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AL:Clear―アルクリア―   作者: 師走 要
STAGE2 Metallic WarCry
32/170

―第27話 Dance with Heavy Metal ①―

少々スランプ気味。次の話からが本番だというのに、言葉が出てこない……

 放課後になった。

 突然の霧乃の学園来襲という衝撃的(センセーショナル)なイベントがあったものの、今はあまり彼女に関わっている暇はない。

 飛鳥達にはこれから外せない用事があったのだ。


「ブーステッドアーマーって……たしかニュースでやってたよね、『着用する戦車』だとか」


「《八葉》にも正式配備されるらしくてな、俺も立ち合うように言われてたんだ」


 一行は白鳳市北部、工業地域の玄関口である玄冥(げんめい)駅に降り立った。

 飛鳥を先頭に、隣には鈴風、後ろからはクロエ、リーシェ、沙羅、一蹴と随分と大所帯だ。ちなみにフェブリルは制服の胸ポケットの中でぐーすかお休み中。

 断花重工でこれから行われる、戦術機動外骨格(ブーステッドアーマー)“ランドグリーズ”の起動実験。

 飛鳥は《八葉》第二枝団『雷火』の隊長として、緊急時に対しての警備のために呼び出されていた。

 本来はひとりで行く予定だったのだが、


「何か手伝えることないかな? あたしも人工英霊(エインフェリア)になったんだし、できる事なら何でもするよ?」


 と、何とも頼もしいことを言ってくれる鈴風に、


「あまり学園にいたくないんです……」


 げんなりとした様子のクロエ、理由は察するに余りある。


「ひとりにしないでくれぇ」


 そして、まだ学園で友達ができていないリーシェがくっついてきた。

 鈴風に関しては、人工英霊になった以上遅かれ早かれ《八葉》に顔見せさせるつもりだったため、手間が省けてちょうどよかった。

 クロエには霧乃絡みの相談が必要だろうし、リーシェは既にあちら側とも面識があるので連れて行っても特に問題はない。


「沙羅先輩はどう思います? 実際のところ、“ランドグリーズ“は役に立つんですかね?」


「それを実証するための今回のトライアルですわ。生身の人間と同等の運動性能と、戦闘車両としての火力を兼ね備える――軍事兵器のひとつの到達点でもあるブーステッドアーマーがどれほどのものなのか」


 いつの間にか隣に追い付いてきた沙羅に、件の新型兵器について尋ねてみた。

 10年前に起きた工学技術の変革――『セカンド・プロメテウス』により、最も大きく激動した分野は間違いなく軍事関連であろう。


 昨今では既存の軍事兵器の小型化、高性能化が推し進められ、戦争のモデルも大きく変わりつつあった。

 2029年現在においても、国家体制や貧困、異なる思想の食い違いなどによって武装テロが発生するケースは後を絶たない。

 仮に、約1000人の機関銃や手榴弾で武装した構成員を擁する組織を鎮圧、あるいは壊滅させるとすればどれほどの戦力が必要か。同じだけの人員が必要だろうか、大型の戦車を何台も投入しなければならないだろうか。


 答えは否だ。


 地の利や連携効率を考慮したとしても、“ランドグリーズ”1体あれば事足りる。それが戦術機動外骨格の開発理念であると沙羅は言う。

 『着用する戦車』、先の鈴風の発言がそのまま正解なのだ。

 人間が乗り込んで、二本の腕と二本の脚を持つその機械兵器を文字通り『着用』する。身も蓋もない言い方をすれば人型ロボットである。

 先日飛鳥がリーシェを迎えに断花重工に(おもむ)いた際にも目にしたが、特撮やアニメが好きな子供が見れば狂喜乱舞しそうな外見だったのだ。


「疑うわけではありませんが……人工英霊や大型兵器相手に太刀打ちできるのかと言われると」


「だったら日野森さん、ランドグリーズと対戦してみませんこと? 実戦形式の方がよりよいデータが取れそうですし」


「……遠慮しときます」


「あら残念、貴重なデータ収集のチャンスでしたのに」


 いくらなんでも好き好んで最新鋭の機動兵器に生身で挑もうとは思えなかった。人工英霊とて銃弾が当たれば痛いでは済まないのだ。

 いち研究者としては興味があったのだろう、沙羅はつまらなさそうに唇を尖らせていた。


「ところで一蹴、なんでお前まで来てるんだ?」


「暇だったから。……ってのは冗談で、親父が見てこいってよ。そいつの出来次第では警察にも導入するかもしれねぇんだってさ」


 納得。

 《パラダイム》や《九耀の魔術師》、最新科学兵器といった人の手に負えない存在がたむろしている白鳳市の警察署長としては、少しでも抑止力に繋がる戦力は押さえておきたいのだろう。

 他の都市ならいざ知らず、この混沌都市では拳銃一丁で対処できるような相手の方が少ないのだから。

 

