第三話
教室には、省吾しかいなかった。
朝の早い時間。
中谷省吾は、自分の席に座りながら、腕を組んでうなっていた。
「...そういえば...昨日、告白の返事、聞いてなかった」
それに気づいた瞬間、頭の中が一気に告白の事で埋めつくされていった。
前日に起きた不可思議な事など、全て忘れていた。
そんなことよりも...問題は一つ。
告白の返事を聞いていない。
それだけ、
強いて言えば体の調子が良すぎる事だ。
教室に入る時勢いよく開けたドアは粉々に破壊されてしまったが、大した問題ではない。
壊れたドアを見ていると誰かが入ってきた。
水無月実花だ。
心臓の音が跳ね上がるのと同時に立ち上がり距離を詰めた。
二人の顔が近づく。
水無月の顔は真っ赤である。
「みっ水無月さん!きっ昨日の返事は!?」
水無月の顔は更に赤くなりうつむく。
「返事は…?」
水無月の頭の中に声が響く。
牛の声。
「やるしかねぇんだぜ」
水無月は剣を手にした…が出せなかった。
無言...。
省吾はキョトンとして
「これは…?
OK!って事?」
「なっ、なんでそうなるのよ!」
水無月はその場から走って逃げ出した。
教室ではホームルームが始まっていた。
教室の前方には担任の教師、原澤銀次郎、三十二歳、独身。
人生の酸いも甘いもそこそこ味わった結果、
多少のことでは動じない男である。
……多少のことでは。
「――でだ」
原澤は、粉々になった教室の扉を指さした。
「今朝、教室の扉がこの有様になっていた。
誰か、目撃したやつはいないか?」
沈黙。
当の本人、省吾は水無月実花しか見えていなかった。
「中谷、お前朝早かったよな!何か見てないのか?」
原澤の言葉は省吾には届かない。
「……返事は?」
「……は?」
「OKですか?」
教室が、凍った。
「……中谷」
原澤は、眉間にしわを寄せる。
「何を言っている?」
「だから返事です!
昨日の!」
「なんで俺が返事をするんだ!
返事をするのは、お前だろ!」
「でも今すぐ聞きたいんです!
返事!」
「……」
原澤は数秒、無言だった。
「……よくわからんが……」
深いため息。
「もういい……」
「良くはないです!!」
省吾は叫び、
勢いよく机に手をついた。
――次の瞬間。
バァン!!
机が、粉々に砕け散った。
木片が舞う。
「中谷!あとで職員室へ来い!」
「…はい」
壊れた机と中谷省吾。
水無月は交互に見る。
(わかってる...破壊神は危険...でも...)
深刻な表情の水無月をよそに省吾はしばらく茫然としていた。
視線の先には粉々に砕けた自分の机。
(なんだろう...なんで机、壊れたんだ?)
ちょっと手をついただけなのに...。
(そういえば最近、身の回りのものが良く壊れる気がする...老朽化ってやつかな教室も机も随分古いしな)
省吾は、世界を破壊しかけている事よりも学校の耐久年数を疑った。
(そんなことより...返事もらわなきゃ)
破壊しかけている世界より告白の返事。
省吾の頭の中は今日も告白の返事をもらうことでいっぱいだった。




