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AL:Clear―アルクリア―   作者: 師走 要
STAGE1 勝利の風と翼の騎士
13/170

―第10話 オープン・コンバット ―

 山中に叫喚する連装機関砲の多重射撃音。

 それは声帯を持たぬクーガー達による荒々しき咆哮であった。


 四方より殺到する銃撃の嵐は、1人の生身の人間に対して集束させるにはあまりに過剰火力である。

 その対象となった者の肉体は、ミンチどころか塵芥となって消滅して然るべきだろう。


 これら“クーガー”の躯体は、AIT社の軍事生産セクションによって近年開発されたばかりの新型機だ。

 所有者の指示に絶対服従し、死を恐れる事なくただただ忠実に、冷徹に任務を遂行する命を持たぬ兵士達――その先駆けとも言える存在である。

 ウルクダイト製の複合装甲により生半可な衝撃では傷ひとつ付く事はなく、仮に損傷したとしても瞬時に復元する。更に内蔵された人工知能は自身の経験した戦闘データを蓄積、解析し、他の個体と共有。人間以上の学習能力で加速度的に強化を遂げていく。

 駆動に必要なエネルギー供給を除けば、金属部品の損耗とは無縁であるため事実上の整備要らず(メンテナンスフリー)。しかも高度な学習能力と継続戦闘能力により、いかなる強敵が相手でも、相手の疲弊を待ちながら行動パターンの解析により常に最善手で行動可能となる。


 もはや、戦場に人間は必要ない。


 時間が経てば負傷し、疲弊する人間の兵士達が彼等に勝てる道理などないのだから。百戦錬磨の軍人ですら、機械仕掛けの兵士達はいとも簡単に打倒せしめるのだろう。

 絶え間なく進歩を続ける『科学』という名の獣は、いずれ『戦争』そのものをも喰らい尽くすのだろうか。


「――舐めるな」


 だが、そこに否と唱える者がいた。

 どれほど強力な兵器が戦場を席巻したとしても、それを操る者は、引き金を引くのはあくまでも人間だ。

 自らの手を汚す事なく、破壊や殺戮を機械が勝手に(、、、、、、)やってくれた(、、、、、、)などと認めるわけにはいかないのだ。生身の人間同士で殺し合うから戦争には意味がある――などと、のたまうつもりは毛頭ないが。

 ただ、剣を握るのも、銃を構えるのも、遠く離れた場所でAIに指示を送るのも、結局は同じ事。

 相手を『殺す』という意思がそこに込められている以上……


「高みの見物などさせてやるかよ――」


 クロエを傷つけ、鈴風を攫い、そしてこの世界の住人にまで危害を加えているあの男を、

 

「戦うというのなら、貴様も命を賭けろ――劉功真!!」


 完膚なきまでに断絶する。

 これは戦争だ。

 どちらかが滅びるまで、飛鳥は決して攻勢を緩めるつもりはない。

 機関砲の一斉掃射を、飛鳥は両腕に展開された深紅の装甲ですべて防ぎきっていた。

 “烈火刃”参式・赤鱗(せきりん)は、両腕から肘までを覆う篭手としての顕現である。軽妙かつ神速を主とする弐式・緋翼とは対照で、赤鱗は重装甲と高打撃力を主眼に置いた戦術を展開する。

 

「ハッ!!」


 咆哮と共に大地を蹴り抜く。

 これまでと違い、爆発的な推進力による超加速ではない。常人離れしているとはいえ、充分クーガーにも捉えられる程度の速度による突進だった。

 これ幸いとばかりに、鈍色の砲門から次々と弾丸が射出されていく。この速度では回避は不可能、このままではクーガーの人工知能に、飛鳥の総身が蜂の巣になる映像が映し出されることだろう。


