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AL:Clear―アルクリア―   作者: 師走 要
STAGE1 勝利の風と翼の騎士
23/170

―第20話 烈火と雷電―

本作品に『作者はチート嫌い』のタグをあえて付けた理由。それを今回劉が代弁してくれています。

 この身を鍛え、研鑽し続ける意志がある限り、自分は誰よりも強くなれる……それが幻想であることに気付いたのはいつだっただろうか。


 2024年、香港。

 その時、男は確かに『王者』だった。


 それは香港五輪(オリンピック)――心身を極限まで鍛え上げ、世界中の猛者と競い合う、スポーツの祭典にしてひとつの到達点。

 その中で、水泳種目において八面六臂(はちめんろっぴ)の活躍を見せ、全世界から脚光を浴びた人物がいた。

 中国代表、男の名を劉功真(リュウ・フージェン)と言った。

 全種目の内、約半分を自身の世界記録で塗り替え、団体でも祖国を優勝へと導いた『王者』の名だった。


「当然です。自分ならやれると信じて、ずっと鍛え続けてきたのですから」


 無愛想なれど、確固たる信念を感じさせる彼の言葉は、各メディアも大きく称賛した。

 それは、遠い日本のモニター越しにそれを見つめていた、当時小学生だった飛鳥の心にも強く響いていた。


 ――信じることを諦めなければ、願いはは必ず叶うのだと。


 俗な言い方かもしれないが、飛鳥は劉の姿に勇気をもらったのだ。

 だからこそ、悲しい。


「人とはその意志次第で、どこまでも昇っていくことができれば、どこまでも墜ちていく(、、、、、)こともできるのだと……俺は貴方から学んだよ、劉功真」


「愚想だな。どれほど自分を信じて突き進んだとしても、我の歩んだ道は総じて無意味(、、、)であったと……あの時学んだのだ」


 人はこうも変わってしまうものなのかと、日野森飛鳥は苦々しい感情を噛みしめながら劉功真と対峙していた。








 並み入る機械兵器群の壊滅を確認した飛鳥だったが、どこかざらついた感覚が背筋から消えることはなかった。

 殺意や闘志とは違う、言葉にならない不信感があったのだ。


「クロエさん、先に鈴風達のところへ行ってくれませんか? フェブリルも」


「それは、構いませんが……飛鳥さんはどうなさるのです?」


「倒れた人達を安全な所に運んだら、すぐに追いかけますよ」


「……分かりました」


 クロエも何かを感じ取っていたようだが、飛鳥の様子を察してか、特に何も追求せずに応じることにしたようだ。

 同意を得た飛鳥は、肩に止まっていたフェブリルを摘み上げ、クロエの頭の上に乗っけてみたのだが、


「カタカタカタカタカタカタカタ」


「なぜそんな不自然に震えているのですか?」


 暴虐の化身である魔女の姿を目の当たりにしたことによる消えない恐怖心からか、フェブリルの全身が小刻みに震えていた。

 クロエの頭の上で、引きつった表情のまま借りてきた猫のように固まる彼女の姿に、飛鳥は心の中で合掌した。

 魔女と使い魔なのだから、相性は良さそうなものだが――そういう問題でもないようだ。

 訝しむクロエをよそに、捨てられた仔犬のように泣きそうな顔でこちらを見つめてくるフェブリルだったが、飛鳥は心を鬼にしてそのまま見送ることにした。

 クロエが呟くような小さな声で言霊を発していた。

 どうやら魔術を使って移動するようだ。


「では、行きますよ」


「え!? ちょっと待ってアタシやっぱりアスカと一緒にい―――――――」


 何かを言おうとしたのだろうか、それとも悲鳴だったのだろうか。

 残像すら見えなかったほどの瞬間移動。

 コマ落としのように中途半端に途切れたフェブリルの叫びが、その凄まじさを物語っていた。

 ともかく、これでこの場には飛鳥ひとりに――


「人払いは済んだ……出てきたらどうだ?」


「……どういうつもりだ、日野森飛鳥」


 ――否。

 背後の家屋の影から現れた男、劉功真との2人となった。

