第87話 Who Said the World Was Fair
剛達4人が第5格技室での模擬戦を3時間程実施した後、トーイチ特装科工作室に居る入間の所に向かい、第8工作室の中に入ると既に入間が待ち構えていた。
「いよぅ、少年少女。メンテナンスは終わってるぞ。手に取ってみるが良い」
入間に促されて剛達はそれぞれの特装器を手にすると、全員軽い驚きの表情を見せた。
(何が変わったんだろう……重量バランスか?……ほんの少しだけ先寄りになったのか……)
「君らは成長期。特に少年達はこの1年で7、8cm身長が伸びたであろう。それに合わせてバランスの調整を行ってみたのだ」
なるほど、と剛は入間の言葉に納得する。身長もそうだが、鍛錬を続けてきた事もあり去年に比べって筋肉も発達してきている。野球やゴルフなどのプロスポーツ選手も毎年のように道具の調整を行うと聞いた事があるが、特にこの時期は成長に合わせた調整は必要なのだろうと剛は理解する。
「それと、だ。神野と本田、鈴木は特装具の頭部プロテクターを着用してみよ」
理由が分からなかったが剛は入間に言われた通り、頭部プロテクターを装着する――その途端、違和感が生じた。
(何だ……?視野が広くなったのか……?いや、視認速度が上がったのか……?)
「うおっ!」「ほぇ?」
翔と奈緒も着用すると同じように着用前と違う感覚になったのであろう。思わず声が漏れていた。
「まー長々と説明した所で特技科の君らには良く解らんで終わるだろうからやめておくが、去年損壊した星野の特装具を修復する際に付け加えた仕掛けを施しておいた。認知と反応が2割程度向上すると思うから、思う存分妖魔を狩りまくってくれぃ!」
剛としては先日の吉祥寺で天道と対峙した際にこれがあれば、と一瞬思ったが、屋外修練場での模擬戦が表向きの目的だったため特装具は準備していなかった事を思い起こし、叶わぬ願いであると言う事を思い知る。
(だが、次に天道と戦う時、これが有るのと無いのとでは大きく違う……)
剛が想いに耽っていると、特装具を外した翔が入間に向かって疑問を投げる。
「この仕掛けもそうですが、例の妖魔の生体を部品化したって奴、今製作中の特装にも組み込むんですか?」
翔からの質問に入間は指を立ててチッチッチと振る。
「言ったであろう。有象無象だぞ。こんな機能組み込んだところで宝の持ち腐れにしかならん」
(そう言う事か……前世までの翔の特装は入間さん製作だったが、バランスこそ優れていたけどここまでの機能は見受けられなかったな……)
入間が垣間見せた拘りを剛は理解するのであった……
希美は吉祥寺の災禍以来、剛の何気無く見える行動を意識するようになっていた。
(そもそも、お姉さん――恵さんのクラスメイトだったからって、何で入間さんにあそこまでの全幅の信頼を置けるの……?直接の知り合いじゃ無かったみたいだし……)
授業の最中、希美は同じ教室内に居る剛を斜め後ろから眺めて考える。
(大体、何で天道なんて修羅を剛は知っていたの?……SUADの公開データベース探れば乗っているでしょうけど……何故、天道光、なの……?)