 だが、殺到する銃弾は一発たりとも飛鳥の身体に触れることはなかった。前進する飛鳥の両腕から放出される高熱の障壁(ヴェール)が、迫る弾丸をすべて融解させていたのだ。

 赤鱗とはその名の通り炎の鱗。緋翼と同じ、膨大な熱量が封入された精神金属が竜の鱗のように何重にも(、、、、)展開されている。

 赤鱗の構築は、単純な金属質量で言えば双剣形態時の約10倍近い緋々色金で構成されており、すなわち炎の出力もそれに準じているということだ。


 一体のクーガーに接敵、右の拳による打撃と超高熱により粉砕と融解が同時に襲いかかる。

 ウルクダイトの再生を上回る熱火の破壊により、クーガーは原型をとどめる事なく爆砕した。

 その声なき断末魔を確認する間もなく背後から強襲する一体をもう一方の拳で迎撃。金属同士の甲高い激突音が木霊するがそれも一瞬、赤鱗の灼熱拳は触れ続ける(、、、、、)ことを許さない。


「燃えて砕けろ」


 クーガーの顔面を掌握し、ダイレクトに業火の洗礼を浴びせかけた。

 そのまま一息に頭を砕く様子は、硬質の金属というよりもまるで豆腐を握りつぶすように呆気ないものだった。

 両腕から迸る高出力の熱エネルギーの恩恵は、速度を犠牲にして余りある攻防一体の撃拳を造り出した。

 そして、この赤鱗を含めた“烈火刃”最大の特徴として。


「アスカ、上からも来るぞ!!」


 離れた位置で剣舞を繰り広げていたリーシェから声が飛ぶ。

 弾かれるように視線を上に向けると、そこには空飛ぶ機影(、、、、、)

 クーガーと同じく鋼鉄で造られた、しかしこちらは猛禽――高空制圧型自律飛行兵器“ストラーダ”。

 外見は正しく鋼の大鷲(メタリックイーグル)、両の翼と一体化した機銃を掃射しながら飛鳥の頭上目掛け殺到した。

 しかし生物としての鳥のように羽ばたいて飛行するのではなく、翼や脚にあたる各所に設置されたスラスターノズルからのジェット噴射によって空中制動をとっていることから、駆動コンセプトは鳥類というよりは小型の戦闘機と言うべきだろう。

 赤鱗での格闘戦ではこの大空の侵略者を迎撃するのは困難を極めた。

 よって、飛鳥は瞬時に思考を切り替えた(、、、、、、、、)

 両腕の装甲が消失、燃え盛る炎へと還元されたかと思うと、すぐさま炎は渦を巻いて集束、緋翼の二刀へと再構築された。

 手の内に納まった紅蓮の太刀の感触を確かめる間もなく、飛鳥は上空へと跳躍し二刀を交差。刀身から噴出される推進爆発を利用し、群がるストラーダを踊るように切り裂いていく。


 先にも触れたように、烈火刃は飛鳥の精神次第で如何様にもその姿を変貌させる。さながら脳内のスイッチをパチンと切り替えるように、赤鱗から緋翼への閃光の如き戦術移行(スタイルスイッチ)を実現したのだ。

 これは飛鳥の修める断花流、あらゆる状況で最善手を打つためにはどうすればいいのかという命題に対する“人工英霊”式のひとつの回答だ。


 断花流で修める戦術の基本理念は、どんな逆境や格上相手でも突破口を見出すためのもの。特に飛鳥は相手の虚を突く体捌きや地の利を生かした戦いを主としている。

 “人工英霊”である飛鳥はそこに、速度や破壊力といった各方面に特化させた武装の使い分けをどんな環境でも(、、、、、、、)実現させることで、総合能力値を水平にするのではなく、複数の一点突破能力を併用するという変則的なオールラウンダーとしての戦術を確立したのだ。

 緋翼二刀による紅蓮の斬撃旋風が舞う、銃撃の嵐を赤鱗の灼熱防壁で融解し、包囲されれば壱式・破陣の大剣で旋回して薙ぎ払う。

 どれほど学習能力があったとしても、所詮画一的な能力しか保持出来ない機械仕掛けの獣達にはこの複合武装による重爆乱舞に対応する術など存在しない。


(ここには鈴風もいるんだ、一体残らずこの場で消し飛ばす!!)


