―第3話 Fire Starter―
作者は男前なヒロインが大好きです。
午後6時30分。
「――そこまで!!」
審判を務めていたクロエの声が剣道場に響く。瞬間、対峙していた二人の剣士の気が霧散する。
「はぁ、はぁ……ありがとうございました!」
鈴風は防具を外しながらぐでん、と大の字に倒れこむ。相当の時間打ち合いを続けていたのだろう、その顔は汗でびっしょりで、ほどいた髪が頬に張り付いて不快そうだった。
「大丈夫か鈴風? さすがにもう限界だろう」
一方の飛鳥は少々の汗は出ているが息切れひとつなく、涼しげであった。その姿を見た鈴風が息切れしながら、
「な、なんでそんなに余裕があるの……こっちなんかもう完全にガス欠なのに……」
「1時間以上続けて試合が出来ている時点で、鈴風さんも相当だとは思いますが……」
剣道は素人のクロエの目からしても、2人の試合は凄まじいの一言に尽きた。
疾風の如く繰り出される、目にも見えない鈴風の剣技もさることながら、それを紙一重でかわし、時に受け流す、柳のような立ち回りを見せる飛鳥の技術には感服しきりだった。
大会を明日に控えた鈴風の頼みで、最終調整の練習相手として飛鳥は剣道場を訪れていた。
しかし、ウォーミングアップ程度で終わらせるはずが、飛鳥からなかなか一本が取れないことから鈴風がヒートアップ。飛鳥としても引くに引けなくなってしまい今に至っていた。
ちなみにほかの部員はすでに帰宅しており、クロエは飛鳥と一緒に帰宅しようとしていたところで巻き込まれ、なし崩しに審判をさせられていた。
「あーちくしょー結局一本も取れなかったぁー! 分かっててもやっぱくーやーしーいー!!」
「当然です。飛鳥さんが貴女などに遅れをとるはずがないでしょうに」
「何で先輩がそんなに偉そうなのさ」
床に倒れたままバタバタと地団駄を踏む鈴風の手をとって立ち上がらせた飛鳥は、窓際から暗くなり始めた外の空を一瞥し、
「そろそろ帰ろうか。これ以上は明日に差し支える」
外は既に夕暮れの色に染まっていた。
校庭に学生の姿はなく、3人だけが取り残されて閑散とした雰囲気だった。
「……そうだね、お腹もすいたし。と言うわけで、飛鳥、今日のご飯はなーに?」
「豚肉が余ってたから生姜焼きでも作ろうかね。ああいやそれだけじゃバランスが悪いな……やはり鍋の方がいいか?」
「飛鳥さん……鈴風さんがさも当然のように、ウチでご飯を食べていく事になんの疑いもないんですか?」
夕飯の献立に頭を悩ませる飛鳥の姿にクロエは何だかホロリとしてしまった。
今朝の食卓に当たり前のように鈴風は混ざっていたが、そもそも彼女にはきちんと帰る家がある。ほぼ毎日朝夕の食事をたかりに来ているため、飛鳥にとっては彼女の分の食事を用意するのが当たり前になっていたのだが。
「あ、でも今日は姉さんも和兄もいないから……たまには外食でもいいかも」
「それもいいですね。と、いうわけで今日はこれから2人で外食ですので、鈴風さんは大人しく家に帰って下さいね」
「……前々から思ってたけど、先輩って結構性格悪いよね」
「ふふふ、鈴風さん程ではありませんよ」
「あはははは」
「うふふふふ」
ドス黒いオーラを撒き散らしている2人から、飛鳥は関わりたくないとばかりに全力で目を逸らしていた。
と、そこに、
「飛鳥、ここにいたか」
「雪彦?……まだ帰ってなかったのか?」
昼間とは違い、雪彦は思い詰めた表情をしていた。
彼はいつになく真剣な表情で、飛鳥に話しかけた。
「すまないが少し時間を貰えるか?なに、すぐ終わる」
「ああ……ごめん2人とも、先に行っててくれるか?」
「解りました、校門でお待ちしていますね」
「早く帰ってくるんだよ~」
別段断る理由も帰路を急ぐ理由もない。
首肯し、雪彦に続いて剣道場を後にする飛鳥だったが、どうにも落ち着かなかった。
背筋に氷柱でも埋め込まれたような妙な寒気に、ピリピリと総毛立っていた。
午後6時45分。
嫌な空気だ。
逢魔が時、と呼ばれる時間。
夕陽もほとんど落ちかけており、漆黒の闇がにじり寄ってくるような空。そんな中、飛鳥と雪彦の間に流れる空気は重苦しく、寒気すら感じるようであった。
飛鳥の全身が無意識に強張る。寒気に身を震わせたわけではない、どちらかというと警戒――臨戦態勢を整えるべきである、と飛鳥の全神経が危険信号を鳴らしていた。
「それで、どうしたんだ? こんな所まで連れてきて」
ここに来るまで雪彦は一切の言葉を発しなかった。
居心地の悪い沈黙が流れる。
雪彦に対して感じる違和感、その正体に気付く事なく――これが飛鳥にとっては致命的であった――重苦しい沈黙を破って振り返った彼の表情は、能面のごとく血の通っていないような無表情だった。
「…………“雪月花”」
瞬間、この空間の気温が一気に下がった様に感じた。
いや、違う。
この凍気は目の前の男から発せられている!!
