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AL:Clear―アルクリア―   作者: 師走 要
STAGE4 氷夏
125/170

―第118話 幻冬、来たりて ③―

弾ける厨二病! 横行するよく分からないルビ振り!

アルクリアってこういうノリのお話なんです的な趣味全開!!

「ぢ、ぢょっと、ぜんばい……逃げたりしないから、もうそろそろ離してほしいっす……ぐ、ぐびが、締まって……」


「ス、スズカー!? しっかりしろー! なんだか顔の色が赤くなったり青くなったり信号機みたいになってるぞー!!」


 飛鳥をひとり残し、残った面々はクロエを先頭に全力疾走を開始していた。彼の下に残ろうとした鈴風の首根っこを引っ掴んだまま、白の魔女は魔力を両足に帯びさせ、跳ねるように雪の道路を駆け抜けていた。

 光の翼を広げ隣で並走するリーシェが、そろそろ鈴風の意識が危険域であることを伝えてきたので、仕方がないとばかりに着地。道路の脇にぽいと投げ捨てた。


「さっきのを見て分かったでしょう? ここは既に戦場です(、、、、、、)。おふざけばかりしていると、本当に死にますよ」


「今まさに先輩に殺されそうになってたんですけど」

 

 流石は愛すべきギャグ体質の鈴風さんである。さっきまでの百面相が何でもなかったかのように、すぐに立ち上がってクロエに文句を垂れ流していた。

 あまり目立たないように動きたかったが、既に敵と交戦を始めた以上、逃げ隠れなど無意味だろう。それぞれ魔術や能力を駆使し、とにかく最速で《八葉》を目指す方針で進むことにした。

 欠員はいないか再度確認。鈴風とリーシェはともかく、あと2人のチビっ子の姿が見えないが……


「――ぴっきゃあ! これ、いきなり急ブレーキなどかけるでないわ! 危うくアイスなドラゴンになってしまうところだったではないか!!」


 鈴風の体に掴まっていたのだろう、さっき放り投げたとばっちりで雪の中に埋もれていたエントが怒り心頭といった様子で這い出てきた。

 寒さに震えて鱗の色まで青くなりそうな勢いだったが、とりあえず放置。


「リルちゃん、もしかして飛鳥さんのところでしょうか……」


 フェブリルはついさっきまで飛鳥の服の中という大変うらやま――もとい、けしからんポジションに収まっていたので、つい連れてくるのを忘れてしまっていた。忘れていたことに対して私情は挟んでいない。本当だ。


「ぬぅ……こんな寒空で迷子になったら、あんな脆弱な羽虫みたいな奴あやつでは、冗談抜きで凍死しかねんぞ。……探すか?」


「いえ。心配ではありますが、ここはあの子のことを信じてあげましょう」


 クロエの中の冷徹な思考が判断する――飛鳥の戦いの邪魔にさえならなければ、フェブリルの安否は問題ではない(、、、、、、)

 心配だなんて、そんな心にもない(、、、、、)言葉がよくもまあ喉からつらつらと出てきたものである。


(……なにを考えているのですか、私は)


 そんな自分自身の思考に嫌気がさしたクロエは、額を軽く小突き、自戒する。

 昨日の夕方から、何だか自分の感情のコントロールが揺らぎ始めていた。疑心暗鬼のような、理由もなく不安と不信が胸の内からこみあげてくる感覚。

 原因は、間違いなく飛鳥との口論――口論といっても、クロエが一方的に怒鳴っていただけだが――である。

 あれから一晩、クロエは自分の短慮さに後悔しきりであった。

 飛鳥はどう見ても自分のことを想ってあの話をしてくれた筈なのに。今だけでなく、未来のクロエのことも見つめてくれていたのに、自分はその温情に泥をぶつけてしまったのだ。


(飛鳥さん、朝から思いつめているご様子でしたし。うう、どうしましょう……)


 本当に。タイムマシンがあるなら今すぐ昨日の自分を縊り殺してしまいたい。

 飛鳥に対して暴言を吐いた自分自身を許せなかったし、それにこの程度で(、、、、、)精神面を大きく不安定にしてしまう自分の弱さにほとほと呆れるしかなかった。

 

