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AL:Clear―アルクリア―   作者: 師走 要
STAGE3 ソードブレイカーズ・SS
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―第64話 ス二ーク・アンド・ソードダンサー ④―

とりあえず戦闘パートはここで一段落。まだ顔見せ程度の戦闘にそんな時間かけてもアレなんで……って言って半年以上使っちゃったけどね!!

「まったく、本当に絶妙なタイミングで駆け付けてきてくれたものだな」


「狙ったつもりはないんだけどな……だが、よく持ちこたえてくれた。ありがとう」


 リーシェは手傷を負いながらも、しっかりとした足取りで立ちあがっていた。やせ我慢しているのは言うまでもないが、冗談混じりに憎まれ口を叩いている分には大きな心配は必要なさそうだった。鴉に対する警戒は怠らず、鈴風達が控えている場所まで彼女を下がらせた。


「飛鳥……ごめんね。偉そうなこと言っときながら、また飛鳥を頼っちゃった」


「それでいいんだよ、鈴風。俺を呼んでくるようフェブリルに指示したお前の判断は間違いなく正解だ。ちゃんと考えて、最善の選択をしたんだ、偉い偉い」


 自分の力不足を恥じて俯く鈴風の頭を乱暴に撫でてやる。いやいやと頭を振って子供扱いされるのを嫌がっているそぶりを見せるが、その顔は恥ずかしげに微笑んでいた。


「あの……日野森先輩」


「クラウ君、お互いに言いたい事も聞きたい事もあるだろうけど、それは後にしよう。……少なくとも、俺達は君と敵対する意志はない。それだけ理解してくれれば、今は充分だ」


「……わかりました」


 飛鳥の言葉に、クラウは納得しきれていない複雑な表情を見せていた。彼が腕に抱えている薄水色の髪の少女の件も含め、確認したい事項があるのはやまやまではあるのだが――現状、あまりそちらにまで気をやる余裕はなかった。


無視(シカト)してんじゃァ、ねェッ!!」


「!?――飛鳥、後ろ!!」


 仲間内で話しているのがそんなに気に障ったのか、鴉が怒声を迸らせ苦無を投擲する。ちょうど背中を向ける形になっていた飛鳥に向け、鈴風は大声で叫びかけた。


「問題ない」


 だが当の飛鳥は慌てる仕草など一切見せることなく、後ろを向いたまま(、、、、、、、、)右手の黒刃を背中にまわして投刃を弾き返した。そのまま一気に振り向きつつ、一閃。選択戦技は先と同じ、断花流孤影術・天衝刃。

 研ぎ澄まされた轟風が鴉のすぐ隣を通り過ぎる。反応しきれず棒立ちになっていた黒ずくめの少年の頬から、薄く鮮血が滴り落ちた。


「や、野郎ォ……」


 身動きひとつ出来なかった鴉――手心を加えられた(、、、、、、、、)という事実に、額に青筋を浮かべ憤激した。

 天衝刃は、一言で言えば『斬撃を飛ばす』という断花流の中でも珍しい『飛び道具』だ。極限まで圧縮された大気を最大速度で振るい投射することにより発生する真空刃である。

 とはいえ、漫画のように剣を振るだけで三日月型の衝撃波をスパスパ出せるのかというとそうではない。天衝刃の使用にはある条件がある。

 それは、使い手によって振るわれる武器が重く薄いもの(、、、、、、)であること。

 いくら飛鳥でも、細い木の枝で天衝刃は放てない。武器が軽過ぎては、いくら勢いよく振るっても僅かな衝撃波しか生み出せないからだ。

 逆に戦鎚(ウォーハンマー)のような、重くとも面の広い武器でも不可能だ。確かに放たれる衝撃こそ強力だが、発動面が広すぎるため斬撃というよりはただの強風になってしまう。


(そう言う意味では、こいつは最適だったわけだ)


 蛍から奪取した黒刀『レイヴン・シール』を一瞥し、飛鳥はその性能に驚く。

 この刀、薄氷の如き刀身とは裏腹に、一般的な刀の数十倍の重量がある。その常人では持ち上げるのもままならない妖刀であれば、容易に常識外れの『重さ』と『鋭さ』を持った一閃を実現できる。まさしく人工英霊専用と言ってもいい性能だった。