錯覚ではない。
屋上の壁には霜が張り付き、床は凍結しており足を動かすとジャリ、とシャーベット状の氷の割れる音が鳴った。
一瞬にして屋上は雪と氷に彩られた銀世界と化し、この世界の主たる男が一歩、飛鳥の方へと踏み出した。
「どういうつもりだ雪彦!!こんなところで『能力』を使って――――ッ!?」
いつの間にか、絶氷の侵食は飛鳥の脚全体を覆い尽くしていた。
冷感もなく、痛みすら通り過ぎ、すでに脚の感覚は消え失せていた。
あまりに唐突な『死』の恐怖を前にして、飛鳥は極力平静を保とうとするが、
「頼む……」
氷の蛇に生きながら丸呑みにされているように、首から下までが氷に覆い尽くされる。そしてそれが頂点に達し、意識が絶対零度の檻に閉ざされる直前。
雪彦の発した次の言葉が――魂まで凍てつかせるような声で、粛々と――飛鳥の『日常』を終焉させた。
「……死んでくれ」
同刻、校門前。
「飛鳥、遅いな~」
「霧谷君、何だか怖い顔をしていました」
クロエはいつもと違う雪彦の雰囲気に心配を隠せないでいた。
夕暮れも過ぎ、間も無く日も落ちる。目に見えて漆黒に染まっていく空が、彼女の不安を掻き立てていた。
「少し様子を見てきます。鈴風さんは待っていてください」
こういった時の悪い予感は嫌になる程よく当たるものだ。
校門に吹いた風は、春も終わろうとしているの、にまるで真冬の風のように痛みすら感じる冷たさだった。
自身の直感に従い屋上に向け走り出そうとしたが、その瞬間鈴風に腕を掴まれてしまう。
「――待って」
簡潔に、しかし有無を言わさずと言った強い声でクロエを制止する鈴風。気のせいか、掴んでいる彼女の手が小刻みに震えているように見えた。いつも気丈な鈴風にしては珍しい、クロエはそう思ってなるべく優しく彼女に言い聞かせた。
「大丈夫です、すぐ戻ってきますよ」
「違う、そうじゃなくて……」
「……本当にどうしたんですか鈴風さん? 貴女らしくもない…………ところで後ろの方、何か御用ですか?」
鈴風の表情は不自然に強ばっており、真っ青だった。それを見てようやくクロエも気付く。
自身の背後、飛鳥がいる校舎からあまりに濃密な気配――いや、これは最早殺気と呼ぶべきだろう――が接近してきていた。
少しでも隙を見せれば一瞬で首を食い千切られてしまいそうな、飢えた狼とでも対峙したように、クロエの背筋から冷たい汗が伝った。
「ふふ、鈴風センパイ、みーつけた」
……しかし、暗闇から現れたのは小柄な少女だった。
150cmにも満たない小柄な身長、ふわふわとした亜麻色のボブカットを揺らす姿はリスにも似て愛らしい。
しかし、そんな華奢な外見にはあまりにもアンバランス過ぎる殺気を振り撒きながら、少女はゆっくり2二人に近づいてきた。
「美憂ちゃん、どうしてここに? 病院にいたんじゃなかったの?」
いつの間にかクロエを守るように、鈴風は彼女の前に立っていた。
篠崎美憂。剣道部員の1人で、先に鈴風が話した『怪我をした後輩』が彼女である。
不器用だけども一生懸命、鈴風にとっては一番の可愛い後輩であった。
大会に出られなくなった事に対し、周りに心配をかけまいと気丈に振舞っていた姿は鈴風の記憶にも新しかった。
しかし、現在は入院中だった筈なのだが……
「嫌だなあセンパイ。これを持ってる以上、やることはひとつでしょう?」
と、手にした竹刀を軽く一振りする。
違和感。
腕を怪我した彼女が何故、ああも軽妙に竹刀を振るえているのか?
快復したにはあまりに早すぎる。否、仮にそうだとしても今の動きだけで鈴風は理解した。
――目の前のあの子はいったい誰だ?
