―第77話 スーパーソニック・ストレンジャー ②―
3章だけで軽く1年使っちまったがいよいよクライマックス!
『ローレライ』という名の由来を紐解くと、元はドイツのライン川流域にある巨大な岩山から来たものだそうだ。
この付近は川幅が狭いうえに流れが速い。また水面下にも岩が多いことから、かつてはここを通行する多くの船が事故を起こしていた。それが転じて『船乗りを歌で惑わし、幾多の船舶を水底に沈めた美女』の伝承になったとされている。
「“傀儡聖女”が、テレジア様やレッシィの『血』の力を使って手に入れようとしているもの。……『ローレライ』とはいったい何なのでしょうか」
「クラウには心当たりはないのか?」
「はい。レッシィにもそれとなく聞いてはみましたが、特には」
「伝承における『ローレライ』は、『セイレーン』の話と同一視されることもあるね。だからレイシア嬢とは何かしらの関連性がある……というのは勘ぐり過ぎかな?」
世界有数の工学企業である断花重工において、様々な未来技術が開発・研究されている場所。それこそが《八葉》が誇る研究者集団、第六枝団『月読』の本拠地である。
機械工学方面にさほど明るくない飛鳥にとって、そこかしこに精密機器や壊れた機械部品などが転がっているこの場所にはあまり馴染めそうになかった。
整理整頓とは完全に無縁な、この金属と電子部品の山の一角――パイプ椅子と長机で無理やり作った狭いスペースで、飛鳥達男性陣は机を囲んで『ローレライ』についての推論を交わしていた。
夕食を終えた後、飛鳥はクラウ、レイシアと一緒にこの件について話し合うつもりだったのだが……研究者としての好奇心が疼いた夜行に半ば強引に連れられて、わざわざこんな機械油の匂いが鼻につく所までやってきたのだ。
道中、会社探検を始めたわくわく顔の鈴風に引っ張り込まれる形でレイシアが離脱。代わりに、
「何故俺まで参加させられている……」
この部屋でデータ管理をしていた刃九朗を巻き込んで、完全なる男所帯が完成してしまったのである。今更この男に意見など期待していないが、今夜の対策を頭に叩き込んでおきたいのもあったので連行した。
「名前しか分からないんじゃ、まともな推測もできないけれども……『水』や『歌』に関連するものには違いないだろうね。さて、かの《九耀の魔術師》様が血眼になってまで追い求めるなんていったいどれだけまともじゃない代物なのやら」
呆れた口調で肩をすくめる夜行に、飛鳥も同意する。
確かに……世界最上位の魔女という称号を得て、それでもなお『力』を求めてやまないとは。ミストラルと直接対面したことのない飛鳥でも、どれだけ彼女が狂った存在なのかがよく窺えた。
「そんなもの……本人に直接聞けばいいだけだろう。二度と妙な真似が出来ないように、心身ともに撃砕してからな」
手掛かりと呼べるものが少ない以上、結局その結論に至ってしまう。
戦って、勝てばすべてが分かる。単純明快だが、確かにその通りだ。この場で云々と唸っているより余程建設的には違いない。刃九朗に触発されたようで少々複雑だが、飛鳥は思考を切り替えることにした。
研究室の作業台に置かれていた、見覚えのある代物を見て夜行に声をかける。
「そうだ夜行さん。昨日分析班に回していたあれなんですが……」
「ああ、『レイヴン・シール』かい? 解析はもう終わってるから持って行って構わないよ」
最後まで言わずともこちらの意図を汲み取ってもらえたようだ。飛鳥は夜行に一礼し、黒刃の柄に手をかける。
相変わらずの凄まじい重量。烏の羽を思わせる、薄く長い漆黒の刀身。昨日までは飛鳥達を脅かす死神の一振りであったものが、今では『炎』が使えない飛鳥にとっての救世主となっていた。