 飛鳥はそんな剛刀を片手で構え、改めて鴉と相対する。


「さて……お前が出てきたってことは、ようやく《パラダイム》も本腰入れて動いてきたというわけか」


「けッ! オレ達がテメェごとき雑兵にいちいち気ィとられてるわきゃねェだろうが。用があるのは、そこでおねんねしてる魔術師の女だけだっての」


 吐き捨てるような鴉の言葉に、飛鳥は後ろ目でクラウの肩に抱えられた少女に視線をやる。

 ちらりとしか見ていなかったが、彼女は間違いなくレイシア=ウィンスレットだ。今朝方の懸念がいきなり形になったことに、飛鳥は思わず頭を抱えたくなったが――ここは事前に心構えができていて良かったと喜ぶべきか。

 それにしても、と飛鳥は彼等の目的に対して思案を巡らせる。

 過去、《パラダイム》は《九耀の魔術師》であるクロエを狙っての襲撃を散発的に行っていた。そのたび、飛鳥達《八葉》やクロエ本人によって何度も撃退されていたのだが……そんな彼女がこの白鳳市にいない今、何故彼等は最近この街に現れたばかりのレイシアをターゲットとしたのか。


(そもそも、どうして奴らはクロエさんやレイシアを欲しがっている? 魔術師ということぐらいしか共通点は思い付かないが……)


 目の前にいる目つきの悪い少年に聞いて、答えてくれるとは思えない。なら力づくで聞き出すべきかとも考えたが、そもそも彼がその理由を知っているかどうかも疑わしい。


「……そういやァ、(リュウ)の奴を()ったのはテメェだったな」


「……ああ」


 急に感情を無くしたような声で問いかけてきた鴉に、飛鳥は少しの間を置いて首肯した。

 劉功真(リュウ・フージェン)。かつて飛鳥が相対し、激闘の果てに討ち果たした《パラダイム》の人工英霊だ。厳密な意味で彼を殺したのは飛鳥ではなく、別の暴走した人工英霊であるフランシスカ=アーリアライズであったのだが――あえて指摘するつもりはなかった。

 鴉は両手の指の間に計八本の苦無を挟み込み、静かに構えをとる。


「仇討ち、というわけか」


「いんや、オレは別にあの野郎がどうくたばろうが知ったこっちゃねェよ。……ま、麗風(レイフォン)やマステマなんかはそうでもねェだろうが。けどな……」


 そう言いながら、鴉はじりじりと後方へと下がっていく。充分な間合いをとって攻撃するのか、それとも――


「テメェを殺すのはこのオレだ、忘れんじゃねェぞォッ!!」


「!?――ちっ!!」


 咆哮と共に両手から放たれる投刃。しかし狙いは飛鳥ではなく、後方で2人の戦いを見守っていた鈴風達の方だった。

 刀を腰溜めに構え、背後を向きつつ居合の要領で撃ち放つ。無理な体勢で急速に天衝刃を放ったため、飛鳥の右腕が千切れ飛びそうに痛んだ。歯を食い縛り、無理矢理痛みをシャットダウン。


「相変わらず手口が汚い――…………やられた」


 生み出された剣風が苦無の群れを悉く吹き飛ばしたのを確認しつつ、鴉の方に向き直るが――既に彼の姿は影も残らず消え去っていた。小さく舌打ちしながら、飛鳥は周辺の気配探知に意識を集中。異常な速さでこの場から離れていく気配を認識していたが、あえて追う事はしなかった。10秒ほど目を閉じたまま索敵を続け、そしてようやく全身から力を抜いた。


「……ふぅ」


 大きく息をつくと、今まで意識の外に追いやっていた全身から痛みが飛鳥に襲いかかった。

 はっきり言って、鴉が退いてくれたのは飛鳥にとって僥倖だった。元々身体への負担が大きい技である天衝刃の三連撃に加え、蛍との一戦で負ったダメージもある。しかも炎の能力が使えない状態もあって、飛鳥自身これ以上の戦闘は厳しいと判断していた。


「みんな……動けるか?」


「ボロボロだけど、なんとか……」


 結果はどうあれ無事に戦いが終わり、安堵する鈴風達に声をかける。ひとまずの危機は脱したかもしれないが、まだ蛍がこちらを追ってくる可能性もある。できるだけ早く、この場を離れるのが最善だった。

