第二話
朝六時。
目覚まし時計が、無慈悲な電子音を響かせていた。
「…うぅ」
水無月実花は、布団の中でうめき声をあげる。
腕を伸ばし目覚まし時計を止めようとするも距離感を完全に見失う。
ーーゴン。
次の瞬間、ベッドから転げ落ちた。
床は冷たく視界はぼんやりしていた。
(起きなきゃ...)
そう思いながら、意識は再び闇の中へーー
「...っ!?」
ぞくり、と背筋に悪寒が走った。
眠気が、一瞬で吹き飛ぶ。
(なに...?)
胸の奥が、ざわつく。
「…なにか嫌なものが目覚めた気が...」
そうつぶやいた直後。
「へいへいっ!どうやら破壊神が誕生したっぽいぜ!」
「ーーっ!?」
声の出どころは部屋の隅。
水無月の視線はベッド脇に置かれたーーー牛のぬいぐるみ。
丸くて。
かわいくなくて。
憎たらしい顔をしている。
それが口を動かしていた。
「...え...やっぱり...」
水無月は、頭を抱えた。
「やっぱりだぜ!!」
「...っで、どこのどいつよ...
破壊神なんかに転生したバカは!」
「ちょっと待て...今、確認してる...」
牛の目が、怪しく光る。
「...おっ出たぞ!
実花、お前の学校の生徒だな。
しかも、同じクラスの奴だ。」
「うっそ!?」
水無月は牛につかみかかった。
「誰よ!最悪...
そいつ、すぐ殺すわ」
「おいおい物騒だな」
そう言いながらーーー
「破壊神に転生しやがったのは、こいつだぜ!」
---おえぇっ、と嫌な音を立てて、
口から一枚の写真を吐き出した。
「...相変わらず、汚いわね」
水無月は顔をしかめながら、写真を拾いあげる。
そこに映っていたのは、
見慣れた男子生徒。
短い黒髪。
少し頼りなさそうな顔。
「...中谷君」
(...なんで)
(なんで中谷君なの...?)
同じクラス。
特別目立つわけでもないけれど、
清潔感があって、まっすぐで...。
(...っていうか)
(なんで中谷君の写真が、こんな簡単に手に入ってるのよ...)
水無月のほほがほんのり桜色に変わる。
(...これって、ラッキーなのかも...)
すぐに首を振る。
(違う違う違う)
(全然ラッキーなんかじゃない)
(破壊神よ。破壊神、破壊神ってなによ)
(なんで?よりによって...)
写真を握る指に力が入る。
「...知ってるやつか?」
水無月は一瞬、言葉を選んだ。
「...うん。
まあ...同じクラスだし...」
牛は軽く笑う。
「まあ関係ねぇよな!!
勇者に転生したお前ならな!
悪に転生した奴は倒すのみだぜ!!」
「言われなくても、わかってるわ...」
水無月は写真から目を離した。
「...わかっているわよ!!」
…と同時に剣を出し牛を切り裂く。
牛の首が床に転がり、首だけの牛がしゃべる。
「無駄だぜ!いくら切っても意味はねぇよ。
お前はお前の役割を果せだぜ」
首のない胴体が立ち上がり右手を水無月に向ける。
「ぐっ!」
水無月が膝から崩れ落ちる。
「お前に選択肢はねぇんだぜ。
勇者としての役割を果たせ。
それ以外は消滅だぜ。」
「…わかっ...て」
水無月は牛を睨みつけた。




