―第80話 スーパーソニック・ストレンジャー ⑤―
――精神が削り取られていくようだ。
この圧倒的実力差――純粋な身体能力、能力の相性、戦闘経験など、楯無鈴風と村雨蛍との優劣など、どの角度から見たとしても一目瞭然。今更ながらそんな事実を突き付けられて、『敗北』『死』という病魔に心を蝕まれていくのは当然だ。
そして、
「あ、ぐ……なんで、あたまが、いたい……!!」
頭を押さえながら床を転がりまわる鈴風を、蛍は失望したといった風に冷ややかに見下ろしていた。
いったい鈴風に何があったのか。それは至極単純な話。
苦し紛れに繰り出した翠槍が、蛍の無造作な一刀によって細切れにされただけのこと。
鈴風はまだ、人工英霊の能力についてほとんど知識を持たないヒヨコも同然であり、それが災いした。
そも人工英霊の武装は精神を具現化したものだ。ならば、その武器を破壊されるということは、精神を破壊されることと同義なのである。
とはいえ先述の通り、精神感応性物質形成能力は人工英霊の力の『一部』に過ぎない。そのため、武器破壊=精神の死、といった極端な話になることは稀である。能力全体で見てどれほどの割合を武装構築に割いているのかによって、破損時のリスクも増減することになる。
「その様子を見るに、貴女、考えなしに全力で武器構築に精神力を注いだようですね。……日野森さんもいったい何を教えていたのやら」
武器破壊時のリスクを減らすこともまた、人工英霊ならではの戦術観だ。
この辺り、飛鳥の運用法は特に秀逸である。
烈火刃、特に二刀型の弐式・“緋翼”や投擲刃型の肆式・“葬月”に関しては、飛鳥の主観では使い捨てという認識で錬成されている。
構築時に注ぎ込む精神力を、武器としての性能を損なわず、かつ破壊されてもダメージが少ないギリギリのラインで設定しており、更に、壊される直前に意識を切り離すことで消耗を最小限に抑えている。
理屈だけ言ってしまえば単純なカラクリだが、目には見えない概念である精神力を自在に調整するという行為。これがどれほどまでに困難で、また可能であることが如何に異常な精神性を要求されるものなのか。
端的に言えば、怒りや悲しみといった感情を意識的に制御するだけでなく、ツマミでも付いているかのように、そういった感情のパーセンテージを微調整するようなものである。
やれと言われて出来れば苦労はしないし、激情家のきらいがある鈴風には土台無理なことなのかもしれない。飛鳥が鈴風に教えなかったのも、こういったやり方が彼女の性分には合いそうになく、中途半端に会得させようとしても逆効果になると判断したからだったりする。
「貴女のような、感覚で動く人間には馬に念仏でしょうか? ……ただ、それは自分の力なのです。それを、どういうものなのかを知ろうともせずにただ闇雲に使うというのは感心しませんね」
まったくどうして耳が痛い言葉だった。鈍痛が残る頭を振りながら、よろよろと立ち上がる。
鈴風が人工英霊になってから、およそ2ヵ月弱といったところ。自分なりにこの力を鍛え上げてきたつもりだったが、果たしてそれは、本当に努力したと胸を張れるものだったか。
殺し、殺される覚悟はあったのか。日常を捨てて、剣火飛び交う戦場に身を投じる決意はあったのか。
(足りない……)
そうだ、足りない。
目の前の敵を打倒するにも、飛鳥の背中に追いつくにも、何もかもが足りない。
全身はずたずたに引き裂かれ、身体の半分以上が血に染まっている。両手両足の装甲も、今にも崩れ落ちそうなほどに頼りない。
だが、焦りや恐怖は自然と感じない。そんなことよりも、鈴風の意識をしめていたのは『疑念』だった。
「……ひとつ、聞きたいんだけど」
「どうぞ」