怪我をする前よりも剣筋が鋭かった、などというレベルではない。
剣閃が突風を起こし、鈴風の頬を浅く切り裂いていた。
おいおい鎌鼬なんて、いつの間にそんな剣豪みたいな技身に付けたんだい……などと軽口をたたく余裕など存在しない。
後輩の姿をした化物を前に、鈴風は恐怖と戸惑いで目眩を起こしていた。
「あれれ? センパイ、隙ありですよ?」
「なっ!?」
その一撃に反応できたのは奇跡に等しかった。
5m以上は開いていた間合いを、瞬きの間に懐まで切り込まれていた。
背負っていた竹刀を抜き放ち、横薙ぎに迫る一刀を受け止める。ここまでの動作、鈴風はすべて無意識で行っていた。
「あ……ぐぅっ!?」
しかし、美憂の力はそれすら物ともせず、竹刀ごと鈴風を吹き飛ばす。
半分まで閉じられていた校門の金属扉に強かに背中を撃ち付け、甲高い激突音が響く。
「鈴風さん!?」
見ているだけであったクロエは悲痛な声をあげた。
よろよろと、生まれたての小鹿の様に、ふらつきながらも立ち上がる鈴風に慌てて駆け寄っていった。
「ん~? まさか今のを防がれるなんて……」
残念そうに呟く美憂の竹刀は根元から折れてしまっていた。手元のそれを興味なさげに見つめた後、
「ありゃりゃ、もう使えないかー。しょうがない」
いともあっさりと投げ捨てた。
その動作には、剣道部員であったころの面影は微塵も感じられない。
そして丸腰になった美憂が不気味な笑みを浮かべた瞬間、彼女の右腕が『変貌』していく。
「……おいおい、そりゃないでしょ」
肉と骨が折れて、砕けて、また無理矢理接着されるというグロテスクな光景が2
人に生理的嫌悪をもよおした。
数秒の後、彼女の新しい右腕が陽の落ちた夜の闇に粗暴に輝いた。
鋼鉄質の銀色、腕の悪い鍛冶屋が作ったような、不格好に鋳造された湾曲した刃。
外見上は蟷螂の鎌のようだが、しかし2人にとっては死神の鎌以外の何物にも見えなかった。
冷たく光るその右腕を見せ付けながら、彼女は満面の笑みを浮かべる。
「アハハハ! 見てよセンパイ、素敵でしょ? この力があれば誰にも負けない。ね、これなら私を認めてくれるよね? 私だけを見てくれるよね? ねぇ、センパイ?」
彼女が鈴風をどう思っていたかは明白だった。
その感情は憧憬に過ぎなかったのか、友愛であったのか、それ以上の何かだったのか。それは美憂自身にしか解らない。
……だが、異端の力を得てそれが歪んでしまった事は間違いない。
「“人工英霊”?……鈴風さん、逃げますよ。あれは貴女では勝てない」
怪物と化した美憂の姿をクロエは冷静に分析する。
淡々と事実のみを言い放ち、覚束ない足取りの鈴風に手を貸そうとするが、
「あたしが後輩相手に尻尾巻いて逃げろだって?……あはは、馬鹿言っちゃいけない」
その手をやんわりと拒絶する。
少なくとも鈴風に『逃げる』という選択肢は存在しなかった。
全身が軋んで痛い。目の前の凶暴な刃に切り刻まれて、血みどろの斬殺死体になる未来が透けて見えるようだ。
いつも通りの日常から、いきなり後輩に殺される。
いやはや全く、いきなり人生がこんなクライマックスになるとは世の中分からないものだなぁ……などと鈴風は自嘲した。
しかしこれは現実で、自分は今死の瀬戸際に立っていて、そして何より、
「先輩として、後輩が馬鹿な事やってたら止めてやらないとさ……」
悲しかった。
いい子だったのだ。
いつも自分の背中について回って、センパイ、センパイと頼ってくれる無邪気で素直な子だったのだ。そんな彼女に何があったのか、頭の悪い自分にはよく分からない。
だが少なくとも、あの子は今悪い状態なのだ。
「その力が何なのかは、今はどうだっていい……」
そう呟き、握ったままの竹刀――こちらも刀身が半ばで折れてしまっていた――を再び構える。
本能が告げる。
逃げろ、死にたくなければ今すぐ全力で背を向けて、篠崎美憂を見捨てるのだ。
「……美憂ちゃん、あたしは怒ってるんだ」
ふざけるな馬鹿野郎、と鈴風は力づくでその本能を黙らせた。
彼女に慕われていた先輩としてはあまり不様な姿は見せられない。そんなちっぽけなプライドが今の鈴風の原動力だった。
勇気を奮えよ、楯無鈴風。
ちょっとばかり不良になった程度の後輩にいちいちびびってるんじゃない!!
