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Limitless  作者: 神 賢一
第五章 God knows…

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第81話 Heart To Heart

 剛は希美達とトーフに通いながら日々模擬戦を行って剣技――剛の場合は槍斧術になるのだが――を向上させ、時折発生する特務実習で日々の研鑽を存分に発揮して妖魔討伐を続けていた。

 気付くと季節は秋を過ぎて冬になり、あと1週間程で冬休みを迎える頃――


「冬休みの間の模擬戦は、夏休みと同じで平日の週5日で良いでしょうか?」

 昼休みの学食で昼食を取るいつもの4人。その中で希美が冬休みの予定について提案してきた。

 剛がスマホでカレンダーを確認すると、冬休み初日の26日が金曜日で、学食が休みに入る大晦日が水曜日。30日に模擬戦を行ったら次は翌週になると言う見込みであった。

「それで良いんじゃないかな?あと、今年も初詣は行く?」

 剛が初詣の話を話題に上げると急に奈緒が目を輝かせる。

「希美んみんのお家でお雑煮~~~♪」

「お前は食う事しか考えねぇなぁ」


 翔と奈緒の相変わらずの遣り取りに苦笑した剛は、居住いを正して希美の方を向く。

「それで……来週の水曜日、ウチに来ないか?母さんと姉ちゃんが、希美を連れて来いって煩いんだよ」

 その言葉を聞いた希美は少し悪戯っぽい顔をする。

「へぇ……来て欲しいって思ってるのはお母さんとお姉さんなんだ……」

 そう言われた剛は一瞬何を言っているのか分からず、その言葉の真意を理解すると慌てて言い訳じみた事を口にする。

「も、勿論一番来て欲しいって思ってるのは俺だよ」

 剛の慌てた様子に希美はクスクスと笑い始める。

「分かってるわ。お邪魔させてもらうと伝えてください」



 一週間後の水曜日……12月24日――

「じゃあ、また武蔵小金井駅のロッカー前で待合せで良いかな?」

「はい、早めに向かいます」

 剛と希美は待ち合わせを確認して、トーフを後に……と言いながら、剛が帰宅のために乗る東京メトロ西新宿駅までは希美の帰宅ルートと被っていた。

「剛と2年近く過ごすのって、何か想像してなかったわ……あの、天道って修羅?あれがいると……」

 何故かこのタイミングで思い出して伏し目がちになる希美に対して、剛は簡単には返す事が出来ない。

 100回以上天道に殺され、希美も命を喪い、仇敵としか言えないその姿を思い浮かべるが、軽く首を振ってその姿を追い払い、今日を楽しむ事だけを考えた。

「今はその事は忘れよう。今日は、美味しいもの食べて、楽しい事して過ごす日だよ」


 希美と一旦別れて、剛は地下鉄丸ノ内線から荻窪で中央線に乗り換える。

(あ……何も用意してない……これじゃ見舞いの時と同じじゃないか……)

 剛はJR中央線快速に乗り換えた後、最寄り駅である武蔵小金井駅では無く、吉祥寺駅で降りるのであった。


 1時間後、武蔵小金井駅――

 剛が電車を降りて改札を抜けると、ロッカー前には既に希美の姿があった。

「ゴメン!待たせた?!」

 声を掛けてくる剛の顔を見て、希美は軽く手を振って応える。

「大丈夫。私も5分くらい前に到着したばかりだから」

 剛はカバンの中を漁り、掌に乗るくらいの紙袋を取り出して、希美に差し出す。


「これは……?」

 首を傾げる希美に、剛は頷く。

「開けてみて」

 剛から紙袋を受け取り、中身を取り出すと――それは漆黒のシュシュ。

「前にあげたの、ダメになっちゃったから……新しいのをと思って」

 照れながら話す剛に、希美は笑みを浮かべて答える。

「嬉しい。大切にするね」


 剛と並んだ希美が駅から小金井街道を北に歩くと、男性の9割が、女性の半分が、希美を見て振り返る。

(そりゃそうだよ……テレビに出てるアイドルより、希美の方が綺麗なんだから……)

