何に?
ボクがもっと上手く口に出来ればいいんだけど、なかなか口下手は治りませんで…。
「うむ!では本日の活動を報告する!」
兎にも角にも話が始まりますね。
部長はいつもすんなり話を進めないんだよね。
何かしらアクションを入れたがるし、部員達…主にボクだけど、からかってる節があるし…。
突拍子がないって言うか、破天荒と言うか。
今日の活動はどうなるのか、部室に入る前にワクワクとかよりも覚悟を決めて入室しないと身が持たないです。
「本日の活動内容は、町のご奉仕だ!」
町の…ご奉仕?なんだそれは!今までやったことの無い内容だな。
一体どんな理由でこの活動をするんだろう?
「ごほーしって、何やるんですかぁ?」
「うむ!普段ウチ達が生活を送る中で、ウチ達は町にお世話になっている。そこでだ!そんな町に対して感謝の意味を込めてウチ達が恩を返すのだ!」
「あの部長、要するに私達はなにをするのでしょう?」
「うむ!ウチ達が町に対して出来ることなど高が知れている!しかし!大事なことは『何をするか』なのではなく!『何を思うか』なのだ!」
皆『……………』
「与えられた仕事をただ行うだけでは意味が無いのだ!町に対して感謝を込め、恩を返し、崇高な思いで仕事に取り組むことこそに意味があるのだ!そうで無ければ町に礼をすることすら出来ないのだから!ウチ達が何も考えずのうのうと生きて、町のことなんて考えていなくても!町はいつでもウチ達のことを見守ってくれているのだから…」
な、な、な、なんて素晴らしい考えなんだ!ボクは大切なことを忘れていた!
自分のことばかりで、町のことなんて微塵も考えていなかった…。
何て愚かしいことをしていたんだボクは…。
自分が情けない!こんなことが無ければボクはずっとこんな大切なことを頭に浮かべないまま過ごしていただろうな…。
それを…部長は気付かせてくれた!
突拍子がないとか破天荒だとか言ってた自分が恥ずかしい!
いつも適当なことを言ってボク達を振り回してばかりだったけど、やっぱりあなたは部長………何ですね。
ありがとう部長!あなたのおかげでボクは町に対して恩を返すことが出来ます!
「つまり………蓮華先輩どういうことなんですか?」
「簡単に言えば町のゴミ取りね」
「え?なんで茉莉花たちがそんなことしなくちゃいけないんですか!?」
「今朝部長がゴミ捨て場のカラスと喧嘩をしてね、ゴミを撒き散らしたままにしちゃって、それを町長に見られちゃってね」
「それでは…私達は部長の尻拭いでそのゴミ捨て場を掃除しに行くんですか?」
「それもそうなんだけど、実は今回が初めてじゃなくってね?町長さんがその…カンカンに怒っちゃってて、商店街の掃除もお願いされちゃったの」
「まったくあのタヌキ親父には困ったもんだ。ウチがカラスを退治していなかったらもっとひどい事になっていたと言うのにこの仕打ちだ!」
「部長?確かにカラスがゴミを漁っていましたけど、あれだけ広範囲にゴミを撒き散らしたのは部長が破けたゴミ袋を『遠心力から放たれる弾幕を貴様にかわせるかー!』って言いながら振り回したからですよ?」
「うっ………」
「その浅はかな行いのせいで部員の皆に迷惑がかかっている事を努々(ゆめゆめ)お忘れ無きよう…」
「うぅ………ごめんなさいでした」
「茉莉花達まったく関係ないじゃないですか!なにやってんのよ馬鹿ロリ!」
「すみませんでした…」
「はぁ…。部長、次からは気をつけてくださいね」
「肝に銘じます…」
「やれやれ、部長には困ったものだね」
「重ねて申し訳ないです…」
「……………」
「菫ぇ~せめて何か言ってくれよぉ~。無言が一番辛いんだよぅ…グスン」
「……………部長、自重する」
「あい………。連太郎はこんな事じゃ怒らないよね?」
「………色々返せ」
「色々ってなんだ!?何を返すんだ!?何を返せばいいんだぁーーー!」
感動とか尊敬とか色々だよ!
ほんと、自分が恥ずかしい!
