第83話 燃える花の隊列
「いつも奈緒がお世話になっててありがとうね。みんなの事は奈緒から良く聞くのよ」
食事を運んできた奈緒の母親が3人に向かって言うと、奈緒が少し不満げな顔をする。
「お世話になってって、あたしが問題アリみたいじゃないの」
「いや実際問題発言とか問題行動に突っ込まれまくってんじゃねぇか」
奈緒の不満に対して、何時もツッコミを入れている本人がツッコミを入れる。
その様子に剛と希美は苦笑しながら顔を見合わせていた。
「この家は元々お爺ちゃん家だったんだけど、10年くらい前に定年で仕事辞めた時に山梨に帰っちゃったから、お父さんがこの家継いで引っ越してきたんだよ」
剛は奈緒の言葉で、古風な家の造りである事に納得する。奈緒の祖父の家だったと言う事なら、築40年程度なのも理解できた。
翔は奈緒の言葉を聞いて違和感を感じ、少し考える。
「あれ……希美の家も爺ちゃん家だったよな。それにしては新しかったと思ったけど」
希美は翔に視線を送ってその疑問に答える。
「わたしのお爺さんは公務員だったから、その間はずっと公務員宿舎に住んでいたの。国家公務員で全国に転勤があったらしいから、家を建てても住めない状況だったみたいね。今の家を建てたのは定年で退官した後だから、12年くらい前になるかしら」
この辺りの話は、2歳で今のマンションに住み始めた剛としては中々頭に入ってき辛い内容であった。今の話からすると、奈緒も物心付いてから今の家に転居しているし、翔は小学4年生の時に現在住んでいる祖母の家に、希美も小学校入学と同時に祖父母の家に移ってきている。
違う家に住んだ事が記憶として残っているから、漠然とではあるがそれぞれの家の事情と言うのが見えてくるものなのかも知れない。
そう言う風に話を聞きながら、剛は奈緒の母親が作ったオムライスを頬張っていた。
食後に紅茶が出されて4人はまったりしながら飲んでいると、奈緒が遊びに行く事を提案する。
「この後どうする~?去年は北口側周ったから今年は南口側周ってみる~?」
(だが、あと10分もしないで警報が発令される……天道が、現れる!)
剛は本来今日吉祥寺に来た目的を改めて思い返すと、その様子に翔が心配して声を掛ける。
「剛ちゃん、どしたん?恐い顔してるぞ」
そう言われてはっとした剛は、苦笑いして翔の疑問を誤魔化す。
「悪い悪い。さっきの模擬戦で気になった事があって思い返していたんだ」
全員が紅茶を飲み終わり、そろそろ南口側の商店街を周ろうかと立ち上がろうとしたその時――
≪対妖魔特別警報発令!!対妖魔特別警報発令!!妖魔出現場所は武蔵野市吉祥寺本町!!近隣に居る方は直ちに安全な場所に避難してください!!繰り返します!対妖魔特別警報発令!!……≫
「特別警報だって?!警報じゃないのかよ?!」
特別警報のアナウンスを聞いて翔が険しい表情をして剛に尋ねる。
「妖魔1,000体を超えると特別警報になるわ!2、3,000体いる事を覚悟しておいた方が良いわ!」
翔の疑問に希美が答え、立ち上がると特装器の収納袋を手に取る。
「え?希美んみん行くの?妖魔倒すの?」
奈緒が希美の様子にきょとんとした表情で尋ねる。
「近くに居る俺達が何もしない訳にも行かないだろ。奈緒も準備しろよ」
そう言った剛の意識は既に吉祥寺駅北口にいるはずの天道に向けられていた……
4人は特装器を収納袋に収納した状態で手にして井の頭公園に駆け込むと、狛江橋から七井橋を経由して吉祥寺駅南口に辿り着き、吉祥寺大通りの駅ホームアンダーパスを駆け抜けて駅北口に抜けると、そこには希美達がこれまで見た事がない妖魔の大群が闊歩し、吉祥寺の街を破壊していた。
(陸上自衛隊の練馬駐屯地からSUAD本隊が緊急出動してもここまで20分は掛かりそうだ……待ってなどいられない。1体でも多く狩って、そして……天道を倒す!)
