第84話 Paladice Lost
「小賢しいのよ……ねっ!!」
瞬く間に剛に肉薄した天道はメイスを振るい、剛はハルバードで弾き返して突きを繰り出す。
剛の突きをメイスで受けた天道は受けたメイスをわざと引き、剛の体重が前に掛かるのを見越してフロントキックを見舞うが、ハルバードの柄で受けて押し返して間合いを取る。
「煩いんだよ、お前は!」
剛がハルバードを振るい斧頭で斬り付けながら冷静に受け答えするが、それは天道の神経を逆撫でする。
「あーーら?ボウヤとお話してあげてるんじゃないの。その好意を無下にするなんて……酷い子ねっ!!」
天道はメイスを力任せに振るうが、剛は軌道を見切って躱しながら天道に穂先での突きを見舞うと、天道はメイスで弾いて軌道を変えて間合いを取り直す。
「お前からの好意なんて、これっぽっちも要らないんだよっ!」
〈剛力斬!〉
剛は緑の法力を込めて特技を発動し、横殴りに特装器を払う。
入間が製作した特装器であるハルバードの剛力斬は今やサイクロプスさえ殴り飛ばす力を持ち、実際にメイスで受けた天道はその衝撃で数m弾き飛ばされる。
その弾き飛ばされた先で天道を待ち構えていた――希美が特技を発動して長剣を一閃させる。
〈炎刃!〉
〈光防壁〉
希美が発動させた特技に危険を察知した天道が光の楯を生み出して受けると、希美は長剣を引き、何かを呟いて左手を地面に突き、素早く移動する。
その希美の動きに注視している間もなく、剛のハルバードによる斬撃が天道に襲い掛かる。
僅かに掠ったその一撃は天道の左腕に一筋の傷を生み出し、そこからは血が――何色か分からない液体が――流れ出す。
(行ける!これなら、ここで天道を討ち果たせる!)
剛は希美との位置関係を素早く確認すると、穂先による突きをフェイクに一回転して斧頭による斬撃を放ち、避け切れずに掠めた穂先の一閃が天道の腹に新たな一筋の傷を作り出す。
剛の一閃を受けて思わず後ろに数m下がった天道は、口を三日月のように釣り上げた笑みを浮かべ、腹部の傷から流れ出る血を自らの顔に塗りたくり、剛を睨んで舌なめずりをする。
「よもやよもや、ね……こんな楽しい時間を過ごさせてくれて感謝だわぁ。でも、それも終わりよ」
剛は天道の言葉を聞いて、次に起こる事――天道が発動する特技を予想して一か八かの賭けに出る。特装器を平に構えた状態で法力を込め、その一瞬を待ち構えた。
天道の背中に光の羽が生まれたその瞬間、剛は天道と自分の間に濃密な飛来物を生み出して大きく後ろに跳躍する。
〈隕石群!!〉
目に見えない速さで剛に迫ろうとした天道であったが、既に発動した特技は止める事が叶わず、剛との間に音速を超えて落下してくる灼熱の隕石の直撃こそ免れたものの、至近弾による劫火と衝撃で弾き飛ばされ、その刃は剛に届く事が無かった。
灼熱に曝され、衝撃波で吹き飛ばされてボロ雑巾のようになった天道に、剛は止めを刺すべく駆け寄ろうとしたが、その瞬間天道の視点の定まらない眼が煌めいたのを見逃さなかった。
〈石壁!!〉
咄嗟に天道との間に巨大な壁を生み出すが、天道が放った一撃――宛らレーザー砲の砲撃のような閃光が壁を貫き、剛の蟀谷を掠るとその衝撃で剛自身も5m程吹き飛ばされた。
背中から地面に落ちた剛は軽く頭を振ると飛び起きるように体勢を立て直してハルバートを構え、石壁を消して天道の様子を隙無く伺うと、天道がメイスを振り被って剛に向かい突進しようとする姿を目にする。
自分に向かって突進してくる天道に対し、剛が穂先を繰り出そうとしたその瞬間――
「剛!!下がって!!」
希美の声に剛は反射的に数m後ろに飛び跳ねて天道との距離を稼ぐと、剛の動きを確認した希美は右手を地面に着いて黒の法力を特装器に込める。