 その附随物と考えている剛であるが、自覚していないだけでそこらのアイドル事務所のタレントより、引き締まった顔をしている事は、本人は全く気付いていない。

 それを気付いていない事を希美は理解し、剛の家に歩くまでのこの時間を独占しようと、剛の腕を取って胸を押し当てる。

「ちょっ!希美?!」

 狼狽える剛に対して希美は見上げるような視線で笑みを浮かべる。

「パートナーの事は知らない事がないようにした方が良いでしょ?私も動揺する剛を知っておきたいから、ね」


 そう言いながらも希美は内心、心臓が破裂しそうなくらい緊張しまくっていた。

破廉恥はれんちな女って……思われたら……死にたくなる……)

 そんな希美の想いなど知らずに、組み付かれた剛は程良く柔らかい感触を感じながら、何を言って良いのか分からず困惑し続ける。

 剛にとっては物心付いた頃から住んでいる街であるため、誰か知り合いに見られるんじゃないかと気が気ではなく――実際に小学校時代の同級生や、現世では交わる事が無かった桐野に見られて、「映画か何かの撮影か?」と思われていたとは知る由も無かった。


「ただいま。希美を連れて来たよ」

 マンションのエレベーターで自宅の階まで昇り、自宅のドアを剛は開けると在宅している母親に声を掛ける。

 直ぐにリビングの方からパタパタとスリッパの音を立てて剛の母親、しずくが顔を見せる。

「あらあらまぁまぁ、希美ちゃんよく来てくれたわね。さあさあ上がって上がって」

「こんにちは。お邪魔します」

 剛に続いて希美は靴を脱いで家に上がると、リビングに通された。


「お腹空いてるでしょう?直ぐに並べるから座って待っててね」

 希美がリビングの炬燵に入ると母親はキッチンの方に向かい、炬燵の上に剛と希美の分の昼食――青椒肉絲と小松菜のおひたし、かきたまスープとご飯を並べていく。

 丁度並べ終わった頃に剛も着替えを済ませてリビングにやって来て炬燵に入る。

「ありがとうございます。いただきます」

 希美が言うと剛は顔を見て頷き、二人は昼食を取り始めた。


 二人が食事を終えて食後のお茶を飲んでいる時に、恵が帰宅してリビングに姿を見せる。

「ただいまー。あぁもう、あの先生クドくて時間取られるから大変だったよー。あ、希美ちゃんいらっしゃい」

「恵さんこんにちは。お邪魔しています」

 希美は恵に向き直って座った状態でお辞儀すると、恵はひらひらと手を振って希美に笑顔を見せる。

「自分の家だと思ってのんびりしてね。あ、何ならコイツと入れ替わって本当にうちの子になる?」

「コイツって何だよ。さっさとあっち行け」

 剛は手でしっし、と追い払うようにしながら恵の言葉に反応していた。


 制服から着替えた恵がリビングにやって来て、炬燵に入り込むと剛と恵に向かって話し始める。

「あなた達、家でやる事無いなら出掛けてきたら?小金井公園……は去年も今年の春も行ったわね。だとしたら……フェスティバルコートで何かやってるかも知れないし、無かったとしてもお店は色々あるから見て回れるわよ。疲れたら座ってコーヒーでも飲める店が何件もあるし」

 小金井市は確かに遊べる場所と言うのは少ない。歴史的や文化的に意味がある場所は多少あるのだが、徒歩5分程の浴恩館公園の文化財センターに行った所で下村湖人やその著書である次郎物語を知らなければ余り興味も沸かないだろうし……

 そう考えると、総合スーパーやショッピングモールが集まっている駅南口側はそれなりに時間を潰せそうであった。


 マンションのエントランスを出た剛と希美は並んで小金井街道を駅の方へ散歩がてら南下する。

 歩き始めて直ぐに、駅から自宅までと同じように希美は剛の腕を取って抱き着くように腕を組む。

「ちょっと、希美……」

 剛が困惑するのを尻目に希美は腕を組んだまま歩いて、最初の信号まであと30m程のコンビニ前まで来た時、左の通りから剛達がいる方に向かって曲がって来た同世代の男――翔と剛の目が合った。

 お遣いを頼まれたのか商品が入ったレジ袋を持った翔は一瞬足を止め、天を仰いで大きく息を吐くと、剛達の方……翔の家の方に向かって再び歩き出し、剛達と擦れ違う。


「仲が良いってのは良い事だと思うぜ、俺は」


 その翔の言葉に剛も希美も顔を真っ赤にするのであった……

第81話 『Heart To Heart』 浜田麻里

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