「道具は大事にしろって、いつも言ってるでしょうが……そこになおんなさい、お説教してやる!!」
「……そっか、これでもまだわかってくれないんだ。だったら」
徹底抗戦の意思を眼光に込める鈴風を、美憂は悲しみに満ちた表情で見つめながら告げた。
「わかってくれるまで、その体に教えてあげる!!」
悲痛な表情は一瞬のこと、すぐに狂気に満ちた喜悦を浮かべて突進を開始した。人間離れした身体能力の恩恵により、美憂の疾走は不可視の領域に達していた。
死神の鎌が鈴風の首筋に迫る。
いくら勇気を奮っても、いくら不倒の意志を持とうとも。圧倒的な『暴力』の前ではすべて無意味である。
そして、楯無鈴風は『無力』であった。
遅い、遅い、遅すぎる――鈴風がその悪魔の剣閃を認識した時には、すでにその刃は……
屋上は、雪と氷が織りなす地獄と化していた。
一切合財の生命体の存在を拒絶する、絶対零度の氷結世界と化したこの空間の中心に佇む男――雪彦は眼前の彫像をじっと見つめていた。
「悪く思うな、飛鳥……せめて痛みなど感じないよう、眠ったまま殺してやる」
氷の檻に囚われて微動だにしない飛鳥に対して、雪彦は右手に出現させた、日本刀に近い、緩やかな反りと極限まで研ぎ澄まされた鋭利な切っ先をもつ氷刃を構えた。
腰溜めからの居合、放たれる一閃は澱み無く飛鳥の胴体を両断するに至るだろう。しかし、その直前に――
「悪いが、安楽死を頼んだ覚えはない」
ぎょろり、と。
停止していた筈の飛鳥の眼球が雪彦に視線を定めた。
驚愕に目を見開きながらも、無慈悲に放たれた雪彦の居合一閃。
しかし、その凍結刃が飛鳥の胴体を捉えたその瞬間、
「……やはり、抗うか」
突如発生した荒ぶる焔によって瞬時に蒸発された。
そもそも雪彦が具現化させた氷は、炎すら氷結させる超常のものである。そんな魔の絶氷を、融解、液状化という過程を無視して一瞬の下に雲散霧消してのけた焔の主は悠然と告げた。
「当たり前だ。この程度で俺の『炎』を消せるとでも思ったか?」
飛鳥の全身から放出された紅蓮の烈風が屋上全体を上書きする。銀世界を悉く解凍し尽くし、それと同時に焔の嵐も消沈した。
完全相殺。
極低温と極高温の衝突は、何事も無かったかのように屋上を元の光景に巻き戻していた。
自身の世界を破壊された雪彦はそれに怒るでもなく、慌てるでもなく――くつくつと含み笑いをもらし、想定内の抵抗に哄笑した。
「いや、まさか……そうだ、そうでなければ面白くない。面白くないだろう、なあ飛鳥!!」
そのままバックステップで距離をとりつつ、両手に苦無型の氷刃、計六振りを形成し、一斉投射してくる。
それを最小限の動作で避けながら、飛鳥は雪彦を睨み付け叫んだ。
「問答無用か……いい加減事情を説明して欲しいんだが!!」
「…………」
聞く耳持たぬ、とばかりに雪彦は射出する氷刃を増やしていく。
回避に専念しながらも、飛鳥は冷静に思考していた。
雪彦が『異能』の持ち主である事は最初から分かっており、今更驚くことでもない。
“雪月花”と名付けられた変幻自在の氷の剣技であり、飛鳥自身の炎の能力とは対極に位置する。
直接相対するのは初めてだがまだ耐えられる。そこは問題ない、思考に力を割く余裕はまだある。
――さて、どうする?
雪彦が自分に敵対している動機には全く心当たりがない。
知らない間に雪彦に恨まれるような事を、もしかすると仕出かしていたのかもしれないが……そうであるなら、霧谷雪彦という男は面と向かって堂々と主張する筈だ。いきなり「死んでくれ」と言って暴挙に出るような男ではない。
ヤマアラシの針毛を彷彿とさせる無数の結晶質の棘が散弾銃のように撒き散らされる。
それに対し、飛鳥は正面に熱波の防壁を噴き上げた。
棘の大半は障壁を通り過ぎる前に焼失したが、一部はそれを貫通、飛鳥の手足を少しずつ切り裂いていった。
無慈悲なる兇刃を飛ばし続ける雪彦の表情に、憤怒や狂気といった感情は感じられない。いたって冷静、いたって平常に、確固たる意志をもって飛鳥を殺しにきていた。
たった今親友に裏切られたばかりだというのに、明瞭極まりない自分の思考が嫌になってしまう。何も出来ないまま悲観して死を迎えるよりはずっと良いのだろうが。
正面からは、日本刀のように形成された氷刃を構え、近接戦闘に切り替えようとしている雪彦の姿。
決断すべき時が近づいていた。
未だ、紅と蒼の剣士はその力の真価を見せてはいない。ただ無造作に炎と氷を噴出させていただけである。
故に飛鳥も、恐らく雪彦も理解していた。
よって、これ以上の戦闘続行はただでは済まない。
