第92話 HOT LIMIT
「……ワイバーンだと?!」
翔の叫び声が北の丸公園に響くと、先行していた剛と希美も足を止めて妖魔の群れとの距離を取って上空を確認する。
「5体……か……」
高度20m付近を飛び交いながら時折降下して破壊を行っている、体長4m程の飛竜――ランクA妖魔のワイバーンの姿が確認できた。
ワイバーンは連携している訳では無く単独で飛行しており、その内の1体が剛達の存在に気付いたのか、驚愕すべき早さで飛来する。
〈火炎矢!〉
希美が特装器を掲げて特技を発動すると40本程の炎の矢が向かってくるワイバーンに襲い掛かるが、ワイバーンは曲芸飛行のように旋回し、回転し、上昇して、全ての炎の矢を回避する。
「避けられた?!」
回避された事に驚きを隠せない希美にワイバーンは照準を定め、上空から重力加速を活かして突っ込んでくる。
〈剛力斬!!〉
希美に向かって急降下してくるワイバーンに対して剛は特技を発動して横殴りにハルバードを振るうと、降下軌道をずらされたワイバーンは左に旋回して上昇し、上空で体勢を立て直して様子を伺う。
上空でホバリングのように浮遊しているワイバーンに、剛は次の特技を繰り出す。
〈溶岩弾!〉
銃弾サイズの100個以上の溶岩を発生させると、ワイバーンに向けて弾幕のように放つが、鱗に掠るものの回避されて直撃する溶岩弾は1発も無い。
(何て回避能力だ……ワイバーンの特殊能力、なのか……?)
地上の妖魔であれば群生蔦で絡め捕って動きを止める事が可能だが、上空に居るワイバーンには群生蔦では届かないため、この回避能力では決定打と言える攻撃が今のところ見当たらない。
「翔!奈緒!周囲に居る地上の妖魔討伐を頼む。ワイバーンは俺と希美で対処する!」
このままでは膠着状態になりかねず、ワイバーンにのみ関わっている訳にもいかないと考えて剛は二人に声を掛けると、二人からは了承の声が返ってくる。
〈空気矢!〉
〈岩石弾!〉
希美と剛が同時に100発以上の飛翔体をワイバーンに向けて放つが、特技が発動するタイミングに合わせて急降下して回避すると真っ直ぐ二人に向かって来る。
剛がワイバーンとの間に石壁を発生させるとワイバーンは上部に衝突し、石壁を壊しながら急上昇して剛に威嚇の咆哮を放つ。
「あれも回避されるのかよ……くっ!」
剛はハルバードをつい強く握りしめるが、希美が一瞬だけ視線を送って来た。
「矢や弾がダメなら、その場所に居る事自体がダメージにしてしまえば!」
希美はそう言葉にすると、ワイバーンに向けて長剣の特装器を真っ直ぐ構えて法力を纏わせる。
〈細氷!〉
ワイバーンの周囲の空気が急激に冷却されて、空気中の水蒸気が氷の結晶と化し太陽の光を乱反射して煌めく空間を意味出す。
冷気により動きが遅くなったワイバーンは重力に耐えきれずに墜落し始める……のだが、地面に衝突する直前に冷気から逃れたためか、勢いを取り戻して二人を掠めるように飛び去ると反転し、上空から希美を激しく睨んで咆哮する。
(効いていた……だが、範囲から出ると直ぐに回復して……範囲から出られない……何か……手段が……)
引き寄せる、と言う事で剛は重力特異点を想起するが、黒の特技はまだ……本当に切羽詰まった場合以外に使えないと考える。
襲い掛かるワイバーンの攻撃を避けながら、思索を続けた剛は一つの結論に辿り着く。
(使った事無かったが……これしか今は無い!)
飛び交うワイバーンに対して特装器を振るい間合いをあえて取らせた剛は、赤の法力を練り上げて特装器に込める。
(強引にでもその中心に引き込むなら……これだ!)