その様子をすぐ後ろの席に座っている翔が注視していた事に希美は気付いていなかった――
「なあ、希美」
希美は授業終了直後に後ろから声を掛けられる。
「さっき剛ちゃんの事ずっと見てたけど、何かあんの?」
翔の言葉に詰問の色は存在せず、確認に近い言い方であった。
椅子に座ったまま体を捻り、顔を翔の方に向けた希美は真剣な顔をして声を潜める。
「何だか剛って……その、知り過ぎじゃないかって思って……」
翔は希美の言葉で、自身が抱えていた剛に対する違和感の正体を知る。
剛はこうなるように動いてきた。こうなる事を目指してきた……何故なら、今の現実を、この先の未来を、知っている……そう考えると辻褄が合う。
「希美、今日の昼、二人だけで話せるか?」
「えっ?珍しいな、翔と希美の二人で話があるって」
昼休みになり昼食に誘おうと剛がいつものように声を掛けると、翔と希美が二人だけで話したい事があると言う事だった。
「悪ぃな。今日はちょっと希美借りるぜ」
「借りるって物じゃないんだし……」
仕方なく、剛は奈緒と二人で学食に向かう事にする。
翔と希美はパーティションで仕切られた二人掛けの席に座って昼食を取りながら話をしていた。
「希美のさっきの言葉で、俺が剛に思っていた違和感の理由が分かったんだよ」
翔はこれまでの剛との経緯を希美に話す。
小学5年生になって突然トーフに行くと言い出し、それまで無個性だったのに緑の個性を獲得して法力を発生させたこと。
トーフ入学前から木製のハルバードを自作して素振りなどをしていた事。
入学早々、初対面の希美に模擬戦を申し込んだ事。
あの奈緒のおちゃらけた言動に対して平然としている事。
特装を製作してもらう時に、躊躇なく入間に依頼した事。
1年から2年になる春休みは4月1日に小金井公園だった野外の模擬戦が、2年から3年になる今年は3月31日に井の頭公園に、剛が「面白くない」と理由をつけて変更する提案をした事。
トーフに入って以降は希美も一緒のため良く知っている事であるが、改めて思い返すと違和感がそこらに散らばっていた。
「大体、剛って剣道どころか何のスポーツも碌にやってなかったんだぜ。なのに、トーフに入学して直ぐに希美と渡り合えるってどう言う事よ?」
翔の言葉を聞いて2年前の事を思い返す。模擬戦における剛の動きは理に適っており、武道未経験者と言われて信じられるレベルではなかった。
「……それに、ハルバード、ね……剣や槍なら一般的だから解るけど……遣い手がかなり少ないあんな武器、どうやって実戦レベルまで鍛錬できたのか……」
「それを含めて、知り過ぎてんだよ、剛は……」
同じ思いの希美は自然と箸が止まり考え込む。一体何のために、何が起きているのか……
「ねえ……翔は何が起きてるか、考えられることあるかしら……?」
翔は一度天を仰ぎ、大きく息を吐いて目線を落とす。
「……剛と出会った頃かな。流行ったアニメがあってな……」
真剣な顔で翔を覗き込んでいる希美に向けて、翔が険しい顔を向ける。
「……死に戻り」
「……何……それ……」
希美としては全く聞き慣れない言葉に、まともな受け答えが出来なくなっていた。
その様子に翔は言葉を続ける。
「希美はゲームやんねぇから今一解り辛いかも知んないが、人生の中にセーブポイントがあって、死んだらそのセーブポイントに戻る……経験した知識はそのままで。俺が見てたアニメだと、そうやって何度も死んで、間違えた答えを修正して生き延びる……そんな感じだったかな」
翔の言葉は希美の理解を遥かに超えていた。その言葉を素直に解釈すると、剛は少なくとも一度以上死んで昔の自分に意識が戻り、過去に起きた事を正しながら生きている、と言う事になるのだが、何故そんな事が起きているのか、そして何のために剛はそんな人生を歩んでいるのか、まるで分らなかった。
だが、翔から言われてみて腑に落ちる部分が幾つもある。特に、天道の事と先日の吉祥寺の厄災は、一度人生を過ごして来た記憶があると考えると納得できた。
「でも……何で剛は、そんな……そんな人生を送ろうとしてるの?」
希美は剛のその心情が理解できず、翔に問い返す。
「……決まってんじゃねぇか……」
翔は悲し気で苦し気な表情の希美に、自身も悲し気な顔をして答える。
「今の剛にとって、全ては希美のためだろ」
第87話 『Who Said the World Was Fair』 Daryl Hall & John Oates




