1、めんどくさいから最強になった
目を開けた瞬間、美月 ルナは悟った。
「……詰んだ?」
見知らぬ森。知らない空気。知らない空。
最後の記憶は、部屋でだらだらしていたことだけ。
「いやまぁ……異世界ってやつか」
驚きはある。けど、パニックはない。
なぜなら――
「働きたくない」
その感情のほうが、圧倒的に強かったからだ。
ルナはゆっくり立ち上がる。
森は静かで、危険の気配もある。
普通ならここで「どう生きるか」を考える。だがルナは違った。
「どうやって楽するか、でしょ」
その瞬間。
空気が、変わった。
まるで世界が“肯定した”みたいに、ルナの中に何かが流れ込む。
知識。魔法。感覚。
「……あー、なるほど」
理解した。
「できるわ、これ」
手を軽く振る。
何もない空間に、光の線が走る。
次の瞬間――
そこに、小さな家が“存在していた”。
「……うん、完璧」
それは童話に出てくるような魔女の家だった。
木造の壁、丸い窓、煙突からは白い煙。
中に入る。
暖炉は勝手に火がつき、テーブルには料理が並ぶ。
床はきれいで、ほこりひとつない。
「自動化、最高」
椅子に座る。
何もしなくても、紅茶が目の前に現れる。
一口飲む。
「……勝った」
この世界での勝利条件は、たった一つ。
『いかに何もしないで生きるか』
ルナはその最短ルートを、開始数分で引き当てた。
外は危険。人は面倒。
だから――
「引きこもろ」
結界を張る。
外界を遮断する魔法。
音も、気配も、すべて遠ざける。
完全な静寂。
完璧な孤独。
「これでいい」
誰にも邪魔されない。
何も起きない。
何もしなくていい。
最高の環境。
――の、はずだった。
数週間後。
ルナはため息をついていた。
「……ねぇ」
森の中。
目の前には、倒れている人間がいた。
ボロボロの装備。かすかな呼吸。
「なんで倒れているの?」
問いかけても、返事はない。
当然だ。気絶している。
「見なかったことにしよ」
くるりと背を向け出歩き出す。
しかし、数歩進んだところで立ち止まる。
「……はぁ」
1つ溜息をつき、戻る。
「死なれると後味悪いし」
手をかざした瞬間、転移魔法が発動する。
数秒後。
人間の姿は消えた。
――森の外れ、小さな家の前に。
ドサッ
「えっ!?誰これ!?」
明るい声が響く。
彼女はミレイア・フローラ。
外界の世界で唯一知り合いであり、何かとルナのこと気にかけてくれる、世話焼きの少女だ。
そんな彼女の家の前に、人間が“届けられた”のだ。
一方その頃。
ルナは森の中で満足げに頷く。
「よし」
彼女なら、上手く対処してくれるだろう。
『関わらないで助ける』完了である。
「これが一番効率いい」
責任も、手間も、感情も。
全部、最小限。
ルナは再び歩き出す。
何もなかったかのように。
――だが。
彼女はまだ知らない。しばらくして、
“めんどくさい存在”に、出会うことを。




