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Limitless  作者: 神 賢一
第一章 (RE)PLAY

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第7話 いくつかの空

 季節は何事も無く、夏から秋、そして冬へと過ぎていった。

 いや、何事も無い訳ではなく――剛が知らない事が起きずに――2026年もあと数日で終わりを迎えようとしていた。

 剛にとっては既に一度経験した事ばかりであり、驚くような出来事は――日常レベルの物は兎も角、突然の妖魔出現や天変地異などは――全くと言って良いほど起きていない。


 勿論日本全国、いや、世界各地で妖魔の出現は続いているが、剛にとっては予定調和でしかなく、[前世]と変わらず過ごせている。

 変化と言えば……一度過ごした時間であったことから、中学の定期考査などは全て一度解いた問題ばかりであり、元々クラス上位5位以内をキープしていた剛ではあるが、中間・期末のテストではクラス1位、学年でも5位以内と成績が躍進したことであろう。



 収穫はあった。

 吉祥寺での妖魔による厄災の時、剛たちの前に立ちはだかり天道と呼ばれた敵――恐らくは修羅――を捉えた少女の事である。

 やはり国立東京第一高等学校附属中学校――通称トーフ――の3年A組に在学している『星野希美ほしののぞみ』と言う名の、剛と同学年の少女であること、多色持ちと呼ばれるその個性が青と赤と――極めて珍しい黒であること。

 黒を含めた億に一人とも言われる三色の個性と、その個性を活かした類稀たぐいまれな特技の使い手として、トーフに入学して以来常に学年の……いや、学校のトップとして君臨し続けた、将来を嘱望されたSUADのエース候補であった。


 トーフでは3年になるとA組からC組までの在籍者は特装――武器である特装器と防具である特装具――の保持が認められ、対妖魔警報発令中には特装の使用と妖魔の殲滅許可が下りるのだが、彼女については特例で2年次からその権限を与えようと校内の一部教諭達が各方面に働き掛けを行った――結論としては認められなかったが――それ程の逸材としてトーフ、そしてトーイチでも知れ渡っていた。




「そんな凄い子だったのかよ……バケモノ(・・・・)じみてるなぁ……」

 年内最後の登校、つまり二学期の終業式を終えて、一緒に徒歩で下校している翔がそんな心情を剛に向かって呟きかける。

「ああ……何て言うか……次元とか見えている世界が違う?そんな感じなのかな……」

 まだ昼前なのに重く低い曇天を見上げながら、剛が翔に答える。


「でも、翔は個性持ちだよな?似たような事出来るんじゃないのか?」

「ムリムリムリ!!!特技の使い方のチュートリアルすらやってない職業無し、スキル無しのレベル0のモブだぞ!!」

「モブ……チュートリアルって……」

 ゲーム好きの翔らしい言い回しに剛は苦笑する。


 しかし、思い返すと素人の剛でも分かる程、希美の動きは洗練されていた。

 決して体格に恵まれていると言う程ではなく――小柄と言う訳でも無かったが――筋骨隆々と言うよりは細くしなやかな体付きとその動きは、どれだけの鍛錬を積んできたのか剛には全く想像もつかない。

 つまり想像もつかない程の努力を重ねてきたという、何の答えにもならない事だけは剛にも理解できた。




 翔と分かれて自宅へ歩いていた剛の目の前に、白い物が静かに上空から舞い降りてきた。

「あ……雪……」

 東京――関東地方全般であるが――は冬は晴天に恵まれる日が多い。

 ただ、全く雨や……そして雪が降らない、と言う訳ではない。

 年に数回は雪がちらつく日があるし、数年に一度は数センチから10センチ以上の積雪となり、鉄道網・道路網が寸断されて何処にも行けなくなる、と言ったことも発生する。

 そして今日は二学期の終業式が行われた……12月25日である。


(ホワイトクリスマスって奴かぁ……)

 昔からのクリスマスソングでそう言う歌詞があったり、漫画やアニメでもそう言うシチュエーションを見てきたりした剛としては、知識としては持っている事である。

 ただ、まだ中学3年生でクリスマスやクリスマスイブは家族と過ごすもの、と言う認識の剛にとっては、全然実感が湧かない物でもあった。

(こんな中でもあの子はトレーニングを行っているのかな……いや、流石に家族と過ごしているんじゃないかな……)