剛は走りながら特装器を収納袋から取り出し、妖魔の群れに向けて掲げると法力を込め、特技を放つ。
〈溶岩弾!!〉
特技の中でも剛にとって得意技とも言える、溶岩を拳大では無く銃弾サイズで100以上発生させて弾幕のように妖魔に向けて撃ち込むと、オーク数体を含む50体以上の妖魔が炎を放って塵と消え去って行く。
妖魔が消え去った空間に4人は駆け込みながら周囲の状況を把握し、希美が右、奈緒が左、翔が上に向けて特装器を掲げる。
〈飛翔斬!〉
〈空気矢!〉
〈火炎矢!〉
希美が放った空気の刃は低く地を這うような軌道で、小型妖魔であるゴブリンやコボルドを数十体纏めて切り裂く。
翔が放った空気の矢は上空を飛行する集団に飛翔し、グレムリン10体以上を空中の塵と化す。
奈緒が放った炎の矢は少しずつ角度を変えて放たれ、数発命中したトロルを火炎に包んで消し去る。
三者三葉の攻撃で妖魔を討ち減らす様子に、剛は状況を確認してハルバード型の特装器を高く掲げる。
(ここなら……吉祥寺大通り上なら使える!)
剛は掲げた特装器に、ありったけの赤の法力を込めて振り下ろす。
〈隕石群!!〉
一際目立つサイクロプスを中心とした妖魔の集団の上空に、50を超える黒い点が現れると瞬時に赤く赫灼たる熱を湛えると音を超えた速度で地面に落下し衝撃波を周囲に撒き散らす。
隕石が落下した周囲は劫火に包まれてサイクロプス3体を含む200体を超える妖魔が焼き尽くされ、灰となる。
劫火の範囲から免れた妖魔も、その衝撃を受けて吹き飛ばされ、ビルに激しく衝突して頭を、胴を挫滅させて塵と化していく。
自ら放った特技の熱風を受けながら、剛は周囲に目を光らせた。
「姿を現せ!天道光!!」
剛が妖魔の群れに岩石弾を放ちながら声を張り上げると、形を失い消滅する妖魔の中から一人の女――天道光が歩み出る。
身長150センチにも満たない小柄な体に青みがかったショートボブの銀髪、白を基調としたロリータ風の衣装に身を纏い、真っ白にも見える顔に輝く金色の瞳は大きく見開かれてどこに焦点があるのか定かでない。
「あーーーら、ボウヤ。覚えていてくれて光栄だよ。でも、もっとゆーーーーーっくり遊ばせてよぉ」
「戯るな!!」
〈溶岩弾!!〉
剛は再び弾幕状にした溶岩を天道に浴びせるが、天道は自らに向かう溶岩をメイスを振り回して弾き飛ばし、弾き飛ばされた溶岩は周囲の妖魔に突き刺さって炎上していく。
その予想外の威力に天道は僅かに眉を顰めるが、すぐにニヤッと形容するのが相応しい笑みを浮かび上がらせる。
「なーかなか面白いことしちゃうのねぇーー」
〈破砕光球〉
言いながら天道がメイスを振るうと今度は野球のボールほどの大きさの光球が生まれ、剛に向かって音を超える速さで向かっていく。
剛はその光球を避ける事無く特装器の斧頭で斬り払うと、二つに割れた光球は剛の左右を通り過ぎて背後のビルに衝突して爆発し、ビルの壁面に巨大な穴を穿つ。
その爆発の威力で異常な事態を感じ取った希美が剛の方に駆け寄ってくると、飛翔斬を飛ばしながら剛に叫ぶ。
「一人では危険だわ!冷静になるのよ、剛!」
剛に駆け寄りながら、希美は体勢を低くして何かを呟きながら左手を突く。
希美の声に剛は頷いて特装器を掲げると、天道に向けて駆け寄り法力を込めた特装器を振るう。
〈剛力斬!!〉
剛が振るったハルバードの柄が天道のメイスと激しく打ち合わされ、天道はその重い一撃を受けた事で5m程後ろに弾き飛ばされる。
「天道……俺はここで、貴様を、討つ!!」
第83話 『燃える花の隊列』 平沢進




