第67話 different≠another
入間から特装器と特装具を受け取った4人は一旦格技棟のロッカーに収納し、放課後になって改めて特装具を身に付け、特装器を手に第4格技室に向かう。
今までは模擬戦用の木製武器だったが、今度は本物の特装器を初めて手にして――剛は前世までで何度も手にしていたが、入間が製作した今回のは別物と言って良い程仕上がりが違う――先ずは体に馴染ませるように各々で素振りや型稽古を始める。
ある程度馴染んできたところで、4人は的があるブースに向かい特技の訓練に挑む。
最初に剛が的から30m程の定位置に立ち、ハルバード型の特装器を掲げて法力を発生させる。
〈隕石群〉
剛が特技を発動すると第4格技室の天井近く、約15mの上空に30個程の黒い点が現れ、赤く燃え上がって灼熱を放ち始める。
掲げたハルバードを剛が振り下ろすと、音を超える速さで隕石群は落下し始め瞬く間に地面に衝突し、衝撃波と熱を撒き散らし、轟音が辺りを埋め尽くす。
その威力に見守っていた翔達3人は勿論、特技を発動させた剛自身も驚きの表情を見せる。
「あり得ないわね……以前剛が特装器無しで発動した時は隕石の数は5個……少し特技が強化されてると考えても、3倍どころか5倍くらいに増幅されてるわ……」
希美が述べた通り特装器には特技の増幅装置としての機能が存在しているのだが、一般的には特装器を使用しない場合に比べて3倍程度とされている。
だが、今剛が見せた特技ではそれどころではない数の隕石が発生していた。
「何なんだ……特装器一つでこんなに違うのか……?」
剛は前世までと照らし合わせるが、明らかに特技の威力が向上している事に驚愕を隠せないでいた。
(なら、前世でも使っていた特技なら……)
そう思い、再び的に向かって構えると、ハルバード型の特装器の穂先を的に向けて法力を込める。
〈溶岩弾〉
構えたハルバードの穂先に現れた拳大の溶岩――9個の灼熱が的に向かって矢のような速さで飛び去って行く。
(これもだ……今までなら5個か良くて6個だったのが、明らかに増えている……)
剛は順番を変わるために的の前から退きつつ、入間の手により制作された特装器をしげしげと眺めるのであった。
〈空気矢!〉
翔がレイピア型特装器を振り下ろして法力を込めると、特装器の先に20本発生して甲高い風切り音を置き去りに的に命中し続ける。
(やはり、か……翔の特技も5倍程増幅されている……何者なんだ、入間聆って人は……)
その後希美が炎刃を発動した際もやはり5m程の炎が生じ、奈緒が爆裂――を発動しようとしたが翔から軽くチョップを喰らって止められ、止む無く火炎矢を発動すると15本の炎の矢が的に突き刺さった。
剛達は改めて入間と、入間が製作した特装器の特異性――言い換えれば異常さを認識するのであった。
翌日昼休み――
剛はトーイチの1年Fクラス――特装科のクラス――に向かい、教室から出ようとした男子生徒を呼び止めた。
「すみません。入間さんはいますでしょうか」
男子生徒は教室内を振り返って入間の所在を確認したが、見付ける事が出来ない。
「入間はいないね。あいつ、大体授業以外は工作室に籠ってると思うよ」
男子生徒に礼を言った剛は工作室がある場所に向かうと、第7工作室を入間が使用しているとパネルに表示されているのを確認する。
第7工作室のドアを3回ノックすると中から誰何の声が聞こえた。
「先日特装を製作してもらいました、トーイチ2年の神野です」
中に向かって声を掛けるとパタパタとスリッパのような歩く音が聞こえてドアが開いた。
「おー、ぺったん娘の弟かぁ。まあ入んな」
入間のぺったん娘と言う表現に剛は苦笑するが、特に突っ込んだりせず入室してドアを閉める。