「とにかく行きましょうか」
「はぁ…もう、こんなの早く終わらせて帰ろ小百合」
「そうね、早く終わらせちゃいましょう」
「まぁたまにはこのような事があってもいいか」
「ん………」
「う、ウチを置いていくなよ~!」
はぁ。ほんとに忙しい部活だよ…。
でもまぁ、その代わりに飽きないんだよね。
この派遣部は。
「レンせんぱーい!早く行きましょ!なんなら茉莉花と手繋ぎながら行きます?」
「こら茉莉花!そうやって連先輩を困らせないの!」
「青春だな…。さあ連太郎君、行こうじゃないか」
「こら連太郎!サボりは認めないぞ!ウチだってサボりたいのに!」
「部長?」
「ひぃ!じょ、冗談だぞ蓮華!あんまり睨むなよぅ」
確かにちょっと変な人が多いけど、ボクにとってそれは関係ない。
普段の生活に刺激もなく、友達がほとんどいないボクにとって、ここは居心地がいいんだ。
教室にいても浮いているし、帰宅したところで迎えてくれる家族はいない。死んではいませんが。
こんな不器用なボクでも受け入れてくれる。
ここにいるのはそんな…大切な部員なんだから。
「あぁ…。今、行く」
学校の裏門を抜けて緩やかな坂道を降るとこの町に昔からある場所のひとつ、『山道商店街』があります。今ではもう山道と呼ばれるような場所ではありませんけど、この町がまだ村だった頃に山道市と言うものが開かれていて、都や田舎へ向かう人々に山で取れた山菜や果物、狩りで取られた猪や鹿、稀に熊などが市で並べられて当時は結構な賑わいだったみたいです。
その山道市があった場所がちょうどここだったみたいなので、ここが山道だった頃の名残で山道商店街って名前になったらしいです。
風流ですね~。
「それにしてもこの商店街は変な名前だな!なんだ山道って、意味が分からん!いっそ改名してしまえばいいのにな!」
「………………」
「ん、なんだ連太郎?その、感動をぶち壊しやがって!みたいな顔は」
まさにその通りですよっ!!
部長はどうやら前世か何かでボクの宿敵だったに違いない!
部長が蛇でボクが蛙とか、部長が熊でボクが鮭とか!
………あれ、一方的じゃね?
「部長はこの町の歴史だとか由来に興味ありませんよね」
「歴史や由来が何になるって言うんだ?過去を振り返っても何の意味もないぞ?」
「そうかもしれませんが…知っていると、色々思うこともありますよ?」
「ふ~ん、そんなもんか」
そう言った部長はどこか虚ろな表情で、商店街を見つめていた。
その顔はどこか儚げで、寂しそうで、悲しい表情をしていた気がする。
なにか部長にとって思うところがあるのだろうか、そんな雰囲気を出していた。
切なげで、声を掛けずにはいられない…そんな顔を。
「………部長?」
「ウチ……………あそこのソフトクリームが食べたい」
そんな返答を貰ったボクは、たぶん虚ろで儚げで寂しそうで悲しい表情をしていたと思う。
ボクは人の表情から心情を読み取る能力も欠けているらしいです…。
誰か、こんなボクに声を掛けておくれ。
「部長…?」
「わ、分かってる!早く片付けに行こう!」
「小百合、片付いたらソフトクリーム食べに行こっ!」
「まったく、買い食いは禁止されてるでしょ?」
「そんなの誰も守ってないよ。じゃあ茉莉花だけ食べに行こ~と」
「だ、誰も行かないとは言ってないでしょ!?」
「素直じゃないんだから~。菫先輩もどうです?」
「……………ん」
「私も一緒していいかしら?」
「もちろん蓮華先輩も大歓迎ですよ!そうしたら皆で行きましょ!」
「ふむ。私はあまり甘いものは食べないんだが」
「これも付き合いよ鉢之助君。行きましょ?」
「ふむ…。たまには甘味も悪くない…か」
「本間先輩も決定!」
「ウチも行くウチも行く!」
「え~、こんなことになったのも部長のせいなのにですか?」
「うぅ…ごめんちゃい」
「どうしよっかな~」
「もうしないから許してよぉ~お願いだよぉ~」
「茉莉花、あんまり部長をいじめないの」
「はいはい、分かりました。部長も参加ですね」
「うむ!ありがとうジャ………茉莉花!」
「部長…今言いかけましたね?」
「ちが!違うぞ!そんなことはない!断じてだ!」
「はぁ~。もういいですから。とっとと片付けに行きましょ」
「うむ!皆のもの!ウチに続けー!!」
誰か声を………あれ、ボクは聞かれもしないと言う落ち?