 飛鳥は自身の余力を考慮することなく、最初から全開の火力で敵の殲滅にあたっていた。短期決戦――これは戦闘能力の乏しい鈴風に危害が向かうのを恐れていたためであった。




 烈火が彩る茜色の舞台でクーガー達を屠り続ける飛鳥の動きは、さながら死の舞踏(ダンスマカブル)。中空で3機のストラーダを相手取るリーシェはその圧倒的殲滅に思わず息をのんだ。


(やはり、私と戦っていた時は全力ではなかったか)


 悔しい、という感情も確かにあった。

 だが、どちらかというと飛鳥に本気を出させることができなかった自身の未熟をリーシェは恥じていた。

 こちらの一方的な誤解で剣を向け、挙句の果てに相手に手心まで加えられたのだ。同年代の少年相手にこうも完膚なきまでに制されたのでは、認めざるをえまい。

 そんなリーシェの思案をストラーダによる十字砲火の轟音が掻き消す。

 白翼を大きく上下させ、瞬時に高空へ回避するリーシェの表情には焦りの様子は見受けられない。彼女とて間違いなく一流の剣士、烏合の衆に遅れなどとってたまるものかよと言わんばかりに急降下、渾身の一刀で鋼の怪鳥を両断する。その勢いを殺すことなく時計回りに旋回、銃口の死角となっている側面から二体目を横に分断した。


 リーシェの愛刀、その刀身は緩やかな孤を描いており日本刀に近い形状だ。しかし特筆すべきはその薄さ(、、)、薄氷のように向こう側が透けて見えるほどに研ぎ澄まされた蒼鉄の刃は、これまで数えきれないほどの鋼鉄を切断したにも関わらず刃こぼれひとつない。


 ……飛鳥も懸念しているように、これは異常(、、)だ。


 飛鳥の世界で精製されたもの――ウルクダイトに代表される超合金なら話は別だが……それを考慮してもこれほどの高硬度を持つ金属、ないし鍛造法が《ライン・ファルシア》という未発展世界にあるというのが理屈に合わない。道中、リーシェ自身も飛鳥に言われて初めて気付いたのだが――


(確かに……違和感なく使っていたが。この剣はいつ、誰によって造られたものなのだ?……あれ、待て。いつから(、、、、)?いつから私は……)


 今まで至らなかった疑問――武器の事ではなく自分自身について(、、、、、、、、)

 その思考にリーシェの身体が一瞬硬直する――その隙を無慈悲なる機械の猛禽は見逃さない。


「リーシェ!!」


「え……?」


 ストラーダは自身の翼を、そのまま斬撃刃と化して突進してくる。首を断ち切らんと肉薄する死の刃を前に、リーシェは全身に走る怖気の氷柱で動く事が出来なかった。

 しかし兇刃が彼女の命を刈りとる寸前、地上から放たれた一矢――飛鳥が投擲した緋翼の一振りがストラーダを撃墜した。


「冷や冷やさせないでくれよ……しかしどうした、いきなり動かなくなってたようだけど?」


「すまん……いや、な」


 飛鳥のアシストに感謝しつつ、彼の傍らにリーシェは着地する。彼女の表情からは命の危機を脱した安堵ではなく、言い様のない不安が見て取れた。

 そんなリーシェの顔色を案じて飛鳥は声をかけようとするが……




『敵性勢力を確認。殲滅します』




 風に乗って二人の鼓膜に届いたのは、少女の抑揚のない声と先程とは比較にならないほどの弾雨による爆撃音。

 思考の海に埋没する暇も、それを気遣う暇もありはしない。2人は弾かれるように跳躍した。

 そして一瞬前まで立っていた場所には連弾の嵐と、目を貫くほどに眩い電子光の瀑布が降り注ぎ大地を蹂躙していった。


 銃撃そのものは決して脅威ではない、むしろその直後の光の爆撃による破壊の衝撃に飛鳥は戦慄した。

 荷電粒子砲(プラズマカノン)――亜光速にまで加速された荷電粒子を砲弾として発射するという、一昔前までは架空の域を出ないとまでされていた光学兵器だが、どうやらAITでは既に実用化されていたようだ。

 クーガーやストラーダにはなかったその射撃精度と単純な火力の格差が、これまでとは段違いの大物の到来を確信させた。

 砲撃の軌道を辿り、魔弾の射手を視界に収める。


「……なんだあいつは」


 茫然とリーシェが呟いた。

 見据える先には1人の少女、血の失せたような病的なまでに白い肌と、地につくまでに乱雑に伸びた同色の髪。色素欠乏症――アルビノと思われるが、リーシェが驚愕したのはそこではない。


