第95話 空色デイズ
≪対妖魔特別警報発令!!対妖魔特別警報発令!!妖魔出現場所は小金井市関野町!推定妖魔出現数は2,000から3,000体!!東京第一高校の特技科生徒は特装具を着用、特装器所持の上、地下駐車場に集合せよ!!繰り返す!対妖魔特別警報発令!!対妖魔特別警報発令!!妖魔出現場所は小金井市関野町!――≫
「関野町って小金井公園かっ?!」
ロッカールームに駆けながら翔が声を上げる。頷きながらも剛は記憶を元に思考を巡らせていた。
(近くにまともな駐屯地は無い……一番近いのは位置的に……朝霞駐屯地か?それでも30分じゃ到着しない……くそっ!……)
トーイチからの距離も15km以上、緊急出動であってもやはり到着までは30分以上掛かるのが見込まれる。
(30分もあったら……公園だけじゃなく、市街地も大被害に……どうすれば……)
剛は特装具を装着して特装器を手にすると、翔と共にロッカールームから出て地下駐車場に向けて駆け出していく。
地下駐車場に着いて剛達4人が装甲輸送車への乗車を待機していると、そこに特装に身を包んだ御魂が珍しく真面目な顔で駆け寄って来た。
「神野くん、星野さん、本田くん、鈴木さん、4人は私について来てください」
そう言うや否や、御魂は駆け出して西新宿の地下通路を南へと進んで行く。
「御魂先生!どちらに向かうのですか?!そちらは都庁ですが!」
希美の声に御魂がちらっと一瞬だけ振り向くと、再び前を向いて駆けながら希美の疑問に答える。
「はい。都庁です。第一庁舎屋上に防災ヘリを呼びました。あと5分もしないで到着する見込みです」
どういう事だ、と剛と希美は走りながら顔を見合わせる。
ヘリコプターを使って向かえば、確かに大幅に時間は短縮できるかもしれない。だが、今都庁に向かっているのは御魂と剛達4人だけである。
「どういう事でしょうか?他のトーイチの方達は……?」
質問をしようとする希美を手で制した御魂はエレベーターに向かって急ぐ。
「説明はエレベーターに乗ってからです。急ぎましょう」
待っていた――正しくは御魂が依頼して1階で待たせていた――エレベーターに乗り込むと、御魂が4人に向かい話し始める。
「こういう事態を想定して、以前から上に許可を取っていました。緊急の際はSUADが保有しているヘリコプターで現地に先行して、少しでも妖魔の数を減らしておけるようにと言う措置です」
剛と希美、翔と奈緒は顔を見合わせる。特技科の生徒はトーイチだけで450人以上在籍しており、それだけの輸送力があるのか……と疑問に思った。
「先生、他のトーイチの特技科の人達は……」
剛の言葉を途中で御魂が遮る。
「貴方達4人だけの特例です」
屋上のヘリポートに上がると地上240mを吹き抜ける強風に加え、待機しているヘリコプターのローターから発生する風に煽られる。
風に飛ばされないように足に力を込めながらヘリコプターに近付くと、最初に御魂が乗り込み、希美、奈緒、翔、剛の順に特装器を手にしたまま乗り込む。
御魂は交信用にオーバーイヤーのヘッドセットを着用し、対する4人は事前に渡されていた耳栓をする。いずれにしろ、ヘリのエンジン音やローター音でまともな会話は困難であったが、爆音の影響で地上に降りた後も耳が効かない状態になるのを防ぐためであった。
10人程が乗れそうなヘリに全員が乗り込むとドアが閉められ、直ぐにヘリポートから離陸したヘリは西に向かい、5分と経たずに小金井公園に到着するのであった。
ヘリが小金井公園東寄りの広場に着陸すると、剛達はドアを開けて飛び降り、ヘリから少し離れた所に纏まって周囲を素早く見回す。
破壊音は西の方から聞こえ、全員はその方向に駆け出し始める。
「中央は私が行きます!神野くんと星野さんは北側!本田くんと鈴木さんは南側をお願いします!危ない場合は無理をしないようにしてください!」