鈴風からの唐突な問いかけに、蛍は足を止めて応じる。彼女からの視線は、試すような、見守るような――とても敵に向けるような眼差しではなかった。
「部長はどうして、《パラダイム》に入ったの? 剣の道の『可能性』とやらを追求するためなら、それこそ八葉側にいてもよかったんじゃない?」
意外な質問、だったのだろうか。蛍は少しばかり驚いた様子を見せた。
「……私は、既に自分が『悪』であると認識しています。人工英霊に目覚めた私が最初に何をしたのか教えてあげましょうか? 新しく得た力を試すために、たまたま一番近くにいた父親を斬ったのですよ?」
そこから、蛍は簡単に自分が人工英霊になった経緯をぼつぼつと語りだした。波乱万丈なんかじゃない、ありふれている――とまでは言わないが、すべてを語り終えるのに1分もかからない、つまらない人生だったと自嘲した。
ならばこそ、ここで鈴風は脳裏にこびりついていた疑問を投じた。
「だったらどうして、学園であたし達と一緒に剣道部なんかやってたの? 人を斬って目指す道だって言うのなら、学校の部活動なんてままごとみたいなものなんじゃないの?」
では、1年間自分に剣道を教えてくれた村雨蛍は、いったい誰だったのか。礼儀を重んじ、勝ち負けを絶対のものとすることをよしとせず、いつも部員達を支え、見守ってきた貴女はいったい何者だったのか。
「今のあんたはちぐはぐだ。今だって、その気になればいつでもあたしを殺せる筈なのに。……まるであたしが、立ち向かってくるのを期待しているみたいだよ」
「私は、少しでも強くなった貴女と戦いたいだけです。簡単に倒れられてはつまらないですからね」
「…………本当に?」
鈴風の問いに、蛍はさも不快だと言わんばかりに柳眉を吊り上げた。
もしかすると本人も理解していないのかもしれないが――彼女の行動には一貫性がない。いや、確かに『剣の道』を究めるという確固とした目的意識はあるのだろうが。
しかし、しかしだ。そもそも――剣の道ってなんだ?
こういってしまっては何だが、剣なんてものは鉄を鍛えて造られた刃物であり、それ以上でもそれ以下でもない。世界中の剣道家、剣術家に怒られてしまいそうだが、身も蓋もない言い方をすればその通りだ。
歴史上の剣豪が目指したように――それこそ宮本武蔵とか佐々木小次郎がそう考えていたかはさておき――世界で一番強い、『天下無双』とやらを最終目的としているのであればともかく、蛍が言っているのはそういうものではない気がする。
「ねぇ、部長。……もしかして部長は、迷ってるんじゃない? 剣の道とか大層なこと言ってるけども、実際何をどうすればいいのかさっぱりなんじゃないの?」
「……何を根拠に」
「あたしにも心当たりがあるから、何となく分かるんだけど……人工英霊になると、まるで自分が自分じゃなくなるような感覚があるんだよね」
そもそも蛍本人に指摘されたことだ。
実戦経験はおろか、人を殺したこともなかった鈴風。少し前までただの学生に過ぎなかった自分が、何故こうも簡単に戦いに順応し、いとも簡単に人の命を奪うことができたのか。
正義とか悪とか、正しいとか間違っている以前の問題として、どう考えてもあり得ないのだ。
「あたしがあの世界で初めて戦った時……あたしは『飛鳥の役に立ちたい』『頼ってほしい』って考えでいっぱいだった。そして、そんな自分を想像した」
誰もが思い描く『理想の自分』。
これは鈴風の推測に過ぎないが――想像を具現化できる人工英霊なら、もしかすると想像上の人格すら精製できるのではないか?
飛鳥の力になるために、足手まといにならないために。戦いや死に怯えることのない『理想の楯無鈴風』を無意識的に創り出していたのではないのか?