「一応、君の烈火刃のデータをベースに重心バランスを変えておいたよ。違和感も少ない筈だ」
「助かります」
「それと、抜き身のままじゃ危ないからこいつも」
ご丁寧に同素材の鞘まで作ってくれていたらしく、ますますもってありがたかった。
隣接している訓練室へと足を向ける。先日飛鳥が鈴風達と戦闘訓練を行った場所だが、本来ここは戦術起動外骨格など規模の大きい開発品の試験を行う場所である。学園の体育館より更に一回りほど大きいスペースで、周囲は特殊合金製の壁に覆われている。
抜刀し、感触を確かめるために二、三横薙ぎに振ってみる。一般的な日本刀の重量が1~2㎏なのに対し、この『レイヴン・シール』は30㎏もあるという。常人には絶対に扱えないこの異次元の銘刀の重みが頼もしい。
だが、それでも《パラダイム》の人工英霊や最強の魔女相手にどこまで通じるか。……せっかくの訓練室だ。少し確かめてみたいこともあったので、飛鳥は壁にもたれかかっていた刃九朗に呼びかけた。
「刃九朗、ちょっと付き合え」
「いいだろう。……では、小手調べでこれくらいでどうだ」
すかさず応じた刃九朗の両手は、既に武装が完了されていた。彼の『能力』を初めて見るクラウは、声こそ出さなかったが目を見開いて驚愕していた。
左手には、長銃身ガトリングガンを内蔵した機動防盾『トライヘッド』。右手には、鋼刃九朗の代名詞とも言える電磁加速砲剣『ヴァイオレイター』。飛鳥と初めて交戦した時と同じ武装構成だった。しかしこれほどの火力、生身の人間ひとりを相手に行使するにはどう考えてもやり過ぎ仕様である。
だが、人を超えた人工英霊である飛鳥には、これくらいがちょうどいい。
「ああ、頼む」
飛鳥が軽く頷いた瞬間、訓練室は無数の砲火と轟音に包まれた。横殴りの雨となって襲い来るガトリング砲の弾雨と、その合間を縫って炸裂する雷光の一撃。人間の肉体などものの数秒で肉片と化す鋼鉄の嵐、初戦ではひたすら逃げ回るしかなかった飛鳥だったが、
「すごい……!!」
驚愕するクラウの声を背中に受け、今回はあえて正面から飛び込み、最小限の挙動のみで銃弾の豪雨を躱しながら前進していく。膝を曲げ体勢を低くし、右足、左足とステップを踏むように重心を切り替え、時に黒塗りの鞘を振り上げ銃弾を弾く。
いける、と飛鳥は鉄火の乱舞をいなしながら確信した。
「ぬ……」
じわりじわりと距離を詰められていることに、思わず刃九朗が渋面を作る。
既に砲戦の間合いではない、慌てて近接戦用の武器に切り替えようとした瞬間――
「――殺ったぞ」
――闇色の刃の切っ先が、刃九朗の首筋を捉えていた。勝負あり、であった。
刃九朗は敗北によるショックよりも、飛鳥の急激な身体能力の向上に疑問を持っているようで、無表情のまま首を傾げていた。
飛鳥が確かめたかったのはこれだ。
先月にもあった同じ状況ではまず出来なかったこの動き。どうして今なら簡単に出来るようになったのか。
通常、飛鳥は意識のおおよそ半分近くを烈火刃の維持――要するに『能力』の行使――に充てている。即ち、戦闘中の状況判断や具体的な行動は、全体の半分でしか考えていないということになる。
より具体的に言うのならば……片手でキーボードを叩きつつ、もう片方の手でペンを持って字を書くようなものだ。一度やってみれば分かるが、異なるアクションの同時進行というものは極めて難しい。並列思考と呼ばれる思考形態――その訓練次第ではある程度可能となるが、当然ながらひとつずつの行動におけるパフォーマンスは大幅に低下する。
元々飛鳥はこの並列思考が得意だったので――無論、訓練に次ぐ訓練を重ねた上でだが――武装召喚におけるペナルティは最低限まで抑えられている。本来一種類の武装しか創造できない精神感応性物質形成能力において、掟破りともいえる全八形態もの武器を顕現可能としているのも、そんな適正の賜物なのだろう。
