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決してボクは主人公ではありません  作者: 御劔凜
第一章~ボクの日常~
5/11

変わっていこう

まずは皆様にお詫びを。

連太郎以外は主観ではありませんと言いましたが、どうしてもこの話は主観でお話を展開させていきたかったので、主観になってしまいました。

すいません…。

今後もこう言ったことがあるやも知れませんので、どうかご了承くだせぇ…。


今回はこりす目線です。



皆さんは自分自身のことを信じていますか?

何が出来て、何が出来ないのか。

何処からが限界で、何処までが限界なのか。

誰にでも可能性があって、失敗をバネにして成功を収めたり。

私の場合は失敗続きなのでなかなか成功しませんけどね。


中学の頃から自分は他のみんなより色々なことで遅れていることを知りました。

勉強にしても、運動にしても。

他の人たちの何倍も頑張らないと付いて行けませんでした。

人付き合いも同じでした。

会話のテンポに追いつけなくて、自分の意見を伝えるなんて出来ませんでした。

気が付けばみんなの話に相槌だけを打つようになって、長いものに巻かれるような人になってしまっていました。

そんな自分が嫌いで、変えたくて、だけど変われなくて。

変わらないまま中学時代を過ごしていました。


2年生になって進学を考える時期が近づいてきて、周りの雰囲気も少しずつ受験ムードに染まっていました。

その頃の私は高校なんて無理せずにいけるところであればどこでもいいかな、何て考えていました。

みんなも近場にするとか簡単に行けるところとか話していました。


そんな時でした。


友達の会話の中で聞こえてきたこんな話。


「やっぱり近場で簡単な高校がいいよね」

「だよねぇー。わざわざ遠い高校うけても意味ないしね」

「難しい高校なんて入りたくないしね」

「て言うかいまさら入れないしね」

「確かにね。今の自分を変えでもしないと無理だよね」

「あたし達じゃ今さら変わっても無理だけどね!」



なんてことの無い些細な会話でした。

だけどその時の私にとって見ればそれは、これからの事を大きく左右するくらいに大切な言葉でした。



自分を………変える。


もうほとんど諦めていた大切なこと。

その場の流れに身を任せていた私を止める言葉。

先延ばしにして、後回しにして、眼を逸らし続けていた現実。


自分を変える。


私に…出来るかな?


それまで逃げてきたことを、どうにか出来るのだろうか?

そう思うと自然に弱腰になってしまう。


でも


違う…こんなんじゃ駄目だ!

こんな考えじゃ今までと変わらない。

変えるんだ。


こんな自分を。


自分を好きになれるような人間になるために!



それから私は本当に人が変わったかのように勉強に取り組んだ。

周りに合わせるだけの弱い自分を捨て去るためには、中途半端な気持ちじゃ駄目なんだって言い聞かせて、偏差値の高い高校を探した。

家から通える距離じゃないといけないのが問題だったけど、変わろうと決めた私にとって最高の高校を見つけました。



私立田園宿木高校



長い歴史を持ち、勉学だけに収まらず部活動でも名を馳せている超難関高校。

進学高校の中でも飛びぬけているみたいで、はっきり言って入学不可能とまで言われている高校。


それからの私には最高の条件が整った高校。


それまでの私には最悪の条件が揃った高校。


当然のように先生や親にも止められました。

だけど、諦める積もりなんて少しもありませんでした。


変わりたくて、自分を好きになりたくて。



そして



合格通知が届いたその日


私は自分が好きになれました。


家族や友達もとても驚いていたし、すごく喜んでくれました。

私の通っていた中学からは始めての合格者だって朝礼の時に校長先生が全校生徒の前で言ったときは本当に恥ずかしかったです。


そして中学を卒業して、胸を張って高校入学を果たしました。



でも本当に大変だったのはそれからでした。


授業は大変で、部活には必ず入部しなければいけないし、家に帰ってその日の復習と予習をしたらクタクタになってしまってすぐに就寝。


そんな余裕のない日々が続いていました。


でも、仲の良い友達もできたし、自分から話しかけることも言いたいことも少しは言えるようになっていました。

そして、恥ずかしいですけど…気になる男子生徒も出来ました。

クラスは違うので、名前も分かりませんでしたが、すぐに惹かれてしまいました。


この高校は有名な進学校なので、真面目な生徒がたくさん居ます。

中にはスポーツ推薦などで入学した生徒も居るので一概には言い切れませんが、

それでも欠席などは特別な理由が無い限りありませんでした。


私も予鈴のだいぶ前には席に着いて予習をしたり、窓際にある自分の席から距離の近い友達とお話をしていたりします。

他の人たちもほとんどが似たような感じです。


そして予鈴が鳴る少し前、みんなが自分の席に戻り始めて教室が落ち着きを見せて、後は先生が来るのを待つだけになった時でした。


忙しくも変わらない毎日を過ごして(少しは昔の自分が誇れるような私になれたのかな?)