「せんぱーい。ちょっとー。おーい。聞こえてますかー」


 死んで償えるなら死んでしまいたい。そう思ってしまうほどに、今のクロエはネガティブに振り切ってしまっていた。


「――なに!? おいクロエ、スズカ! 囲まれているぞ!!」


「あ、あれは……リーシェの世界とかこないだ《八葉》に襲ってきたメタリックワンちゃん!!」


 油断すると涙が零れ落ちてしまいそうなほどに、彼女の心は弱りきっていた。


「げ、迎撃(げーげき)するのじゃ! わらわの炎の息吹(ファイヤーブレス)でまとめて薙ぎ払ってやりたいと思ったのじゃが仕方がないからおぬしらに手柄を譲って差し上げるのじゃ。わらわ、とっても謙虚!!」


「いや、どっちみちエントちゃんを戦力としてなんて見てないからいいんだけどね……」


 嫌われたくない。だが同時にこうも思うのだ。

 自分のことなんて誰よりも自分が一番嫌っているのに、誰かに嫌われたくないなんてお笑い種でしかないだろうに。


「って、おいクロエ!? なにぼさっと突っ立っている! ここは戦場だぞ!!」


「先輩!? さっきのご自分の発言を思い出していただけませんか! このままだと真っ先に死んじゃうのはって撃ってきたああーーーーっ!?」


 酷い女だ。


「ぴきゃきゃきゃきゃーーーーっ!?」


 生きていること自体が罪だ。


「こうなったらあたしがまとめて吹っ飛ばして……あれ、能力どうやって使ってたっけ。休みボケで忘れちゃった」


 いっそこのまま消えてしまった方がいいのかもしれない。


「す、スズカぁーっ!? なんか最近お前のポンコツっぷりがとんでもないんだけど本当に大丈夫か!? 背中を預けて大丈夫なのかー!?」


 ああ、もう、本当に――




五月蠅い(、、、、)




 両手を水平に持ち上げ、魔女の鉄槌(ウィッチクラフト)“クラウ・ソラス”を即時召喚。芸術性すら感じさせる魔術的な刻印を全体(ボディ)に施した回転式拳銃(リボルバー)、銃口には巨鮫の牙を思わせる無骨な銃剣が取り付けられた、重厚さと華々しさを両立した魔業の武器――手に馴染んだその銀色の鋼の感触を確かめる。

 詠唱、集中など一切不要。蚊を追い払うのと同じ程度の感覚で術式を起動。

 機械仕掛けの獣ども――AIT社によって生み出された自律兵器“クーガー”による包囲網をぐるりと見渡す。

引き金を引くのは一度だけで十二分であった。


「っ!? リーシェ、エントちゃん伏せて!!」


 途端に鈴風が飛ばした指示は間違いなく正解だった。

 ふたつの銃口から放たれたのは鉛の弾丸ではなく、極小の太陽(、、、、、)。圧倒的熱量を秘めたその球体は、糸玉が解けていくかのように次々と分離。無数のホーミングレーザーに転生し、意思なき鉄の狼に向かい殺到した。


「ぬ、ぬおおおおおおおおおおおおっっ!!??」


「なんじゃなんじゃー! あれは天の裁きなのかえー!?」


 凍り付いたコンクリートジャングルを白く埋め尽くすほどに、幾百幾千の天使の矢が舞い踊る。触れた物質をことごとく蒸発させていく死の光を前に、クーガー達は抗う手段を持たぬまま、『解析不能(error)』のメッセージを回路に焼き付け消滅していった。


「……やっと静かになりましたか」


 耳障りな雑音を駆除しきったところで、クロエは再び思考の海に埋没する。日野森飛鳥がいないこの場所、この時間で起きうるすべての事象は些事に過ぎないがゆえ、彼女はそこに一切の関心を払うことはない。


「久しぶりに先輩が戦うところを見たけど……やっぱり、すごい」


「そう、だな。我々とは完全に領域を隔した力だ、次元が違いすぎる。……悲しくなってしまうほどに」


「人間とは、かくも登り詰めることができる生き物なのかえ……でも、これは」


 凍り付いた道路の中心で、白の魔女はひとり佇む。

 これこそが《九耀の魔術師》。

誰もが追い付くこと叶わず。

遍くすべてを置き去りにして。

彼女は今日も、頂点という名の孤独の地平に立ち続ける。

 

 




 大地を鋭く穿つ破砕音と共に、飛鳥の姿が残像となってかき消えた。

 対するアルゴルは拳を握り、弓なりに身体を引き絞り構える。コマ落ちのフィルムを見ているかのように飛鳥が消失と出現を繰り返し、


「ぬうっ……」

「ちぃっ」

 

