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Limitless  作者: 神 賢一
第五章 God knows…

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第91話 妖 ~あやかし~

 7月の第2土曜日――剛がリストバンドを常時着用するようになったその週末――

 土曜日なので本来は予定が無い日であったが、剛は一人第3格技室に居た。

 まだ疼く(・・)右手首をリストバンドの上から擦りながら、剛は瞑目する。

(他の個性と違って、直接命に作用するような特技が多いから……何を使えば分かりやすいかな……)

 剛は特装器であるハルバードを構えると集中するように深呼吸して、法力を――黒の法力(・・・・)を発生させた――


 〈暗黒の(dark)儀式(ritual)!〉


 特装器が纏う黒の法力が特技発動により更に濃く溢れ出すと、剛は以前――前世以前に――希美が発動させた特技をイメージして発動させる。



 〈重力特異点(black hole)!!〉



 振り下ろしたハルバードの穂先が向けられた30m程先に濃密な黒の法力が勢い良く流れ始めて渦を作り、収束してビー玉程の大きさの黒い球体になるとあらゆる物体を強烈な重力で吸引し始める。

 剛も意識を強く持って踏ん張っていないと、発生させた重力の井戸に落ちてしまいそうな感覚を覚える。

 数秒の後に球体は臨界点を迎え、眩いばかりの光と共に消滅する。

 余りの威力に息を止めていた剛は大きく息を吐き出した後荒い息をし始め、顎からは顔を流れる汗が滴り落ちる。


(……できた……これが……黒の特技……凄まじすぎる……)

 かつて希美が発動した時は法力吸引を先に発動させており、妖魔から大量の法力を奪い取っていたから更に大きな球体を生み出していたが、今回剛は暗黒の儀式で法力を3倍程度に増幅しただけであった。

 入間が製作した特装器の特性があるにしても、込められた法力に対する特技の威力は異常とも言える強烈さであった。

(これは……黒の個性が忌み嫌われる訳だ……)

 剛はいざという時以外、黒の特技を使用しないよう心に誓う。


 帰宅後、夕飯を食べ終えた剛は湯船に浸かっていた。

 入浴中なので一糸纏わぬ姿――当然リストバンドも外しており、剛の右手首に見えるのは……埋め込まれた妖魔の生体。

 拒絶反応なのか周囲は赤黒く蚯蚓腫みみずばれのように腫れあがっており、切開して埋め込んだ後に縫合したはずなのに、どこが元々の皮膚との境目なのかすら分からなくなっていた。

(これは……絶対誰にも見せられないな……)

 見た目のグロテスクさもさる事ながら、このような手段で黒の個性を獲得したと言う事も知られてはならない事であった。



 遡る事6日となる先週日曜日――剛がリストバンドを着用するようになる前日――

 剛は一度訪れていた歌舞伎町の整形外科クリニックに再訪していた。

 このクリニックは表向きは普通の診療、治療を行う病院にしか見えないが、裏では妖魔の生体を移植する事で埋め込まれた者が黒の個性を発動できる、そう言った手術を行っている場所でもあった。

 入間が以前剛に語った妖魔の生体を治療方法に使用する研究が進められていると言う話を元に、研究実績がある医者を割り出していったところ突き止める事が出来た。

 当然ながら治療行為とは異なる目的の手術で、妖魔の生体も必要な事からその費用は桁違いであり、剛はその手術費を稼ぐためにクリニックの院長から地下闘技場を教えられたのだった。

 地下闘技場は勿論非合法のため、その賞金などを日常生活で使用する事は差し障りがあるのだろうが、このような手術――違法とまでは言わないが脱法と言える行為――の費用とするには出所が表沙汰にならない金の方が逆に都合が良かった。



(成績5戦5勝、か……もう行く事は無いだろうけど……)