だが『能力』が使えない(あるいは使わない)ことにより、今まで二分していた意識をすべて身体能力の方に向けることが可能となった。劉功真やフランシスカを始めとした大多数の人工英霊が、自分の『能力』を用いた武器錬成を行うことなく、あくまで既存の兵器を使ってきたのもそれが理由だ。
今まで『能力』ありきの戦闘ばかりが続いていたが故の盲点だった。むしろ、対人戦においては今の状況の方が強いかもしれない。
刃九朗との一戦を終えて、飛鳥の身体には特に疲労は見られなかった。このままもう一戦しても支障あるまい。
「……よし。クラウ、次は君の番だ」
「僕、ですか……!?」
そしてもうひとつ、確かめたいこと。
まだ直接見ていない“聖剣砕き”の力がどれほどのものなのか。これは単なる好奇心もあるが、人工英霊との戦いにおいて、彼がどこまでやれるのかを見極めたかったのだ。
クラウは対ミストラル戦の切り札だ。その前に負傷して動けなくなってしまっては、困るのはこちらなのだから気にもなる。最悪、いざという時まで後方で待機してもらうことも検討しているのだから。
いきなりの指名に面食らったクラウだったが、
「分かりました、やらせていただきます」
こちらの不躾な提案にも、あくまで礼儀正しく返答してきた。律儀だなぁ、と飛鳥は苦笑した。
広大な空間、その中心に2人が陣取る。対人工英霊戦を想定するため、今回の飛鳥は『能力』を使用していた。二刀の赤熱刃――烈火刃弐式・緋翼を携え、紅蓮の炎を全身から展開させる。
「ん、武器は使わないのか? 魔女の鉄槌は持ってないのか」
「持ってますよ。ちなみに、男の魔術師の装備であれば神導器と言います。まあ、男女で呼び名が違うだけで意味は同じなんですけどね」
冗談めかして答えるクラウだが、緊張感がないなどと思いはしない。
模擬とはいえ戦闘直前にあれほどの自、然体だ、身体が強張っている様子もない。それだけでも充分に戦い慣れしていることがよく見て取れた。
左手は無造作に広げたまま肩の高さに突き出し、右手は大きく引いて腰元に構えてくる。これだけで分かる。あの『拳』こそがクラウ=マーベリックの最大の武器なのだと。
それにしても……飛鳥の勝手なイメージだが、徒手空拳で戦う魔術師というのも相当に珍しい。魔術師殺しとも称される“聖剣砕き”を前に闘争心が沸き立つのを感じ、飛鳥は両手の愛刀を握る手に力をこめた。
「では――神導器“アンサラー”、招来します」
「また、やっちまった……」
「模擬戦の前に着替えておけばよかったですね。うわ、ズボンに穴開いちゃってる……」
模擬戦を終えた飛鳥とクラウは、お互いにボロ布と化してしまった制服を見やり乾いた笑みを浮かべた。
もうこれで何着目だろうか。白鳳学園の制服は特別頑丈に出来ているわけではない、そんなことは分かっているのだが……いや、これまでライン・ファルシアでもサイクロプスでの戦いでも、決まって制服姿のままで暴れまわっておいて今更かもしれないが。ただでさえ無茶な使い方をして何着も制服をボロボロにしているのだ、着替えられる時くらいちゃんと着替えておくべきだったと後悔したが、後の祭りである。
「そう思って、他のお友達にも戦闘向きの服を渡しておいたよ。気休めかもしれないが、防刃や防弾効果もあるからね。さあ……飛鳥君も、着替えてきたまえ」
随分と手回しのいい夜行だったが、何故興奮気味に息を荒げているのだろうか。そういえば、先月も似たようなことがあったような――それ以上考えるのをやめて、飛鳥達は早急に研究室から立ち去ることにした。
さて、携帯端末の時計を見ると既に21時を回っていた。探検と称してあちこちを歩き回っているはずの鈴風達は、今頃どこにいるのやら。