「部長もそうなんじゃないの? 剣の道を追い求めるために『人を斬らなきゃいけない』と考えて、でもそんなこと思い立ってすぐできるわけがない。だから部長は、人殺しに恐怖することのない『辻斬り』としての人格を生み出して「黙りなさい」……部長」
鈴風の追及を一刀両断し、蛍は怒気を顕わにする。
「私は貴女と精神学について問答しに来たのではありません。……戯言はそこまで、構えなさい。これ以上は言葉ではなく、互いの刃で語るのみ」
蛍の全身に装着された黒刃の群れが、ひとつひとつ意思を持つかのように律動する。
確かに、これ以上語るは無粋だろう。蛍が明確な答えを返せなかったことが、何よりの回答だったのだから。
「そうだね。うん……これでようやく、あたしもふんぎりがついた」
「……どういう意味です」
満身創痍でありながら、晴れやかな快笑を見せる鈴風に、蛍は思わず一歩後ずさった。
そう、これでようやく思い切り戦える。
本当に、部長が心の底から殺しを楽しんでるんだったら、何が何でも――それこそ刺し違えても止めるべきだという考えもあった。
だが、今の問答で確信した。
(まだ部長は戻れるかもしれない。正真正銘の『悪』になんてなっちゃいないんだ。救う――だなんて大それたことを言うつもりはないけど、それでも)
決めた。絶対に、村雨蛍を『殺さない』。
今の鈴風に必要だったのは、たったそれだけの認識だ。
やり遂げられるかどうか、その難易度は問題ではない。自分が一切の迷いを持たずに戦えるかどうかの方が、余程重要だった。
「――いくよ、部長。その物騒なドレスを引っぺがして、小一時間くらい説教してやる」
力の差は歴然。だが鈴風は理解していた。
人工英霊同士の戦いにおいて勝敗を分けるのは、膂力の差でも戦闘経歴の差でもない。
勝利のイメージを明確にしろ。目の前の剣鬼を絶対凌駕する、最強の自分を思い描け。
痛みに負けるな、逆境に屈するな、ありとあらゆる苦難を笑って跳ね返せ。お手本だったらいつもすぐ近くにいただろう?
(……飛鳥)
胸の前でぎゅっと拳を握りしめる。
凍てつく殺意の奔流の中でも、心の中に烈火を宿して立ち向かう。
大きく深呼吸。
「貴女はここで――終わりなさい!!」
瞬間、黒い凶鳥が羽ばたいた。蛍の全身の羽剣がミサイルのように鈴風に向けて殺到する。
あの羽の一枚一枚、そのすべてが触れれば斬れるというのは間違いない。よってすべて躱しきるほか生存の道はない。
「でえりゃあっ!!」
選択したのは真上。渾身のアッパーで天井をぶち抜き、そのまま2階まで到達する。すかさず床に踵を打ち付け、撃鉄を投下。激震と共に2階すべてが倒壊した。
「この程度で押し潰せるなどと……舐めるなぁ!!」
崩壊した瓦礫が降り注ぐ中、漆黒の剣鬼は一歩も動くことなく全身の『刃』を展開した。両手、両肘、踵、全身のいたるところから巨大化した蟷螂の鎌のような尖刃が出現する。こうなれば、手を振るだけでも、歩くだけでも、すべての動作が悪夢の如き斬撃と昇華される。
真上から全長3m強のコンクリート片が降り注ぐも、ゆったりとした動きで両手を交差するだけで豆腐のように切断される。続いて槍の雨となって鉄骨が落下してきたが、結果は同じ。羽剣を幾重にも空に躍らせ、すべて輪切りにしてしまった。
床を転げ落ちた鉄骨のひとつが蛍の右足を掠めたが、なんら損傷はない。
「だあぁぁぁぁっ!!」
再び落下してきた一際大きな瓦礫の影から、疾風が飛び出してきた。
落下物を目くらましにして奇襲をかける、というのは悪くない策だ。改めて顕現させた翠槍を最上段に振りかぶり、蛍の脳天めがけ一気に打ち下ろす。
「学習のない!!」
だが、無駄である。
村雨蛍の能力は『全身への切断性の付与』。即ち、黒刃のカーテンを潜り抜けたところで、蛍自身に触れた時点で切り裂かれる定めだ。ふわり、とたなびいた蛍の黒髪の一本一本がワイヤーカッターのように機能し、迫る機械槍の刀身を微塵と化した。
二度、精神がひび割れる感触に鈴風は歯を食いしばる。
ここまでは想定通り。蛍も、そして鈴風もそう考えていた。
蛍の右足が跳ね上がる。つま先にもまた鋭く伸びた刀身。後方に大きく身をよじり、顎先スレスレを兇刃が通過する。
直後、2人の間に極大のコンクリート塊が割り込んだ。鈴風が小さく口角を上げる。見上げるほどの石塊に、互いの姿が覆い隠された。
(なるほど、発想は悪くない。ですが!!)
