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AL:Clear―アルクリア―   作者: 師走 要
STAGE4 氷夏
123/170

―第116話 幻冬、来たりて ①―

第4章開幕!

ちなみに氷夏は「ひょうか」と読みます。

シリアス言いながらラブコメになってしまうのはなぜだろうか…

 さあ、これにて役者は揃った。

 君達がこれまで見届けてきたいくつもの可能性。

 それらを結集し、紡ぎ合わせ、挑む時がついにやってきたのだ。

 絶望に心砕かれようと、艱難にその身が押し潰されようと。

 雄々しく立ち上がり、進み続けてこその『人』である。

 その信念を。

 勇気を。

 希望を。

 使命を。

 決意を。

 覚悟を。

 ありとあらゆる『意志』の力を、今こそ世界に見せつける時だ。


 ――それでは、諸君。

『進化』の(きざはし)に足を踏み入れる準備はできたかな?






『それでは、本日の天気です。7月8日、白鳳市のお天気は…………信じられないかと思いますが、大雪となっております。最高気温(、、、、)は氷点下4度、現在市内は突然の異常気象で交通機関やライフラインに多大な影響が見られ――』


 一通りのテレビ番組を流し見たが、おおよそ今と同じ内容のニュースでごった返していた。

 7月8日。

 夏真っただ中という日において、この白鳳市は真冬をも凌ぐ異常気象に覆われていた。

 外は目も開けていられないほどの猛吹雪。締め切った金戸が雪の猛攻に耐えかねて悲鳴をあげていた。


「この様子だと、電気やガスが止まるのも時間の問題か……」


 白鳳市は、本来雪が降ることすら珍しいくらいの温暖な地域だ。北国顔負けの極寒と積雪への対策など成されている筈がない。

 今のままでは遠からず死人がでるかもしれない――日野森飛鳥は、今のこの環境に強い焦りを感じていた。

 七夕の夜から突如始まったこの異常気象。

 昨日慌てて帰宅した飛鳥は、寒さ対策などまるでしておらずカッチコチになっていた同居人たちを熱い風呂に放り込み、引き出しの奥から季節外れの炬燵(こたつ)を引っ張り出し、自身の能力を用いて自宅の周囲に炎熱の結界を張り巡らせた(飛鳥個人の力では自分の家だけ守るのが精いっぱいだった)。


「……あれ? わらわ、とってもねむいのじゃあ……これってもしかして、お・む・か・え?」


「寝るな起きろ行くな戻れそっちは一方通行だから! 二度と戻れない旅路だから!!」


 中には冬眠を通り越して永眠しようとしていた爬虫類までいたものだから、飛鳥は徹夜で我が家の暖を取ることに集中したのである。

 今朝になってようやくひと段落したのだが、飛鳥の懸念通り、インフラ設備が凍結しようものなら暖房器具も揃ってお釈迦だ。

 少しでも身体を冷やさないようにして、暖かくして過ごすよう改めて家族に言い含めようとする飛鳥だったが、


「ぬへへぇ~、やっぱり炬燵に入ったらアイスを食べるに限るよねぇ~。このぬくさと冷たさのコラボレーションは、一度知ったらやみつきに「言おうとした矢先に、こんのおバカっ!!」ふんぎゃすっ!?」

 