いや、いいんだいいんだ!
ボクもあんまり甘いものとか好きじゃないし?団体行動が羨ましいとか思ってないし?
「あ、もちろんレン先輩は決定事項なので帰らないで下さいね?」
「………あぁ」
とか冷静に言っちゃってますが、本音は違いますよ?
うひょー!甘いもの大好物です!団体行動最高!!ありがとう!
てなもんですよ!
ボクは決定事項なんですって!いやー嬉しいですねー。
もはや聞くまでもない、みなまで言うな…てことですね!
いい後輩を持ってよかったと思う瞬間ですね。
だけどまてよ、こう言ったことはよくあるんですが、ほぼ確実にボクは決定されてるんですよね。
それって裏を返せば僕には選択の余地も与えられていないと言うことなんじゃ………。
まさかね!そんなことありませんよね。
ないですよ。
あるわけないじゃないですか!ははは!
ははは………。
そうだよね、皆!?ってもう先に行っちゃってるし!置いていかないで!
もう色々と気にしないって決めたんだ。ボクは強い子になる!
おや、なんか皆立ち止まってうちの学生の誰かと話してるな?
またもや部長が何かしでかしたんでしょうか、とにかくボクも追いつかねば、こういう時はダッシュだ!
見せてあげよう…日課のランニングで鍛えた脚力を!
と、その前に靴紐の確認を…。
いつだった老人を暴走トラックから救出したときに靴紐を踏みつけてしまって転びそうになったからな。
そのせいで左手をトラックにぶつけて包帯を巻く羽目になってしまいまして、そのまま登校したらいろんな人の注目を集めて恥ずかしかったな。
それであれ以来ボクは靴紐と背後はちゃんと確認するようになったのさ!
ちなみに背後とは、あの出来事以降なぜかボクが日課のランニングをしていると、ボクを追いかけてくるなぞの人物がいて大変なんですよ。
急に加速して来たりするし…。
つかまったら一体何をされるのか…うぅ、考えただけでも恐ろしい。
おそらく女性なんだって言うのはかろうじて確認できたけど、かなり足が速いから振り返る余裕がないんですよ…。
ボクがいつ何をしたって言うんでしょうか。
その女性はきっと勘違いをしているに決まってます!女性となんて部活の皆以外ではほとんど話さないし、恨みを買う余地なんてまるでないんですから!
むしろ恨みを買うことを覚悟してでも女性と会話したいですよ!
くそう…なんでボクばっかりがこんな目に会うんだ!
よし、絶対に逃げ切って見せますよ!つかまって堪るもんですか!
さて、こんなこと考えながらいたら結局歩いてみんなの所に向かったわけなんですが、どうやら生徒会役員達となにやら揉めているみたいですね。
む?あれは!?麟堂さん!部長なにやったんですか早く謝って許してもらいましょうよ!
何をしたかは分かりませんが、部長が悪いに決まっています!
え?部長の味方をしないのかって?
ははは、するわけ無いじゃないですか!
大切な部員じゃないのかって?
時と場合によりますね!
残念ながら今回は麟堂さんの味方です。
というか麟堂さんが絡んだら基本的にボクは麟堂さんの味方です!
恋は盲目…いい言葉ですね。
「だからウチ達も町の掃除に来てるんだっていってるだろう!」
「ですから、我々はそんな話は伺っていないと仰ってるではないですか」
「朝急に決まったんだ!たぶん生徒会に話がいかなかったんだろう。人数が増えるんだ、別にいいじゃないか生徒会長」
「生徒会長ではありません。今はまだ立候補者です。とにかく我々の予定もありますので、勝手に行動をされると困るのです」
「ムムム~。そう言うことだったら仕方が無いな!生徒会に任せようではないか!」
「部長?そんなことしたらまた町長に怒られますよ?」
「そうだった~!あのタヌキ親父め…死してなおウチを苦しめるか」
「死んでませんよ部長」
「と言うことでウチ達は町長直々に命を受けているのだ!分かったのならばどけいっ!」
「勅命を受けた二流武士みたいな発言だな、感慨深い」
「何言ってるんですか本間先輩、ただでさえ派遣部は生徒会から敵視されてるのにまずいんじゃないんですか?」
「はぁ…神野先輩、部長さんの仰っていることは本当なんですか?」
「ええ、本当よ」
「なんでウチじゃなくて蓮華に聞くんだよー!さっきからそう言っているだろう!」
「すいません。なんと言いますか、信頼が出来なかったもので…」
「うわーーーん!ひどいや!ウチ…ウチ…連太郎!お前からも何か言ってやれ!」
ここでボクですか!?えっと、何を言えばいいんだ?部長を擁護すればいいのか?
