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Limitless  作者: 神 賢一
第四章 Spread Wings.

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第71話 Black in White

 トーイチ3年Aクラスのトップ4――田中、田井中、秋山、そして平沢――

 先程迄対戦していた2年Aクラスの伊達、富澤と比べても、明らかに1ランクも2ランクも上の相手であった。

 その4人が、トーフ2年生である剛達の模擬戦の相手を務めると言うのである。

(これは流石に……誰も勝てないかもしれない……)

 この相手では訓練にならないかもしれない……剛がそう思い、断ろうとしていたその時――


「良いねお兄さんたち♪じゃあ、あたしが最初やるから、誰が相手してくれる?」

 奈緒の能天気な声が響く。そして、その声を聞いた剛達3人は頭を抱える。

 平沢達4人は顔を見合わせると、田井中が前に出て来た。

「じゃあお嬢ちゃん、俺が相手で良いかな?」

 田井中の言葉に対して奈緒は目を輝かせて答える。

「うん!覚悟は良いですかな?良いでござるかな?」


 田井中は双刀使いであった。少し短めの刃渡り75cm程の木剣を両手に持ち、連動した斬撃を足捌きを活かして敵に叩き込む技巧派であった。

 対する奈緒は大型ハンマーを使う一撃必殺、言い換えると大味な攻撃が特徴で、正反対のタイプと言えた。

 一見すると奈緒が圧倒的に不利に思えたが、そうではないと……そう思っていたのは翔であった。

(細かい刺突や斬撃に対する対応は俺で慣れてるはずだ。簡単には終わらんだろう……)

 そんな翔の想いを置き去りに、奈緒と田井中の模擬戦は始まるのであった。


 模擬戦開始と同時に、奈緒がハンマーを振り下ろす――と剛と翔は思っていたのだが、奈緒はハンマーを構えたまま田井中に歩み寄る。

 ふふふっ、ふふふふっ、と奈緒が奇妙な笑い声を出しながら近付くと、田井中は意図が読めず困惑する。

 困惑している中で左右の突きを数回繰り出すが、奈緒はほぼ全てを回避し、いくつかをハンマーで弾く。

(な、何だ、こいつは……何故この状況で、わざわざ間合いが近い俺の方に近付いて来るんだ……)

 たまらず右の斬撃を繰り出すが、奈緒のハンマーで弾かれてその重みで田井中は体を右に流される。

「どっかーーーん!」

 そこに奈緒のハンマーが全力で振り下ろされ、田井中は左の剣で辛うじて受け流してそのまま前に数歩走り出てハンマーの軌道から逃げる。


「あいつのハンマーは初見殺しだな」

 これまで一番奈緒と模擬戦を遣って来た翔が正直な感想を漏らす。1年以上模擬戦をやって来たからこそ、その動きは大体イメージできる翔であったが、今の動きを1年前にやられていたら何回入院してただろうと、苦笑いしながら思っていた。

 だがそこはトーイチ3年の最上位を占める田井中。ハンマー使いはいなかったが、メイス使いやバトルアックス使いなど重さを活かした相手との模擬戦は何度も繰り返しており、挙動が大きくなる事を熟知していた。

 奈緒のハンマーの大振りな一撃を見て、細かい突きや斬撃を繰り出す。


 奈緒は田井中の突きや斬撃をハンマーの柄を使って軽くいなす。

(翔んるんの方が鋭いかなぁ)

 奈緒の考えた事は正しいのだが、翔に比べて田井中はこれまで対人戦の量では圧倒的に多くこなしてきており、駆け引きの面で大きく上回っていた。

 ハンマーが振られる始動に合わせて突きを繰り出し、奈緒は避けるために体勢を変える必要があり、僅かに軌道が逸れたハンマーを掻い潜って田井中は奈緒に肉薄する。

(あ、やっばーー。)

 やられると思った奈緒は咄嗟に、駆け寄る田井中が踏み出した脚の膝を踏み台に、大きく後ろに跳び退る。

 3分程はトーイチ3年生の最上位クラスの田井中に対して互角の戦いを繰り広げていた奈緒であったが、気紛れな性格が災いして集中力を徐々に欠いてしまい、惰性で振ったハンマーを片手の剣で受け流され、その隙に懐に踏み込まれてもう片手の剣を首筋に突き付けられるのであった。