 先程の鉄機兵団を操作していた指揮官――無機物の自在制御能力を持つこの男の存在に気付いていた飛鳥は、あえて1対1(タイマン)での果たし合いを挑むことにしたのだ。


「深い理由はないさ。ただ、そろそろ決着をつけるべきだと思っただけだ」


「それには同意しよう。……思えば、貴様とこうして相対するのももう何度目か」


 白鳳学園、山岳地帯、そして今。

 この数日で実に三度も対峙している両名だが、しかしそれ以前、約1年以上前から2人の因縁は続いていた。

 治安維持組織《八葉》に入隊したばかりの飛鳥が、初めての実戦で衝突した相手こそ、他ならぬ劉功真であったのだ。


「初めて貴方(、、)と会った時には驚いたものだ。まさか五輪(オリンピック)の金メダリストが人工英霊になっていたとは」


「フン……忌々しい記憶だ。(たゆ)まぬ努力と研鑽こそが至高の自分を作り出すと――そのような妄想に踊らされた、ただの凡愚(ぼんぐ)としてのな」


 過去の自分を愚かしいという一言で斬って捨てた劉の横顔には、嘲りだけではない、どこか苦悶を耐え忍ぶような表情が見え隠れしていた。


 ――後悔、しているのだろうか。


 かつての五輪の王者。

 その姿は誰よりも誇らしく、他のどの選手よりも輝いていた。

 研ぎ澄まされた日本刀のような凛々しき勇姿に、飛鳥はモニター越しに一喜一憂したものだ。

 しかし、その王者の風格はどこへ消えたのだろうか。

 《パラダイム》の尖兵、人工英霊として姿を現した男の魂は、完全に錆付いているように見えた。


「なぜ《パラダイム》に加担する? いたずらに戦火を広げるような組織に、大義なんてない事くらいわかるはずだ」


「正邪の問題ではない。我は思い知ったのだ、どれほどの努力や才能があったとしても、それを軽々と凌駕する存在を」


 それが人工英霊のことを指していることは、問わずとも分かることだった。

 誇らしさなど微塵もない、苦痛を耐え忍ぶような表情で、劉は言葉を続けた。


人は限りなく脆弱だ(、、、、、、、、、)。知恵を宿し、道具を用いる知識を身に付けたことにより、人という生物種は最弱に成り果てた。……その愚かな人の業を打ち砕くためには『進化』が必要であったのだ。我が主、リヒャルト=ワーグナーよりの薫陶(くんとう)だ」


「『進化』、ね……人工英霊になったのは自分の意思だったと?」


「無論だ。……笑ってしまうほどに簡単だった、『進化』というものはな。これまでの人生のすべてを費やし己を鍛え、血反吐を吐きながらも鍛練に励んで得た成果も、主より(たまわ)った『祝福』の前では、すべてがガラクタ同然と化した。同類の貴様なら分かるだろう、ただの人がどれだけ懸命に前進したとしても、我ら人工英霊の前では、赤子も世界王者も等しく無力(、、、、、)にしか見えなくなる」


 常人を超越した“人工英霊”という存在は、人間という生物の弱さを(ことごと)く否定し尽くした。

 戦いの経験など無くとも、達人を凌駕する剣を振るい、音速で迫る銃弾を躱す。

 運動経験が殆どなくとも、あらゆる競技において余裕で世界記録を更新出来るだろう。

 飛鳥もかねてから感じていた、超人になるという不条理そのものだった。

 それは、努力や才能、経験、信念といった尊き意志の力を、そんなものに(、、、、、、)意味はない(、、、、、)と吐き捨てるに等しい所業だった。

 故に、劉の辣言(らつげん)に対して飛鳥は反論できなかった。

 世界王者となった劉が、それを知った時の絶望とはどれほどのものか。

 そう考えると、飛鳥は途方もない喪失感に胸を抉られた。

 だが、それに同調するわけにはいかない。


「それでも、俺は信じたい。俺達のような、不条理の存在でも変わりはしないんだ。誰にとっても、ひたむきに前へと進む意志は尊いものなのだと」


「子供の駄々と変わらんな。無意味だと言ったぞ、『進化』によってそのような愚想こそが淘汰(とうた)されるべきことにまだ気づかんか!!」


「俺達は機械じゃない。どんな道のりだったとしても、悩んで、傷ついて、それでも歩みを止めずに進んできたことそのものに意味があるんだ! それはお前(、、)が一番よく分かっているだろう、劉!!」