「…………あれ、影が?」


 気のせいだろうか、アスファルトに伸びる影が不自然に揺らいだような気がした。

 真っ直ぐ歩いている筈なのに、影だけがまるで酔っぱらっているかのように右に左に蛇行している。その上、他のメンバーに比べて飛鳥の影だけが異常に濃い(、、、、、)

 見ているだけで引きずり込まれそうな、底なし沼にも似た『闇』だ。不思議なことに、闇の奥底から誰かの視線を感じるのだが……


「到着ですわね。私は“ランドグリーズ”の最終調整に行ってまいりますので、お先に失礼しますわ」


 そうこうしている間に断花重工(たちばなじゅうこう)の門を潜っていたようだ。

 学生から科学者の顔に切り替わった沙羅を見送り、飛鳥達も試験場に向かおうとしたのだが、


「へぇ~、ここが弟くんの仕事場かぁ。随分立派な所に奉公(ほうこう)してるのねぇ、お姉さんびっくりしちゃった」


「~~~~~~~~ッ!?」


 突如耳元に吹きかけられた女性の声と吐息に、思わず背筋に怖気が走った。


 ――成程、そういう事か(、、、、、、)


 いつの間にか飛鳥の背中に手を置いてしなだれかかっていた女性――夜浪霧乃と視線を合わせる。


「何故にここにいらっしゃるのでしょうか、霧乃さん?」


「そんなつれないこと言わないでほしいわねー。折角1年ぶりに再会したんだから色々お話したかったのに、弟くんったら放課後になるやすぐにどこか行こうとしたもんだから、慌ててついて来たのよ」


俺の影に隠れて(、、、、、、、)ですか」


 拗ねた様子で頬を膨らませる霧乃に、飛鳥は頭が痛くなった。

 何と言う事のないイベントが、霧乃がいただけで大騒動に発展した事例は一度や二度ではない。

 そのため飛鳥は彼女を撒くつもりで早々に学園を後にしたのだが……どうやら相手側が一枚上手だったようだ。


「まさか魔術を飛鳥さんのストーカー行為などに利用しようとは…………《九耀の魔術師》にあるまじき蛮行です。今すぐ粛清(しゅくせい)しましょう、ええ、そうしましょう」


「スス、ストーカーちゃうわ! さらっと抹殺宣言してんじゃないわよこの馬鹿弟子が! っていうかアンタにだきゃあ言われたくないっての!!」


 殺る気満々で拳銃を取り出そうとするクロエに、霧乃の鋭いツッコミが飛んでいた。

 飛鳥自身はそれほど詳しくないのだが、クロエが“白の魔女アンヘル”と呼ばれる『光』を操る魔術師であるように、霧乃は“黒の魔女(エキドナ)”の名に由来する『闇』を操作する魔術師だ。先程飛鳥の影に隠れていたのもその力の一端である。

 このような下らない事に魔術を使うなというクロエの言も尤もだが、事あるごとに魔術兵器である“クラウ・ソラス”を抜こうとする彼女も大概だろうに、と飛鳥は思う。

 もちろん口には出さない。矛先をこちらに向けられては堪らない。

 ぎゃいぎゃいと騒ぎ立てる魔女2人からそそくさと距離をとり、飛鳥は速やかに仕事に向かうことにした。


「え、いいの? あの2人置き去りにして?」


「じゃあお前が止めてくるか?」


「……さあ、お仕事お仕事! 張り切っていってみよーか!!」


 あの2人の間に入るというのがどういう事なのか、鈴風にもよく分かっていたのだろう。全力で目を逸らしながら、わざとらしい大声をあげる幼馴染を先頭に一行は歩き出した。




「やれやれ、仕事前だってのにやけに疲れた……」


 更衣室のロッカーで、飛鳥は学園の制服から《八葉》で支給された隊服に着替えていた。

 不慮の事態に備えていつでも動けるようにしておかなければならないし、警備の任務だというのに制服姿では格好もつくまい。


 『隊服』とはいえ、飛鳥が纏うそれは彼専用に仕立てられた特別製だ。

 外見は赤銅色のフード付ライダースジャケットで、炎の人工英霊である飛鳥が放つ熱火に焼けてしまわないよう高い耐火性を持つ。同系統の素材で作られた黒のインナーに同色のパンツに着替え、頑強かつ無骨なコンバットブーツの紐をしっかりと結んで立ち上がった。

 一見するとロックミュージシャンのような攻撃的な格好ではあるが、燃えるような灼熱色の髪を持つ飛鳥が着ると、まるで体の一部であるかのように調和していた。


「よし、あとは……」

 

「うにゅにゅ」


「どうしよう、この子」


 脱いだ制服の上着をハンガーに吊るしたところで飛鳥は気付いた。

 制服のポケット内で眠りこけるフェブリルをどうするか。

 ぐっすりと熟睡しているようだし、無理に起こすのも気が咎める。隊服のポケットに移し替えてもいいのだが、間違いなく動きづらくなるだろう。

 数秒の逡巡の後、連れて行っても面倒くさいという結論が出たので置いていく事にした。

 1、2時間程度で戻ってくるだろうし、一度寝たらそうそう起きないのがこの使い魔クオリティだ。音をたてないようにゆっくりとロッカーを閉めて、更衣室を後にしようとしたのだが、


