第66話 Believe
希美の事を意識していなかったと言ったら嘘になるだろう。
猛く美しい――そして今は少女の可愛さも持ち合わせているその存在を、剛は初めて見た時から強く意識していた。
だからこそ希美の隣で戦うと言う事を決め、何度天道に殺されてもここまで来た。
繰り返してきた人生で100年以上共に過ごしてきた星野希美と言う存在は、剛にとって掛け替えの無い特別な存在であることは間違いなかった。
(だからと言ってプロポーズとか……今じゃないって、じゃあ将来ならあるのかよ……いや、そうなりたいけど……天道を倒した後?トーイチ卒業した後?……いったいいつだよ……?)
剛はベッドに横たわって枕を顔に押し付けながら、希美との会話を思い起こしていた……
始業式も終わって数日となる4月10日、剛、希美、翔、奈緒の4人はトーイチに呼ばれていた。
昨年末の通常国会において可決された特例措置法により、剛達4人はトーフ2年次から簡易特技士として特務実習に参加する事が学校から発表されており、特装を作成するために特技科の工作室に向かっているのであった。
本来であればトーフ2年次の3月に、間もなく卒業するトーイチ3年生に特装を作成してもらうのが通例であるが、正式な発表が始業式の日に行われたことでトーフからのエスカレーション組ではなく外部組に優先的に特装を配布するため、ヒアリング自体が数日後にずらされたのである。
そんな状況の中、特技科の工作室が並ぶ廊下に辿り着いた剛達は、その先から声が聞こえるのを感じ取っていた。
「私に作らせれば良いではないか!2年生3年生は新入生の特装製作が立て込んでいるのだろう!」
「お前は1年生だろう!まだ特装の何たるか、これから覚えていく段階じゃないか!」
「そんな物とっくに知っているし、既に何回も特装は作成済みだ!2年生どころか3年生にも引けを取らん!」
声のする方を見ると、特技科の教員と思われる眼鏡を掛けた40歳位の男性と、剛達と身長があまり変わらず白衣に身を包んだグラマラスな少女――入間聆――が言い合っていた。
(姉ちゃんが特装バカって言ってたけど……この頃から既に筋金入りだったのか……)
剛は入間に歩み寄って声を掛ける事にした。
「あの、入間さんですか?小金井三中の?」
呼びかけられた事で入間は、ん?と言う顔をして剛の方を向き直る。
「ほぉ、ひょっとして君が噂の超法規的2年生か?と言うか何で私を知っておるのだ?」
入間は剛の方に一歩歩み寄り、腰に両手を当てて自慢の胸を誇示するかのように胸を張る姿勢を取る。
「俺、神野剛と言います。小金井三中からトーニに進学した、神野恵の弟です」
恵の名を聞いた入間は目を見開き、直ぐに破顔して剛の肩をバシバシと何度も叩く。
「おー!そうかそうか、君があのぺったん娘の弟か!なーるほどぉ、あのぺったん娘の弟が超法規的存在だったとは意外だなぁ!」
翔は入間の「ぺったん娘」と言う表現に恵を思い浮かべてから吹き出し、何度も入間から肩を叩かれた痛みで顔を顰めながら剛は苦笑いを浮かべる。
奈緒はと言うと、「ぺったん娘」と言う言葉に反応したのか、自分の胸を両手で押さえ付けるような仕草をしていた。
「奈緒、誰が見てるか分からないからそう言うのやめなさい」
「で、だ。君らの特装は私が作るっていう事で良いんだな?」
入間の言葉に男性教員が待ったを掛ける。
「人の話を聞いていたのか、入間。お前はまだ入学したばかりで――」
「入間さんに作っていただけるんですか?!」
教官の言葉が終わるのを待たず、剛は勢い込んで入間に話し掛ける。その言葉に入間はニヤリと笑い、男性教員に向けて言葉を放つ。
「ほれ、この通り彼らの方から頼まれたんだ。断る理由は無いだろう?」
その言葉に男性教官は頭を抱える。