作業用に置いてある椅子――ゲームチェアに似た形状の――にどかっと座って入間は足を組んで、剛にも座るように勧める。
「で、今日来たって事は特装の事だな?ま、私に用があるってそれ以外に考えられんが」
剛は頷くと昨日の格技室で実施した特技訓練の事を話す。
余りにも高出力な特技となっており、想定の倍近い威力である事を伝えると、入間は片方の口の端を吊り上げてニヤリと笑う。
「成程、パワーゲインが5倍程度か。想定通りだな」
「想定通り?」
「私の作る特装……特に特装器には、法力伝達回路の一部に妖魔の生体を加工したものを使用している」
「えっ?」
衝撃的な発言である。特医科において治療方法として妖魔の生体を利用する研究が進められているのは話として知っていた剛ではあるが、特装において妖魔を利用すると言う話はこれまで一度も聞いた事が無かった。
「それって……私のって事は、入間さん以外はやってない、と……?」
「ああ、そうだとも。そもそも妖魔は倒した端から塵のように消滅するのは知っているな?」
入間の言葉に剛が頷くと尚も言葉を続ける。
「だが、切断した体組織……そうだな、腕でも足でも何でも良いのだが、本体を倒す前にそれを液体窒素で瞬間的に冷凍する事で、本体が消滅してもその体組織は残り、解凍しても消滅する事はなくなる。特医科ではこれを治療法に役立てられないかと研究しているのだよ」
剛は恵が入間の事を特装バカと呼んだ事を理解……いや、特装バカと言うより、特装異端者と言う方が正しいと思える程、真面な考えとは思えなかった。
驚愕の事実に呆けたような顔をしている剛に対し、入間は怪訝そうな顔をする。
「なんだなんだ。医療に役立てようとしている物を、工業にも流用するのがそんなにおかしい事か?」
言われてみればそうである。そうであるのだが、やはり剛には引っかかるものがある。
「でも、それって希少な物ですよね。簡単に手に入るとは……」
ふむ、と言うと入間は組んでいた腕の右手だけを肘から垂直に上げて人差し指を顔の横で立てる。
「そんな物タダとは言わんが、ちょっとしたコネがあれば簡単に手に入るんだよ。私にとってはクジラのサクを買うより容易い事だ」
昼休みが終わる直前に教室に戻った剛を見付け、翔が声を掛けてくる。
「剛ちゃんお帰り。どこ行ってたの?」
剛ちゃん?と一瞬思ったが、前世では当たり前に言われていた呼び方である事を思い返す。
「ああ、入間さんの所にちょっと話を聞きに行ったんだ」
浮かない表情をする剛を見て、翔は何かあったな、と思い、この場で追及するのは拙いと考えた。
「じゃあ、今日ウチでその話聞ける?模擬戦無い日だし」
「お兄ちゃんお帰り。あ、剛ちゃんだ、いらっしゃい」
翔の家に着くと、翔の妹の翼が二人を出迎えてくれた。
「翼ちゃんこんにちは。久しぶりだね。お邪魔するよ」
「翼、ちょっと剛ちゃんと話してるから、部屋入んないでくれるか」
そう言って翔は台所の方に向かうと、少ししてお盆に麦茶を入れたコップを2つ乗せて、自分の部屋に向かうために階段を登り始めると、剛も翔の後から階段を登って行く。
「……マジかよ……変わった人とは思っていたが、何つーか……マッドサイエンティストじゃねぇか……」
成程、と剛は翔の言った内容が腑に落ちた。入間のクラスメイトに聞いた授業中以外は工作室に籠りっぱなしと言うのも合わせると、そのイメージは更に膨らむ。
「だが、おかげで特技の威力が格段に上がったのも事実なんだよな……」
3種類の個性、大幅に特技の威力を上げる特装器、5年程増えた訓練の時間――剛は今回の転生こそ、天道を討ち果たす最大の好機だと感じていた。
「まあ何にしても、先ずは1回特務実習に参加して確かめてみて、だな」
第67話 『different≠another』 P-MODEL