 理性をかなぐり捨てて、飛鳥は叫んだ。


 ――諦めない、信じ続ける。

 ――高らかに前進をやめない意志の力は尊いのだ。


 己が内の絶望と虚無を吐き出すように、劉は叫んだ。


 ――だとしても、『進化』の前には紙屑同然だ。


 互いに譲れないものが確かにある以上。

 ここより先、ぶつけあうべきは言葉ではない。





「ならばその身を以て思い知れ、反逆者(トリーズナー)。……《パラダイム》の名の下に、(あまね)くすべての人類に『進化』の祝福を」


「だったらその名の通り、とことんまでに抗うぞ。……《八葉》の名において、その歪みきった『進化』に反逆する!!」





 互いの信じるものを、その拳と剣に乗せて。

 高圧電流を纏った鋼拳と、烈火を纏いし魔の双剣の衝突が、大気を強烈に振動させた。

 最新鋭科学により造られた、血肉の通わぬ機械の右腕が唸りの咆哮を響かせる。人工英霊としての能力“鉄機掌握”により、その機械性能を極限にまで高めたのだろう、鈍色の鋼腕は餓竜の如く狂乱しながら駆動していた。

 水素燃料による推進装置(ブースター)と、肘部に埋め込まれた電磁発生器(スタンブリッツ)によって稲妻の如き猛爆連打が飛鳥に襲いかかった。


「ウオオオオオオッ!!」


「グ……速いっ!!」


 これまでの戦闘とは比較にならないほどの技の冴え、拳撃の鋭さに飛鳥の心胆が凍りついた。

 背水の陣を思わせる劉の押しの一手に、一瞬とはいえ呑まれそうになり、飛鳥は改めて気を引き締めた。


 人工英霊の能力とは、単純な力や戦闘技術よりも、精神面(メンタル)に依存する要素が大きい。

 集中力や闘志と言い換えても構わないが、彼らの潜在能力(スペック)とはそのような精神状態の上下によって大きく変動している。

 精神力を燃料に、人間には決して為し得ない魔技を為す。

 そのために、己の心を奮い立たたせ、相手の心を打ち砕く。

 人工英霊同士の戦いとは、即ち『信念』のぶつけ合いであるとも言えた。

 

「参式“赤鱗”……打ち砕け!!」


 戦車砲にも匹敵する劉の剛拳を(さば)き切れないと判断した飛鳥は、双剣形態を解除し、敵と同じく両腕に深紅の鋼を纏った。

 拳と拳。

 男同士の戦いにはこの方が相応しいだろうと、飛鳥の口元は無意識に獰猛な笑みを形作った。


「拳術で我に挑むか――面白い! 我とて北派翻子拳(ほくはほんしけん)を修めし身、そう簡単に崩せるとは思うな!!」


「はっ……研鑽など無意味だと言っておきながら、随分と誇らしげじゃないか!!」


 喜悦を含んだ声で劉も応じる。

 (たか)ぶる熱意に抗うことなど無粋だと、2人は激情のまま正拳を激突させた。

 飛鳥の炎拳が劉の鋼拳を、触れた先から融解させていく。

 それを見て、劉が放った雷電の連閃打が飛鳥の手甲を幾度となく削り取る。

 炎と雷が踊り狂い、飛び散る鉄火が肌を焼いた。


「……ハハッ!!」


「……フッ」


 撃滅乱舞の応酬の中、いつしか2人は笑っていた。

 それは子供の喧嘩と変わりはしない。

 俺が正しい、お前は間違っている。

 そう思って、互いの意地(エゴ)を譲ることができずに戦い始めた――しかしこうして殴り合っているうちに、そんなことは忘却の彼方だ。

 踏み込みざまに放たれる飛鳥の拳、その一矢を劉は鋼鉄の肘にて迎撃した。


「弾けて消えろぉっ!!」


 瞬間、雷神の咆哮が飛鳥の鼓膜を貫いた。

 周囲の家屋や草木を焼き払い、己が肉体もろとも焼いて砕けと右腕から炸裂する雷霆(らいてい)


「グ、ガ――――!!」


 全身を食い破ろうとする稲妻の蛇に、飛鳥は苦悶の声をあげた。

 熱火の化身である飛鳥にとって、電流から来る高熱は大した損傷にはならないが、手足の筋肉の一時的な麻痺によってどうしても動きは鈍る。

 両腕の装甲が(ひび)割れた。

 赤鱗の積層鉄甲も、無数の雷撃の前にいつ瓦解してもおかしくない状態に陥っていた。

 しかし、対する劉も限界が近い。

 機械化された右腕は所々から火花が奔っており、電磁発生器の出力過多(オーバーロード)により、放出される雷電はその主をも切り裂き焼き尽くさんと荒れ狂っていた。

 