空気が軋む。
戦うべきか、逃げるべきか。
居合の構えのまま、冷徹にこちらを見据える雪彦。一瞬の隙で自分の首が飛ばされかねない、緊迫した空間は――
「きゃあああああああ!!」
地上から聞こえた悲鳴により激変する。先に『爆発』したのは飛鳥だった。
「っっ!?」
刹那の出来事だった。
飛鳥は迎撃の体勢から、突如雪彦に向かって突貫。ジェット噴射のような急激な踏み込みで雪彦の鳩尾目掛け全力の拳を叩き込んだ。
「ぐうっ!? がっ……!!」
咄嗟に氷の障壁を展開するが、荒馬の如き飛鳥の突進の前には硝子のように砕け散った。
右ストレートの直撃を腹部に受け、雪彦はもんどりをうった。
戦いの最中では致命的すぎる隙に対して、飛鳥は追撃をかけるのではなく――苦悶の混ざった目で雪彦を一瞥し、そのまま一足飛びで屋上の端まで駆けた。
そして一切の躊躇なく手すりを飛び越え、宵闇の空に身を躍らせた。
「飛鳥、やはりお前は……」
だが、雪彦は追いかけようとする素振りを見せず、ゆったりとした足取りで飛鳥が飛び降りた先を見下ろした。
先程の剛拳によるダメージはすでに無く、その視線は冷やかだった。
空に目を向ける。すでに夕陽は完全に姿を消し、ただ暗闇だけが存在していた。
飛鳥を追う事はすぐにでもできたが、雪彦はその場を動かなかった。
「今の悲鳴は会長のものだな。あの『魔女』にしては珍しい。……劉め、余計な事をしてくれたな」
望んだ闘いに水を差され、雪彦の顔は苦虫を噛み潰したようだった。
「まあいい。劉程度にやられるようでは、奴もそれまでの男。最初の敵としては妥当といったところか」
そう言い残し、その場を後にする。
彼が去った後の屋上には無数の破壊痕が残され、ただ冷たい風が吹き続けていた。
「……うそ」
そう呟いたのは鈴風か、美憂だったのか。
蟷螂の手鎌が、鈴風の首に触れる寸前で停止していた。驚愕に表情を強張らせたまま、美憂は自身の右腕を掴んでいる人物――クロエの姿に目を見開いた。
「まったく……馬鹿だ馬鹿だと思っていましたが。まさか勇気と無謀を履き違えるほどの大馬鹿者だとは思いませんでした」
先程まで戦いの傍観者でしかなかった白金色の髪の乙女は、鈴風と美憂の間に悠然と立っていた。
そして彼女の白くたおやかな手は、その人差し指と中指で美憂の刃を挟み込んで停止させていた。
真剣白刃取りという剣術における『奥義』に該当する超高等技術を事も無く、しかも片手でやってのけた彼女は、とりあえず鈴風の向こう見ずな行動を叱咤することにした。
「え……えと…………ハッ! ば、馬鹿馬鹿連呼しないでよ!!」
「助けてもらっておいてその言い草……やはり馬鹿ですね、あるいは阿呆ですか?」
「そこまで言うか!?」
深窓の令嬢が魔人の刃を軽々と受け止める――そんな現実味が無いにも程がある光景に思考停止していた鈴風は、再起動するや条件反射でクロエにぎゃあぎゃあと抗議した。
それを憮然として聞き流し更なる毒舌を炸裂させるクロエに、鈴風はちょっぴり涙目になった。
「あまり私が矢面に出ると色々問題があるので、出来れば戦わずに済ませたかったのですけど……」
「ちょっと会長さん?いつまで私の腕を掴んでいるつもり………ぐぅ!?」
完全に無視されていた美憂は、こちらを向けと言わんばかりに右腕に更なる力を込め、クロエを押し切ろうとするが――万力で締め付けられたように、彼女の腕から抜け出す事が出来ない。
押しても、引いても刃は微動だにせず美憂は動揺に顔をしかめた。
「あらごめんなさい、貴女が居た事をすっかり忘れていました。すぐに離しますからそんなに怒らないで下さい、な!!」
「アギャアッ!!??」
パキン。
板チョコレートを2つに割ったような軽い音。
悪びれた様子も無く言い放ったクロエがほんの少し掴んだ手に力を込めただけで、少女の兇刃はいとも簡単に砕けてしまった。
金属質になった腕にもちゃんと痛覚はあるようだ。
血が滴るように、砕いた金属片がパラパラと地面に落ちて美憂は苦痛に顔を歪めている。
背後では鈴風がその光景に唖然としていた。
「さて、篠崎美憂さん?……私は忙しい身です、貴女如きといちいち遊んでいる暇はありません。このまま大人しく去るというのであれば、反省文だけで許して差し上げますよ?」
「グゥ……な、舐めるなぁ!!」
基本的に、クロエは飛鳥以外の人間には冷徹な態度をとることが多く、鈴風はまだマシな方である。
憤怒の感情に身を任せ再び刃を振り上げる美憂を、害虫でも見るような侮蔑の表情で一瞥し、
「遅い」
一筋の閃光が走った。