〈深淵の監獄〉
天道の周り――正しくは天道を中心に四ケ所――に黒い渦が巻き上がり、その渦が高さ4メートル程の黒い柱に変化する。
その黒い柱を繋ぐように水平の糸が多数――10センチほどの間隔で――発生して、天道の周りを瞬く間に覆う。
天井とも言える上部も同じような黒い水平の糸が張り巡らされ、人外の修羅を捉える[檻]が完成する。
「なぁに、コレ?……こんなのでアタシが捉えられるとでも……〈神の光弾〉!!」
天道が構えるメイスの先端に真っ白な光球が発生し、その大きさが両手で掴むより大きく――バレーボールほどに――成長したタイミングで、天道は前方に向かってメイスを突き出し、神々しい光球をその身を囲う檻に向けて放つ。
天道が放った光球は檻にぶつかると同時に目が眩むほどの光の爆裂となり、檻に穴を穿った……かのように見えた。
だが、天道を囲う檻はその光の爆裂の威力を受け止めると、天道に向かってその爆裂を弾き返す。
その時初めて天道は驚愕の表情を浮かべる。
「なぁっ?!」
天道は自らが振るった特技の威力を自らの体で体感することとなる。直撃を受けた天道は己の圧倒的な力を己自身で受け止め、そのまま檻の反対側に激しく叩きつけられることとなった。
「……ふっ……ふふふっ……やって、くれるじゃないのぉ……くくっ」
自らの高威力の特技を受けて、ロリータ風の服が更にボロボロになった状態の天道は陽炎が揺らめくように立ち上がる。
相も変わらず、狂気の笑みを浮かべながら。
そのタイミングで、駅側から10名ほどの男性――SUAD本隊の隊員――が駆け寄ってくる。
先頭の男性――この部隊の隊長であろうか――が剛と希美に近づき、敬礼する。
「ご協力感謝します。この者が何者か分かりますでしょうか」
その言葉に希美は軽くお辞儀をして答える。
「捕らえているのは重警戒対象修羅第255号の天道光と思います。後の処置はお任せしてよろしいでしょうか」
「重警戒対象修羅……分かりました。この先は当方で対応します。おい!捕縛準備急げ!」
隊長と思しき30代半ばの男性は希美に答えた後、隊員たちに行動を促す。
魔力の――いや、「法力」の檻から出されて特殊な拘束具で拘束された天道は、周囲をSUAD隊員に囲まれて装甲輸送車に連行されるが、剛の近くを通った時に顔を向け、ニヤリと笑う。
「あたしを殺さなかった……違うわね、殺せなかった事を後悔させてあげるわぁ」
その言葉を聞いた剛は、忌々し気な顔をして天道から視線を逸らす。
(その通りだ……コイツは、ここで殺しておかなければいけなかった……せめて腕の一本ぐらい失わせておかなければならなかった……)
その様子を見た希美は剛に近付き、そっと背中に手を置く。
「剛の思っている事は解るわ……でも、今の私達の力では恐らくこれが精一杯……やれるだけやった結果だわ」
剛にとっても希美の言っている事が正しい事は理解できる。理解できるのだが……やはりこの日、この時が、天道を討ち果たす最大の好機と考えていた剛には、この程度しかできなかったと言う忸怩たる思いがあった。
「それに……剛が今日井の頭公園で模擬戦を行う事を提案していなかったら……私達が吉祥寺にいなかったら、被害はこんなものじゃ済まなかったはず……剛のおかげで救われた人が沢山いるの。その人達のためにも、胸を張りましょう」
希美の言葉に剛は黙って頷くと、天道が乗せられて吉祥寺大通りから走り去る装甲輸送車を見送った。
(……次こそは、必ずキサマを倒す……!)
剛は蟀谷を伝う一筋の血を拳で乱暴に拭うと、装甲輸送車が走り去った虚空を睨み付けるのであった……
第84話 『Paladice Lost』 茅原実里