なんて事を考えながら外を眺めていたら、その彼を見つけました。


正門から先の見渡しの良い穏やかな田園風景の中で、彼は一際目立っていました。


必死な形相で汗を流しながら全力疾走していて、何度も腕時計を確認して真っ直ぐ走っていました。

欠席は稀にあることでしたが、遅刻なんて言うのはこの学校ではありえないことなんです。

なので、私以外にも彼に気が付いたクラスメイトは一瞬ビックリしながらも次の瞬間には冷たい目線を彼に向けて、すぐに興味を失い朝の準備に取り掛かっていました。


でも、私は…。



(頑張って………頑張って!まだ間に合うよ!)


気が付けば彼を応援していました。

何度か転びそうになったり、疲れてきたのか速度が落ちてしまったりするたびに


(ほらっ、気をつけて!もう少しだから頑張って走って!)


心の中ではそんな声援を送っていました。


たぶん、私が高校に入学してから一番楽しかった瞬間だったと思います。

変わらない日常の中で、初めて目にした非日常。

そんな大げさな物ではないかもしれませんが、私には十分な出来事でした。


皆がみんな同じような生活を送っている中で、彼は自分の生活の中を生きているんだなと強く感じました。


自分らしく生きる。


入学してからと言うもの何かと忙しかった私は、また大切なことを忘れていたみたいです。


そんな自分をあの彼に重ねると、心の底から湧き上がってくる衝動を抑えられませんでした。



彼が一歩足を進めるたびに、私の心が躍動する。

彼がまた一歩近づくたびに、心の中の弱い自分に(ひび)が入って行く。


(間に合えっ………間に合って!)


私の願いに呼応するかのように、彼が加速を始めた。

そして彼が正門にたどり着いた瞬間。


私の中の弱い自分が、盛大に音を鳴らして壊れて行った。


ハラハラしながら眺めていたこの短い時間。

私の心は、確かに満たされていた。


「おめでとう………間に合って良かったね」


人知れずそう呟いたら、彼が顔を上げてこちらを見たような気がした。


(っ!?)


そしてその顔は、どこか虚しさを感じさせるような表情の中に、小さな達成感を含めた清々しい笑みを携えていた。


静まりつつあった私の心が、また一度だけ大きく躍動した瞬間だった。



それから私は本当の意味でも変わったと思う。

普段の生活の中でも余裕を持てるようにもなったし、誰に対しても分け隔てなく接することが出来るようにもなっていた。

学校行事や部活での活動にもさらに熱が入るようになって、順風満帆な高校生活が送れているんだと実感する事すらできた。



2年に進級してそれまで仲のよかった友達とは別のクラスになってしまい、すこし残念な気持ちになってしまいましたが、嬉しいこともありました。


1年の時に、今の私に変える切欠をくれた彼が同じクラスに居たのです!