「君達良く考えた方が良い。入間はまだ1年生で特装の製作実績が無いんだ。そんな人に任せるんじゃなくて、経験ある3年生に任せた方が良いだろう」
男性教官の言葉も尤もだが、その言葉に剛は頭を振る。
「おっしゃる事は分かりますが、今1年生の入間さんなら俺達がトーイチに入った時にまだ3年生です。これから3年間、特装のメンテナンスを同じ人に行ってもらえるのはメリットですし、入間さんならメンテナンスだけじゃなくてバージョンアップもしてもらえると思うので、是非お願いしたいんです」
剛の熱意を込めた言葉に引き気味になる男性教官であったが、尚も説得しようと食い下がる。
「だが、まだ任せるだけの信頼が――」
「俺は入間さんの腕を信頼しています」
「ほほーぉ、そこまで言われると私としても光栄だなぁ。惚れてまうやろがー。わはははは!」
ケラケラと笑い始める入間。その入間と剛の様子を見た男性教員は説得するのは無理だと諦めて肩を落とす。
「だが、十分な出来じゃなかった場合は作り直すから、早めに担任に言うんだぞ」
言葉を残して男性教員はトボトボと言った感じでその場を後にする。
教員を見送った入間は剛の方に向き直り、目を輝かせる。
「では早速君らの希望を聞かせてもらおうか。どんな特装でも私が作ってみせるぞ!」
「特装器としては、神野が長さ2.5mのハルバード、鈴木が直径15cm長さ40cmのヘッドのハンマー、星野が刀身100cmの諸刃直剣、本田が刀身90cmのレイピア……片刃で良いのか?」
入間の問い掛けに翔は頷く。と言うのも、レイピアは本来諸刃であり刺突を基本としているが、対妖魔戦を考えると斬り払う事も必要になるのだが、今の翔ではそこまで深く考えた訳では無く、漫画やアニメのイメージで片刃を選択していた。
翔の様子を見た入間はふむ、と頷いて顎に手を置き、少し思案した後答える。
「良かろう。並行作業になるが、特装具と併せて3日もあれば出来上がるぞ。期待して待っておれ!」
翌週月曜日――4月14日。
剛は希美伝いに入間が特装を作り上げた事を聞かされた。
「えっ?ヒアリングが木曜日で、学校1日しか来てないはずなのに。3日って土日も入れて3日だったのか?」
とは言え希美も聞かされた話でしか無いため真偽の程は分かっていない。
昼休みになり学食で昼食を取った後、トーイチ特装科の工作室に4人が向かうと廊下に入間が腕を組んで――その体勢は自慢の胸を強調するのだが――仁王立ちで待っていた。
「いよぉーう!よく来たな少年少女達!」
まだ15歳と思われる少女である入間から言われると本来なら違和感があるが、何となくその呼ばれ方を受け入れる4人。
本題とばかりに希美が歩み出て入間に話し掛ける。
「特装が出来たと伺いました。拝見できますでしょうか」
その言葉に入間はおう!と答えて工作室に入って行き、4人も後ろから付いて工作室に入る。
「先ずは神野のハルバードからだ。こういう感じに仕上げてみたがどうだ?」
そこには前世までで使用していた物とは趣が異なるハルバード型の特装器が横たわっていた。穂先はこれまでより短い10cmも無い長さで突きに特化した形状、斧頭は幅を広く取り波状に湾曲して透かし彫りの装飾が施されており、斧頭の反対に位置するこちらも透かし彫りが施された鉤爪は長めに用意されて引っ掛けやすくなっている。
穂先、斧頭、鉤爪が一つの部品として形成する事で強度を増しており、それが2m近い柄に取り付けられていて、見ているだけでも惚れ惚れする美しさに仕上がっていた。
剛が手に取ってみると非常に良く手に馴染み、バランスも取り回しがしやすく調整されており、その出来栄えに剛は思わず「ほぅ」と言う声を漏らす。
「気に入って貰えたようだな。特装技師冥利に尽きるよ」
第66話 『Believe』 玉置成実