しかし麟堂さんの言ってることはもっともだし、できればボクも麟堂さんに賛同したいところだけど。
うぅ、困った。流石に部長が可哀想だし…何か無いか、いい言葉は。
そ、そうだ!無難に言えば万事解決だ、誰も傷つかない、誰も困らない、そんな言葉を!
まったく浮かびませんがね!
と言うかやっぱり部長の普段の行いが目立っちゃってるからこんな事になってしまうんだろうな…こうなったら部長が大人しくして、部長から生徒会に歩み寄る…のは無理だ。
ならば生徒会から部長に歩み寄るのは………無理か。
これって…
「双方、歩み………寄れないか」
どうにもならないじゃないですか…。
どちらかが折れれば違って来るんだろうけど部長は頑固だし、生徒会も学校側や生徒たちへの体面があるから折れないだろうし…。
くそう…八方塞か?何がいけないんだ?部長か?部長なのか?
そうだな。部長だ。
いやいやいや、それでは解決にはならない!問題の重さに現実逃避をするところだった。
派遣部と生徒会に柵さえなければ!
「柵か………」
「!?っあ、あなたはやはり」
ん?なんだか知らないけど麟堂さんにめっちゃ見られている!て言うか睨まれてません!?
なんだ?ボクは一体何を言ったんだ?怒らせるようなこと言ったか?
いや、言ってないはずだ。
落ち着け、落ち着くんだ!そう言えば麟堂さんに睨まれるのはこれで二度目だな。
一度目は確か…そう、トラック事件の日に登校したときだ。
結構血が出てたけど帰って洗ってみたら小さな切り傷だけだったんだよね。
むしろその後に弁当作ってたら軽く火傷しちゃって、そっちのほうが痛かったんだよ。
しょうがないから火傷のついでに切り傷にも絆創膏貼ろうと思ったんだけど、絆創膏が無くて包帯巻いて済ませたんだよね。
派手になっちゃったけど仕方なくてさ。
いつにも増してみんなに凝視されたけど、気にせず教室でじっとしてたらいきなり麟堂さんが教室に入ってきて
『あ、あなた…その傷は、朝のトラックで?』
って言ってきてさ、あの時の醜態を見られたのかって思ってかなり焦ったよ。
おじいさんは助かったみたいだけど、助けようとおじいさんに飛び掛る寸前で靴紐踏みつけて巻き込んだ形になっちゃったからダサいのなんのって…。
そういえばもう一人女の人がいたけど、その人にも醜態を見られたんだよな…。
はぁ。顔も見てないけど、さぞ滑稽に見られたんだろうな…。
でもそんな事は気にしないで素直にボクの心配をしてくれて嬉しかったから、麟堂さんに心配をかけないように
『いや………ただの火傷だ』
って誤魔化したんですよ。
ナイス機転でしょ?この時は自分を褒めてあげたいくらいでしたよ。
実際火傷のほうが痛かったし。
そしたら麟堂さんも謝って戻って行ったしね。
なんで謝られたのか今でも分からないけど。
「確か、三ノ瀬連太郎さん…だったかしら?」
おぉ!ボクの名前知っていたんですね!
脇役なんかの名前まで覚えていてくれるとは…流石は麟堂さん!
きっと生徒一人一人の名前を覚えているに違いない!
あなたこそが次期生徒会長に相応しい!ってボクだけ盛り上がって麟堂さんを待たせてはいけない!
「あぁ………そうだが、何か?」
口下手な自分が恨めしい!もっとこう上手く話したいのに、こんなふてぶてしい態度なんか取ったら更に嫌われてしまう!