しかしそれは眼前の怪人が振るった大鎌によるものではなく、いつの間にかクロエの両手に収まっていた二挺の拳銃によるものだった。
その名を、魔女の鉄槌“クラウ・ソラス”。
眩く光る白銀の銃身が印象的だが、しかしその銃の『異様』はその銃身下部に取り付けられた大振りのブレードにあった。
巨鮫の牙にも似た凶暴な形状の表面には、びっしりと古代文字が刻印されており、呪詛にも思えるほどに禍々しく明滅していた。
そんな呪いの武器と、クロエの白磁のように細くしなやかな両の手はあまりにアンバランスであったが、同時にその銃は彼女の一部であるかのように恐ろしく調和しているようにも見えた。
「――――ァ」
地面に刃が突き刺さる音が美憂の背後から聞こえた。
美憂は茫然とした表情で落ちた刃を見届け、そして自身のきれいに切断された右腕に視点を移し、声にならない悲鳴を上げた。
「そんななまくらで私に挑もうなどと……身の程を知れ」
「どうして……? どうして私がこんな簡単に? 私は生まれ変わったのに、誰にも負けない『力』を手に入れた筈なのに……何故!?」
「誰にも負けない? “人工英霊”の成り損ない風情が大きくでましたね? その言葉を口にすることが許されるのは、揺るがぬ信念と不壊の意志。そしてあらゆる存在に反逆し、対抗し、打ち克つ決意と覚悟を持つ者のみです。……キサマ如きが口にしていい言葉ではない」
何かが彼女の逆鱗に触れたのか、思わずクロエは感情的になっていた。
浮世離れした美貌を憤怒に染め上げ、殺意に満ちた視線で美憂を射抜く。揺らぎの無い挙動で銃口を彼女の眉間に向け、抑揚のない声で告げた。
「まあいいです。弱者はただ淘汰されるのみ……早急にこの世から消え失せなさい」
「ヒィ――!!」
「待って……待って!!」
ある筈がない。
唐突に逆転した『狩る者』と『狩られる者』。
その事実に動転し、恐怖し美憂は完全に凍りついてしまっていた。
そんな彼女に一切の憐憫など抱く事も無く、ただ粛々と引き金を引こうとしたクロエの正面に、両手を広げて鈴風が立ち塞がった。
「やり過ぎだ! いくらなんでも殺す事は無いでしょうが!!」
「……鈴風さん。その子は先程まで貴女を殺そうとしていたのですよ? それを庇い立てするなど正気の沙汰ではありませんね……それとも何ですか? 話せば分かる、なんてふざけた事を言うつもりですか」
「そうだよ。この子はあたしの大事な後輩なんだ。こんな事になったのも何か事情があって――」
「事情、ね……彼女がどういう存在に成り果てたのかを知ってなお、その言葉が続くでしょうか?」
「それって、どういう――」
「ガアアアアァ!!」
餓狼の如き咆哮が鈴風の背後から飛ぶ。
大きく跳躍し、彼女の頭上を飛び越えクロエを強襲する美憂だったが、その決死の抵抗を眉一つ動かさず、クロエは両手の銃剣で受け流し、足を払って転倒させた。
そして、背中を打ちつけたことで肺の空気が無理矢理吐き出され、大きくむせ込む美憂に向かって無造作に銃弾が撃ち込まれた。
「美憂ちゃん!?」
美憂の右肩を穿った銀の銃弾。
苦痛に喘ぎ暴れる彼女の傷口を抉るように右肩を足で押さえ付けて、無表情で見下ろす様はまさしく悪魔――否、『魔女』であった。
「話の途中です、少し大人しくしていて下さいね。……ごらんなさい鈴風さん、今撃ったばかりの傷がもう治癒しかけているでしょう?」
「何を馬鹿言って…………え?」
血が噴き出している筈の傷口は、すでに塞がりかけていた。並の人間ではありえない代謝能力に鈴風は眼を見開く。
そして告げられる、圧倒的な身体能力、肉体を変質させる『異常』の正体。
「彼女は“人工英霊”と呼ばれる存在です。科学によって生み出された、紛い物の英雄。神を貶め、神に為り変わろうとする咎人達」
「エインフェリア……?」
鈴風はその名前に聞き覚えがあった。
エインフェリア(エインヘリアルとも呼称される)の語源は、北欧神話における死亡した勇者や英雄。神に仕える戦乙女――ヴァルキリーによってその魂を選定され、神々に従う戦士として戦い続ける存在である。
だが鈴風の知るそれは、あくまで語源に過ぎない。
10年前、彼等は突然現れた。
ある者は、銃火器や鋼の刃にも傷ひとつ付かない金剛石の如き肉体を持ち、紛争地域の中心に突如出現して敵味方関係無くすべてを沈黙させた。
またある者は、とある熱帯地方の都市に現れた。そしてそこで降るはずの無い雪を降らせ、そして街1つを丸ごと氷漬けにした。
そんな彼らを目の当たりにした者は口を揃ってこう言った。
――奴らは悪魔だ。人の形をした悪魔だ!!