「ありがとうございます~! おかげで助かりましたですよ~!!」
「そんな……下着くらいで大袈裟ですよ」
ロッカールームへ向かう途中、自販機や喫煙室が配置されたレストスペースから、何やら感極まった真散と困惑する双葉の声が耳に入ってきた。会話の内容から察するに、飛鳥が失念していた下着などのお泊り問題に対処してくれた双葉にお礼を言っているようだ。
しかし……双葉の言うとおり随分と感謝のアピールが大袈裟だった。両手を握ってぶんぶんと上下に振り回すほどに喜ばしかったのだろうか。そのあたり、男である飛鳥には及びもつかない部分である。
「あ、飛鳥みっけ。ほらほらご覧くださいなっ!!」
そこに、通路の向こう側から鈴風率いる他の女性陣がやってきた。
夜行から貰った服に着替えた彼女達は、見せびらかすようにくるりと一回転したり、スカートの裾をつまんでみたりと姦しい。
鈴風の服装は、先月のランドグリーズ暴走時にも一度目にしていたものだ。軍服によく用いられる薄緑色とは少し違う、もっと深い鮮やかな緑色のブルゾンと丈の短いキュロットが、活動的な鈴風によく映えている。
「う、うぅむ……私はいつもの鎧の方がよかったのだが……」
替わってリーシェの服装は、蒼天を切り取ったかのような鮮烈な青色のロングジャケットが印象的だ。ダークブラウンのロングブーツで足元を引き締め、全体的にシックな装いである。リーシェの長身と相まって、このまま街へ出ればファッションモデルと間違われること請け合いだった。
余談だが、リーシェが持参してきた鎧は、夜行達『月読』の手により研究材料としてとっくの昔に解体されているのでもうこの世にはない。もし言ったらリーシェが泣きそうなので、絶対に秘密にしようと心に決めていた。
「レッシィは着なかったの?」
「……私はそこまであんたらと歩み寄ったつもりはないから」
ぷいっとそっぽを向くレイシアの格好は、ミリタリーベストとジーンズという昨日の襲撃時と同じ私服だった。
歩み寄ったつもりはないと言った割には、さっき散々夕飯食い散らかしてたよね? てか一番遠慮なく食ってたよね? などとツッコんでやりたかったがグッと我慢。クラウも同じ感想だったのだろう、そんなレイシアの態度に苦笑いしながら相槌を打っていた。
「アタシの、なかったの……仲間外れだったの……」
「ああはいはい泣くな泣くな、今度俺がお前のやつも作ってやるから」
いつも通りの黒ローブ姿のまま、鈴風の頭の上でしょんぼりしていたフェブリルを摘み上げ自分の手のひらに乗せた。いじけた使い魔の扱い方など手慣れたもの、器用に人差し指の先で頭を撫でてやるとすぐに泣き止んでくれる。
「……ホントに?」
「ホントホント。色違いでお揃いにしてやるから」
涙を拭って、ほんにゃかとした愛らしい顔を見せるフェブリルにほっと一息。
やっぱり甘やかしすぎかなぁ……そう思ってはいても、やっぱりこの頑張るチビッ子には徹底的に優しくしてあげたくなってしまう。この、悪魔のくせしてまるで天使のような無邪気な笑顔がいけないのだ。自分は悪くない。
「……ねぇ、前から思ってたんだけど。飛鳥ってもしかしてロ「なんか言ったか?」ううん何でもないからだからお願いですからその真っ赤な剣をあたしの口に近づけようとしないでもらえませんかマジ熱いんですってそんな許してほしくば飲み込んでみろみたいな目で見られてもムリムリそんなマジシャンみたいなことできませんからホントすんませんっしたーーーーーーーっ!!」
烈火刃の切っ先を鈴風の口元に近付けて脅迫じみたやり方で黙らせた。
そんな様子を見て、ふと気が付いたように真散が声をあげる。
「……あれ! わたしそんなの聞いてないし貰ってないのですよ!?」