御魂の言葉で剛と希美、翔と奈緒が指示された方に進路を変えて駆けて行った。
翔が上空のグレムリンや左右に散ったコボルドやゴブリンを空気矢で仕留め、奈緒がオークを中心とした正面の敵を殴り倒していくと、フェンスに囲まれた少年野球場が見えて来たのだが、そこには100匹近い小型妖魔がフェンスを破壊したり、ベンチを壊して手当たり次第に投げたり、好き勝手に動き回っていた。
翔が空気矢で、と思ったがフェンスに阻まれて上手く当てられそうもないと忌々し気な顔をしたその時、奈緒がハンマーの特装器を高く振り上げて赤の法力を纏わせて振り下ろした。
〈爆裂!!〉
奈緒が特技を発動させると野球場の中央付近の上空5m程に赤い光が生まれたかと思った瞬間、半径20mの爆炎が一気に燃え広がり、その5倍程の範囲を爆風が襲い掛かる。
100体近く居たゴブリンやコボルドは半数以上が瞬時に炎に包まれて消滅し、3割程が発火炎上して塵と化し、残りも爆風で跳ね飛ばされてフェンスや支柱に激しく衝突して体液を撒き散らしながら霧散していった。
(流石に凄ぇな……広い場所だとこんなに有効なのかよ……)
翔は爆風に顔を顰めながらも奈緒の特技の威力に感心し、奈緒はハンマーの柄を地面に着いて胸を張り、ふんすーと鼻息を荒くしていた。
北側に向かった剛と希美は、開けた場所が少なく木立の中を進まざるを得ず、火や熱を伴う特技を封じられていた。
希美は空気矢、剛は岩石弾を多用し、10体、20体と妖魔の集団を削って行く。
すると前方から木々を薙ぎ倒しながら突進してくる妖魔――3体のケルベロスの姿が見えてくる。
手元の小型妖魔を狩りながら、強力な特技が発動できない希美がどうするか考えていると、剛が一歩前に踏み出して特装器をケルベロスに向けて掲げ、緑の法力を纏わせる。
〈土剣山!!〉
剛達に向かって駆けてくるケルベロスの下から、半径10m、長さ3mの無数の針が生えてきてケルベロスを串刺しにすると、絶叫を残しながらケルベロスは塵と化していく。
剛が特技の発動を止めると巨大な針は消滅し、ケルベロスによって薙ぎ倒された木々を除けば元の光景に戻るのであった。
剛と希美が更に進むとゴルフ場との境となる小道と公園を仕切るフェンスに突き当たり、二人はフェンス沿いに南へ向かうと広場の端に設置されているトイレが見え、その先は開けた場所となっていた。
二人は開けた場所と木立の境目付近を進みながら片っ端から妖魔を討伐していると、斜め前方に妖魔を相手に無双と言う表現が相応しい御魂の姿を目にする。
(とんでもない人だな……俺と希美の二人掛かりでも勝てるかどうか……流石はSUAD現役最強特技士だな……)
先に進んだ剛と希美は1年生のクリスマスイブに来た移築建造物が複数存在するエリアに辿り着くと、そこもトロルやオークを含む妖魔が闊歩して建造物を破壊している光景が目に飛び込んでくる。
ここも溶岩弾や火口炎など使用すると建造物に燃え移る可能性があるため、剛は妖魔の群れに特技を放つ。
〈群生蔦!〉
地面から7mを超える蔦が百本近く生えてくると、トロルを中心に蔦が絡みつきその動きを止める。
〈飛翔斬!〉
蔦の範囲に存在しなかった妖魔に対しては希美が特技を放って一掃する。その様子を確認した剛は、蔦に絡みつかれて動けない妖魔に対してここで安心していつもの特技を放つ。
〈溶岩弾!〉
蔦に捉えられたトロルやオークと言った妖魔は、蔦と共に燃え上がって灰になって消え去って行く。
その先を抜けて江戸東京たてもの園の前に辿り着くと、たてもの園広場の南側から武装した数十人の集団が見えた。
「SUAD本隊到着、か……やっと終わったな……」
剛が振り返ると希美も安堵の表情を見せる。
(二人で回ったこの場所は、何とか護れたな……)
戦闘態勢を解いた剛と希美を、まだ高い晩夏の太陽が照らし続けるのであった。
第95話 『空色デイズ』 中川翔子




