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AL:Clear―アルクリア―   作者: 師走 要
STAGE4 氷夏
138/170

―第131話 白き御旗を掲げよ ①―

遅くなってごめんなさい!!

新作『フルールルール』の執筆が止まらなかったので、ついこっちの更新に時間がかかってしまったよ!!

今回はまさかの一蹴視点。

「ほう、ほう、ほぉう! なかなかどうして、こっちにも喰いでのありそうな奴らが集めってるじゃねぇか!!」


 3人の魔術師と1人の機人が反撃を開始したのと同じ頃。

 白鳳学園の上空を舞う1台のヘリコプターの座席から、野太い男の声が響いていた。


「新型のブーステッドアーマーとやらがどうしてこんなところにあるのか知らねぇし、そんな鉄クズ奪ったところで何になるのか分かったもんじゃねぇが……こいつは思わぬ収穫ってやつかあ、おい!!」


 その男は、まさしく人の形をした獅子であった。

 獅子のたてがみを思わせる、無造作に伸ばした金の頭髪。

 無数のメダルを打ち付けた漆黒のロングコート。

 彼こそ、《パラダイム》が有する最凶の破壊神――『戦争屋(ウォーメイカー)』シグルズ=ガルファードの猛々しき戦化粧であった。

 自動操縦(オートパイロット)の技術が発展した現在、シグルズはヘリの操縦桿を握る必要などなかった。


「こないだ喰い損ねた(、、、、、)無手のガキンチョと、あっちはアルヴィンの秘蔵っ子か。そして、くくく……」


 シグルズが求めるは、ただ戦場で輝く(つわもの)との命の削り合い。生と死の狭間でしか得ることのできない最高の快感(カタルシス)。その相手が、世界最強と謳われた《九耀の魔術師(クラウドナイン)》であれば是非もない。

 昂る感情をそのままに、思わず拳を目の前の機器に叩き付けてしまった。操縦系統は砂の城よりもあっさりと砕けて潰れ、当然ながらヘリは制御を失い墜落する運命となった。

 風車のように凄まじい回転をしながら落下する搭乗席(コックピット)の中で、金色の獅子はごちそうを前にして舌舐めずりをする。

 戦場という名の食卓に。

 強者という最高の晩餐(メインディッシュ)を求めて、高らかに吠えた。


「さぁて、『戦争』のお時間だ――!!」





 逃げも隠れもしない――いや、そんな概念など知りはしないとばかりの咆哮を見せたその姿。地上にいる霧乃たちに届かぬわけがなかった。


「こりゃ……なかなかにしんどい増援がやってきたみたいね」


 見知らぬ相手ではない。

 夜浪霧乃とシグルズ=ガルファードという危険すぎる対戦表(カード)は、その実これが2度目であった。

 グラウンドのど真ん中に墜落し、爆発炎上するヘリコプターの内部から姿を現したのは、高高度からの墜落、漏れ出したガソリンへの引火燃焼という2ステップの即死事故を、まるで小石が当たって程度にしか感じていなさそうな金色の悪魔。


「よぉ“黒の魔女(エキドナ)”、しばらくぶりじゃねぇか。かれこれ1年ぶりってとこか?」


「そーね、お久しぶりね戦闘狂(ウォーモンガー)。いえ、確か本来の呼び名は『戦争屋(ウォーメイカー)』だったかしら」


「はっ、んなもんどうでもいいだろうよ。好きに呼びゃあいいし、頓着するほどご立派な名前でもねぇさ」


 気兼ねない友人同士のような、遠慮のない軽い語り口に、霧乃の隣で臨戦態勢を整えていた刃九朗から声がかかる。


「あいつは確か……先月に《八葉》に襲撃をかけてきた人工英霊のひとりだな。飛鳥が歯が立たないと断定していた、第一級の危険人物として認識している」


「正解。霧乃ちゃん人形をプレゼント! といきたいところだケド……今回ばかりは遊んでる余裕もないか」


 《九耀の魔術師(クラウドナイン)》が警戒をあらわにするという時点で、いかにシグルズが人工英霊の中でも隔絶した存在であるかということが証明されていた。それは霧乃の過去の記憶からも、刃九朗が保有するこれまでの戦闘記録からもすぐにたたき出すことのできた回答だ。