〈火炎旋風!!〉
剛が特技を発動すると、最初は小さな火花が生じる。その火花が、少しずつ渦を巻いて火炎に変わり、少しずつ、火の柱に変わる。
渦を巻き始める火炎は渦巻く炎の円柱に変わり、渦巻く劫火に変わり、渦巻く炎の巨柱に変わる。
炎を上げて渦巻く竜巻は強引なまでの吸引力であらゆる物を巻き込み舞い上がらさせ、それはランクA妖魔のワイバーンも抗えないサイクロンを生み出した。
洗濯機のように渦巻き炎が纏うその中にワイバーンが攪拌されるのを確認して、剛は更に特技を発動させる。
〈溶岩弾!!〉
回避し得ない状態を作り出した上で、剛はワイバーンに対して拳大の溶岩10個を叩き込む。
溶岩の砲弾は次々とワイバーンに命中して羽や胴を穿ち、1発が頭部を砕くとワイバーンはその巨体を塵へと化して消し去って行った。
「あんな特技も習得していたのね……回避するなら動けなくする……剛のその発想には驚かされるわ」
駆け寄って来た希美が剛に声を掛けるが、剛は一瞬希美を見て頷くと、素早く周辺上空――まだ健在なワイバーンを探し出す。
「行こう!まだ全然終わっていない!」
次なる標的となるワイバーンを見つけ出した剛はその方向に駆け出し、希美も遅れじと駆け出していく。
2体目のワイバーンまで50m程に近寄ったタイミングで、希美は特装器である長剣の切っ先をワイバーンに向け、黒の法力を込める。
(動きを鈍くすれば回避する事は困難……なら!)
〈法力吸引!〉
希美が特技を発動してワイバーンから法力を奪い取ると、ワイバーンは飛んでいるのがやっとという様子に変わる。
ワイバーンから奪い取った法力を、希美は特装器に込めると次なる特技を発動させる。
〈即死〉
特技を喰らったワイバーンは悲鳴を上げ、のたうち回りながら落下して、地面に墜落すると動かなくなって灰のように崩れ去る。
難敵であるワイバーンを倒す定石を見つけ出した剛と希美は、次なる得物を探して北の丸公園を駆けて行った――
上空に居るワイバーンを全て倒し切った剛と希美が、まだ多数存在している地上の妖魔を討伐するために最も妖魔の群れが濃い方向に駆け寄ると、ケルベロス3体を含む100体以上の妖魔の大群に遭遇する。
駆け寄りながら遠距離からの特技を放とうとしたその瞬間、妖魔の群れの中からムチのような何かが飛び出してきて剛と希美を襲い、二人は特装器で斬り落とそうとするが火花を散らしながら軌道を変えるだけで斬り落とす事が叶わなかった。
「修羅か?!」
「剛!私が前に出ます!」
希美が剛の前に立ち、先程のムチのような何かに警戒する後ろで、剛は特装器に法力を込めて振り下ろしてその穂先は妖魔の集団の中心を指す。
〈火口炎!!〉
剛の特装器が指し示したその場所から、直径50cmのマグマが高さ8m付近まで噴き上がり、周辺は灼熱地獄と変貌する。
噴き上がり飛び散り流れ出すマグマに妖魔は取り込まれ、炎を上げながら消滅していく。
燃え上がり消滅する妖魔の中からムチが四方八方に振り回されるが、それは剛や希美を狙ったものとは異なり、単に苦し紛れに振り回しているように見えたが、やがてムチそのものも炎に包まれて燃え尽きて行った。
剛が火口炎を消し去った後に残されたのは、半径15m程の焼け爛れて高熱を保った不毛の大地のみだった。
「あっ!」
剛が何かに気付いたように声を上げ、その声で希美が周辺を警戒する。
「剛!どうしたの?!まだ修羅がいるの?!」
「あ、いや……そうじゃなくて……」
緊張を解いた剛の声を耳にして、希美は何があったか分からず不思議そうな顔で剛を見詰める。
「その……修羅がどんな奴か確認できなかったなぁ、って……」
そんな事を考えていたのかと思うと、希美は可笑しみで吹き出し、クスクスと笑い始める。
暫しの時間笑った希美は、顔を上げて笑顔を剛に向ける。
「帰りましょう。私たちの学校へ」
第92話 『HOT LIMIT』 T.M.Revolution