 まともに会った事も、ましては会話した事も無い希美の事を思い浮かべ、そして寒さにブルっと一回震えてから剛はもう間近に迫っている自宅へ足を運ぶのであった。




 同じ頃、場所は国立東京第一高等学校格技棟――剣道、柔道、空手などの武道技術を鍛えるトーイチの施設。

 黒髪をポニーテールに纏った少女が、自分より二回りも三回りも体格が優れた男性――青年と呼ぶにはまだ少し早い感じの男子高校生と、激しく剣を打ち合わせていた。

 体力……特に筋力で大幅に上回る相手に対し、少女は素早く回り込んで突きを入れたり、相手の剣裁きを見切って隙を突く――所謂いわゆる『後の先』を取ったり、圧倒とまでは行かないが相手を押し込む戦いを見せている。


 男子高校生もトーイチのそれもAクラスに所属している猛者――SUAD隊員にも引けを取らない強さを誇る――のはずなのだが、速度と緻密さで上回る少女の剣劇を何とかさばく事しかできず……懐に飛び込んだ少女の逆袈裟掛けの切り上げを辛うじて剣で受けるが……その手に強い痛みを感じると同時に、男子高校生が持っていた剣が宙を舞うのであった。

「……参った」

 男子高校生は腕の痺れに耐えながら、自らの負けを認める。



 少女はその後も三人の男子高校生と模擬戦を行い、いずれも数十回の激しい打ち合いを制して勝利を収める。

 終わった後に格技棟の道場入口の上に掛かっている時計を見ると、午後五時を回ったところ。

 季節は冬、数日前が冬至で最も日が短いこの時期の午後五時は既に暗くなっている。

「よーし、この辺で終わりにするぞーー」

 監督していた教師の声で、今日の模擬戦は終了となる。



「星野、お疲れ!」

「あ、お疲れ様でした。模擬戦ありがとうございました」

 模擬戦を行った男子高校生から声を掛けられると、ポニーテールの少女――星野希美はお礼を言いながら頭を下げる。


 頭を上げた希美は格技棟を出て校門に向かうと、空の様子に気付く。

「あ……雪……」

 希美が空を見上げると、ちらほらと雪が舞い降りてくる。

 もはや日没を過ぎているため曇天は目に出来ないが、舞い降りてくる雪を見逃さないように。希美は暫しの間、天を仰ぐのであった……



 希美は帰宅の途に着く。

 帰宅……と言っても、西新宿から徒歩で20分程度のその家には両親はいない。

 両親はいない、と言ってもその家にいないだけで、父母どちらも健在のはずである。

 だが、希美が帰るその家にいるのは――希美の母方の祖父母であり、自宅では無く母の実家と言って良いだろう。

 自宅では無い……いや……既に10年近く、帰る場所と言う意味では希美にとってそこは『自宅』なのかもしれない。


 公園通りから青梅街道に出て成子坂を下り、地下鉄中野坂上の駅を超えた辺りで右に曲がると込み入った住宅街に希美は足を踏み入れた。

 毎日のように通る、見慣れた景色でしかないため希美は特に周りに興味を示すことは無い。

 そして一軒の家の前に辿り着くと、ドアのカギを開けて家に入る。

「……ただいま……」

 明かりが点いていない薄暗い廊下に向かって声を掛けるが、誰もいないのか返事は返ってこなかった。


 三階の自分に割り当てられた部屋に入った希美は、背負っていたリュックを学習机の椅子の上に置き、そのままベッドにうつぶせに倒れ込む。

 他の家庭であれば、今日は家族で普段とは違ったご馳走を囲み、ケーキを食べて団らんを楽しむ――クリスマスの時間を過ごすのであろう。

 希美はそんな普通の家庭の団らん(・・・・・・・・・)など過ごした記憶が無い。



(だって……私はバケモノ(・・・・)だから……)


第7話 『いくつかの空』 柴咲コウ

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