あの時に感じた印象とは違いましたが、間違いなく彼でした。



三ノ瀬連太郎君………。


遅刻をしてしまいそうになるような暢気な感じなんてまったく感じさせない、むしろ理知的で寡黙な人でした。

そして何より、周りの女子達もコソコソ話していますが、とっても格好良い人でした。

テレビでも見たことの無い位にです。

目元は少し長い髪の毛に隠れて見えにくいですが、とにかく綺麗な顔つきをしています。

性格はまだちゃんと話したことが無いので分からないですが、きっと良い人です。


三ノ瀬君とはまた違った意味で目立つ人が居るんですが、彼は佐々木武蔵君と言って、スポーツ推薦で入学をしたらしい男子なんです。


彼は結構変わった人で、発言や行動がこの学校の生徒には特に合わないみたいで、言いたくは無いですが倦厭(けんえん)されがちなんです。

もちろん私はそんなこと思っていませんし、明るくて見ていて飽きない人だと思っています。

クラスの人たちが佐々木君をそう言った目で見ていると言うことを、佐々木君は理解しているみたいです。

でも佐々木君が気にしていないと言うので、私はそれ以上なにも言えませんでした。





その日もいつものように学校に到着して、生徒会選挙の演説で溢れかえっている人混みを抜けて教室に着くと、新しく出来た友達に挨拶をしていく。

そして自分の席で椅子をずらして黙々とスクワットをしている佐々木君が目に入って私は思わず笑ってしまいました。

対して他のクラスメイトは佐々木君に対して冷ややかな目線を向けていました。

正直に言うと何とかしたいと思っています。

佐々木君は気にしていないって言ってましたが、やっぱりこう言うのは良くないと思います。


とりあえず佐々木君に挨拶をしに行こうと思ったとき、教室のドアが開いて皆が入ってきた生徒に注目していました。


そこには三ノ瀬君が居ました。


だけど三ノ瀬君はそんな注目など気にしないですぐに自分の席に向かって行きました。


やっぱり三ノ瀬君はすごいと思います。

私だったらこんなこれ見よがしに噂されて居る状況に耐えられないと思うし、

教室に居づらくてしょうがないと思います。


でも三ノ瀬君は涼しい顔をしたまま席についています。


そんな三ノ瀬君はどこか近付き辛い雰囲気をまとっていて、誰も彼に対して挨拶をしようなんて、思っていたとしてもしないみたいです。


ただ一人の例外を除いて………ですけどね。


先ほどまでジッとスクワットをしていた佐々木君が、本当に嬉しそうな顔をしながら三ノ瀬君に近付いていました。


三ノ瀬君も佐々木君に気が付いて、どこか楽しそうな顔で話をしていました。


急に佐々木君が学生服とワイシャツを脱ぎ始めたのには未だにビックリしますけど、ほとんど毎日のことですからね。


でもこれだけは慣れそうにありません。


佐々木君が変なポーズをして三ノ瀬君も少し呆れたような顔をしていましたが、そこには侮蔑や嫌悪なんかは含まれていない、友人同士で向けられる顔でした。


クラスの人たちはさらに冷ややかな目線を向けていましたが、今の彼らにはまったく気にならない事なんでしょうね。


そんな2人の関係は本当に眩しくて、羨ましく感じます。


私も勇気を振り絞って、いつものように2人に挨拶をしに行く。

少し近付くと2人がこんなことを言っているのが聞こえてきました。


「……………これも常識じゃないのか?」


「………ただ俺から言えるのは、常識なんてつまらないことに囚われるな。武蔵が納得すればそれでいい。それだけだろ」


そしてその言葉を聞いた後の佐々木君は、とても嬉しそうで、三ノ瀬君の肩に手を置いて少し泣きそうな顔をしていました。

たぶん、クラスメイト達のことについて佐々木君が相談でもしていたんだろうなと思います。

常識と言う枠で佐々木君をみると、少し常識からは逸脱しているのかも知れません。

だけど三ノ瀬君はそんな常識になんて囚われない。

佐々木君が納得して行動をしているなら、自分はそれを肯定するんだって。


本当にこの2人の関係は素晴らしいと思います。

だから、そんな2人の関係に少しでも入りたくて、私は今日も2人の中に入っていきます。


みんなから私はこりすって呼ばれていますが、三ノ瀬君だけは苗字の栗野と呼んでくれます。

それはあだ名ではない本当の自分を呼ばれているようで、少し恥ずかしかったりもします。

未だに三ノ瀬君に栗野と呼ばれると、思わず顔を背けてしまいます。

その後に佐々木君がさらに恥ずかしいことを言おうとしたので、少し叩いちゃいました。


本当に少しですよ?


恥ずかしすぎてすぐに席に戻っちゃいましたよ…。


(もう少し三ノ瀬君と…お話したかったな)


それから少しして先生が来て、佐々木君がなぜか欠席扱いにされそうになっていました。

さっきから教室に居たのにどうしてなんでしょうね?

不思議です。

何とか先生に欠席を取り消してもらえたみたいだったけど、またポーズを取り始めて結局欠席扱いにされてしまっていました。

佐々木君はやっぱり見ていて飽きないです。


クラスの人たちは相変わらずな感じで、佐々木君に小言を浴びせていました。


そんな中、三ノ瀬君は一人面白そうに笑っていました。

そんな三ノ瀬君の行動で、クラスの人たちは静まり返っていました。

小言を言っていた人たちもバツが悪そうな顔をして、少し佐々木君に対してやりすぎていたと思うところがあったのでしょうね。


(あぁ、本当に彼は素敵な人間ですね。彼の行動1つで友人を救っているのだから)


常々(つねづね)佐々木君とクラスの人たちの関係をどうにかしたいと言う私の考えも、三ノ瀬君の些細な行動の前では些末なことなんだ。


いつだって三ノ瀬君には驚かされる。


皆が少し気まずい空気を出している中、三ノ瀬君が最後に言い残したこの言葉。


「俺には到底出来ないことだな」


間違いなく、今の言葉はみんなに対して皮肉を込めたものなんだろう。


普段の三ノ瀬君からは想像も出来ない物言いだけど、大切な友人を馬鹿にされて我慢が出来なかったんだろうな。

それを臆さずに言うのだから、本当に驚かされる。



私は変わったのだと思っていた。

だけど、彼を見ていると思う。

いつの間にか私は変わったのだろうと勘違いをして、少なからず満足してしまっていたことに。


でも、そうじゃない。


私自身が勝手に自分の限界を作ってしまい、可能性を捨ててしまっていた。


まだまだ私は変わっていける。

昔の自分が本当に胸を張って誇れるような私に。

私にはまだまだこんなにも可能性があるのだから。


それに気付かさせてくれる彼ーーーー


あだ名ではなく、私を栗野と呼んでくれる彼ーーー


いつか彼に、あだ名でも栗野でもない


本当の私ーーー



明実と呼ばれるように、変わっていこうと想う。



私をこんなにも前向きに変えてくれる三ノ瀬連太郎君。



(本当に、彼には驚かされるーーー)



伏線を回収するのはかなり楽しかったりします。

さて、次回は個性豊かな派遣部のメンバーと連太郎のお話を予定しています!


それと、改めて読み返すと誤字脱字が多かったので、気を付けて書いていきます。

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