 それに、今の鈴風を敵にまわった蛍に接触させるのは彼女の精神衛生上望ましくなかったため、飛鳥は急かすように彼女達に立ち上がるよう促した。







 飛鳥達は学園には戻らず、クラウと気絶しているレイシア含め、そのまま日野森家へと一旦帰宅した。その後、迅速な対応で白鳳学園に駆け付けた《八葉》の護衛によって周辺の安全が確保されたので、綾瀬理事長と真散、フェブリルも遅れて合流していた。

 先の戦闘で負傷していた飛鳥、鈴風、リーシェだったが、そこは超人・人工英霊。簡単な手当てと僅かな休息で、完治まではいかないものの普通に動き回れる程度には回復していた。

 では、改めてクラウ達から話を聞こうとした――その矢先のことである。

 ――グギュルルルルルルルルルル!!

 居間に響き渡る盛大な音の正体を、改めて問う必要はあるまい。


「「お腹、すいた……」」


 腹ペココンビこと、鈴風とフェブリルの腹の虫だった。

 思えば、時刻はすでに夜7時を周っている。放課後に街中を歩き回った上に、魔術師や人工英霊との大立ち回りもあったのだ。空気を読めずに空腹に喘ぐ彼女達を責める事はできまい。


「飛鳥、詳しい話は夕食の後でもいいでしょう。先に支度してしまいなさい」


 ボロボロかつ腹ペコの生徒達を気遣う理事長の視点で言う綾瀬の言葉に、飛鳥はやれやれと呟きながら席を立った。

 

「さて、どうするかな……」


 冷蔵庫の中身を確認しながら、飛鳥は今日の献立に頭を悩ませる。

 今回、想定外の来客が多いため、結構な量を作る必要がある。飛鳥、鈴風、リーシェ、フェブリル、綾瀬、クラウ、真散、それに一応レイシアもカウントするとして8人分。

 こうなると、あまり多くの種類ばかり作っても仕方がない。大鍋で一気に大量に作れるものに限定すべきだろう。


「今日のごはんは、なっにかっな、なっにかっな♪」

「お腹がすいたぞ、まっだかっな、まっだかっな♪」


 そんな事を考えていると、フェブリルを頭に乗せた鈴風が謎の歌を口ずさみながら台所にやってきた。空腹に耐えかねつまみ食いでもしに来たのだろうが、残念、まだ食べられそうなものは出来ていない。

 そういえば、今回鈴風達はとてもよく頑張ってくれた。たまにはちゃんと労ってやろうかなと飛鳥はちょっとばかり優しい気持ちになった。


「すぐに作るから大人しく待ってなさい。……今夜はカレーだぞ」


「「…………」」


 そう、今日の献立はカレーに決めた。

 それを聞いた空腹コンビの動きが何故か凍りついたように停止する。……いや、よく見ると小刻みに震えていた。これは寒さ? それとも恐怖によるもの? いやいやまさか、そんな訳がない。



「「ウ……ウオオオオオオオオオオォォォーーーーーーーッ!!」」



「にゃっ!? にゃにごとなのですかぁーーーーっ!?」


 勝ち鬨でもあげているかのような2人の雄叫びに、大慌ての様子で真散が台所に乱入してきた。とりあえず近所迷惑なので2人の頭を軽く小突いて黙らせた。

 何と言う事はない、単に鈴風とフェブリル(というか日野森家の面々は全員)は飛鳥の作ったカレーが大好物なのだ。


「ほら、早く食べたかったら邪魔しないで向こうで待ってるように」


「「あいあいさー!!」」


 市販のカレーとは最早次元の違う、ルーから具材まで一切の妥協を許さない手作りカレー。とにかく1秒でも早く食べたかった両名は、ビシッと敬礼すると一目散に居間へと走り去っていった。

 あそこまで歓喜されると、作り手としても気合いが入るというもの。若干節々に痛みが残るが、そこは根性で何とかする。鮮やかな手つきで具材を切り分け始めた飛鳥の様子を見て、真散はもう苦笑いすることしかできず、「と、ともかく向こうで待ってるのですよ」と言って台所を後にした。


 

しばらくは説明回&コメディパート。いい加減クラウ君にもまともな会話をさせなくては。

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