「はぁ、はぁ、はぁ……素晴らしい、素晴らしい肉体美ですよ飛鳥くん」


「うわぁ、飛鳥って結構筋肉あるんだ……でもでも、いやな感じじゃなくて、きれいっていうか……うわぁ、うわぁ……」


 半開きになっていた入口の扉からこちらを見つめる二組の双眸にぎょっとした。さっきなんとも不穏当な呟きが聞こえたが、あまり掘り下げないほうがいい気がした。

 大きく溜息をついて、勢いよく扉を開け放つ。


「「うわわぁっ!?」」


「夜行さん、何やってるんですか……鈴風まで」


 扉にへばり付いていた2人は土砂崩れのように倒れ込んだ。

 その様子をじっと見下ろす飛鳥に、2人の覗き魔――来栖夜行(くるすやこう)と鈴風はだらだらと冷や汗を流しながら必死に弁明しはじめた。


「いやいや私は、君のために仕立てたその服のサイズがちゃんと合っているかどうか心配になってだね?」


「あたしは、ほら、飛鳥を呼びに来ただけなのですよ? やましいことなんてなーんにもないのですよ?」


 あまりに苦しい言い訳だった。

 とはいえ、なぜ覗いていたのかなどと追及する気はなかったし、聞きたくもなかった。(やぶ)をつついて蛇を出すどころの騒ぎでは済まない気がしたのだ。


「ん? 鈴風、その格好……?」


「ああ、これ? 夜行さんに作ってもらったんだ、飛鳥とお揃いだよー」


 鈴風の服装は先程までの制服ではなく、飛鳥が今来ている隊服に近い造形をしていた。

 風を象徴するような深緑色のジャケットは、どうやら飛鳥の上着の色違いのようだ。下半身のキュロットスカートとショートブーツが軽やかな印象で、快活な鈴風にはよく似合っていた。

 流石は来栖夜行謹製(きんせい)というべきか、初対面の相手のために仕立てたにも関わらず、恐ろしいほどにサイズがぴったりだった。

 鈴風はそんな新衣装をこちらに見せびらかすように、両手を広げてくるりと一回転した。


「どう? どうよ感想は?」


「そうだな、流石に制服姿で動き回るわけにはいかないからな。着替えたのは正解だと思うぞー」


「……ぶっ飛ばすよ?」


 目の前で握り拳を見せて睨みつけてくる鈴風を見て、遊びが過ぎたかと少しばかり反省した。

 しかし、あまりこういった事柄に対して気の利いた台詞など、飛鳥はそうそう思い付かない。

 そもそも今の鈴風の服装は、多少の変則が入ってはいるが『戦闘服』なのであって。それを似合っていると評価するのは果たして正解なのだろうか?


「ほらほらテイク2。茶化さないでちゃんと答えなさーい」


 やむを得まい。

 下手の考え休むに似たりとも言うし、思い付いた感想をそのまま言葉にした。


「鈴風っていい足してるよな」


「………………へ?」


 時折、自分は果てしないアホなのではないかと思う時がある。

 ショートパンツと言っていいほどにかなり短い丈のキュロットと、膝上まで覆う黒のサイハイソックスが織り成す脚線美はもはや芸術品であろう。

 そして運動部で鍛えられた引き締まった太股は、はっきり言って眼福以外のなにものでもない。

 随分と浮ついた思考をしてしまっていた飛鳥だったが、


「あ、あ、飛鳥……あたしのこと、いつもそんな目で見てたの? ふ、ふとももとか、きゃくせんびとか……?」


「……あれ?」


 心の中だけで留めているつもりだったが、どうやら声に出ていたらしい。羞恥に顔を真っ赤にした鈴風の震える声で飛鳥はようやく我に返った。

 いかん、早く軌道修正しなければ。


「いや、鈴風、違うんだ今のは……」


「……じょ、冗談、なんだよね?」


「いや完全に本心だけどな」


「いいやああああああああああっ!?」


 疲れが溜まっていたのだろうか。

 建前など知らぬと言わんばかりに、飛鳥の口からは配慮ゼロのセクハラ発言が飛び出すばかり。

 背を向けて脱兎のごとく全速力で逃げ出した鈴風をぽかんとした面持ちで見つめながら、飛鳥は自分の迂闊さ加減を呪った。


「……飛鳥くん。なんやかんやと言いながら、君も男だったんだねぇ」


「そんな優しい目をしながら肩を叩かないでいただけますか?」


 私は君の理解者だよと言いたげな夜行の視線に対し、こんな人に共感されたくなかった飛鳥は心底嫌な顔をした。

次は久々の戦闘シーン。

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