~兆し~
第二章へ突入する前に、この作品本来の序章を書かせていただきました。
急展開に話を進めるのも良くないと思いましたので、軽く兆しと言うことで書かせていただきました。
次回からはまた普通に書いていく予定です。
「ん………」
まどろみの中、ゆっくりとボクの意識が覚醒していく。
小鳥の囀りを聞き、カーテンの隙間から差し込む朝日がボクの日常の始まりを教えてくれる。
身体を起こして寝ている間に凝り固まった身体を思いっきり伸ばす。
時刻は早朝4時半。
これから軽く身支度を整えて日課のランニングと筋トレを始めます。
まずはカーテンを開いて窓を開けます。
そして深呼吸。
肺の中をいっぱいに満たす自然の香りと多少の刺激臭。
ん、刺激臭?
クンクン………こんな朝早くから中華料理の匂いを嗅ぐことになるとは…。
朝からよく中華なんてよく食べられるな。
ちなみにこれは炒飯と麻婆豆腐の匂いですね。
良い匂いではありますが、朝っぱらから脂っこいのは食べたくありませんね…。
さて、この香りなんですが、窓を閉じた今現在も漂ってくる訳ですが何故でしょう?
はい、答えは簡単ですね?
ガチャーーー
「あ、お早うござますです連太郎お兄ちゃん!もうそろろろ朝食が完成しますので起きて来て下さいね!」
「あぁ…お早うツルバラ…ところで今日の朝食は?」
「はい!チャハンとマーボードーフです!」
oh………舌っ足らずで凄い言葉使いになってるけど事態は把握しました。
やはりウチの朝食でしたか…。
「そうか…炒飯と麻婆豆腐か」
「はいです!マーボードフは初めて作りました!」
マーボードフって………可愛いから許すけどさ。
と言うか初めて作っただと!!なんだか危険な香りも漂ってきましたよ!?
ちゃんとしたもので作ったのか凄く不安だ!
「麻婆豆腐には………何を入れた?」
「えとえとえと、豆腐です、長いネギです、お肉です、カタクリ粉です!」
ふむ…特に異常はないかな?
「調味料は?」
「えと、刻んであるにんにくと、トウバンジャンと、テンメンジャンと、お醤油に鶏がらスプーに料理のお酒です!」
おぉ!いたって普通の麻婆豆腐っぽいね!
ここに豆豉と唐辛子が入ればボクが作る麻婆豆腐と一緒だ!
まぁトウチは入れない家庭もあるみたいだけど、ボクは入れて作る方法が染み付いちゃってるからな。
「トウチは入れたか?」
「トウチ…です?」
「あぁ、ウチではトウチを入れる方法で作る」
唐辛子は入れると只でさえ辛い麻婆豆腐がさらに辛くなるからツルバラとかは食べられなくなりそうだから今回は我慢するとしましょうか。
「あぁ!メイド訓練所で習いました!」
お、やっぱり料理とかに関する知識を学ばせるような学校みたいなところで勉強とかしてきたのか。
まぁ流石に家事全般を担うお仕事ですからね、そう言ったところは妥協しないで細かく教えるんだろうね。
「これがいわゆる『倒置法』と言うものですね!」
ボクはそれでもいいと思った、ツルバラが可愛いから。
これが倒置法!トウチ違いですよツルバラさん!
てか訓練所で何を教えているんだ!一般教育も兼ねてると見た!
違うか訓練所!
と、場所も分からない訓練所に向けて睨みを利かしたが返事が無い。
「どうしたですか?急に怖い顔で窓の外を睨んだりして」
うん、どうしたんだろうねボクは…。自分でも何がしたいのか分からないです…。
そんなことよりも日課の時間が迫っている!
「すまないツルバラ…少々野暮用を済ませてくる…朝食はその後だ」
「はい!分かりましたです!あとその…野暮用って言うのは何です?」
「なに………因縁の戦いの続きを………な」
なんか中二病っぽいけど…そう、ボクを追いかけてくる謎の人物との戦いをね!