 彼女の全身を覆う漆黒の機械鎧……否、それを鎧と言っていいものか。


 彼女の背中に装着された武装ユニットからは計8本の機械腕が伸びており、その先端には多種兵装――牽制用と思われる重機関砲が2門、昆虫の前肢を思わせる湾曲した鋼鉄製のブレードが2枚、対象を掴み取る、あるいは握り潰すことを想定しているのであろう大型のクレーンアームが2つ。そして先程2人を戦慄させた荷電粒子砲、恐竜が大口を開けたような剣呑極まりない双頭の砲門が首をもたげている。

 それらの武装を制御しているのであろう、頭に装着されたバイザーにより彼女の目線は覗えず、それが少女の無機質さ、無感情さを加速させていた。

 その姿は、さながら機械仕掛けの女郎蜘蛛。

 戦術的にも生理的にも嫌悪感を与える醜悪そのものの容貌に、リーシェは無意識に一歩後ずさるが、


「まさかこの場所を嗅ぎつけるとはな……まあいい、ここで貴様との因縁を断ち切るまでよ」


「む……貴様は!?」


 黒い蜘蛛の背後より姿を現した軍服の男の姿を確認した瞬間、リーシェから恐怖が消し飛んだ。

 追い続けた憎き怨敵――劉功真の姿を前に、彼女の感情は燃えたぎる赫怒で塗りつぶされたからだ。

 飛鳥にとっては白鳳学園以来となる劉との再会だったが、その時に切断した筈の右腕が元通りに付いていた。

 別段それは驚くべきことではない。

 劉功真もまた人工英霊、精神感応物質の具現化により右腕を再構築するなど朝飯前だろう。

 厄介、というより面倒だなと飛鳥は小さく嘆息した。

 そんな2人の視線を嘲笑で受け流しながら、劉はまるで舞台俳優のような高らかな声で告げる。

 

「フランシスカ、戦闘形態に移行。全火力を用いて対象を殲滅――ああ、しかし我の守護を最優先とせよ。……さて、日野森飛鳥。愚かなる反逆者(トリーズナー)よ。これより《パラダイム》が誉れ高き“人工英霊”劉功真と、このフランシスカ=アーリアライズが貴様を断罪する。そこにいる羽のついた原始人と手を組んだところで、我等に敵う道理はないと知れ!!」


「大口を叩いておいて、それでも自分の身がかわいいのは相変わらずか。1人では敵わないと知って、慌てて人形なんぞを戦場に持ってくるあたりが特にな。……見ていて不快だよ、お前は」


「女を盾にしてまで勝ちたいのか、貴様。……この外道め。その歪んだ精神ごと、私が斬って捨てる!!」


『命令を受諾。全武装、起動準備完了――戦闘行動を開始します(オープン・コンバット)


 四者四様の宣言を皮切りに、超人達の闘い――その第二ラウンドが幕を開ける。烈火の双刃と蒼銀の翼刃、鈍色の鉄腕と蜘蛛の8脚が入り乱れ鉄火を散らした。








「……そろり、そろり」


「いちいち擬音を口に出す必要がどこにあるんだろう……というか、静かにしないと見つかっちゃうよ?」


 飛鳥達が激戦を繰り広げているその頃。鈴風とフェブリルは、忍び足のつもりなのだろうか、何とも怪しげな足取りで暗闇の奥へと進んでいた。

 最初は飛鳥達の奮戦を岩陰に隠れながら見守っていた2人だったが、ふと視線を脇に向けるとそこに洞穴を発見。考えるよりもまず行動、好奇心旺盛な2人は迷わず明かりなき洞穴へと足を踏み入れた。

 道中何度も転んだり、頭を壁にぶつけたりと暗闇ならではのアクシデントに見舞われたが……


「どう見ても秘密基地だよね、これ……」


 奥へ奥へと進んでいくと、唐突に視界が晴れていった。

 そこは明らかに人為的に造られた施設――配管が剥き出しになった壁や天井、装飾的な物が一切存在しない通路。左右にはいくつもの扉があり、そこから見えるのは複雑怪奇な電子機器ばかり。