よし、長い言葉を言おうとするから上手く発言できないんだ。
余計なことを言わないように端的に言えば大丈夫なはず!
「連太郎さん…と、お呼びしても?」
「構わない」
うひょーーー連太郎さんだって!連太郎さんだって!
「そう…。私のことも時雨と呼んで構いません」
「あぁ」
むひょーーー時雨さんだって!時雨さんと呼ぶ許可頂きましたー!
「連太郎さんは、何かスポーツなどは嗜んでいらっしゃいますか?」
「祖父の道場で武術は一通り」
「そうですか。素敵なことですわね」
くはーーーーこんな間近で麟堂さんの笑みを拝めるなんて!
「今でも武術はしているんですか?」
「いや………今は日課の走り込み位だ」
「ッ!?そ、そうですか…大変ですわね」
少し驚いたような表情も可憐だ!時折入るボクの心の声が全てを台無しにしている感が否めないが、今はそれも捨て置こう!
だってこんなに他人に褒められたこと無いんだもん!それが麟堂さんだって言うならテンションも有頂天になりますよ!
ついにボクも脚光を浴びる時が来ましたよ!
「大変だと思ったことなど………一度も無い」
「え?」
決め台詞だ!ここでバシッと決め台詞を言えれば少しは麟堂さんとお近付きになれる………はず!
来い天啓!ボクを導いてくれ!
思い浮かべろ!粋な台詞を!
……………ま、ま、ま
まったく浮かばねーーー!
そりゃそうだ!今までこんなシチュエーションに遭遇したことなんて無い上に、
ただでさえ口下手なボクが小粋な言葉なんぞ言えるわけないよ!
動機が不純だからか!邪な考えを抱いたからいけないのか!
いいじゃないか気になる相手とお近付きになりたいと思うくらい!
くそう…天に願ったのが既に間違いだったんだ。
こうなったら、ここは誰かの言葉を拝借するに限る!
誰の言葉で行くか!誰の言葉が良いのか!
誰の………誰か………誰が………
あぁーーー
ボクにはそんな誰かがいないんだった………。
ごめん爺ちゃん…、爺ちゃんから貰った言葉しかボクを支える物が無かったよ。
こんな事に使うことを許してください。
だけどこの言葉はきっとボクを助けてくれる!
今までだってこの言葉のおかげで来れたんだ!
「継続は才能なり………これが俺の全てだからだ」
そうだ、これがボクの全て。
特に才能が無いボクを支えてくれる全て。
今までのボクを培ってくれた言葉。
これからのボクを構成していくだろう言葉。
笑われたっていい。
馬鹿にされたって構わない。
だけど、否定されるような生き方はしていないはずだ。
「ぁ、あ…あ、え、あ」
麟堂さんはどうやら言葉にできない様子だけど、それが馬鹿らしく感じたからなのか、感銘を受けたからなのかは分からない。
でもボクは初めて相手に対して思った言葉をそのまま伝えることが出来た。
後悔なんてない。
むしろ満足だ。
さっきまでは色々思ったりもしたけど、もうどうでもいい。
馬鹿にされようが褒められようが関係ない。
言いたいことも伝えられたし、僕は踵を返して麟堂さんに背を向けた。
去り際に見た麟堂さんは顔を伏せて少し震えていた。
なぜかは分からないけど、麟堂さんの頬は少し染まっていて、涙が伝っていたような気がする。
なぜかは分からないけど、その口元は、わずかに微笑みを携えている様だった。
そして
そのとき、微かにだけど麟堂さんの囁きが聞こえた。
「やっと……………やっと見つけました」
おそらくボクが見間違えたんだろう。
その後、麟堂さん達生徒会一行は商店街の清掃をボク達派遣部に任せ、別の場所へ向かっていった。
そして麟堂さんがボクに言ったこの言葉。
『では連太郎さん……………また』
この言葉にどんな意味があるのか。
この言葉にどんな思いが込められているのか。
ボクには分からなかった。
でもこの時。
ボクは確かに何かが終わりを告げるような気がして。
また同時に。
何かが始まりを告げるような気がしてならなかった。
長いと言いつつ台詞が多いので結構短かったですね…すいません。
次回は~下~をお送りいたします。
早くも新キャラ登場なので楽しみにしていて下せぇ!