「よく分からないですけど………その、大丈夫なんです?」
おぅ…心配してくれるツルバラ…可愛いです。
よし、さらに中二病を悪化させてみましょうか!
「あぁ。古の約束を…俺の魂は忘れずにいる」
「おお!なんだか格好良いです!」
やばい凄く恥ずかしい!でもツルバラが格好良いと言ってくれている!
期待のまなざしでボクを見つめてくれている!
ここはお兄ちゃんとして妹の期待に応えますよ!
決めるぜぇ~超決めるぜぇ!
「あの優しい音色の響く…穏やかな時間を取り戻すまで…俺は一人でも戦い続ける!」
決まった………痛い人間グランプリ入賞が決まったなこれ。
右手を握って目まで閉じてポージングなんかキメッちゃって…。
でも良いんだ。ツルバラが見ていてくれたんだから…。
チラッーーー
って居ねぇーーーーーーーー!!!
「連太郎お兄ちゃ~ん!トウチはどこにあるですー?」
いつの間にかキッチンに行っていたんですね…もう良いです…。
恥ずかし損だよ…はぁ。
トウチでしたっけ?どこに置いたかな………確か何かの隣に置いておいたような、何だっけか?
醤油じゃなくてお酢でもなくて、料理酒の隣でもなくて…むむむ、本格的に度忘れしたな…。
よし、本気で思い出そう。
何か調味料的な物の隣に置いたのは覚えている。
さて、なんだったか?
窓の外をただ呆然と眺める。
そういえば何か物事を考えるときに目を閉じて考える人と、どこかを一点に見つめながら考える人と、視線を上に向けて考える人の3パターンがあるって聞いたことあるな。
ボクはどうやらどこかを見つめて考える人みたいだけど。
ってそんなことはどうでも良くて…あっ!!!思い出した!
「みりん『・・・』!」
そうだよみりんの隣に置いておいたんだった!
まだ下からは『ナイです~、ナイです~。連太郎お兄ちゃんどこです~』と探してるツルバラの声がする。
さて、思い出してスッキリしたところだし、ツルバラに教えて直ぐに走りこみに行きますかな。
「直ぐに………行く」
さてさて、本日は土曜日と言うこともあり学校はお休みです。
本来ならば惰眠を貪りたい所ですが、日課は欠かせません!
継続は才能…この言葉を体現すべく、日々心身共々練磨を続けています。
そのトレーニングですが、ボクは決められたコースとかをひたすら走るんじゃなくて、毎日適当に走ってます。
距離はどうだか分かりませんが、時間はキッチリ一時間。
小休止を挟んでさらに一時間の筋トレを行います。
合計二時間のトレーニングです。
これを毎日続けていると流石につまらないので、わざとコースをランダムにして走っている最中の景色を変えようというのが適当に走っている理由です。
とは言えあまり広い町ではないので毎日走っていると、もうどの順序で走っても見える景色は変わらなくなってしまいました。
なので本日はトレーニングと息抜きを兼ねて例の何を祀っているかよく分からない神社にやってきました!