「終わりにするぞ、日野森飛鳥。貴様との因縁も、そしてなにもかもを(、、、、、、)


 顔のみならず全身を血化粧で覆いながら、劉は毅然と声をあげた。

 この一撃に全てを懸ける(、、、、、、)と、裂帛の闘志が表していた。

 こうまでも男を決死に駆り立てる理由は何なのか。

 しかし、それを今問い掛けるは無粋だろう。

 飛鳥も最終激突に応じるべく、右腕を大きく後方へと引き絞り構えた。





 風が止む。

 凪いだ水面のような静寂が訪れた。

 ほんの一瞬。

 ほんの一瞬だけ、二人は互いの進む道を思った。



 ――目の前の男は、かつての自分自身なのだ。

 挫折もあった、艱難もあった、失敗もあった。

 それでも、自分が積み立ててきた生き方は決して無駄ではなく、目指すべき未来へといつか必ず結実するのだと。

 そう信じて疑わなかった、幸せだったあの頃の自分と。


 ――目の前の男は、未来の自分自身なのかもしれない(、、、、、、、、)

 克服もあった、獲得もあった、達成もあった。

 それでも、大きな世界のうねりの前では、個々人が抱く意志の力など十把一絡げに意味などなく。

 弛まぬ前進も、諦観した停滞も、結果何も変わりはしないのだといつか思い知る時が来るのかもしれない。


 ――ああ、それでも。決して認めてなどやるものか。

 それは奇妙な連帯感であり、同族嫌悪の極みでもあった。

 故に、結論はひとつ。


 ――よく分かった、お前と自分は呆れるほどに似た者同士のようだ。

 『先達』か『後進』か、違いはただそれだけであり。





「日野森、アスカアアアァァァァァッ!!」

「劉、フゥジェエエエエエンッ!!」


 ――だからこそ、お前のようにだけはなりたくない!!


 何が合図、というわけではなかった。

 ただ、今すぐこの男を殴り飛ばしたいという感情が全く同時に爆発しただけに過ぎなかった。

 大地を蹴り穿ち、疾走。

 策も技巧もありはしない。

 大きく振りかぶった鋼の拳骨ひとつが、奴を砕けばそれでいい。

 憤怒も、意地もまるで同等に、2人の拳と拳は真正面から炸裂した。

 しかし、決して埋められぬ差もあった。


「が、あッ!?」


 そのひとつが装甲の硬度。

 飛鳥の“赤鱗”は精神感応物質形成スピリットマテリアライズにより零の状態から構築されたものであり、劉の鉄腕はすでに完成された武装に能力の上乗せを行ったもの。

 言ってしまえば、武装構築における基礎からして違っていたのだ。

 それにより、劉の鋼鉄は大破しつつも何とかもう一撃は放てる状態であり、飛鳥の鋼鉄は跡形もなく破砕するという格差が生じたのだ。


「これが、貴様の結末だ――愚想に(まみ)れたまま、砕けて落ちろオオオオオッ!!」


 深紅の装甲を穿ちへし折りながらも勢いを止めず、そのまま飛鳥の顔面に向け鋼鉄は走った。

 左腕で防ごうにも、距離は絶望的。

 回避、防御、一切不可。

 だが、


「“烈火刃”肆式(よんしき)葬月(そうげつ)――!!」


 もうひとつの差。

 それは、いかに先を見据えていたか(、、、、、、、、、)

 炎の鳥は何度でも蘇る。

 それを体現するがごとく、砕かれ四散した赤鱗の欠片たちは更なる転生を果たした。


「な、ガアアアァぁあああッ!?」


 幾重もの白光が迸ったと思えば、その直後、飛鳥の頭蓋を粉砕せんと迫る剛腕は空へと飛んでいた(、、、、、、、、)