 こんな状況下に冬場の贅沢を堪能していた愚かな幼馴染にハリセンの洗礼を下した。

 人の苦労も知らずに能天気にアイスをかっ食らっていた亜麻色の髪の少女は楯無鈴風。

 こんな吹雪の日であろうとお構いなしに日野森家に居座り、何の遠慮もなく炬燵を占拠してのんべんだらりとするグータラ幼馴染である。

 冬場の受験生が着ていそうなだいだい色の半纏を着こんだ鈴風は、ツッコミの衝撃でぐでーっと前のめりに倒れ込んだ。


「今日も軽快なツッコミありがとうございます……最近、あたしの出番イコール飛鳥のツッコミを貰ってるように思えてきたんだけど気のせいかな?」


「嫌ならもうちょっと自分の暮らしを見つめ直しなさい」


 テーブルに突っ伏したままぶちぶちと文句を呟く鈴風は放っておいて、他の面々の様子を見ることにした。


「アスカ大変だ! この馬鹿者が「雪だるま作ってくるー」なんて言って出て行ったかと思ったら、瞬間冷凍されて帰ってきたぞ!!」


「ぴきーん……」


「なんで学習しないのお前は!!」


 襖を勢いよく開いて飛び込んできたのは、翠玉色(エメラルドグリーン)の長髪が印象的なリーシェ――ブラウリーシェ=サヴァンだ。

 その手の上には全身に霜をへばりつかせ、ムンクの叫びみたいな表情で固まっている小さな人形――もとい、飛鳥の使い魔を自称する悪魔っ子ことフェブリルが乗せられていた。

 擬音をわざわざ口に出して言っている辺り意外と余裕そうではあるが、風邪をひかれても厄介だ(手遅れな気はするが)。

 リーシェからフェブリルを両手で包み込むように受け取り、己が内にある『炎』を明確にイメージする。

 飛鳥は人工英霊(エインフェリア)と呼ばれる、特異な能力を身につけた世界最先端の(、、、、、、)の超人だ。

 彼が司る力は『炎』。

 手の平から微弱な炎を展開し、ゆっくり、少しずつフェブリルを解凍していく。付着した氷が気化し、じゅうと肉が焼けるような音が聞こえてきたところで、


「……え? あぢゃっ!? あぢゃぢゃぢゃぢゃーーーーーッス!!??」


 使い魔は手の中でじたばたともがき始め、所々から黒い煙をあげながら弾かれるように外へと飛び出した。テーブルの上に着地し、熱を冷ますべくころころ、ころころ。

 寝ていた鈴風の頭に衝突しようやく停止したかと思うと、何が起こったのか分からなかったようできょろきょろと周囲を見渡し――飛鳥と目が合った。


「れ、冷凍コロッケになった夢を見ました!!」


「そりゃ貴重な経験だこと」


 流石は悪魔というべきか、ちょっと火傷寸前までこんがり炙り焼きにされた程度では動じなかったようである。

 さて後は、


「エント! 炬燵の中に入って寝るんじゃないって言っただろうが!!」


「ぴきゃっ!? あ、あるじ様ごめんなさいなのじゃー! でもでも、外は寒くて仕方がないのじゃ、火龍たるわらわには骨身に染みる寒さなのじゃー!!」


「年寄りみたいなこと言うんじゃないよ、まったく……」


 つい数日前に謎の卵から生まれたばかりの小さなドラゴン、エント(あえてフルネームで紹介するなら『フォーレント=オルニール』と呼ぶべきか)が炬燵の中で猫みたいに丸まっていたので軽く注意。

 どの子も毎度手のかかるだめっ子ばかりであるが、世話焼きなおかん気質の飛鳥にとっては「手間のかかる子ほど可愛い」という感想しかないので、特に気分を害することもなかった。

 ぷるぷると寒さに震えながら炬燵から這い出てきたエントは、暖を取ろうと飛鳥の首元にマフラーのように巻き付いてしがみつく。仕方がないので飛鳥は能力を使って自身の体温を上昇させ、人間カイロになってあげることにした。


