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消えた花嫁
はじめまして。
『エニシダ』
甘く低い声で彼は私の名を囁く。
心配など無用だと、安心させるように穏やかな声で。
彼は戦場を駆け回る戦士だった。
出来ることなら、貴方と共に戦場に行けたらいいと思う。
貴方を帰りを待つのは嫌い。
冷たくなった貴方を私が抱きしめるか、貴方が私を抱き上げてくれるか。
そんな事を考えると、怖くて怖くて堪らないから。
突然怖くなって、家を飛び出した。
夜道をたった一人で駆け抜けた。
もう誰も戦地に赴く必要はない。
戦争は終結したのだ。
彼は生きている。
その事は知っているけど、時々都合の良い夢をみているんじゃないかって
彼は生きて戦場から帰ってきたと思い込んでるだけじゃないかって
そう思えてきて、怖くて怖くてしかたがないときがある。
真実を知る者がいるのなら
誰もが愚かな行為だと思うだろう。
私でさえも、そう思うかもしれない。
でも、争いは人の心までも変えてしまうものなのだ。