蛍にとってこの程度の遮蔽物、斬って排除するのは容易い。
だが一瞬とは言え、相手の動きが読めなくなったという点。右か、左か、はたまた上か。どこから鈴風が飛び出してくるかが予測できないことこそが、おそらく彼女の狙い。
(さぁ、来なさい。少しでも姿を見せた瞬間が、貴女の最期です)
こちらに触れれば即両断されるのが分かっている以上、接近戦を挑むのが無謀であることは鈴風も身を以て理解しただろう。
距離をとりつつの飛び道具か、それともまた何か奇策でも講じるか。そう考えれば、自然と彼女の次の動きは限定されてくる。
――だからこそ。
「――な!?」
拳で瓦礫を粉砕し、真正面から突進してきた荒ぶる風の一撃を、蛍は予想できなかった。
撃ちだされた翠色の弾丸が、闇色の胸甲を貫いた。装甲を纏った鈴風の鉄拳は、何故か切り裂かれることなく蛍の肉体に確かな衝撃を与えたのだ。
漆黒の鎧に亀裂が走る。あらゆるものを切断する――とことんまでに攻撃力に特化した蛍の武装は、反面耐久性に乏しかった。
一撃。拳のたった一撃で勝敗は決した。
黒い鋼鉄が粉々に砕け散るその様を見て、蛍の心には驚愕とともに、どうしてか僅かばかりの安堵があった。
あまりに分の悪い賭けだった、と鈴風は今更ながらに背筋を震わせた。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
先程とは立ち位置が逆だった。
全身の武装を維持しきれず、胸を押さえてしゃがみこむ蛍と、そんな彼女を複雑な表情で見下ろす鈴風。
「理解がない、というのは取り消すべきでしょうね……どうして分かったのですか? 私の能力の欠点を」
蛍のどこに攻撃しようとも鋭い斬撃で手痛いしっぺ返しを食らうという、自動反撃とも呼ぶべき凶悪な能力。
これだけ聞くと、はっきり言って反則だとしか思えない。何もしなくても触れたものを勝手にスパスパ斬り落とすのだ、これを最強と言わずに何と言うのか。
だが、ここで鈴風は考えたのだ。――それはあまりに都合が良すぎないか?
あとは、ほとんど勘だった。
人工英霊の能力は自分の意思の力で制御される。それは、つまり、意識していないと作用されないのではないか?