「ふえぇ~~、やっぱトーイチ3年生は強いねぇ~~」

 あっけらかんとした表情で剛達の所に奈緒は戻って来た。

 そんな軽いノリの奈緒とは異なり、剛と希美は神妙な顔で仲間の元に歩む田井中の背中を見ていた。

「集中が切れないと言うのは凄いと思うし、厄介ね」

 希美の言葉に剛は頷く。

「常に全力ではなく、状況を読んで流す事が出来るのも大きいな……」


 次に対戦したのは翔と秋山。槍使いの秋山に対して、剛との模擬戦で長柄武器相手は慣れていたのだが、剛のハルバードと異なり突きが殆どの攻撃手段であり中々間合いを詰める事が出来ず、善戦するものの最後は細剣を絡め捕られて万事休す。

(見事なものだ……穂先を常に翔に向けて逸らさないから、リーチの差がある翔としては手が出せないな……)

 明らかに格上との対戦だったのだが、それでも悔しさを隠し切れない翔。

「ったく……トーフの奴らの槍と全く動きが違いすぎるぜ……」

(それを体感できたのが大きいんだけどな……)


 3番手に出て来たバトルアックス使いの田中に対して、剛が歩み出る。

 過去――前世以前にも、バトルアックス使いの上級生とは何度も模擬戦を行っており、基本的な立ち回りは頭に入っていた。

(後はそれを実践するだけ……よし!)

 開始と同時に剛は素早く一歩前に出て、誘うような左逆袈裟に斧頭を切り上げると、田中はバトルアックスの重みを利用して上から叩き伏せるように振るう。

 打ち合う直前で力を抜いた剛のハルバードは勢い良く弾かれて……床面で跳ね返った勢いを活かして左一文字に振るう。

 まさかの挙動に驚いた田中はバトルアックスの側面で受けるが、勢いが強く押し込まれる。

 押し込まれて間合いが開いた田中に対して突きを繰り出し、右へ、右へと誘導した後、突きと見せ掛けて右からの切り付けでバトルアックスを左に弾くと、剛は体勢を低くして二歩鋭く踏み出し、下から田中の顎に向けて穂先を突き付ける。


「……参った……」

 苦し気に言葉を捻り出した田中の様子を、田井中と秋山はまさかと言う表情で眺め、平沢は鋭い眼光のまま見つめ続けていた。

(この神野と言う男、何を隠している?……どう見ても3年や5年で見に着く戦い方ではない……何者だ、神野剛……)

 だが、平沢にとってはいつまでも剛を気に掛けている場合ではない。

 平沢の前に進み出たのは、当然これまで模擬戦を行っていない希美である。


 開始前に正面から対峙し、希美の顔を見た平沢は……ぞっとする程背筋が寒くなる思いをする。

(まるで……闘気が無い……だ、と……?!)

 普通なら模擬戦であろうが、相手を倒す意気込みとも言える闘気――場合によっては殺気とも言える気概が見えるものである。

 しかし平沢にとって、今の希美にはそう言う気概も気負いも何も感じない。むしろ、無の境地――明鏡止水とも言える、揺らぎが無い感情を見せているのだ。

(こんな馬の骨に、こんなに俺が追い詰められるとは何たる事か……)

 平沢は平静を装って、希美との模擬戦に挑む。


 長剣同士の戦いは激しい打ち合いから始まった。

 右、左、上、下。あらゆる角度から激しく打ち合い、凌ぎ合う二人。

 しかし、平沢にとって不思議な事に間合いが希美の方が半歩広い。

(どう言う事だ……剣の間合い自体は大差無いはずなのに、何故その一足の間合いが違う……)

 これまで数々の得物を使う相手と模擬戦を繰り返してきた平沢だからこそ、この不可解感は否めなかった。


(剛ならここで斬り払う……遠いわね、届かないわ。)

 希美としてはこれまで一番相手してきたのは剛である。ハルバード使いの剛の得物は2.5m程。長剣と比べると間合いは遥かに遠い。

 その剛の、鋭い斬撃や突きを躱し、受け、受け流してきた希美からすると、剣の間合いの相手など、余程桁違いの実力差が無ければ凌ぐ事は可能であった。

(なら、こっちから……)

 希美は大きく踏み出して真っ向から剣を振り下ろす。


 平沢はその斬撃の鋭さに痺れた手をかばい、剣を取り落とす。


(何だ、このバケモノ(・・・・)どもは……)

第71話 『Black in White』 P-MODEL

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