「おぉー♪ これは、なかなか……ぽかぽかで気持ちいいのじゃあ……」


「あ!? この火トカゲめ抜け駆けすんな! そこはアタシの指定席だぞ!!」


「わぁ、なんだか炬燵よりぬくぬくそう……だったらあたしもぎゅーってね♪」


「スズカ!? ……あー、うー、すまんアスカ。私も、ちょっとだけいいか?」


「……あのね君たち。女の子なんだからもうちょっと恥じらいってものを持ちませんかね?」


 結局。

 両肩にそれぞれフェブリルとエントが引っ付き、背中から鈴風に抱き締められ、リーシェがおずおずと左腕に掴まり、妙なおしくらまんじゅう状態になってしまった。


「この非常事態に、皆さんはいったい何を遊んでいるのですか? しかも、飛鳥さんまでご一緒に……」


 そんな、世の男たちが見たら憎しみで人を殺せそうな視線を向けられる光景を、部屋の一歩外からプラチナブロンドの少女がじとっとした眼差しで見つめていた。


「あ、クロエさん……」


 昨晩からぎこちない関係になってしまっているクロエ=ステラクラインに、飛鳥はなんと声をかければよいのか一瞬判断に迷った。

 とりあえず、このハーレム状態と勘違いされそうな誤解を解かなければならなかったが、


「あら、右手はまだ空いているのですね。それでは少々失礼して……」


「え!? く、くくくクロエさん!?」


 足音ひとつ立てずに飛鳥の目前まで距離を詰めたクロエは、全身を絡み付かせるような妖艶な仕草で右手をその豊かな胸の間に挟み込んできた。

 これは流石に冷静ではいられない。小悪魔じみた笑みを浮かべるクロエを前に、飛鳥は素っ頓狂な叫びが喉をつくばかり。


「あ! ちょっと先輩なにやってんの!? 堂々と、そ、そんなっ、いやらしい誘惑するだなんて……この、エロ会長! エロ魔女!!」


「恥も外聞も躊躇いもなく殿方の背中に抱き着く貴女も大概ですよ? エロ幼馴染さん」


 クロエと鈴風がいつものように言い争いを始めるのを見て、飛鳥はほんの少しばかり安堵していた。どうやら彼女は、昨日の言い争いの件を引き摺らないようにしたらしい。ならば、自分ばかり悩んでいても仕方がないだろう。

 未来の事を考える――昨日の言葉を速攻で覆すことになってしまうが、今は目の前の問題に全力であたるべきか。


(《八葉》に連絡とって、他の皆を集めて、あとは……どうするか)


 とはいえ、取りあえずは朝食の準備である。

どんな時でも食事は三食しっかりと――日野森家の家訓といっても過言ではないこの信念に従い、飛鳥は総勢5人の美少女(一部、少女というには微妙な生命体もいるが)に引っ付かれたまま、最初の戦場である台所へと足を進めたのだった。









「――時は来たぞ、親友(とも)よ」


 そこは、色の無い(、、、、)空間だった。

 四方の壁も、床も、天井も、すべて透明無色の結晶によって形作られた場所で、ひとりの男が面を上げる。

 その男を一言で言い表すのであれば――氷刃。

 歳は飛鳥達と同年代であろう。肩まで伸びた色素の薄い髪を首の後ろで縛り、ひょろりとした線の細い体型から、中性的な印象が強い風貌だった。

 だが、蒼玉色(アイスブルー)の切れ長の双眸は、直視しただけで心の臓を刺し貫かれてしまいそうな剣呑さを放っており。触れるものすべてを切り裂くような、絶対的な『拒絶』の意思をひしひしと感じさせた。

氷室の中央で、男はこの場にいない、遠く離れたあの少年に向けて、ひとつの宣誓を行った。


「早く俺に追い付いてこい、日野森飛鳥。同じ地平に立った暁には、この手で必ずお前を――」


 霧谷雪彦(きりやゆきひこ)は、見届け人のいない孤独なこの場所で、粛々と、静謐に、その誓いのすべてを言霊に変えた。


「――お前を殺して、俺は遥かなる『進化』の先へと到達する」


 いざ動き出さん、超人達の絢爛舞踏、第四幕。

 紅と蒼、炎と氷、光と影――相反する2つの邂逅から、『進化』の物語は真の始まりを迎える。

 少年少女よ、いざ戦え。

 胸に刻んだ『意志』の強さを力に変えて、来たる試練を乗り越えてみせよ。

 


熱血バトルもののお約束であるライバルキャラ。なんと雪彦さん4話以来、リアル時間にして3年ぶりの登場。もう絶対誰も覚えてないよね彼のこと…

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