「さて刃九朗。悪いケド、ちょっくら命預けてくれないかしら?」


「心得た」


 五体満足で撃退できるなどとは露ほどにも思っていない。

 死中に活を得る――勝利するにはそれしかないと確信していたため、2人はいとも簡単に命を懸ける選択をしてのけた。

 2対1、されど状況は絶望的。

 冷や汗ひとつ流すことなく、黒の魔女と鋼の機人は死地へと足を踏み入れた。

 一進一退を繰り返す白鳳学園防衛戦。

 この状況に埒を空けるは、果たして誰か。









「ちっきしょうが! どうなってるってんだよ!!」


 ツンツンに固めた金髪を振り乱しながら、雪に埋もれた校舎内を駆けずり回るひとつの影。


消去する(デリート)」「消去する(デリート)」「消去する(デリート)


 3人の量産型美少女の魔の手から必死に逃げまどうその正体は、飛鳥のクラスメイトであり、心優しき不良(ヤンキー)こと矢来一蹴(やらいいっしゅう)の姿であった。

 休日はお昼ごろまで寝倒すという、典型的なグータラ学生の生活パターンを持つ一蹴は、この豪雪の中でも見事に正午過ぎまで自宅で惰眠を貪っていた。

 「うおっ!? なんだこれさむっ!?」と起き出してからようやくこの異常事態に気付き、周りとの連絡もまともに取れなかったこともあり、遅れてこの学園にやってきたのだが――


「守ってあげたい系のかわいこちゃんがいるかと思ったら、いきなり銃乱射してきやがるし! 俺にはヤンデレの趣味はねーんだよっ!!」


 このクローン包囲網に見つかってしまい、命懸けの鬼ごっこを開催するはめになり、今に至る。

 迎撃のひとつでもしようかと考えなかったわけではないが、なにげに彼女らの顔が一蹴の超好み(ドストライク)だったこともあり、なおのこと手出しできなかった。

 昇降口を3段飛ばしで駆け上がり、手近にあるもの――掃除用具入れのロッカーや消火器もろもろ――を力技で持ち上げ、階下にぶん投げる。


「くそっ! この様子じゃ他のヤツらもやべぇんじゃねえのか……」


 2階廊下を走りながら生存者を求めて視線を動かす。

 ここで自分の身より他者の心配ができることは、間違いなく彼の美徳であろう。近寄りがたい外見とは裏腹に、彼を慕う人間が多い理由はこんなところにも表れている。

 行き止まりが近付いてきたところで、再び階段を駆け上る。だが、この選択はまずかった。


「やべ……」


 ここは屋上だ。

 退路が断たれたことに気付くも構わず、一蹴は分厚い鉄の扉を蹴り開けた。

 案の定、屋上はほとんどが雪に埋もれており、まともに歩くことも困難だった。こうなったら、雪の中に隠れてやり過ごすか――そう考えはじめた時、


「侵入者を発見、排除します」


「でえええええええええっ!!??」


 足下のコンクリートを次々と抉る銃弾が、一蹴の頭上から殺到した。命懸けのタップダンスを披露しながら屋上の手すりにまで走り寄り、少しだけ向こう側に目をやる。


(飛び降りて……ってのは悪手か! 下手に怪我して動けなくなったら今度こそお陀仏だっての!!)


 手すりの下から地面にまで、掴まれそうなものは一切なく、また都合が悪いことに真下の付近だけ綺麗に雪が燃やされていた(、、、、、、、)。壁や地面に無数の焦げた痕跡を見つけた一蹴は、


「誰だ校舎で火燃やしたヤツは! こんな寒空の中リンボーダンスでもやりたかったのかよっ!!」


 自分でも意味不明なツッコミを誰にでもなく繰り出した。

 ああ、もう、やけっぱちだ。

 こうなったら強行突破あるのみと、一蹴は振り返って銃弾の暴風域を突破すべく覚悟を決めようとした。……が、よくよく考えればさっきから追撃がこないのは何故だろうか?