それは天井の崩落時、床を転げた鉄骨が彼女の足に触れた時点で確信へと変わった。おそらく蛍も認識していなかった、自然に転がって当たった鉄骨には、絶対切断の洗礼は下らなかったのだ。
つまり、対象がどこに触れて、どう切断するのか。蛍自身がそこまで認識しないと、この必殺の斬撃は発動しない。
だからこそ、彼女の意表をついた最後の正面突破では、鈴風の攻撃を斬れなかったのだ。
「飛鳥が言ってたから。勝つためには『考える』ことをやめちゃいけないって」
「……弱者が強者を倒すための努力、ですね。日野森さんらしい発想です」
そもそも、死ぬか生きるかの瀬戸際で冷静な思考を維持し続けること自体、並大抵の精神でできることではないのだが――本来、戦いの最中に考え事や雑念に気を取られるのは命取り以外の何物でもない。
だが、それはあくまで互いの力量がある程度伯仲している場合の話。
常に自分よりも格上の相手とばかり戦ってきた飛鳥にとっては、そんなものはただの言い訳にしかならない。小細工なしの力比べでは勝てないと分かっているなら、知恵と技術で補う他ないのだから。
「どうする、部長? まだ……やりますか」
勝ったとはいえ、こちらの負傷も甚大だ。
精神武装を二度破壊され、最後の一撃の衝撃で、腕の装甲も崩壊しかかっている。心身ともに限界だった。
それに相当量の血を流してしまった。傷自体は休息すれば自然回復するだろうが、失った血液までもがすぐに補充されるわけではない。徐々に身体中から熱が失われていく感覚が拭えなかった。
「……いえ、よしましょう」
だから、蛍からの停戦の声はまさしく福音だった。緊張の糸が緩んでしまったせいか、鈴風は両足から力が抜けて思わずへたりこんでしまった。同時に手足の武装の維持も限界だったようで、粒子の光となって霧散していった。
「――――――はぁぁぁ」
大きく大きく息をつく。曲がりなりにも敵の目の前で、随分と隙だらけではあったが、蛍はその間隙をつこうともせず、ただ苦笑を浮かべていた。
「やっぱり、まだまだ未熟のようですね。貴女も――それに、私もですか」
すっかり毒気を抜かれてしまったようで、蛍もまた大きな溜め息をついた。
しばらく、2人して座り込んだままでいた。特に言葉も交わさず、何をするでもなく。
外の大雨のリズムだけが耳朶を打つ。ほんの1分ほどであったが、鈴風にはこの沈黙が妙にゆっくりと感じられた。
こうやって瓦礫の山の真ん中で、敵同士の2人がぼうっと座っただけでいる光景は、第三者からはどう見えているのだろうか――鈴風がそんなとりとめのない事を考えていると、蛍が重い足取りで立ち上がる。
引き留めるべきかどうか、少しだけ迷ったが――きっと、まだ早い。
「心配せずとも、私も限界です。かなりの力を使ってしまいましたし、少なくともこの戦線においては下がらざるを得ません」
「……そうですか」
「敵である私が言えた義理ではありませんが……戦いはまだ終わっていません。油断したところを刺されないよう、気を引き締めなさい」
固い表情のまま背を向けた蛍は、危なっかしい歩調で離れていく。
いずれまた、敵同士として相対するのだろうか。
だが、言葉を尽くして蛍を説得することも、背後から一撃を加えて足止めすることも、今の鈴風には出来なかった。
「部長!!」
だから、せめて今できることを。
顔半分で振り向いた蛍の背中に、鈴風はありったけの思いで叫びかける。
「また、学園で!!」
伝えたかったのは、ただそれだけ。
これから先、再び刃を交えることもあるだろう。もしかすると、どちらかの死によってしか決着し得ない関係なのかもしれない。
だが、やはり鈴風にとっての村雨蛍は『憧れの部長』でいてほしかったのだ。
「部長たるもの、部員をほったらかしにしちゃいけないでしょ?」
悪戯っぽく笑う鈴風と、呆れたような微笑を浮かべる蛍。それは、聞き分けの悪い妹の泣き言を、姉が仕方ないなと言って笑っている――そんな温かな光景にも見えた。
「…………ふぅ。認めたくはありませんが、正論ですね」
そう言って蛍の背中が夜の闇に消えていくのを見届けたのと同時、鈴風は何も言わずにうつ伏せに倒れこんだ。
100%の勝利、と呼ぶには程遠い。泥臭く、不完全な痛み分けとも言える戦いであったが。
(あたし、頑張れたかな……役に立てたかな、飛鳥……)
新米の戦士が百戦錬磨の人斬りを退けたのだ。飛鳥のみならず、誰もが認める大金星に違いない。
心も身体も、すべてが休息を欲していた。褒めてくれるかな、などと鈴風は朦朧とした意識の中で考えていたが、すぐに眠るように気を失った。
鈴風と蛍のかけあいは、3章ラストでもうちょっとだけ。