 その正体は、バラバラになった赤鱗を再構築して創り出された烈火刃第四形態。

 真円型の白熱刃は、さながら天使の光輪(エンジェルハイロウ)を彷彿とさせる。

 それぞれが意思を持っているかのように、縦横無尽に空を駆ける光のチャクラムが、劉の右腕を文字通り輪切りにした結果だった。


「俺の道にはまだ先がある。こんなところで、立ち止まってなんていられないんだ!!」


「――――」


 そして残る左の拳が、劉の胴体を(あやま)たず貫いた。

 装甲に内包された紅蓮の燃焼が、衝撃と共に解き放たれた。

 零距離で起爆され、火花と噴煙を伴いながら大きく吹き飛んでいく劉の表情は、どこか迷いが消え去ったように透き通っていたように見えた。





「……そうか。これは諦めなかった(、、、、、、)かどうかの差だったわけだ」


 大地に身を沈め、空を見上げながら劉は呟いた。

 その声色には悔恨も苦痛も感じられず、清々しさすら漂わせていた。

 己の敗因を、劉は誰よりも理解していた。

 先の一撃、劉は正真正銘の全力で、ここで終わったとしても悔いはないという乾坤一擲の覚悟で放ったものだった。


 しかし、飛鳥はそうではなかった。

 ここで終わるわけにはいかない、たとえ砕かれようとも歩みを止めるつもりはないという、不屈の覚悟。

 未来を求める意志の差であった。


「聞かせてもらっていいか。……なぜ、今回は最後まで戦おうとした? ここまで死を(いと)わずに力を振るった理由はなんだ?」


 仰向けに倒れる敗者たる劉を、勝者たる飛鳥が満身創痍の身体のまま見下ろしていた。

 決着がついたからこそ問うことができる。

 これまでの劉の戦いは、自分の身を守る事を最優先とした慎重なもの――否、言い繕っても仕方あるまい。

 我が身可愛さばかりが先に立つ臆病なものばかりだった。

 だからこそ、疑問だった。

 1対1の状況下だったとはいえ、ああも勇猛果敢な姿を見せられては。


「教える義理はない、と言いたいところだが……まあいいだろう。日野森飛鳥、貴様はこの世界と羽付きの住人達がどういうものなのかは聞いたようだな?」


「ああ……この世界全体が、彼等を兵器として完成させるための実験場だということは」


「その通りだ。奴らの成長……いや、進化を促すために用意された対戦相手が我であり、そしてAITから供給されたクーガーどもだった。これはヴァルキュリアだけではなく、奴らが用いていた武具や我の右腕、自律機動兵器など、AITからの新技術の運用実験も兼ねていたわけだ」


 ここまでは飛鳥の推測通りと言えた。

 しかしそれと、劉が背水の陣を敷いた理由とが関係あるのだろうか?

 そう思い、飛鳥は目線で次の言葉を促した。


「しかし、それはあくまで表向きの話だ。この世界で行われていた大規模実験の目的とは、新たな軍事兵器を作ることでも、ましてやヴァルキュリアどもの進化でもなかった!……この世界の住人は、我も含めて(、、、、、)すべて、『奴』の餌になるために存在していた!!」


「餌……?」


「なんということはない、ここは|養豚場8ようとんじょう》と変わらなかったのだ。ここは、戦いを通して成長を重ねた者どもを『奴』に喰らわせるために用意された餌場に過ぎなかったのだ。……そうとも知らず、主命だの忠義だのと間抜けに踊っていた我は、さぞかし滑稽に見えたのだろうな」


「待て、さっきからいったい何のことを…………おい、まさか」


 ――いた。

 劉の言葉に出てくる『奴』の正体。

 餌、喰らうという単語からして既に明らかであったのだ。

 作られたもの、闘争を以てそれに対峙するもの。だが、そのどちらにも当て嵌まらない存在が1人だけいた!!


「気付いたか。そうだ、奴こそが――――」





「あはっ♪ 美味しそうなもの、みーつけた」





 瞬間、漆黒の凶風が二人の間に割り込み入った。

 鴉の濡れ羽を思わせる装甲。

 鈍く輝く火砲と刃、蜘蛛の八脚を思わせる異形の武装群が不気味に軋む。

 飛鳥の全身の細胞から最大級の危険信号が走った。


 ――逃げろ、逃げろ、逃げろ!!

 ――それができなくば、絶対に殺しきれ(、、、、、、、)!!

 

「フランシスカ=アーリアライズ……!!」


 即ち、彼女こそがこの世界の大悪(アークエネミー)

 この暴虐の獣の打倒なしに、《ライン・ファルシア》の戦いは完結し得ない。


どれだけ努力しようが、どれだけ才能があろうが、神から貰ったチート能力ひとつですべてを凌駕するという展開を、作者もこの作品の登場人物も決して許容することはできません。

読み物としての面白さは分かるのですけどね……


1章完結まであと2回! いけるか? いけるとも。いけるといいな!!

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