規則性など存在せず、ただの気まぐれのように現れ、蹂躙し、そして消え去っていく彼等の存在はまさしく悪魔であった。
幸いであったのは、彼等の数は決して多くはなかったという事。
出現から10年経過した現在の時点で確認された彼等の数は100人にも満たない。
そしてその大半は、超常的な能力を持つとはいえ生身の人間であり、決して人類が対抗できない相手ではなかった。なお、そうもいかない個体も存在したが、そういった個体は極めて少数であり、大局的に見ると被害はそう多くは無かったのだ。
各国家は無用な混乱を避けるため――いち個人に国家が翻弄されるなどあってはならない、という面子もあったのだろうが――情報統制をかけ、一般には彼等の存在が認知されないように操作した。
「有り体に言えば、人間離れした超常能力を獲得した改造人間ですよ。つまり、この子もつい最近誰かの手によって改造されたんでしょう……ねえ、篠崎さん?」
「…………」
クロエの視線に身を震わせる美憂の心境は蛇に睨まれた蛙のようだった。クロエの無言の追及に思わず視線を逸らした。
「だんまりですか。……別に構いませんけどね、おおよその見当は付いていますし」
「そんな……美憂ちゃん、どうして……?」
何だか泣きそうな瞳で必死に口を噤む美憂の姿に、クロエは溜息をつき、鈴風は何が何だか分からないといった風に頭をかきむしっていた。
だからこそ、誰も気が付かなかった。
困惑した表情で美憂に問い掛ける鈴風に対して、
「――お前達が知る必要はない」
その返答は――美憂も含め――予想外の場所から発せられた。その声の主は、クロエの背後から迫る黒色の禍つ風。
放たれた鉄腕をクロエは受け止めきれず、
「グッ……きゃあああああっ!!」
「先輩っ!?」
大きく吹き飛ばされ、先程の鈴風の焼き直しのように校門の扉に激突した。
倒れ伏す事はなく何とか立ち上がるクロエだったが、右腕が力無くだらりと垂れ下がっていた。今の一撃で骨を砕かれた可能性が高い。
「……仕留めきれなかったか。まあいい、その腕ではいかな『魔女』とて脅威に非ず」
全身黒色の軍服に身をつつむ男が、漆黒の闇の奥から姿を現した。三つ編みにした黒の長髪が、蜥蜴の尻尾のようにゆらりと揺れる。
目を引くのはその右腕――クロエを奇襲した男の右拳は素手ではなく、白銀色の、文字通り『鉄腕』であった。
「大の男がか弱い女性を不意打ちとは……男の風上にも置けませんね」
皮肉げに笑うクロエだが、その表情からは苦悶が隠し切れておらず、先のダメージが想像以上に大きかったようだ。
その様子に満足げに鼻をならした男は倒れている美憂に近づき、
「篠崎美憂、お前には心底失望した。『魔女』を相手に首級をあげられるとまでは思ってなかったが……かすり傷すら与えられずに敗れるなど、人工英霊の名に泥を塗る行為に他ならぬ、恥を知るがいい」
「そんな……私はただ……」
「だが、結果としては『魔女』に手傷を負わせる事ができた。お前は役割を果たす事が出来た、と言えるのだろう」
「そ、それじゃあ!!」
美憂の苦悶の表情が、一瞬にして喜びに彩られた。
何かを期待するように男を見上げる美憂だったが、
「ああ……お前はこれでもう、用済みだ」
「…………え」
ぎりぎりと、金属が軋むほどに強く握りしめられる男の拳に美憂は絶望した。
その一撃はまさしく鉄槌、美憂の肉体などリンゴを割るよりも容易く撃砕するだろう。
男の殺気に当てられ、身動き一つ出来なかった彼女は、為すすべなくその運命を受け入れ――
「やめろおぉぉぉっっ!!」
「ぬうっ!?」
その直前に、決死の体当たりを敢行した鈴風によって男はたたらを踏んだ。
それにより軌道がずれた男の拳は、美憂の頭のすぐ隣の地面を穿ち、大地に深々と食い込んでいた。
ボロボロの身体に鞭打ち、鈴風は美憂を庇う様に男の正面に立つ。
「ふざけるな、ふざけるな、ふざけるな! いきなり出てきて、いきなりあたしの大事な友達と後輩殺そうとして。一体アンタは何なんだ!!」
吼える。
痛みがなんだ、力の差がなんだ。
津波のように押し寄せる理不尽の大群を前に、鈴風は限界だった。
可愛い後輩がいきなり襲ってきて、実は改造人間になっていて、よく分からないが複雑な事情がありそうで、そしてたった今用済み呼ばわりされて殺されかけた。
「死にゆく者に名乗っても詮無き事だが。……我が名は劉功真。主命により『魔女』抹殺の任を受け推参した“人工英霊”が一柱」
「どうでもいいわ!!」
そっちから聞いておいて何だその言い草は――声には出さなかったが、劉は眼前の少女の不遜ぶりに不快感をあらわにしていた。
「ああそうだ、どうでもいい……あんたが美憂ちゃんを操って、泣かせて、殺そうとした。それだけ分かってれば充分だ!!」
「センパイ……」
「大丈夫だよ、美憂ちゃん。あたしがなんとかする、絶対になんとかするから!!」
勝機なんてない、彼女を助けられる力が自分に秘められているとは思っていない。それでも、それでもだ。
「ここで逃げちゃあ、女が廃る!!」
涙でくしゃくしゃになった美憂の顔を見た瞬間、そんな理屈は鈴風の脳裏から綺麗さっぱり消えてなくなった。
ともかく一発、目の前の腐れ外道の顔面をぶん殴らないと気が済みそうにない!!