「いや……水無月さんは戦力換算してないから」
「何を仰るのですか飛鳥くん! わたしだって立派な魔術師なのです。可愛い後輩たちだけに戦わせたりしないのですよー!!」
「クラウ、言ってやれ」
「僕ですか!? えっと……部長。僕は部長に危ない目にあってほしくないんです」
「く、クーちゃん……!!」
言うなれば、頼りないと思っていた弟の成長を喜ぶ姉の構図だろうか。真散の目が感激でキラキラしていた。
何だかいい雰囲気だ。ここは気を利かせて2人きりにすべきだろうか……しかし、どこにでも空気を読まない輩はいるもので。
「ねぇクラウ、その言葉を私には一切向けようとする気配すらなかった理由を説明してもらえるかしら?」
「え!?」
和やかな雰囲気が一転して修羅場に変わる瞬間を目撃した。もてる男は大変だなーなどと考えながら外野から見守っていたが、そもそも飛鳥にとっても他人事ではなかった。
「……皆さん。ここは公共の場所で、それも夜中ですので。――節度を守りましょうね?」
結局。業を煮やした双葉によって雷が落とされるまで、この痴話喧嘩は留まる事を知らなかった。
これ以上あまり騒がないようにと女性陣にきつく言い含めた飛鳥は、クラウと共に手早く着替えに行くことにした。
また焼け焦げてしまった制服をロッカーに放り込む。そして灼熱色のフーデットジャケットを羽織り、頑強なコンバットブーツの紐をしっかりと結んだ。
後ろを見ると、クラウも同じく服装を整え終えたところだ。薄いベージュの上着が穏やかな風貌の彼によく似合っている。
「よし、行くか」
「はい!!」
準備は万端。肩を並べて外へ出る。
隣のクラウを横目で見ると、さっきまでの優しげな表情は一転し、戦闘に赴く者特有の、決意と闘志に満ちた『男』の顔になっていた。彼も薄々察しているのだろう。
――もう間もなく、戦端は開かれる。
俺も負けてはいられないな――そう飛鳥が気を引き締めたのとほぼ同時。
「ハーーーーッハァッ! 夜はこれからだぜ、おねんねするにはまだまだ早ぇぞ小僧どもぉ!!」
獅子の咆哮と錯覚するような重厚な叫びが耳朶を突き、その直後、
「なに……っ!!」
まるで、地球が爆発したのかと疑ってしまいそうになるほどの局地的な地震が、飛鳥の内臓を豪快に掻き回した。猛烈な吐き気をこらえつつ、壁に手をついて倒れまいとする。
だが今度は、通路の窓ガラスが凄絶な破砕音を響かせて片っ端から破壊されていく。突如巨人が現れて体当たりを仕掛けてきたかのような衝撃波が襲いかかり、飛鳥とクラウの全身を壁面に叩きつけた。
目立ったダメージはないが、圧倒的な轟音と衝撃により五感が麻痺した感覚があった。ふらつく足取りで、割れた窓から外の光景を視認する。
屋外の照明が先の衝撃で丸ごと沈黙したようだ。夜の闇に覆われた外界の様子は分かり辛かったが……震源地は以前にランドグリーズの起動実験が行われた屋外試験場――トライアルポートの中央付近のようだ。
大気の流れで理解できた。今、あそこにはとんでもないデカさの何かがいる!
「なんでしょう、あれは……鉄の塊? いや、戦車、なのか……?」
同じく復帰したクラウも外の闇を覗き込むが、やはりはっきりとは見えないようだ。その正体はもっと近くまで寄らないと分からないが、少なくともアレを放った人物が誰なのかは分かる。
「来たか《パラダイム》……しかも、よりにもよってあいつが出てきたか……!!」
「飛鳥先輩、知ってる相手なんですか……」
飛鳥が知る人工英霊の中でも、間違いなく『最強』の悪鬼。
誰よりも戦場を愛し、誰よりも戦争を愛する、平和をもたらす者の対極。
「『戦争屋』シグルズ=ガルファード。《パラダイム》の中でも、はっきり言って一番会いたくなかった奴だよ」