 屋上の扉の上――給水塔に片手をおいてこちらを見つめる無機質な瞳に向けて問いかけた。


「なんでぇ、撃ってこねぇのかよ。それとも俺の迫力にビビッて動けねぇのかい?」


「……」


 外見は先ほどのクローン達と変わらない。白髪痩身に機銃を携えた謎の美少女。

 だが、あえて違いを挙げるとするならば……その瞳には意思の光が感じられた。ワンテンポ遅れて、白髪の少女は初めて意思のある発言(、、、、、、、)を見せた。


「敵性対象とは認められないため、攻撃を中止しました。危険性も皆無と判断、マスターの指示を仰ぎます」


「どうしたんだいフランシスカ、誰かが迷い込んだのかな? ……ほう、なるほどなるほど」


 ここで一蹴は初めて彼女――ないし、彼女達の名前を知ることになった。

 そんなフランシスカ達の中で、唯一敵ではなさそうな雰囲気を醸し出していた個体は、給水塔の後ろに隠れていたとされる男性に声をかけていた。


「ああん……? 緑の髪たぁ珍しいな。もしかして、リーシェちゃんの親父さん?」


「思いつきで言ったんだろうけど、なかなかに真理を突いてきたね、君。あの子の友人というのであれば、特に誤魔化す必要もなさそうだ。……フランシスカ、彼は友軍(ブルー)だ。戦力ないし護衛対象として再認識(アップロード)したまえ」


了解しました(イエス)我が主(マイマスター)


 少女の『マスター』を名乗った男――世にも珍しい若草色の髪に、片手にはごちゃごちゃとした配線が繋がったノートパソコン。いかにも偏屈な研究者です、と言った体の男の顔に、一蹴はどこか見覚えがあった……のだが、思い出せない。


「初めまして不良(ヤンキー)くん、僕はアルヴィン=ルーダーだ。僕が何者なのかは……もう言うまでもないだろう?」


「知らん。誰だアンタ」


「……この間の少女といい、最近の若者は新聞やニュースもまともに見ないのかねぇ」


 緑髪の研究者は、一蹴の回答にがっくしと肩を落としていた。

 学の無い一蹴に変わり補足すると――アルヴィン=ルーダーは、ここ10年の科学技術の超躍進である『セカンド・プロメテウス』の立役者だ。自己再生能力を持つ金属である『ウルクダイト』、人型の機動兵器である『ブーステッド・アーマー』など、多くの未来技術を世に出した超有名人なのである。

 と、そのような説明を、


「――と、マスターの偉業を数えれば枚挙に(いとま)がありません。サルでも分かるように簡潔に説明しましたが、理解しましたか? これで理解できないならミトコンドリアからやり直してきなさい、単細胞」


「おーいそこのマスターさんよ。真顔でさらっと毒吐いてくるこいつの教育方針どうなってんだ?」

 

 まさかのフランシスカが懇切丁寧に分かり易く解説してくれた。しかも彼女の腰に装着された機械が映写機(プロジェクター)に変形し、空中に資料の立体画像(ホログラム)を映し出してるという徹底ぶりだった。


「こないだの一件から、この子だけ妙な個性が付いちゃったんだよなぁ……いったい何が原因なんだか」


 なかなかに弾けた性格の持ち主になった彼女がえっへんと胸を張る様を、創造主(マスター)たるアルヴィンは複雑な表情で見つめていた。


このフランシスカは2章に登場した個体と同一人物です。

飛鳥達との戦いを通して、他の量産型とは一味違うキャラになった彼女は……なんと一蹴視点でのヒロイン格。

主役勢がほとんど活躍しない今回は、久々にロボット全開パートとなります。

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