この神社は山腹の辺りに拝殿があって、山頂付近に本殿があります。
幣殿は拝殿と同じところに位置していて、ほとんどの人は山頂の本殿には赴かないみたいです。
まぁ神社に来る理由のほとんどが参拝でしょうから本殿に行くまではしないでしょうね。
拝殿に来るのにも結構な数の階段を上らないといけないし、本殿にいたってはさらに倍の数の階段を上がらないといけませんからね。
そういえば結構良く聞く間違いなんですが、ボクたちが初詣とかで神社に参拝するときに見る大きな建物を本殿と勘違いしている人が多いみたいですね。
本殿は本来、人間が入ったりすることを想定していないみたいで小さな造りになっているんです。
対する拝殿は神職さんが祭祀の時とかに入ったりするのでそれなりに大きな造りになってるんです。
幣殿と言うのはあまり聞きなれない人も多いと思います。
祭儀を行う場所のことで、幣帛を奉っている社殿のことです。
幣帛って言うのは…まぁ噛み砕いて説明しますと祭祀のときに神様に奉献する物の総称ですかね。
要するに、神様への貢ぎ物とかを保管したりする場所って感じです。
とまぁもっと説明しないと分からない人も居るかもしれませんが、ボクも人様に教えられ程の知識があまりないのでここまで。
だいぶ話が反れましたが、ボクはその本殿に居ます。
やっぱりここの本殿もこじんまりしていて物静かな雰囲気が漂っていますね。
ボクはこの本殿が好きだったりします。
なんて言うのか落ち着くし、何だか懐かしいって感じがするんですよね…。
そこまで思い入れとかは無いはずなんですけどね。
たぶん昔から息抜きをしようと思うとここに来てしまうから、いつの間にか郷愁のような感情が付いてしまっていたんだろうな。
ここからの見晴らしは絶景で、町を一望できます。
学校、商店街、駅周辺、んでギリギリ見えるボクの自宅付近。
目立つ建物は学校とその近くにある病院。
あの病院も数年前に出来たばかりの建物で、この町の住人のほとんどがあの病院のお世話になっていると思います。
え、ボクですか?
ボクは違います…。
あの病院が出来る前からお世話になってる病院がボクの家の近くにありまして、そこを利用してます。
実のところ最新の設備が整ったあの病院に少しばかり興味はあったんですが、そのことをポロッと菊婆に洩らしたら
『そうかぃそうかぃ。連太郎はそんなにもあの病院が気になるんだねぇ…。なら………あの病院の世話になるような大怪我させてやろうかぁ!!!』
って殺されかけたので大人しく菊婆の執刀を受けることにしました。
菊婆は妖怪です………。
いや!本当に妖怪なんですって!!!
ウチの爺ちゃん婆ちゃんの幼少期の話を然も見て来たと言わんばかりの口ぶりで語り始めるし、何よりもその容姿です!
どっからどう見ても『少女』にしか見えないんですもん!!!
ボクが子供の頃から一切その容姿が変わってないし、爺ちゃんとかに聞いても昔からあんな感じだったって言うし!
凄く気になってボクが子供の頃に菊婆に聞いたことがあったみたいなんだけど、聞いた後の記憶が無いんです………。
今でもその時の話になると
『なんじゃ…死にたいのかえ?』
って言われてメチャ怖いです………。
ボクは一生菊婆には逆らえないと思います…。
もちろん面と向かって妖怪だなんて言いません。言えません。死にたくありません。
なのでボクがあの病院にお世話になるのは、菊婆の逆鱗に触れて、半殺しにされてから初めて行けることになるでしょう…。
うん、ボクが気をつけている限りあの病院のお世話になることは今後一切ないな。
チリンーーーーー
「ん?」
なんか今、鈴の音色が聞こえたような。
どこから聞こえたんだろう?
本殿のほうから聞こえたような気がしたので中を覗いてみますかね。
なんだか罰当たりなことをしているみたいだ…。
あ、鈴がある。あとは鏡と………鎌?
なんで鎌なんかが本殿の中に奉納されてるんだ?
フム…確かこの神社は豊作の神が祀られていたよな…そこから推測するに、稲を刈る道具を豊作祈願として奉納したに違いない!
ふっ………今日は一段と冴えてるな…ボク。
「お?連太郎じゃねぇか!」
ん、誰だ?