 ここは何かの研究施設だろうか。

 そう判断した鈴風は、何か飛鳥の一助に繋がるものはないだろうかと片っ端から部屋を物色することにした。敵地のど真ん中で豪胆極まる行為に出た鈴風に冷や汗を流しながら、フェブリルはせめて自分がフォローしなければと周囲の哨戒に努める。


「誰にも見つかりませんよーに」


「ダイジョブダイジョブ! いざとなったら、あたしがこの槍でチクチクしてやるんだから!!」

 

 得意げに手に持った槍を一振りする鈴風に、フェブリルは言いようのない不安を感じた。


「それが不安なんだよぅ……だってここにはアスカと同じ人工英霊がいるかもなんでしょ、もしそんな奴に出会っちゃったらどうするのさ?」


「気合いで勝つ!……とはいかないよねぇ。だからさ、フェブリルちゃんも探してほしいんだ」


「探すって、なにを?」


 首を傾げるフェブリルに対し、鈴風は決意を秘めた眼差しを向けて宣言する。


「“祝福因子(ブレスコード)”。それを使って、あたしも人工英霊になる」


「えええ!?」


 そう、鈴風はこの旅に同行すると決めた時点からその事を考えていた。

 日野森飛鳥と劉功真の戦闘を間近で目撃していた鈴風は、誰よりも人工英霊の持つ戦闘能力の剣呑さを理解していた。

 そしてそれが、ただの人間(、、、、、)である鈴風にはどうあっても辿りつけない地平である事も。

 ならば、と鈴風がその結論に至った事はなんら不自然ではない。

 篠崎美憂という前例もある、決して鈴風が成れる筈がないという道理はないだろう。


 それに、飛鳥の闘いはこれから先も続いていくのだろう。

 鈴風のように、普通の生活を営んでいる者達の知らない深く暗い場所で、人知れず傷つき続けるのだろう。

 その事実を楯無鈴風は許容できない。

 飛鳥の痛みを、飛鳥の苦しみを、自分が理解してあげなくて誰が理解するというのか。

 客観的に見れば、それは一方的な善意の押しつけであり、あまりに独りよがりな考えなのだろう。何より、それを飛鳥自身が望まない(、、、、、、、、、)


 ……だが、そんな事は百も承知。


 お節介だの大きなお世話だと言われようと、これが鈴風の在り方なのだ。

 強きを挫き、弱きを助ける。

 困っている人に手を差し伸べる、頑張っている人を近くで支えてあげる。

 彼女の信念とは、とても単純で、とても当たり前(、、、、)の精神だ。

 人でなくなる?

 死んでしまうかもしれない?

 それがどうした。

 そんな事よりも、大事な人が苦しんでいるのに何もできない方が、よっぽど辛いに決まっている。


「多少の無茶は承知の上だよ。そうでもしないと、今の飛鳥に追い付くなんて出来そうにないしね……こんなことしなくても他に手段があるのかもしれない、そもそも余計なお世話なのかもしれない。それでも、あたしがそうしたいんだ。これ以上、誰かが傷つくのを黙って見てられないからさ」


「……強いね、スズカは」


 何の(てら)いもない鈴風の意志に、フェブリルはどこか眩しさを感じていた。

 守りたい。

 支えたい。

 共に手を携え歩いていきたいと、真摯な想いを胸に進んでいる少年少女の強い意志は、まるで宝石のようにキラキラと輝く宝物だ。

 それはかつて(、、、)フェブリルが愛した人間達の姿そのものであり、二度と失いたくない(、、、、、、、、、)と彼女に決意させるに足る輝きだった。

 小さく力無い自分にどれほどの事が出来るかは分からない。それでも、今の自分の全身全霊で彼等を支えていこう。

 そう心中で強く決意するフェブリルだったが、


「でも、さ……スズカ」


「どしたの?」


「“祝福因子”って、どんな形してるのか知ってるの?」


「…………あ」


 自分が言えた義理ではないが、先行き不安だなぁ……と苦笑い。

 ともかくそれっぽいの探していこう、と半ばやけっぱちになった鈴風の後をふよふよと浮遊して追いかけるフェブリルだった。


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