 風呂から上がりバスタオルで体を拭くと、剛は真っ先にリストバンドを着用する。

 仮に恵が脱衣所のドアを開けて入って来たとしても、パンツを履いていない状況では恥ずかしい思いはするが、後で恵とケンカすれば終わる事である。

 だが、この手首……妖魔の生体を埋め込んだと言う事実を見られた場合、トーフでも大問題になって放校処分になってもおかしくなかった。

 だからこそ、剛は外出時には替えのリストバンドを常時2つ用意するようにしていた。



 週明け月曜日――

 来週から夏休みとなる直前の週、いつものように剛達4人は学食で昼食を取っていた。

「来週から夏休みだけど、模擬戦はこれまで通り月曜から金曜まで、でみんなも良いかな?」

 剛は3人の顔を見回しながら尋ねると、希美と翔は頷き、奈緒は目をキラキラ輝かせて期待に満ちた表情をする。

「私はまぁ……毎日でも問題無いんですけどね」

 その希美の言葉を聞いた奈緒は急に不機嫌な顔になる。


「え~~?それだとデートできないじゃ~~ん!」

「うん、じゃあ奈緒はデート行ってきて良いよ。誰と行くか知らないけどね」

 剛からすかさず返された奈緒は不満を撒き散らし始める。

「4人が良いのー!4人じゃないとヤなのーー!ヤダヤダヤダ!4人で行くのーーー!!」

「駄々っ子かよお前は」

 対面で座っているため流石にいつものように頭にチョップを入れる事が出来ず、翔は言葉でのみツッコミを入れる。


 食事が終わっても不貞腐れた状態の奈緒を翔が襟首掴んで引きずるように食器返却場所に向かっているその時――

 ≪対妖魔特別警報発令!対妖魔特別警報発令!妖魔出現場所は中央区北の丸公園!3年生は特装具を装着、特装器所持の上、地下駐車場に集合!2年生は直ちに地下駐車場に集合せよ!繰り返します。対妖魔特別警報発令……≫

 アナウンスに4人は顔を見合わせ、食器返却場所のベルトコンベアに昼食のトレーを置くと格技棟のロッカールームに走り出す。

「北の丸公園って何処だ?!千代田区だし江戸城の近くなのかよ?!」

 翔の疑念に希美が答える。

「武道館があるところ!すぐ南は……皇居よ!」


 生徒達が準備を済ませた状態で慌ただしく地下駐車場に駆け込むと、クラスごとに整列して次々と装甲輸送車に乗り込んで出動していく。

 車内に状況説明のアナウンスが流れ、日本武道館の南東側にある丸の内公園に妖魔が2,500体から3,000体出現していると言う事であった。

「多いな……吉祥寺の時の規模じゃねぇか」

 翔のぼやきに剛が目配せして答える。

「だが今回は俺達だけじゃない。修羅さえいなければ、慎重に、迅速に倒していけば良いはずだ」

 剛の言葉を聞いた奈緒がフラグ?フラグ?と首を傾げているが、奈緒が言う通り妖魔の数を考えると修羅がいてもおかしくない事は剛も分かっていた。


 装甲輸送車は出動後甲州街道から続く新宿通りを抜け、突き当りの半蔵門前で内堀通りから代官町通りを経由して北の丸公園管理事務所付近で一時停車すると、後部ハッチから次々とトーイチ生が降りて公園内に散開していく。

 剛達も装甲輸送車から飛び降りると、大半のトーイチ生が向かった北側ではなく、南北に細長い池の西側に向かって妖魔を探し始める。

(木立が多い……ここならひょっとして試せるか……)

 剛は一瞬考えたが、まだ他の人――希美達を含めて――に知られるのは望ましくないと思いその考えを捨てる。


 走り始めて10秒もせずに、正面に路上を闊歩する多数の妖魔の姿を確認した剛と希美は、駆けながら特装器を振るい法力を込めて特技を放つ。

 〈飛翔(leaping)(slash)!〉

 〈岩石(stone)(bullet)!〉

 角度をずらして放たれた二人の特技はそれぞれ妖魔10体以上を塵と消し去る。その空いたスペースに奈緒が突っ込んでハンマーを振るい、一撃ごとに3、4体のゴブリンやコボルドを殴り飛ばしていく。

 翔が後方から空気矢での援護と上空の警戒を行いながら3人について行くのだが、今まで見た事が無い姿の妖魔が前方上空に存在している事に気付く。



「……ワイバーンだと?!」

第91話 『妖 ~あやかし~』 堂本光一

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