 唸り声から少し遅れ、大気を激震させるほどの衝撃波(ソニックブーム)が交差点を席巻した。

初撃は、双方とも徒手空拳。技術も小細工もない原始の闘争にて幕を開けた。

 互いに拳をぶつけ合った状態、零距離から口火を切ったのは異端の奇術師からだった。


「これは小手調べ、ということでよろしいか? ……まさか、こんな撫でるような(、、、、、、)一撃が君の本気と言うわけではあるまい?」


「……相も変わらず口数の減らない」


 口撃もそこそこに、拳を弾いた勢いのまま、乱打による応酬に切り替わる。

 首筋への手刀、指一本で止められる。右拳でのかち上げ、膝をぶつけられ阻止。反転し左脚を振り上げる、半歩下がり前髪を掠めるのみ――攻守逆転。

 無防備になった胴に貫手が放たれる、あえて(、、、)前へと踏み込み勢いを殺す。間髪入れず頭突き、躱さず。


「「がっ!?」」


額どうしを激突させ、真正面から応じる。

 アルゴルの顔にへばりついた強者の余裕を少しでも削り落とせたか、と飛鳥は小さく口角を上げた。

 頭突きの反発作用に抗わず、たたらを踏みながら距離をとる。


「顔に似合わずなかなかに野蛮な動きをしてくれる……」


「こっちの台詞だ。どう考えても肉弾戦向きとは思えない見てくれしておきながら、躊躇いなく頭突きを選択してくるところなんて特にな」


 違いないな、と白服の道化は含み笑いをこぼした。

 さて、アルゴルの言った通りここまでは単なる小手調べ。ただ身体能力に任せただけの芸も何もない殴り合いに過ぎない。

 それなりに身体も温まってきた。


「では、そろそろ本番といこうか」


 異質な気配を解き放ち出したのはアルゴルが先。追従する形で、飛鳥もまた己が内面に向かい手を伸ばす。

 人工英霊の力の源は精神力、俗な表現をするのであれば『魂』の強さに直結する。

 高潔なる意思を、清廉なる思想を、不屈の思念を。

 想いの力が強ければ強いほどに、それは現実となって(、、、、、、)彼らの『性能』として反映される。


「我が精神(こころ)は、遍く炎で満ちている」

「我が身、我が精神は空虚なる器。無限の(かお)、無限の魂を注ぎて満ちる、穢れし(さかずき)なり」


 自らの『意志』を言霊として形とし、宣誓する。

 それは人工英霊が真の姿(、、、)で戦場に立つための儀式であり、己が勝利を掲げんとするための祈りにも似たものであった。

 炎の嵐が無軌道に暴れ狂い、それに混ざって、もしくは掻き消すかのように紫電の網が張り巡らされては消えていく。人工英霊を知る人間がこの光景を見れば、アルゴルの能力は雷を司るものかと見当を付けそうなものだが……

 一度この男と衝突している飛鳥は、彼の持つ能力の特性を――ある程度でしかないが――把握していたため、それが否であると断定できた。


「“緋々色金(ひひいろかね)”――さあ、烈火の刃で断たれて燃えろ」

「“無貌の千手(フェイスザフェイズ)”――君はいったい、何人目の私まで(、、、、、、、、)辿り着けるかな?」


 ――ここに、2つの『災害(カラミティ)』が降臨した。

 片や、一対の刃を携え、銀世界を瞬きの下に灼熱の次元へと変貌させた紅蓮の騎士。

 そして片や、夢か幻のごとく、無数の見知らぬ男と女の影を従える、幽冥境(ゆうめいさかい)の絶対君主。

 互いに全力を解き放ったことを察知し、示し合わせたかのように、一歩、一歩と距離を詰めていく。

 そして、最後の一歩。双方が必殺の間合いに入るその瞬間。


「私程度を越えられないようでは、ワーグナー卿はおろか、君の親友にすら届きはしまい。せいぜい……奮って挑んでくるがいい」


「その台詞――後悔するなよ!!」


 口上と同時に繰り出される、真紅の一閃と白妙の凶手。発生した衝撃は先程までとは比較にならない衝撃と破壊を周囲にもたらした。

 正真正銘――超人と超人による異次元の激突が開始された証左であった。

 


4章は8割方バトルパートにするつもりです。3章ほど長くはならない予定。

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