こんな人気の無いところまで上ってくるような変人は。
はい武蔵でした。
「こんなところで何してんだ?秘密の特訓か何かか?」
「いや…」
「なんだ違うのか。まぁ知ってたけどな!」
なら聞くなよ…。
「俺さ、実を言うとこの神社の守役なんだよ。昔から続いてる由緒正しきお役目を継承してる家系なんだと。だからさ、ここには良く来るんだけど、俺がここに来ると結構連太郎を目撃することがあるんだよ。だから学校に入学する前から連太郎のことは知ってたんだよな俺」
なるほど…通りで初めて声をかけてきたとき『お前、本殿の近くで秘密の特訓をしている奴だな?』って言われたのか。
まぁそんなことより、武蔵がこの神社の守役だったとは…。
意外すぎるな。
「守役か………」
「おう、守役だ!ま、特にするようなことも無いから俺自身あんまり守役って自覚ないんだけどな!筋トレついでにここまで上ってきてるようなもんだ!」
それはそれでどうなんだ…守役よ。
「ところで、ホントの所連太郎はここで何してたんだ?」
何って言われてもただボーっとしに来たとは言えないし…。
そうだ、武蔵にもボクの中二病を感染させるか!
「俺は………待っているんだ」
「待ってる?誰を?」
「人ではない」
「………人では…ないだと?」
「あぁ、この場所で交わした…古の約束をーーー」
「おいっ!!!連太郎!!!!!お前…」
な、なんだ!?いきなり武蔵が怒鳴り始めたぞ?
流石に痛すぎたか!?
「お前………記憶が…邂逅したのか?」
え、なんことだ?
ボクに合わせて中二病発言をしてくれているのか?
いや、武蔵はちょっと頭がアレだけど、こんな中二病に付き合ってくれるようなキャラでもないし…。
「何のことだ?」
「!?………いや、な、何でもねぇ…」
今度は落胆したのか?落ち込んでる様子だ。
まさか中二病発言に付き合っていてくれたのか?
そうなら申し訳ないことをしたな…いきなり真面目になられて困るのは当たり前だよね…。
それにしたって、邂逅ってなん………ぐ、なんだーーー急に頭が…い、いてぇ。
「……………」
「……………」
き、気まずい…。
い、いかん、何だか頭がメチャクチャ痛いがこのままでは気まず過ぎる。
すまない武蔵…せめてボクが幕を下ろすよ。
「しかし………」
「?」
「完全な邂逅を果たす日も………そう遠くないだろう」
「そ、そう…か。いや、良いんだ。そんなに焦らなくてもさ…。俺はさ、守役だとか、古の誓いだとかは正直どうでも良いんだ」
「………」
「最初こそ何で俺がって思うこともあった。俺は俺の人生を謳歌したいし、何かに縛られたりとかされるのも嫌だったし。だけどよ、守役としての覚悟も何も無かった俺だけど…、とある文献を目にしたときから、何が何でも成就させたい願いってのが出来たんだ」
なんだ、武蔵が話を進める毎に頭痛が酷くなっていくような気がする…。
それに………なんだ…この記憶はーーー流れ込んでく…る。
『ーーーるしてくれ………』
ーーーあれは誰だ?
ボク?
『ーーーのですよ………たは…………人生をーーーー』
それにあの女性は………
「なぁ…連太郎」
頭が割れそうだ!!!痛いっ!
『必ず……………くを………たす!!!』
「俺がよ………俺達がよ、絶対にお前とーーーーー」
一陣の風が音を攫っていった。
その中で僅かに聞こえた名前に。
「----様の願いを」
懐かしさとーーーーー
「叶えさせてやるからーーー」
愛おしさとーーーーー
「だから、今はーーー」
悲しさを感じたーーーーー
「まだーーーーー」
『お待ちしています……………『御神様』』
意識が保てなくなる直前に、ボクは何かを思い出しかけていた。
確か
ボクは彼女を………
愛していた。
とりあえず、GAME編と個人ルート編を合わせたお話を書くことにしましたので、またしばらく投稿が遅れてしまいますが、頑張って執筆していきますのでどうかお待ちくだせぇ!