「そこまでです、鈴風さん」
闘気を漲らせ、今まさに突撃敢行といったところでクロエが鈴風の肩を掴んで制止する。
「止めないでよ先輩。あの野郎のすかした面ボコボコにしてやるんだから」
「はぁ……気持ちは分かりますがね。だからと言って貴女が無駄死にするのを黙って見ている訳にもいかないでしょう」
「……なら、一緒にぶん殴る?」
不敵に笑う鈴風。そんな彼女にクロエは思わず苦笑してしまう。
状況を見ればそれが最善のようにも見える。人工英霊相手に、手負いのクロエと力を持たない鈴風の二人でどこまでいけるかだが……
「ふふ、それは中々に魅力的な提案。しかし……その役目は私達ではありませんよ。何のためにさっき、私がらしくもない悲鳴をあげたと思ってるんですか?」
悪戯っぽい笑顔を向けてくるクロエに、鈴風はどういう事か訊ねようとした瞬間。
宵闇の空から、太陽が落ちてきた。
「な、何っ!?」
想定外の乱入者に驚愕する美憂。
「え……」
見慣れた幼馴染の変貌した姿に戸惑う鈴風。
「くっ……霧谷め、しくじったか!!」
忌々しく『彼』を睨みつける劉。
「お待ちしておりました……飛鳥さん」
待ち人来る。
だがその姿は彼女らが見慣れたものとは大きくかけ離れていた。
揺らめく赤銅色の髪、全身から立ち昇る炎のような――否、炎そのもので構成された深紅の闘気。
人型の太陽の降臨は、暗闇で先の見えない地平を一気に茜色に染め上げていった。
夕暮れ時に巻き戻された空間、その中心で佇む飛鳥は周囲を見渡す。
「…………」
右腕を押さえながら穏やかな笑みを飛鳥に向けてくるクロエ、ぽかんとした表情の鈴風、右腕を失い倒れ伏している見慣れない少女。
状況を瞬時に飲み込むには至らなかったが、
「……現れたな、日野森飛鳥」
親の仇でも見るようにこちらを睨みつけてくる劉の姿を視認して、今自身が為すべき事を理解した。
――こいつは潰す。
雪彦と対峙した時とは違う。
自身の能力を解放することに何の抵抗も無く、それを以て対象を完全撃滅することに何の躊躇も必要ではない。
では、高らかに掲げるがいい。
今こそ、お前の決意をこの世界に見せつける時だ。
「――我が精神は、遍く炎で満ちている」
決意を炎に、信念を刃に――両手に発生した紅蓮の渦が細く、鋭く収束し二振りの剣を創造した。
刀身を血流にも似た紅い軌道が走っていた。無機物でありながら生命力に満ちたその双刃は、闇を切り裂き光をもたらす『奇跡の鋼』を幻想させた。
“緋々色金”。
オリハルコンという別称を持つ『輝く鉄』の名こそ、日野森飛鳥を“人工英霊”たらしめる烈火の能力の発現だった。
確かな重みを両手に携えた飛鳥は、穏やかな日常に別れを告げるべく一歩を踏み出した。
「主命など関係無い、貴様はここで倒す。我等と根源を同じくする“人工英霊”でありながら、我等を裏切り抗い続ける大罪人――『反逆者』め!!」
「それはこちらの台詞だ。俺の家族に手を出しておいて、生きて帰れると思うなよ――貴様はこの場で、灰も残さず焼き尽くす!!」
紅を纏う男と、黒衣を纏う男の衝突の火花が、闇夜の空を赤々と染め上げた。
これが日野森飛鳥とその仲間達による果てしない闘いの幕開け。
『超人』と、『魔女』と、『機械』が乱れ踊る、冒険譚の始まりを告げる号砲となった。